元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

洗脳

 授業は四限に入った。
 時刻は残り数分で正午。腹が減ってくる時間帯だ。

 カチカチ

 時間は刻一刻と過ぎていく。

 そして、十二時になったその時――

 突然、前の席にいる胡桃が立ち上がった。

「どうしました? 白石さん?」

 胡桃はそれに対して、返答することもなく扉を開ける。
 それを止めるために、先生が胡桃の腕を掴むと思いっきり殴り飛ばした。
 周りがざわつき始める。当然だ。
 昨日も無意識だったよな……? ということは……。あいつは何かに洗脳されている?
 俺も席を立ち上がり、胡桃を止めるために教室から出る。

「壮一さん! 止まり……」

 俺はそう叫ぶ先生の声を無視して、扉を思いっきり閉める。

 俺が走りだした、走路に止めが入った。
 同じクラスの女子生徒だ。

「計画の……邪魔はさせない」
「どけ。邪魔だ」

 こいつの目はいつもより何だか細い。洗脳でもされてんのか……?

「どうしても。と、言うのなら私を倒してから進みなさい」
「女子を傷付けるのは気が引くなぁ……」
「甘いことを言ってないでいいから!」

 そう言うと、彼女は手の平を上に向ける。すると、レイピアのように細長い剣が手に形成される。

「死になさい」

 そう言うと、彼女は俺に接近し、剣を振り回す。
 危ねぇ……。こんな所で斬られたら、一溜りもねぇぞ。

「ファイア!」

 俺は負けじと、後ろに引きながら魔法を放つ。
 足に当てれば、火傷程度で済むはずだ。悪いが、こんな所で足止めをされるわけにはいかないからな。

「ッッ――足が痛くて動けない……」
「そこで倒れてろ」

 俺は彼女に気遣うことも無く先に進む。ここでテンポロスをしてたら、何が起こるかは分からないけど、手遅れになりかねないからな。

 だが、そう甘くは無かった。
 他クラスからも数人。人が出てきていたのだ。

「死ね」
「死になさい」

 もちろん学校は大混乱。教室に戻るように。という、放送が流れ始めていた。

「ごめん……」

 俺は名前の分かる人、分からない人。関係なく、足を燃やしたり、目を眩ませたり、相手の行動や武器に応じて魔法を使い分け、そこを突破した。

 胡桃はどこに行った……? 歩いたていたから、そう遠くは無いはずだけど。

 上か下か……。とりあえず上に行くか。
 下だった場合でも、上からなら全体を見渡せるからな。

 タッタッタッ

 階段を一気に上る。
 そして、廊下に出ると「待ってました」とばかりに三年生が待ち伏せしている。そこには先生もいた。

 先生までも、洗脳されてんのかよ……!

 俺は柱に隠れ、遠距離攻撃で地道に倒す。

「はぁはぁ……」

 時間がかかっちまったな。
 と、額の汗を拭いた時、放送が聞こえる。動いてたからか、聞こえなかったな……。

『……ます。全校生徒の皆さんはグラウンドに避難してください』

 遂に避難までしてるのか……。これは異常だもんな。
 俺はとりあえず胡桃を。三年廊下を探すも、それらしき姿はなかった。
 屋上から、探して見るか……。

 俺はやよいとのあれこれを思い出させられる、踊り場を上がり、屋上へ着く。
 周りを見渡しても、それらしき姿は無い。

 ああやって、集まってるのか……。

 グラウンドを確認すると、全員が立っていて入口から出来るだけ遠くの部分に、体を抱えて集まっていた。

 ……?!

 丁度、死角になっていた部分から人が姿を現す。
 人の襟を掴み、持ち上げている……? あんな事が出来るのは漫画とかだけの話であそこまでの馬鹿力を出せる人間がこの学校にいるわけない。

 そして、持ち上げられている。そいつの背中は……赤く染まっていた。

 ブルッ

 と、鳥肌が一気に立ち、血の気が引いていくのが分かる。

 おいおいおい……。マジかよ。
 そして、そいつを持ち上げている人物は……胡桃だった。
 や、ヤバいな……。
 早く止めねぇと! 屋上の扉を破る勢いで開けて、踊り場に出て、下を見ると俺を待ち伏せる者がいた。

「壮一君っ? ふふっ。壮一とは、仲良くしたいんだけどねー」
「お、お前は一体何なんだよ……」

 最近、大人しくなったと思っていた。謎の転入生美少女『田中 やよい』が二タニタと笑っていた。

「私? そうだなー。君を邪魔するためだけに来た転入生? かな」
「何のためにだよ」
「そんなの考えなくても分かってるでしょ? 皆が言っていた通り、計画のため。でも、邪魔はされたけど、こんな美少女と少しでもイチャイチャ出来たんだから、感謝すべきだよ」
「まぁ、嬉しかったよ。でも、お前がそんなやつだったとはな。全部嘘ってことか……。なら、俺はお前を遠慮無く倒し、計画とやらを潰すだけだ……!!」
「ふふっ。そう来なくっちゃ!」

 そう言うと、彼女は俺を煽るようにクイックイッと手招きをした。

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