元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

ここまでの経路『後編』

 まぁ、俺を好きになってしまったのは、誰とも関わらずにいたせいだろう。
 そんな中、性格が似ていて、比較的縁のある、俺を気に入ったのか。勇者に命令されたたついでに……。

 そして、俺も夏奈の砦を落とすために付き合った。
 ……二人とも、何かのために。ついでに。だけど、俺はもう、こんな頑張り屋の夏奈を守りたいと思うし、少し『好き』になっていた。

 話をとりあえず戻すことにしよう。
 ここで、夏奈は俺を恋に落として、魔王の砦攻略を阻止する予定だったのだが……。予想外の人物が現れた。

『田中 やよい』の転入だ。

 この話において、一番謎の人物。
 よく分からなく、何を考えているのか分からないやつだ。
 その行動は、予想の右斜めを全ていく。
 俺はもちろんの事。夏奈も困っていたのだろう。

 そして、やよいにより、俺のことを本当に好きになった、夏奈の嫉妬心に火を付けて……。
 現実世界で、こうして勇者が現れたってわけだ。

 まぁ、簡単に説明したので分かりづらいかもしれないが、これで勘弁して欲しい。


「私、寂しくて……。もう、勇者はいなくなっちゃったし、大丈夫かな……。一人じゃ、怖いよ」
「無責任な事は言えないから、大丈夫。とは、言えない。だけど……。『夏奈が作ってきた未来が変わる訳では無い。ここまでの強いことをしたんだ。願いが戻るだけで、生徒会長の仕事やらは変わらないだろう。今の夏奈なら、自信を持って、胸を張って、生きていけると思うぞ?』」

 俺は思っていたことをそのまま話した。そうだ。夏奈が成長出来たのも、俺が会えたのも、全て『勇者のおかげ』なんだ。
 本当は、正も悪も無いのかもしれないな。客観的に見れば、誰かのためになっている……のか。

「うん……。ありがとう」

 そして、彼女は俺に思いっきり抱きついた。

「……あのー、お二人さん。良いところ悪いんですが……」

 震えが止まらず、嫌な予感しかしない。う、嘘だよな……。
 それでも、なお、抱きついてくる夏奈。

「な、何でしょうか……」
「そういう関係で……?」
「ち、違います?!」

 そして、夏奈もようやく気づいたようで俺の体を飛ばす勢いで、肩を両手で思いっきり押す。
 彼女は手を当てて、自分の体を隠すようにする。

 こんな場面で言うのもおかしいけど……めちゃくちゃ可愛い。

「べ、べ、べ、別に何もしてませんよ?!」

 顔が真っ赤なのに、それ言うか?

「ま、まぁ、男女の関係に口を挟むような真似はしないぜ」
「ショタっ子に言われた……」

 夏奈は悲しそうに頭を抱える。
 表情がコロコロ変わって可愛すぎか!

「俺様はショタっ子じゃねぇ!! 大人だ! ……ま、まぁ、そんなのはいいんだが、お前! ふざけんな!」
「な、何がだよ!?」
「俺を気絶させやがってー……! そこまで嫌いにならなくてもいいだろ!」
「? ……俺、何かしたか」
「覚えがない!? 無神経? 嘘だろー!!」

 マジで何言ってんだ!?

「ごめん。俺にも記憶が無いんだ……」
「ま、まぁ、何か知らないけど、勇者も倒してるし、いいけどな! ……そうだ!」
「急に大きな声を出してどうした?」
「いやいや! 何のための砦攻略だよ! 水晶!」
「あぁ! そうだな! 夏奈、少し待ってるか。先に帰っててくれ」
「……うん」
「それと、これ! 俺の連絡先」

 やっと渡せた。

「……ありがと。なら、私、帰るね」
「おやすみ」
「おやすみ」

 そう言うと、扉を開けて、外に出て行った。
 それと同時に部屋が動き出し、変化が現れ、空間が歪んでいく。
 強烈なめまいでも受けているみたいだ。
 少し続いためまいを受け、倒れ込んでいた体を起こし、立ち上がる。

「おい! 見ろ、あれ!」
「水晶じゃねぇか!!」

 魔王様が勢いよく、走り水晶を触れると、それは一気に割れて……。

「よしっ! ここの砦も奪還だ!! ……これで。……の……もそろそろ終わりか」
「何か言ったか? 魔王様」
「な、何にもねーよ。それより、砦奪還だぜ!!」
「じゃあ、この魔界を幹部に任せてから、俺もあっちに戻るから、先に帰っててくれ」
「分かった」

 そう言うと、魔王様に手を触れられ、現実世界の生徒会室に戻る。
 俺は色々な想いを持った、生徒会室を後に、家へ帰るために、玄関へ向かう。

 すると、どこからか泣き声が聞こえてくる。
 怖っ! この高校に七不思議みたいなのはあったっけ!?
 怖くなり、玄関までダッシュで向かうと、泣き声がどんどんと大きくなる。

 怖い、怖い、怖いぃいぃ!!

「ぐすん」

 あ、あれは?

「か、夏奈。こんな所で泣いて、どうしたんだ?」
「あのさ……帰れないよぉ!」

 あ、確かに。夜の学校だし、手動では無い、この鍵が開くわけもない。

「……うわぁぁぁ!!」

 そして、俺たちは数分叫んだあと、考えた。

「「そうだ!」」

「何ですか?」
「いや、そっちが言いなよ」
「なら、二人で言おうか」

「「普通に窓から出よう」」

 脳筋の案に聞こえるかもしれないが、これしか無いんだからしょうがない。
 俺達二人は一階の窓から何とか、外に出て、家に帰った。

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