魂喰のカイト
13話 夢見る少年
「すまないけど、もう売り切れちゃったんだ」
「え、えぇ!? 本当ですか!?」
「うん、本当。ごめんね」
そう言うと、少年は目に見えるほど落胆した。
身長は150後半くらいで、こげ茶色の髪をしている男の子だ。
俺の武器を買っていった冒険者の噂を聞いてきたらしい。
「もしかして君も冒険者?」
「はい! 実は最近冒険者になったばかりで、いろいろ頑張ってるんですよ!」
冒険者についての話題をふるとパッと顔を輝かせてあれこれ語りだした。
この前始めて魔物と戦ったとか、雑用だったけど依頼をこなして褒められたとか。
始めたばかりの冒険者が楽しくて仕方ないらしい。
冒険者として出世して生まれ育った孤児院に寄付をしたい! とも言っていた。
健気で純粋な子だ。
年上のお姉さんとかに可愛がられそうなタイプだな。
このままだとずっと冒険者について語っていそうだったから咳払いを入れると、男の子は少し顔を赤くして、「少し話し込んでしまいました」とはにかんだ。
話を武器についてのことに戻す。
「武器が欲しいんだよな。予算はいくらだい?」
「えーっと、大銀貨5枚です!」
やはり足りないか。
でも、ちょうどいいかもしれない。
この子にいきなり特殊級の剣を渡したところで使いこなすことはできないだろう。
それどころか剣に頼って実力が停滞してしまうかもしれない。
だから大銀貨5枚分の少し弱め、この子が持っても大丈夫な剣を作る。
「君、名前は?」
「ロシュ=アトリーです!」
「よし、ロシュ。今から君の剣を用意しよう。値段は大銀貨5枚分だ。それ相応の剣を売ろう」
「えっ、いいんですか!?」
「ああ、もちろん。君にちょうどいい武器を売ろうと思う。ちなみに使う武器種はなんだい?」
「短剣を使ってます!」
「よし、短剣だね。今から取りに行くから少し待ってて」
「はい、分かりました。あの、お名前を伺ってもいいですか?」
「ああ、俺はイルムだ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします!」
頭を下げるロシュを視界に入れながら路地裏に入る。
ロシュがすぐそこで待っているため、急いで作る。
込める魔力はだいたい1/100000だ。
これで少し弱めの特殊級ができるだろう。
魔力を込めて短剣をイメージすると、予想通り俺が作るユニークよりも一歩弱い武器ができた。
見た目は他の店のものと同じで、シンプルなものだ。
だが、初心者が使う分にはちょうどいいだろう。
軽くて使いやすいようにできたと思う。
これで大銀貨5枚というのもかなりお得価格だ。
損はさせないだろう。
すぐにロシュのもとに戻る。
ロシュは俺の手の中にある短剣をみて、一瞬でワクワクしたような顔になった。
尻尾が生えてたら間違いなく振られていたことだろう。
「さぁ、ロシュ。これが君の武器だ」
「は、はい!」
短剣を手渡す。
「すごい、きれいな武器です……!」
「そう言っていただけて嬉しいよ」
ロシュは刀身を眺めてうっとりしている。
そこまで感動するものか? と思い、ロシュが今まで使っていた短剣を見ると、少し形の悪いものだった。
おそらく鍛冶師の弟子が作った安い品を買ったのだろう。
今回は、さしずめ順調に依頼をこなした分の金で武器を新調しに来たといったところだったのだろう。
「これ、お代の大銀貨5枚です!」
「はい、たしかに受け取った」
大銀貨5枚を受け取る。
「ロシュ、もし困ったことがあったら相談してくれ。俺、こう見えても露店商売以外なにもやってないから暇でな。呼ばれたら大抵手伝うよ」
そのまま本心だ。
露店商売が終われば暇なのだ。
ついでに言えば今日の露店は一瞬で終わってしまったから本当にすることがない。
時間は有効活用したいのだ。
それもこんなまっすぐな子の手助けなら進んでしたい。
「本当ですか!? えっと、もしかして今から時間空いてます……?」
少しためらいがちに聞いてきた。
もちろん空いていると答える。
「えっと……実は先程も言ったとおり孤児院の出で、一緒に冒険できる仲間が……その……」
「なるほど、つまり友達がほしいのと一緒に冒険して欲しいんだな?」
「……! はい!」
「うん、もちろんいいぞ。実は俺もある程度戦えてな。少し冒険――というか観光だな――してみたかったとこなんだ。冒険者が普段どんなことしてるかも興味あるし、こちらからお願いしたいくらいだ」
「ほ、本当ですか!? じゃあ、これから街の外で依頼をこなしたいんですが……ついてきてもらってもいいですか?」
「もちろん」
「おおおお! ありがとうございます! ずっと一人で、誰かと一緒にやってみたいって思ってたんですよ!」
「ははは、俺で力になれるんだったら嬉しいよ」
ロシュは本当に嬉しそうだ。
『何か手伝う』って簡単な言葉でも言ってみるもんだな。
こっちもそろそろこの世界を観光してみたいと思ってたし、ちょうどいい。
きっと楽しい冒険になるだろう。
こっちまでワクワクしてきた。
案外冒険者に惹かれるところもあるのかもな。
そんなことを考えながらロシュと一緒に王都の外に出た。
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