元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

……ごめんなさい。

 うっ……。何だ、これは!?

「ど、どう……?」
「うっ……美味いよ。と、ところで、これは何を使ってんの?」

 み、見た目だけは綺麗なんだけどさ。味は、どうしたら、こんなことになるんだ?!

「こ、これはね。卵の色を整えるために、絵の具を混ぜて、更に上から塗っているの」
「アホか! アホなのか!?」

 そりゃあ、色が綺麗なのも、整っているように、見えるのも、納得がいくわ!
 でも、絵の具を入れて、形を整えるって、凄いな。

「だ、ダメ……?」
「絵の具がアウトだ!」
「絵の具、入れてるんだー。酷い、嫌がらせをするねー」

 ムスッとしていた、やよいが割入ってくる。性格悪すぎだろ! なんで、俺達の仲を壊そうとするんだ。

「だーかーら。壮一は私が作ったのを食べればいいのー!」

 そう言うと、自分が少し食べていた弁当とは、別の弁当箱を取り出す。

「私も作ってきたんだー」

 そして、その中身には、卵焼きやソーセージなど、シンプルな弁当箱だった。
 見た目だけで、判断しろ。と、言われたら、迷わず夏奈のを選ぶだろう。

「んー……。そうだなぁ……。じゃあ、私もこれっ!」

 そして、箸で卵焼きを取り、口に入れ……咥える。

「んっ……ふぁい食べれ(はい食べて)」

 口をどんどんと近づけてくる。んっ……。て、出来るか! こいつは本当に頭がいかれてるんじゃないか!?
 俺は、転げ落ちる勢いで、後ろに椅子を引く。

「いやいやいや! 待てって! 俺と、お前は友達なんだぞ!?」

 友達に弁当を作ってくる時点で、なかなか怖いと、俺は思うけどな。

「ふぁんれよー! ふぃつもふぃてんじゃん!(なんでよー! いつもしてるじゃん!)」
「変な誤解を生むような発言は辞めろ! 夏奈も気を悪くしないで! 大体、転入してきたばかりなのに、いつもって、おかしいだろ!」
「ふぃいじゃん!(いいじゃん!)」

 やよいに、後ろへ引いていた体をがっしりと掴まれる。
 俺は頑張って、振り払おうとするが、全然振り払えない。

「離せ!」

 体を左右に揺らすが、離れることはない。
 力が……強すぎる!
 そして、脇腹を掴んでいた手が徐々に上へ上がっていく。
 脇腹、肩、首、そして、頬まで登ってきた。
 もう、逃げられない。終わりだ。頬をぎゅっと挟まれて、口が少し開いてしまう。

「ふぁーん(あーん)」

 そして、その卵焼きは俺の口に入った。ついでに唇も俺の唇に当たった。
 卵焼きが入ったので、口を離そうとするが、全然離れない。

 諦めて、卵焼きを楽しもうと味覚に注意を向ける。……不覚ながらに、卵焼きが、め、めちゃくちゃ美味い……。

 口の中に仄かな甘みと、舌に当たる、ふわふわの感触が堪らない。

 俺は感動のあまり、目を瞑ってしまった。

 卵焼き、美味しいなー。だけど……こんな光景を見た、夏奈はどう思うのだろう。
 でも、卵焼きが美味いし、女子にこんなことをされたら、簡単に離せるほど、器の大きい男じゃねぇよ……。
 もう、余計な事を考えるのは辞めよう。離そうとしたって、離せないんだから。

 ふわふわしてて、気持ちがいいなー。

 ……って、ん!? 歯に何かが当たる感覚がした。柔らかい……じゃねぇ! 何、舌を入れてんだ!

「ふぁなせよ! ぶぁかやろぅ!(離せよ! 馬鹿野郎!)」
「んっ……」

 別に、俺は舌を動かしてないんですが!? 何だ、こいつはクソビッチか!? 消えろ! 消え失せてしまえ! 夏奈との関係が崩壊する。本当に辞めろ!
 いち早く離すには、どうしたらいい? 何をすれば。力が強い……力を抜く方法。

 ……こちょこちょなんて、どうだ!?

 俺はやよいの脇腹を掴む。
 う、ウエスト細い……。じゃない! そして、俺は指を器用に動かし始める。

「……! んっ……んっ」

 如何わしいことでは無いですからね!? あくまで、こちょこちょです。何も悪くは無い!

「んっ……んっ」

 段々と、息遣いが荒くなっていくが、それと共に力も抜けていく。
 俺は、その隙に手を離し、無事に解放されることに成功した。

「はぁはぁはぁ……」
「はぁはぁ……『今日も』楽しかったね! 壮一っ!」
「いつもして無いだろ……」

 完全に精力を吸収された、気分だった。こいつこそ、悪魔だろう! サキュパスだ!

「……お二人で楽しそうですね」
「いや、これは、その違くて!」
「何が違うんですか? 説明してください。見たままじゃないですか。昨日の付き合ってください。も、私をからかっていたんですね」

 と、目に涙が浮かんできている。堪えているのだろう。
 俺は、主犯じゃないとは、いえど、こんなの怒って、当然だ。
 傍から見たら、そう思われても仕方ない。

「生徒会室……。いえ、校内でそういった事は控えてください。以上。終わりです。ご退出を……」
「だってさ! 行こー」

 やよいの後に続き、俺は黙って……いや、何も言えずに、生徒会室を出た。

 生徒会室の扉を閉める時、俺には、夏奈の涙が見えた。

「じゃっ、教室、戻ろっか!」
「……うっせぇんだよ! 黙ってろ!」

 俺は人目を気にせず、図書室から、さっさと出ていった。
 行くあても無かったが、ただただ廊下を歩き続けた。
 最終的に、俺は屋上へと、繋がる階段で自分の弁当箱を抱きしめ、下を向いていた。

 ……これじゃあ、攻略は不可能だ。
 ……そうじゃねぇんだよ!! 何やってんだ! 人の気持ちを考えろ! もう少し、カバーは出来ただろ?


 ――夏奈に申し訳ない。合わせる顔がない……。



 ……俺はこの日。初めて、学校を早退した。

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