元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

進化

 この感覚……何度やっても気持ち悪いな。
 俺達は魔王様の詠唱によりバス停裏まで戻ってきていた。

「とりあえず……終わったな」

 暗闇の一本道を見つめ、感心するように呟く。

「うん! そうだね……!」

 ん……? 魔王様? それにしては声が……いやだいぶ高いような。
 俺はそう思い、声が聞こえた後ろに目線を移す。

 ……!?

 ――そこに立っていたのは魔王様のコスプレをした幼男だった。
 ハロウィンは終わったはずだし……だいたい何でこんな所にいるんだ!?

「き、き、君はこんなところで何をしてるのかなー?」

 驚きで言葉がしどろもどろになっている。
 これでは、まるで誘拐しようとしている、ショタコンだ。

「何をって意味わかんないよー」

 それはこっちのセリフなんですが。
 魔王様は俺をここに送るだけ送って自分は来てないのか?
 この子はそもそも何でこんなところにいるんだ?

「迷子……かな? お家一人で帰れる?」

 うわぁあぁあ!!
 こんな事を言いたくないのに。それこそ連れていく犯罪者じゃねぇか!
 これだから小さい子供は嫌いなんだよ。

「おい。舐めてんのか?」

 と、笑い始める。
 なになに最近の小さい子供はこんなにも暴力的なんですか?

「お兄ちゃんはね。君のことを心配しているんだよ?」
「……って怖っ!」

 心配していた子にそんなこと言われた……。

「お前さぁ何か勘違いしてないか?」

 その声はいつもの魔王様の声だった。

『……! どこにいるんですか!?』

 子供に頭がおかしい人とは思われたくないので念話で話す。

「だーかーら! ここ!」

 魔王様の図太い声が前の方から聞こえる。
 ……この目の前にいる子供はコスプレなんかではなく紛れもない魔王様だったのだ。

「……!? 何でそんな格好をしてるんですか?」
「おいおい……忘れたのか? 力を取り戻せば取り戻すほど……?」
「こちらの世界でも力を取り戻すってか!」
「それで少し驚かせようと声を変えたら全く気づかないもんだからビビったぜ」
「いや……今の小さいお前からあのでかい体つきが連想できなくてな……」

 あれがこれだろ……と手を上から幼年期魔王様まで下げる。

「そうかそうか。まぁそんなことはどうでもいいんだよ」
「どうでもよくはないけど……なんでだよ?」
「こっちの世界でこの体になったってことは今まで通り学校へ行くことは出来ない。
 だから、お前の家にずっといることになるかなー……と」
「ふざけんなよ!」

 どうやら砦を魔王軍のものにすればするほど俺の苦労が増えるみたいだ。
 でも……力を取り戻せたなら小さくなることだって可能なんじゃないか?

「力を取り戻したんだったら小さくなることだって……」
「キッパリ言って、それは無理だな。流石にそこまでの力は取り戻していない」
「……じゃ、帰ろっか」

 俺はそれ以上、何も言わなかった。
 とぼとぼと歩きふと思う。
 今何時だ……? 田舎とはいえ夜は電灯が少なからずとも付いていた。
 それが今は何だ……?
 電灯の明かりは一切ない。

 今何時なんだよ!!

 もし親にバレたりしたらぶっ倒されるぞ。

 そんな不安を抱えながらもいつもより大きく見える家の前に立つ。
 こいつもいるから……どうやって部屋に入ろうか。

「なぁ……この家にどうやって入ればいいと思う?」
「そんなの普通にただいまー! って」
「……うん。それで親にバレたらお前ら魔王軍を救う旅はここで終わり、お前の命も終わるぞ」
「お前の母親はそんなに怖いのか」
「いや。地球上の母親なら大体がそうだと思うぞ……それよりここに入るためにはお前が大人しく俺におんぶされてくれれば何とかなるのかもしれない」
「我を持ち上げるがよい!」

 俺は腰を深く落とし魔王様が俺の上に乗る。
 あの頼りがいのある魔王様はどこに行ってしまったのだろうか。

「さぁ! 進むがいい!」

 このまま田んぼに投げつけて帰りたくなってくるな。
 イライラする手を落ち着かせ慎重に引き戸を開ける。

 ガラガラガラ

 その一音、一音が俺の心臓に爆裂系魔法を撃ち込んでくる。
 そして玄関に入り引き戸を慎重に閉める。

 ……一番の難関を突破!

 ここからは階段を上り部屋に入るだけだ。
 あそこに比べれば全然、楽だろう。

 ――そう思っていた時期が私にもありました。

 俺は階段を上る。

 ミシッミシミシッ

 階段がミシミシと音をあげる。
 気のせいかもしれないがいつもより音が大きい。
 ……そうか。重さが増しているのか。

 ミシッミシッミシミシッバキッ

 何か凄い音したんですけどー!
 だが、親の寝室から物音のようなものは聞こえてこない。起きていないぞ!
 そして俺は部屋になんとか入り扉を慎重に閉めるとその場に崩れ落ちる。
 少し落ち着いた後、電気を付け時間を確認すると十二時半になっていた。

「……助かった」

 今日一日、凄いことが色々ありすぎて多少情報が追いついていないけど無事この部屋に戻ってこれた。
 満足だ。

「……で、俺は今日からどこで生活すればいいんだ?」
「んー……とりあえずここ」

 そう言うと俺はクローゼットの中にある紙袋と紙袋な間の狭い隙間に閉じ込めた。
 これだけ見るとかなり特殊だ。

「とりあえずそこで今日は寝てくれ」

 と、俺はグッドポーズを見せる。

「お、おう?!」

 そして俺はクローゼットを閉じベットに入り電気を消す。
 魔王様の情けない「怖い……」の声を聞きながら眠りについた。

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