元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

魔王様『後編』

 俺の前には魔王様が立っていた。

「あのー……俺と一緒にここまで来た魔王様ですよね?」
「そうだぞ」

 図太い声が耳に響く。
 魔王様怖っ……! デカッ! 今まで通り接するの厳しすぎるんだが……小さい魔王様の方が関わりやすいかったから良かったよ! あまりの怖さに涙が出そうになる。

「それでは魔界まで来てもらったんだ願いを叶えてやろう」

 俺は息を呑む。
 この魔王様は本当に何でも出来そうで悪魔に魂を売るようで少し怖かった部分もあるのだろう。

「っと……その前に」

 と、声のトーンを下げる。

「我の力を見せてやろう」

 そう言い放つ魔王様。
 すると、手の平を起点に空気を焼き焦がすような熱量を持つ火の玉が突然現れた。

 すると魔王様は喜ぶように「フハハハハハハ」と笑いだす。
 笑っていたため聞き取りづらい声で俺に一言告げる。

「動くなよっ?」

 そして手の平を俺に向けて横に出し火の玉が飛んでくる。俺の顔面スレスレのところにボオッと音を立てながら猛スピードで飛んでくる。

「あ、危ねぇよ!」
「いやー……すまんすまん! 俺の力を見せたくてな」

 ていうか待てよ! 火の玉……えっ、あっ、ん!? と今更になって思う。頭の情報量が明らかに付いてきていないなが分かった。
 ノーモーションからのあの迫力。しかも軽々とやっているようにも思えた。

「まぁ茶番はここまでだとして。『お前の願いを叶えてやろう』」

 正直言って、こんな奴とは一生関わりたくない。俺はこれからも普通に生きるんだ。
 だから大きすぎる望みなんて叶えちゃいけない。

「そうだな……」
「何だ無いのか?」

 と、不思議そうに急かしてくる。
 そう言えば足が痛い……。車に跳ねられた時のやつ。

「足が痛いからこれを治してくれ。それだけでいい」
「お前の願いを叶えてやろう」

 すると魔王様は何かを唱え始め、俺の足が光に包まれる。
 すると足がだんだんと楽になる。このままし続ければ空も飛べそうだ。
 と……思っていると何だか胸の辺りが闇のような黒紫色に包まれていた。

「あのー……魔王様? 足はとても楽なんですがこの『モヤモヤ』は何ですか?」

 と、俺は胸を叩く。
 だが魔王様は苦しそうな表情で俺に言葉は返してこなかった。
 そこから数秒経ち胸のモヤモヤと足の光は消え去る。
 魔王様は苦しそうに両手を膝につき息を荒くしていた。

「あのー……大丈夫ですか?」

 あまりにも苦しそうなので心配し俺は背中をさする。
 暫くすると魔王様の呼吸も安定し俺は再び会話を戻す。

「足はとても楽になったんですけど……胸のモヤモヤは何ですか?」
「願いを叶えたんだから契約をしたんだよ。お前が死ねば俺も死ぬ。それだけだ」
「……は? いやいやいや! 冗談はよしてくださいよー! 願いを叶えたのは魔王様を助けたからじゃないですかー」
「そりゃあ魔王だもん。嘘つくでしょ」

 ……確かに。嘘をつかない悪くない魔王様なんていないよな……うわぁぁぁああ!!

「でも一つ気になるんですが何で俺と契約を?」

 色々と聞きたいことはあるけれどまずはこれからだ。こんな傍から見たら平凡みたいな俺を選んだんだ?

「助けてくれたしー。都合良いかなって! それだけ」
「人間の俺とわざわざ魔王様が手を組む理由は?」
「あっちの世界での行動の制限解除と。お前ら『人間を救うため』」

 人助けをする魔王様!? それは俺の知ってる魔界の王じゃねぇよ!

「詳しい話を聞かせてもらってもいいですか?」

 何か俺の生活にも関わってきそうだし、しっかり話を聞いておいた方がいいな。これは。

「少し長くなるぞ……。
 我ら魔王軍は先月まで圧倒的勝利を収め勇者達をボコボコにしてきた。お前らの世界の物で分かりやすく言うならRPGの序盤からLv.30近くの魔物が出るみたいなもんだな」

 RPGとか意外に詳しくて驚くわ……じゃなくて。それなら魔王軍に困る要素が何処にあるんだ?

「そこで勇者達は考えた。
 どうすれば勝てるのか……と。そこでシンプルに考えて強大なパワーが必要だと気づいた。力不足だ……と。そして、それを簡単に得られる場所を一つだけ発見した。それがお前らの住んでいる『地球』だった」
「は、はぁ?」
「で、勇者達は試行錯誤し地球に入る手段を見つけた。それがここに来る時にした詠唱だ。
 話を戻すが地球に辿り着いた勇者は願いを叶えてあげる代わりに契約を交わした。お前らの心。『壮大な力』を求めてな」
「だから交わした契約相手が死ねばこちらも死ぬってわけか……」

 なるほど……分からん。

「まぁ何やかんやで形勢逆転をされた。
 我の幹部が力を振舞っても対処しきれず圧倒的に魔王軍はピンチになっていった。
 我が旅行なんてせず大人しく城にいれば違ったのかもしれなかったのだがな」
「なら今から攻めればいいんじゃないのか?」
「ここから話は更に難しくなる……実を言うと我の力は砦に反映されていて、それが破壊されれば破壊されるほど弱まる。それは相手の王も同じだ。つまり五・五で取り合っているなら王の力は平等になるということだ。
 だが、我ら魔王軍の現在残っている砦は十ある内の一つ。我の力は最大限まで弱まり正面から挑んだ所で無駄という訳だ。
 そして、砦の奪還には各砦にある水晶を割り自分達の物にすればいいのだ。そこでお前の出番だ」
「俺はここじゃあ雑魚だぞ? 何も使えないしな」

 と、魔王様が火を飛ばしたように俺も手を構える。が、もちろん何も出ない。

「誰がこの世界でと言った。地球上から攻めるんだよ。勇者は適当に選んだ土地から人間の力を貰おうとしたんだ。そして調べたところ。お前らの住んでいる村周辺だけがその力を蓄える補給場所になっている。つまり地球と魔界を繋ぐ場所は各砦のような力が貯まっている部分しかない。
 ちなみに一つの砦は学校なんかと繋がっていたぞ。
 そこでだ。繋がっていることを逆に利用しこっそりと侵入し攻めるんだ」
「……難しい話だな。一度聞いただけではあまり分かりそうにもないから実践しないと何とも……」
「なら早速、明日にでも実践するか?」
「嫌だ……って言ったら魔王軍が攻められ俺も死ぬだけだよな。はぁ……分かったよ」
「物分りが良くて宜しい! ちなみに砦を取り返していけば向こうでの俺の姿もまともになっていき、あちらでも能力を使えるようになる。まぁ深いことは考えずに砦を取ることだけを考えとけってことだ。それじゃあ明日に備えて地球に戻るとするか」

 そう言った後、他の部屋にも響くような大声で魔王様は叫んだ。

「幹部共よ! ここが攻められれば終わりだ! 俺が砦を一つ奪還するまでの間守ってくれよなー!」

 そう伝えると俺に手を当て再び何かを詠唱し気持ち悪い感覚と共に魔界に行く時に使用した神社前まで来ていた。
 その時にふと思う。
 こんな所をじっくり見ていたり向かおうとしていた人間は勇者側って可能性が高そうだな。

 そう思いながら俺は魔王様を手の平に添えて家に帰り部屋に入る。

「疲れたな……」

 俺はそうぼやき目を瞑った。

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