度重契約により最強の聖剣技を

初歩心

第十三話 定め

「……まさか魔落ちしてたとはな 
優汰、お前はどんな時でも最後まであきらめないそんな奴だっただろう
そんなお前が、なんで聖剣士として転生する道を選ばなかった!! 」
 
俺の問いかけに、凄まじい殺気をこちらに向けたまま優汰は歩みを止めた。
そしてうつむきながら言葉を発する。
 
「転生······か、そうできたならどんなに良かっただろう」
 
「どういうことだ? 」

「簡単なことだよ瞬。
僕は転生しなかった、それだけの事さ」

「?!」

 本来、非転生者は瀕死状態であっても聖力は薄れる事がなく、体内に保たれたままだ。
その聖力が魔力と反発する為、外部から魔力が入り込むことはない。
つまりは転生する以外の方法で魔落ちすることはほぼ不可能に近い。
 ただ、ひとつだけ唯一の手段がある。 

ーーーー外部からの干渉だ。
 本人の同意と寿命を半分捧げる契約を交わすことで魔物と融合し魔族になるというものである。
ただ契約する際、契約主も魔力を大量消費する。
そして、それを行えるのは最上級の魔力を誇る魔族。魔王ただ一人である。

「君と魔王様が爆発を起こした時、僕はまだ生きてたんだ
君の言うとおり、最後まで自分の命を失わまいと抗ったりもしたさ
なんとか自分に治癒聖術をかけて堪え忍んでいた
君が必ず助けに来てくれると信じてね
でも、君は······来なかった」

殺気じみた顔に少し悲しみが混じる。

「······俺が意識を失ってるさなか、そんなお前を魔王が救ったと。
お前はそれを望んだんだな」
 
「そうだよ、瞬
魔王様は瀕死の僕に手を差しのべてくれたんだ
この竜の手と魔王様の魔力を僕に融合してくれた
もう一度、生きる気力をくれたんだ
君と違ってね!! 」
 
 憤怒を露にし睨みを聞かせた優汰は途端に剣を振りかざし俺に向け駆けた。
瞬きする一時の出来事だった。
凄まじい速さで黒色の聖剣が俺の頬をかすめギリギリのところでファイオラセルがとどめる。
 なんとかとどめているが後少しで俺の首は掻切られそうだ。
そうは分かってはいるものの、刀身に上手く聖力が入らない。
 どうやら無意識のうちに優汰を救えなかった自身への罪悪感がはたらいているらしい。
必死に聖力を込め押し返そうとするが、まがまがしい魔力に圧倒されその刀身がじりじりと首元へと近づき始める。

 「させない!!」

  首にかかる寸前。
真下から勢いよく聖力を纏った白い刀が当てられ、優汰は体制を崩した。
その隙をついて、右手と左手それぞれ手を繋いだアマテラスとツクヨミが突然に俺の視界の先へと現れ、優汰の腹に手を当てると小炎球と氷球を融合し射出した。
 ツクヨミがアマテラスの聖力不足をカバーしているのか、さほど仲がいいとは言えない二人が手を繋いでいるのはその為だろう。
それを受けた優汰は、先ほどいた位置まで押し返される。
だが、顔の表情は無表情になり見るからにダメージは一切受けてなさそうだ。
 
 「危うく死ぬところだったか」

思わず力が抜けて、ふらつき俺は片ひざをついてしまった。

 「しっかりして、瞬ちゃん
躊躇してればこっちがやられるんだよ」
 
 庇うように俺の前にたった姉は前を見据えたまま、渇をいれてきた。

「躊躇なんかしてないさ、ただ!!」

「ただ? 」 

 上手く力を出しきれない自分にイラつき思わず声をあらげてしまう。
そんな俺を心配するように、姉がこちらを真っ直ぐに見つめていた。
 だがそんな姉も、口を固く結び聖剣を握る右手が時折、小刻みに震えている。
俺と同じように、姉も罪悪感を抱いているのだろう。
 姉として、必死にめげまいとしているのがひしひしと伝わってくる。 

 「······いや、何でもない」

 そんな姉を見て、精神を統一する為俺は、深呼吸を一息ついた。
 姉の言う通り今は、気持ちを切り替えなければならない。

―――優汰は過去の俺にとって大切な親友だった。
 
 そんな親友を救えなかったのは確かに自分であり、恨まれても仕方のないことだ。
たが、目の前にいる今のこいつは親の仇である魔王に従う魔族であり、明確な敵なのだ。
ここは割りきらねばこちらが殺られる。
 
