元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

勇者だから……!

 ……決めた。
 俺は魔王を信じる。こんな急に親ヅラしてきたやたよりも、多く生活を交わした魔王の方が信用に当たる……はずだ。

「……悪いな。お前が父だろうと何だろうと魔王を信用するって決めたんだ」
「そうか……。それは残念じゃな。まぁ。当然だとは思っていた。わしの負けじゃよ」

 そう言うと、『殺せ』と言わんばかりに両腕を広げる。
 ここで殺せば終わるんだよな。
 俺は剣を脳内で想像し、それを手に持つ。
 そして、胸の前で剣を構え、王座の前で両腕を広げる王へ一歩ずつ近づいていく。

「まさか。息子に殺されるとはのぅ」
「なら、お前が俺を倒せばいいじゃねぇか」
「その力も残っておらん……」
「いや……嘘だな。胡桃にあんな力が残っていたのに王である、あんたの方が弱いわけない」
「……分かったか。だからと言ってどうこうなる話じゃないんだよ。お前が力を覚醒した時点で『一番最強』なんだからな」
「……」

 俺は無言で近づいていく。
 ……俺は人を殺すんだ。殺すって相当な覚悟が必要なんだな。
 どんどん近づき……。そして、少し高くなっている階段を上り……。

 サッ

 俺は少し背の高い王様の首に剣を突き付ける。

「……いいな。いくぞ」

 俺は目を瞑り、思いっきり剣を後ろに引いた。

「油断したな。息子よ」

 ジャキンッ

 俺の両手首が斬られ、剣は後ろに飛んでいく。

「……ひ、ヒール」

 俺が両手首を再生させたタイミングで、その手首を捕まれ背負い投げの形で地面に叩きつける。

「ゲホッ……!」
「お前から、無理矢理でも力を借りないといけないからのぅ」
「……く、クソが」

 俺は立とうとするものの体が動かない。

「直接触れば、お前を制御することも出来る。近づいてきてくれてありがとう」

 そう言うと、体は起こされ身動きが出来ないまま宙に浮く。

「離せよ!」
「うるさい。お前の力が必要なんじゃ」

 俺の服を切り裂き、胸に手を触れられる。
 すると……触れられた場所は光り輝く。

「何してんだよ……」
「お前から力を奪う準備じゃ」

 王は自分の指を切り、血を出す。
 そして、その血で俺の胸に魔法陣のようなものを書いていく。

「やめろ!」

 俺は暴れようとするが、全く体は動かない。
 血の魔法陣はドンドンと完成に近づいているのか、光の輝きが更に増していく。

「もう少しじゃ。待つがいい」
「離せつってんだろ!!」

 俺が叫んだタイミングとほぼ同時に後ろの水がポチャンと鳴った。

「そいつを返せ。俺の契約者だ」

 水の鳴った方から魔王の声が聞こえる。

「あぁ。うるさいやつめ。わしに何の用じゃ」
「そんなの言わなくても分かってんだろ? 俺の契約者……いや。相棒を返せつってんだよ!」

 水のポチャンという音が激しくなり、どんどんと近づいてくる。

 バシャンッ!

 魔王は激しい音を立て、俺に魔法陣を描く王接近する。

「……ちっ。後でにするか」

 王が魔王に意識を移したためか、俺は垂直に地面へ落ちる。

「いってー……。魔王様。信じてたぜ。こいつをぶっ倒して色々と終わらせんぞ!」
「了解!」

 俺は再び剣を再構成し、魔王と取っ組み合っている王に斬り掛かり、王の左腕が飛び散る。

「グハッ……。おい、魔王。話が違うではないか……!」
「あ? 俺は魔王だ。嘘をついて当然だろ?」
「話って何だよ。話って」
「あぁ。お前ごとぶっ殺して最強の力を二人で手に入れて……世界を乗っ取るって話だったんだけどなー。なんか、お前とも仲良くなったし、もういいわ。だいたい、お前がいなきゃこいつに裏切られてたかもしれねーしな。感謝してるぜ。相棒」

 と、こちらを見てニッコリと微笑む。
 そして、あっという間に敵を追い込む。二人の力があればいくら強かろうと倒すことは容易だった。
 強くなった俺が斬りこみ、魔王が後ろで援護をする。
 そして……。

 キンッ

 魔王が魔法で動けなくした後に俺が剣を突き付ける。
 もう負けることは無い。

「お、おぉい。待ってくれ。息子よ。親の言うことを聞き、奴を殺すのだ」
「うるさい。クソ親父が。意味わかんねーことばっかり並べてんじゃねぇぞ」
「お主は勇者なのじゃろ? なら魔王を殺すのじゃ」
「さっさとそいつをぶっ倒せよ」
「あぁ。分かってる。『勇者なら正しいと思ったことをするまでだ』」

 ジャキンッ

 俺は目を瞑り震える王の前髪を前が見えるようにしっかりと切った。

「……! な、何をしておるのじゃ?!」
「これが正しいと思ったから。ていうかさ、お前ら。俺を利用して二人で世界を滅ぼそうとまで考えたんだろ? ならさ。二人で協力出来る日だって来るんじゃないか?」
「何言ってんだ。さっさと倒せ。お前の友人を利用しようとしたやつだぞ?」
「ならさ……。俺はお前に頼みたいことがある。し、友達を返してもらいたい。だから、死んでもらう訳にはいかない。これならいいか?」
「……」
「ほら、魔王様。こっちに来いよ」

 俺は魔王とお王の手をガッシリと掴み、その二つの手を合わせる。

「これで戦争は終わり。今後一切禁止だ」

「「はぁ……。何言ってんだ」」

「今まで戦ってたことが馬鹿らしくならないか? 二つの族で手を組んで生活すればこんなこと起こらなかったって思わないか? 少なくとも俺はそう思う。だからさ。これから手を組んで生活していこうぜ? な?」
「お、おう?」

 魔王様は多少動揺していたが、納得しているようだった。

「何か起こしたら、俺が本気で止めに行くからな」

 ――――――
 ――――
 ――

 そこからの後日談。
 魔族と勇者は決まりを作り、互いに手を取り合い生活することを決めたらしい。まぁ、色々と問題はあるのだろうけれど何とかしてくれるだろう。
 地球で起きた問題は魔王軍と勇者達のもと、記憶を改変し、建物の修復を行った。
 だが、胡桃や夏奈など。直接勇者に関わったものの記憶は消えないそうだ。
 砦が壊したら……消える。みたいな魔王の話も全て嘘だったらしい。
 そして……やよい。やはり、死人を生き返らせるなんてことは魔王軍の力。勇者達でも無理だそうだ。
 ……死人は生き返らない。やはり、そこは同じようだ。

 俺は彼女に意味も無く「ありがとう」と告げ、天界の墓に埋めた。

『こちらこそ』

 という、声が聞こえたような気がした。
 まぁ、何だかんだで今日も学校生活を送っている。たまに魔王が家の炬燵に入っていたり、彼女とイチャイチャしたり、今まででは想像の出来ないような生活だけど。

 俺はこの世界で面白可笑しく生きている……!

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