元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

苦しい

 階段のところで戦うのはキツいか……? でも、上から魔法を撃てば有利なんじゃないか?

「そんな所で止まっちゃってどうしたのー?」
「……るせぇ!」

 いや、ここでキレたらあいつの思う壷だな。

「……ファイア!」

 上から足を目掛けて炎の玉を打つ。
 言っても、大きさはかなりあるから当たるんじゃねぇか? この狭さだし、避ける場所も無いからな。
 俺の魔法が意外にも強く、動揺しているのか、止まり動くことはない。

 勝負あったか??

 すると、やよいは俺に向けて右手の平を前に向けて出し、左手を右腕に添える。
 足元を狙ったはずの火の玉が右手に吸収されるように軌道を変え……。

 シュウッ

 と、いう音と共に火の玉はどこかへ消え無くなってしまった。

「その程度ー? ……なら! 私の攻撃を受けて見ろ!」

 彼女は階段を一気に駆け登る。いや、階段スレスレを飛んでくる。
 う、浮いてる??

 そして、手に剣を造形する。

 あっという間に最上段に登り詰めて……。

 ジャキンッ

 俺の足は綺麗に斬り裂かれてしまった。いや、足を取られた。の方が正しいのか……?
 しばらくすると、困惑していた俺に物凄い痛みが走る。

「うぎゃああぁぁぁぁああああ」

 言葉にならないような声が出て、一気に倒れ込む。
 俺の足からは血が噴水の水のように吹き出し、太ももから下の足が地面に転がり落ちている。
 痛すぎて、気が朦朧としてくる。
 痛い、痛い、痛い、痛い。
 だが、このまま何もせずに死ぬわけにはいかない。その時点で俺と魔王様もアウト。
 全滅だ……。生き残る術を考えねぇと。

「ひ、ヒール……」

 俺は足に魔法をかける。すると、床に飛び散っていた血が地面から取れ、中に浮き、体内に戻る。
 地面に落ちていた足は綺麗になくなり、イモリの尻尾のように足が一気に生える。同時に痛みも無くなっていた。
 よく分かんねぇけど……助かった。

「……ふぅん。なかなかやるじゃん」
「余裕……ぶっこいてられんのも今のうちだぞ……」

 俺は膝に手を付き、立ち上がる。

「ふふ。そうこなくっ……ちゃ!」

 腹部に膝が思いっきり入る。

「ゲホ」

 俺は再び倒れ込む。こんな痛みばっかり感じてたら神経狂うぜ……。

「もう一回!」

 俺の体は抱きかかえるように起こされ、「ゲホッ!」再び蹴りを入れたれた。

「痛い? ねぇ痛い? やめて欲しい?」
「負け……ねぇ」

 その後、何度も何度も蹴りを入れられる。気絶しそうになっては、回復しての繰り返し。
 地獄でしか無かった。

「あー、飽きちゃった!」

 今度は蹴りではなく、階段の上から殴り飛ばされる。
 階段に何度も何度も叩きつけられ、一番下まで落とされる。
 すかさず、俺は体に回復魔法をかける。

 逃げる……チャンスなんじゃないか? 幾ら何でも分が悪すぎる……。
 俺は体を起こし、一気に後ろへ逃げる。柱の影に隠れて、廊下まで走れば流石に助かんだろ……!

 俺は廊下を一気に駆け抜ける。だが、この作戦はあまりにも浅はかだった。
 左から二つ目のクラスを抜けた時に……。近くの窓が一気に割れ、そこからやよいが出てくる。

「逃がすと思ってんのか?」

 首を一気に掴まれ、地面に叩きつけられる。

「ッッ――」

 頭がぐらぐらと回り、脳内をかき回されてる気分になる。
 そんな時、窓ガラスが割れる音がした。

「あぁあ。何で、こんなやつと魔王様は契約しちゃったのかなー!」

 愛らしい女の子の声が聞こえる。あぁあ。俺は殺される直前で混乱している時にそんな幻聴を聞いちまうような愚か者なのかよ……。

「お前は魔王軍幹部の……」

 やよいが反応し、俺の頭から手を離す。
 その隙に回復魔法を急いで全身にかける。すると、目の前にいる美少女の姿がはっきりとする。

「そう! 超美少女で有名の『リミル』ちゃんだよー!」

 ……! 魔王軍も助けにきてんのか?!
 すると、脳内に何かが直接話しかけてくる。

『ふふー! 助けに来てやったよー』
『マジで助かったぜ……。でも、お前……。いや、あなた様が何故ここに?』

 魔王軍もこちらの世界に来れるくらいの力を取り戻したのか??

『んー……。その理由は長くなるから言えないな。でも、君にはこたつの仮があるからねー! まぁ、このクソ勇者は私が何とかするから、魔王様のいるグラウンドに行ってあげてよ!』

 こたつ……? 家に来て魔王様とのんびりしてたのかな。
 いや、関係ねぇ! リミルが倒してくれてる……ってなら、早く逃げるか。

「ほらほらー! かかって来なよ! クソ勇者! 苦しめんのが好きなんでしょー?」
「……ちっ。壮一、仕方ないから逃がしてあげる。でも、他の人に勝てるかなー? ふふっ」

 そう言うと、目の前に立つやよいは俺を無視し、リミルに斬りかかった。

 ……頼む。任せた。リミル!

 俺は振り返ることも無く、グラウンドへ向かった。

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