ダイナマイトをこの僕に

土佐 牛乳

3話


 そしてそれは、急にきたのであった。
 僕の余命が3年だったのがたった4週間にカットされしまったのだ。
 なんということだろうか。このままあのつきの下敷きになって死んでしまうのか僕の人生は、結局なにかに押しつぶされて僕という人生は終わってしまうのか。
 僕は少しだけ笑顔が出ていた。こんな終わり方なんて。
 そのときテレビは緊急速報の始まり方のように、ウエあたりで、先ほどのニュースは誤報であったのだといわんばかりに、大きなテロップそして警告音とともに、報道されていた。
 どの局でも同じようなことが流れている。
 まったく、今にしてここにきて誤報であると、いうのならば、それは正解ということにもなるのではないか。天邪鬼精神が思考にくすぶりをかけてそのような結論にいたる。
 並びにだからどうしたんだろうかという考えにもなった。
 なにかとんでもなく馬鹿らしくなってしまったのだ。久しぶりにこのような感情を楽しめただけでも、このような感情を抱いてしまっただけでも、このような一連の異常な出来事に関して鼻でわらうようにして感謝していた。
 まったく、これだから……

 すぐさまこの一連のことがらであと四週間で、この僕はなにができるのだろうかという考えがふと頭によぎった。べつにこれから僕に迷惑をかけてしまった家族に対して、謝罪の一言、そして感謝の一言を口頭にして話すべきである。僕がこの世界に存在をしているだけでどれほどまでに、家庭に傷が入ってしまったのが、だからこそ彼らにしっかりと感謝と謝罪を告げるべきだろうと考えていた。
 すぐさま、テレビの置かれているテーブルにあるケータイをを取り出した。
 パカパカケータイ特有の右端にある右のボタンを押して、ケータイの画面を開くと下ボタンをおして電話帳を開いた。そこには家族しか登録はされていない。
 ここにきて僕という人間はどれほどまに他人に興味がなく生きてきたのだろうかという考えがよぎる。家族の名前しかこのケータイには乗っていないのだ。こんなものにたいして、僕はもっとこの世界と関わっておくべきだったのか、だれかでも家族以外にだれかとケータイの電話番号とメールを伝えて親密になっておくべきだったのだ。
 こんな考えに嫌気が指してしまった僕は、思考を取り消すようにして止めにした。
 もう疲れてしまった。
 何が……って? それは過去を振り返ることだ。
 電話帳の操作をするために、何度か下のボタンを押してまずはおどうさんへと電話することにした。
 ちょっとした時間が、画面を切り替わる時間が流れる。そして着信中と画面が切り替わり、小さなアニメーションが始まり画面のたくさんの青い円がくるくると綺麗な放物線を描いているのを見て、ちゃんと着信できていると確認して、お父さんがでるかどうかケータイを右耳に当てて、その声が、おとうさんの声が出るまで待っていた。
 ぷるるるるる、ぷるるるるる、ぷるるるるる、ぷるるるるる、ぷるるるるると五度のコール音が鳴っているときに、お父さんは今日は出ないだろうと思っているが、しかし俺はそれでもお父さんが出るのを待っていた。そして8つ目あたりでお父さんは電話から出た。
「おう、どうしたんだ?」
 ちょっとだけ忙しそうにお父さんは、いつものように、3年前のようにはなしていた。
 その声を聞いたとき、僕は少しだけ、心から湧き上がるような感情があった。そしてそれに体が感化されてしまったのか、目頭が熱くなるのをこらえて声を発した。
「も、しもし、とうさん?」
 ダメだ、なにかアクションを起こすたびに脆く崩れてしまいそうだった。違うことを考えるようにと、ひたすら視界を行ったりきたり、あたりを見渡す。
 だんだんと、じわぁっと視界が涙でにじんでいくのが見える。
 なぜこうにもなって俺はこう涙がでているのだろうか……
その行動の合間でケータイから「例の計画の準備をしていろッ!!」お父さんは突然と誰かに音量が小さくも誰かに怒号を浴びせていると分かった。
 そして扉のようなものが閉まった音が鳴ると「どうしたんだ? 急に寂しくなったのか?」明るい口調で冗談のつもりでお父さんは僕に言ったのだろう。
 普段あんなにもやさしいあの父さんが、誰に対して怒っているのか気になるところがあった。
 しかしいまは、そんなことはどうでもよかった。久しぶりに我に返って突然と寂しくなったのだった。なんというか無感情な日と感情があふれる日が並のようにあるのだった。
「うん、グスッ」
 なにもかもが吹き出てしまった。それを感ずかれないように必死になってケータイを遠ざける。必死に袖で目をこすり続けて、だんだんと涙が出るのが無くなっていた。
 家族のお父さんだけは、お母さんと違い俺を最後まで見放さなかった。こんな俺を。毎日毎日遅くなるまで仕事をこなして俺を少しでも延命させようと頑張っていたのだ。
「そうか…… なにかあったのか? そうだ今度すしでも買ってくるか」
 そっけない…… でもお父さんはかなり不器用なのだ。それで衝突するとこもあったが、でも今になっては良い思い出だった。
 涙を拭いて用件を伝えようと頑張ってみたが、内容を忘れてしまっていた。
「いいや…… 大丈夫だよ。声が聞きたかったんだ」
 精一杯ごまかした。ここにきてここまで頭が悪くなってしまったのは、つらいものだった。
 本当に俺はおじいさんになってしまったんだろうかという焦りが出てくる。
「そうか、じゃあ…… 明日にでもすしを持ってくるから待っていなさい」
 お父さんも久しぶりの俺との会話で何を話していいのか分からなかったのだろう。
 そんなことを言っていたお父さんを擁護している。でもコレがうちの父さんでもあった。
 その後はさっと会話を終わらせて電話を消した。
 今はおとうさんは仕事中であったのに何をしてるんだろうと、自分の行動を振り返ってため息が出てきた。しかしお父さんは、いそがしいのにも関わらず、僕の相手をしっかりとしているだけでもほんとうにうれしかった。
 僕はお父さんの子供であったことがほんとうによかったと心から思った出来事であった。

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