劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです

山外大河

16 やってみるまで分からない

「……なんだよ眼中にねえみたいな言い方しやがって」

 流石に少しだけイラっときた。
 目の前の暁は赤坂や美月がいた所でなんの影響もないと言ってのけたのだ。
 いや、きっと美月の実力がどの程度の物なのかを恐らく把握していない以上、その言葉は明確に赤坂へと向けられたものだ。
 そして暁は言う。

「ああ、言葉は悪いし不快な気持ちにさせるかもしれないけど、そう捉えてもらっても構わないかな」

 先の様に好戦的な視線を向けて。

「……ッ」

「まあアレだ。キミはあの訳の分からない力で先輩を打ち負かした。原理こそ分からないけど充分強い力だったと思うよ。だけどまだ俺達の領域には届かないかな。それともなんだ……まさかキミはあの程度の力で僕達の戦いに入りこめるとでも?」

「……んなもんやってみねえとわからねえだろ」

 分かっている。
 目の前の相手がいたのはどれだけ強いのかも。
 現状の自分よりも目の前の相手の方が遥かに強いことは分かっている。
 だけど……きっと通用はする。
 少なくとも渚と暁が戦っている場にいても何もできないような使えない何の影響もない駒ではない筈だ。
 そうあれるために渚に鍛えて貰ったのだ。

 自分じゃ全く通用しません。何もできません弱音は吐きたくない。
 故に引き下がれない。
 引き下がりたくなんかない。

「だったらやってみるかい?」

「上等だ」

 だから二つ返事でそう答えた。

「ちょ、ちょっと隆弘!」

 中之条との決闘を受諾した時の様に、心配するような様子で美月がそう赤坂の名前を呼ぶ。
 そしてそれに答えたのは暁だった。

「大丈夫だよ篠宮さん。昨日の決闘と違ってデフォルトルールなんて馬鹿みたいな真似はしない。あくまで俺達が戦うのは魔戦だ。だったら……俺達なりの実戦形式で行う。だから危ない事なんてなにもないさ」

 そしてその言葉に赤坂も頷いた。

「ああ、暁の言う通りだ。だから心配すんな美月」

「ま、まあ……そういう事なら」

 美月はほんの少しだけ落ち着いた様にそう言う。
 あくまで半分喧嘩の様な形で戦いに発展したから昨日のような事が起こるのではないかと心配したのだろう。それが危なくない事のようならとりあえず納得してくれるようだった。
 ……そして美月を納得させた赤坂は次に渚に言う。

「さて、わりいな渚。今から特訓の予定だったけど予定変更だ。色々とメニュー考えてもらってんのにすまねえけど……ちょっとやってくるわ」

 それを聞いた渚は笑って赤坂に言葉を返す。

「いえいえ、別に気にしてませんよ。これはこれでいい経験になりますし……それに」

 渚は暁に向けて悪そうな笑みを浮かべて言う。

「一応赤坂さんは私の弟子なので。ああいう評価を受けたままにしておくのは少し嫌なんですよね」

「弟子……ね。篠宮渚。キミはその弟子が俺と相対できるとでも思っているのか?」

「さぁ? やってみないと分かりませんよ」

 そう言って渚は赤坂の背中を鼓舞する様に叩く。

「全部赤坂さん次第です」

「……なるほど」

 渚の自身のあり様をみて、暁は頷き一拍明けてから言う。

「キミがそこまで言うなら少しは期待しようか」

 そう言った暁は軽く今後の段取りを説明する。

「とりあえず僕は21番のサーバーを借りてる。パスワードはちょっと待て……これだ。写メっとけ」

「ああ」

 言われて暁の見せてきたログインパスワードの写真を取る。
 そして俺がそれを保存したのを確認してから暁は言う。

「10分後。そこのサーバーにログインしてこい。設定は団体戦同様の物にしておく。そこで勝負だ。やってみないと分からないならやって分からせてやるよ」

「望むどころだ」

 赤坂はその言葉に頷いた。
 こうして普通科の異端児と世界四位の男の対決が決まったのだった。

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