元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

激しい戦い

 俺は通路を右に曲がり、奥にある低い窓から外に出る。
 そして、物陰を抜けると……。
 たくさんの勇者が、俺と同じ制服を着た学校の人達を襲っていた。
 それに不都合があるのか、魔王様と数名(化け物みたいな奴もいる)が、勇者と戦っていた。

「おーい! 魔王様ー! 壮一来たよー」

 魔王様は狂気のオーラを放ち、何かを放ったかと思うと、数名の敵を血に染める。
 そして、狂気じみた横顔をいってんさせ、こちらを振り向くときは笑顔になっていた。

「お……! 来たか! とりあえず……。ここの雑魚は俺様達が薙ぎ払う! 話はそれからだ!」

 話って……勝手に進めてんじゃねぇよ。
 みるみる相手の勇者は倒れていく。だとしたら、何故、序盤の時はあそこまで劣勢だったのにな。
 俺が見た限りでは、明らかに魔王軍が攻められていた。その理由は何だ……?

「……!」

 そうか。今は胡桃がここにいないんだ。
 でも、それだけでって……。胡桃はどんだけ強いんだよ。
 魔王が一通り相手を倒した時。風向きが一転した。

「ふふっ。ふはははははは!! 僕の手下を殺しやがって!」

 突如、空中に姿を現した胡桃は髪を乱し、頭を抱えてそう叫ぶ。

「出たぞ! あいつかぁ? 強そうじゃねぇなぁ?」

 緑色の鱗を纏い、曲線を描く大剣を手に持っている竜人が剣を振り回し、挑発する。

「舐めてると、死……はぁ。これだから馬鹿は……」

 と、サキュパスのようなエロい装備を見に付けた、お姉さん系美少女が「やれやれ」と、手を横に出し、頭を振る。
 それより、あの竜人はどこだ……?
 何だか、あの女の人は呆れているけど、俺には竜人がどこに行ったかは全く分からない。
 グルグルと周りを見渡すも、近くに竜人は見つからない。そして、遠い所に目を当てる。

 ……あれか?

 遠くから見ているので、よくわからないが竜人がぐったりとしていて、壁によれかかっているのは分かる。

 つ、つまり、一瞬のうちに竜人は倒されたってことか……?! しかも、ノーモーション。素振りも無しにか?
 周りの人間が呆然として、見つめる中。魔王が大きな声を出す。

「こいつは俺様がなんとか食い止める! おまえらは勇者共をぶっ倒せ!」

 不安からなのか、しばらくの沈黙の後、各所で「はい!」等の声が聞こえる。
 そして、魔王様は豹変するように厳つい顔をし、胡桃に向かって大声で叫ぶ。

「仕返しだ!!」

 二階の窓付近で浮いている胡桃に対して、魔王様が拳を向けて、突っ込んでいく。
 魔王様は何度も何度も胡桃を殴るが、吹き飛ぶことはない。
 全ての攻撃を手で受け止めている。

「くたばれ!」

 胡桃は魔王の腕をがっしり掴むと、かなりの高さから思いっきり字面に投げつける。
 地面からは大量の砂が舞い、辺りが見えにくくなる。

「大丈夫か!? 魔王様!」

 俺はそんな在り来りなセリフを叫ぶ。というか、そんな言葉しか出てこないくらいに対処のしようが無かった。
 何と言っても、遠距離であれだけの力を見せられたんだからな。

「うるさい。お前は黙ってろ」
「……!」

 口……だけではなく、全身が何かに縛られたように動かなくなる。金縛りと同じような感覚だ。
 俺が無理にでも動こうと抵抗していると、砂嵐が晴れる。
 すると、かなり深くできた穴から魔王が地面に手をかけ、ぐったりとして出てくる。
 周りの景色を見せるため、もしくは見せつけるためか首から上(口以外)が自由に動かせるようになる。
 何かをするという暗示なのだろうか。

「ふふっ! そうこなくっちゃ!」

 ニヤと不敵な笑みを浮かべ、一度、目を閉じたかと思うと一気に見開く。
 すると、胡桃は一気に笑いだし……。
 目に止まらぬスピードで魔王に突っ込んでいった。
 幹部の中で、その戦いを見てきたものは「魔王様!」と、叫び手を伸ばすも手遅れ。
 物凄い爆発音と共に、砂が噴火を起こした山の火山灰のように吹き上がる。
 これには周りも驚き、戦闘をやめるや、口をポカーンと開いていた。
 だ、大丈夫かよ。風圧だけでもかなり凄かったぞ。
 でも、俺の意識があるってことは魔王が死んでないってことだな。
 すると、砂煙から本当の噴火に似たような赤い色の光が放たれ、周り全体が照らされる。

「舐めてんじゃねぇぞ!! クソ勇者が!」
「あーあ。お怒りモードに入っちゃったかー」

 近くにいたリミルが寄ってきて、俺に声をかける。
 正直な話、この声がもう恐怖でしかない。

「お怒りモード……?」
「うん。もう暴走が止められないかもねー。まぁ……。こうなった時に魔王様から頼まれていたことがあるんだけど……」
「頼まれていたこと……?」
「そう。君に任務があるらしい。この状況を打開……?」

 こいつの声はイラつくが仕方ないので聞くことにしよう。

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