「ツクヨミ、アマテラス。ここは一旦引け」

 そう言いつつ俺は、アマテラスとツクヨミに優太の真後ろへと視線を送る。

  俺は今、姉の後ろに隠れる形になり、ちょうど優汰から見ると三人が障害になって視覚になっている。
その為、今の指示は優汰には伝わらないはずだ。

 察したのか、二人は頷くとたちまち手を繋いだまま瞬間移動し、その場から忽然と姿を消した。
 
作戦は決まった。
あとは、運次第だろう。
気合いを入れ俺は、姉の横に聖剣を構えたたずむ。

「さっきと目が変わったね
ようやく僕と戦う気になったかい瞬
でも今の君に、僕を倒すことなんてできるかな」
 
「たぶんな。ただ、倒しはしないさ
俺の聖剣ならお前の魔力を全部取り払えるからな」

正直、あのまがまがしい魔力に、今の俺の力で対抗できる手段はない。
いや、ある事はあるが今はリスクを犯してまで使う事はできない。

「へぇ、君の聖剣
そんなことも出来たんだ、知らなかったよ」
 
あれを使うためには相当なリスクが要求される為、今の発言は攻撃を仕掛けさせず慎重にさせる虚言である。
 こちらに注意を向けさせておき隙をついて真後ろからアマテラスとツクヨミが攻撃。
 その反撃をしている隙に乗じて、俺と姉で最大限の聖力と属性をあわせ持つ聖剣技を喰らわせる。
 無防備な状態で受ければ、いくらなんでも無事ではすまないはずだ。
その後は、この場所から散会して、できるかぎり離れる。
こんな小作なやり方は正直好かないが、他に打開策はなく、上手くいくかも分からないこの策に賭けるしかないのだ。
そんな緊張をほぐすようにか、肩にぽんと手を置かれた。
姉は、俺の事を見つめると今までにない優しい笑みを向けてきた。

「瞬ちゃんだけじゃない
私もあなたと戦うよ、優汰君」
 
「奏さん······悲しいな
あんなに優しかった奏さんが僕にそんな殺気じみた顔を見せるなんて
僕は瞬と戦いたいだけなのに」

「君も······あんなにも優しく勇敢な子だったよね優汰君。
そんな君が変わっちゃって私も悲しいよ」

「瞬の聖剣の能力に、戦いたくない奏さんか
なんだか攻撃しずらくなったけど
――――でも、不意打ちはよくないよ、そうだろ」
  
「はい、ご主人様の言うとうりでございます」

 驚くべき事が起こっていた。
真後ろから優汰を襲撃しようとしていたアマテラスとツクヨミが動きを完全に止めていたのだ。
二人の目は、暗くどこか虚ろだ。
 そして、優汰の真横には黄金色の髪に特徴的な耳を持った少女が立っている。
その少女がこちらを振り向くと揺れる金髪に銀髪が1房混じっていた。
格好は黒いマントのような物を羽織っている為、分からないが素足で黄金色の目が神々しく輝いている。
 間違いない、彼女はグランディーネとアテナが言っていたアルラインだ。
  
「ご主人様、この女神たちはどうなさいますか? 殺しますか?」

そう言いつつ、いつの間に出したのか彼女は、全体的に紫色で刃が黒鉄色の短刀を構えた。

「僕が用があるのは、瞬と奏さんだけだよ
その二人は、ここからできるだけ遠くへ離れてもらってくれるかい。
あと、次は奏さんを手筈どうり頼めるかな」
 
「承知しました、ご主人様」
 
『ここから、できるだけ遠くへ離れなさい』
 
口を開いていないのになぜか辺りに彼女の声が響き、それを聞いたアマテラスとツクヨミは互いに頷く。
そして、アマテラスをツクヨミがおぶり凄まじい早さで離れていった。
 二人が離れていく最中、アルラインはこちらに向かってくる。
なんとか動こうとするが体がその場に固定されたように動かない。
それは、真横にいる姉も同じらしい。

「無駄です。私を見たあらゆる全ての物が私の支配下におかれ、私の意識力は絶対の命令となるのですから」

そう言いながら姉の前に立つと、左手をそっと握る。

『あなたは、ここから大きく十歩離れ、これから起こることをしっかりと目に焼き付けておきなさい』
 
「はい」

 
そう姉は受け答えると、自分の右手から聖剣を落として指示どうりに動く。
 姉が真横から消えると俺は、体を自由に動かせるようになっていた。
 後ろを振り向くと、姉の横に、アルラインが先ほどの短剣を構えて立っていた。   
 
それは、下手に動けば姉はすぐに殺される事を意味していた。
 
「ご主人様、私もこの人と観戦します、見張りながらですが。
······これでやっと私は、魔の呪縛から解放されるのですね? 」
 
「そうだよ、君はこれで解放される
契約を解約した後は君の好きにするといい
今まで、つらい思いをさせて悪かったね
これが終われば、結果がどうあれ君は自由だよ」
 
「·····はい」

 アルラインの瞳からは、涙が溢れ出る。
やはり彼女自信は、アテナ達が言っていたように、根が優しいいい子なのだろうか。
だとしたら、今まで彼女が受けてきた苦しみはもしかしたら相当なものなのかもしれない。

「さぁ瞬、こっちに来てさっきの続きを始めようか。
これは、僕たちが果たしておくべき闘いさだめだから」

「あぁ、分かってるさ
これは、俺たちが果たしておくべき闘いさだめだって事くらい」
 
 こうなっては仕方がない、リスクは大きいがあれを使う他ないようだ。
 
 俺は、目を閉じ一段と精神を集中させたまま優汰に向け駆け出した。
 

 数秒後、剣と剣が合わさる甲高い音が響き辺りの大地を伝うように紫焔と赤白焔の剣風が吹き荒れた。

 


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