元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

何が……?

 ……死ぬ。

 このまま動かなければ、確実に死ぬ。
 走馬灯が起こるとは、こういう事なのか。と実感していた。時間の流れが遅い。
 相手の剣が俺の首にどんどんと近付く。
 動きたくても、動けない。様々な思い出が脳裏を過ぎる。

 そんな時……。

『助かりたいか?』

 若い男の声が、脳に直接、語りかけるように聞こえる。どこか、念話に近い感じだ。
 そして、その声は、魔王様と違う、若く、爽やかな声だった。

『……助かりたいです』

 俺が死ぬと、魔王様まで、死んでしまう。俺のせいで……だ。

『そうか。そうか。ならば、助けてやろう。その代わり……』

 強くなれ――

 そう言うと、時間が早く流れ始める。
 俺の首元が斬られる。

 ……その瞬間。

 急いでいたので、胸元に入れておいた、ナイフがポケットから、飛び出し、相手の剣を弾き飛ばした。

 この大きさの差で……?!

 だが、ラッキーなことはラッキーだ。
 相手は驚き、立ち止まっている。
 俺は、その隙に魔王様を後ろにしたまま、立ち上がる。

「……俺が守る!」

 動揺している、騎士に向かって、大声で叫ぶ。
 相手は『危険』と、判断したのか、二、三歩、後ろに退く。
 何も無いんだけどな……。

 そうは分かっていたのが、相手に弱いと判断させてはいけない。

 そう思い、右手の平を向け、それを上にやる。何となく考えた、それっぽいことだ。
 よくよく考えると、手の形以外は、ウルチラマンが飛ぶ時のポーズみたいだ。

 ……!?

 俺が何となくしてみた、このポーズに、何か意味があったのかは分からない。
 だが、何かが起きているのは事実だった。

 俺の手の平にまとわりつくように、何かが構成されていく。
 バーチャルゲームのようだ。

 そして、刀の柄部分が構成される。
 俺は、それをしっかりと握る。

 この調子で……刃の部分が出来ていけば……。

 ……って、あれ!?

 本当に柄の部分が出来ただけで、止まってしまったのか!?

 相手は余裕と判断したのか、斬りかかってきた。
 考えている暇はなかった。柄の部分を適当に振る。

 ブン!

 鋭い音と共に、空気を切り裂くような風が起こる。
 すると、周りの炎や相手の甲冑を吹き飛ばした。

 カンカランカラン

 相手の鎧は崩れ落ちるように倒れる。
 近付いて、確認してみると、中身は空っぽだった。

 ……こいつは魂か何かが入っていただけで、勇者では無いのか。

 それを確認して、安心すると、意識が遠のき、その場に倒れてしまった。


 ――――――
 ――――
 ――


「……い! 起きてくれよぉ!!」

 肩を揺らされ、胸を叩かれる。

 これは……魔王様の声か、、?
 そうか。俺、生きてるんだ。

 俺はゆっくりと目を開ける。

「良かったぜぇ。生きてたのかぁ!」
「あ、あぁ」

 俺は力の無い返事をする。

「回復しても、倒れてるから心配したぜぇ……」
「俺だって、心配してたよ……。馬鹿か」
「ところで、お前。あいつを倒したのか?」
「あぁ。そうだよ。この刀? いや、刀の柄で……」
「? 何、言ってんだよ。お前が手に持ってるのはナイフだろ? 相手が居なくなってくれたのか。助かったなー!」

 ……? 確かに、刀の柄を持っている感覚は無い。

 もしかして、俺はとっくに、気絶していて『夢』でも、見ていたのか?

「そ、そうだな」

 まぁ、別に褒めて欲しいわけでも無いし、敵が去っていったってことでいいかな。


 その後、魔王様と一緒に、元の世界へ戻った。

 現実世界に戻ると、外は真っ暗だった。
 まだ、三時くらいなのかな。結構、倒れてた気がするんだが……。

 その後、何時なのかを気にしながら、家へ帰った。

 俺は家に、そーっと入る。
 リビングからはテレビの音がする。

「あれ、今日は早いねー」

 は、母っ!?

「ちょっと、ランニングに……ははっ」
「そ、その割にはズボンやらが破けてるのね……。……しかも、義光君まで?! 大丈夫!?」
「ランニング中にー……。その、橋から落ちて。えへっ」

 魔界では、ありそうな言い訳だけど、この世界ではおかしいだろ?!
 魔王様、ふざけんな!

「そうなの?! 大丈夫!?」

 家の母親が馬鹿っていうか、頭おかしくて助かりました。

「ま、まぁ、シャワーでも浴びてくるよ」
「男二人で!?」

 いい歳して、何考えてんだ、こいつは。

「順番に、だ!」


 俺はシャワーを浴び、映っていたテレビの時間を確認する。

『6:30』

 ……マジか。
 一睡も出来てないし、疲れた!

 その後、俺は飯を食い、時間になったので、家から出て、学校へ向かった。


「おっはよー!」

 胡桃くるみか……。元気そうでいいな。ははっ……。

「おはよぉ……」
「浮かない顔して、どうしたの?」
「何も無いよ」

 ここからはいつも通り。
 歓談を楽しみ、学校へ向かった。


 ――学校に着いてからが驚きだったけど。

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