今年もやっぱりメリークルシミマス......?

チャンドラ

今年もやっぱりメリークルシミマス......?

 ホーホーホー。メリークリスマス。フーアムアイ? フーアムアイ?

 俺が誰かって? 俺の名前は岡島真也おかじましんや。今日はクリスマス。絶賛バイト中だぜ。

 今は、バイトで一人寒空の下、ケーキを売っている。ああ、寂しいなぁ。俺は今年大学三年になるのだが、彼これ三年以上彼女も作れず、三年連続一人寂しくクリスマスを過ごしている。いやぁ......厳密には、両親と妹がいるため、家族と過ごしているのだが。それでも寂しいものは寂しい。

 知っているだろうか? クリスマスは、別名一年でもっとも交尾が行われる日だそうだ。俺は、頭はいいため、そんなキリストが誕生した日にくだらないことしないがな。

 ああ、そうだ。単なる負け惜しみだ。大半の大学の友達は、恋人と過ごすそうだ。そんな俺は、あえてクリスマスにこの日だけのバイトをした。理由は、SNSを見ないようにするためである。
 俺は、日頃からSNSを見てしまうという癖があるのだが、クリスマスの夜だけはメンタルへのダメージを追わないようにバイトをすることにした。

 しかし、やはりクリスマスということで外はカップルが溢れている。遠くには、キスをしているカップルがおる。けしからん。実にけしからん。そんなことを思いながらバイトをしていると、キスをしているカップルとは別のカップルがやってきた。

「すみません。おすすめのケーキってどれですか?」
 カップルの女のほうが尋ねてきた。女は、茶髪でかなりの美人だった。しかも乳がでかい。男のほうは対してイケメンという訳でもない。身長も俺のほうが高いし、顔も多分俺のほうがいい。どうやって付き合ったんだ? お金だろうか?
「そうですね......ブッシュドノエルとかはどうでしょう?」
 ブッシュドノエルは、長いロールケーキの表面にココアやチョコレートバタークリームなどでコーティングし、切り株のような模様をつけている。また、パウダーシュガーなどで粉雪に見せるようにし、モミの木の枝を添えておしゃれな外見をしている。ブッシュドノエルは、クリスマスケーキで王道の中で王道である。
「どう? あつしくん。これ良くない?」
「いやぁ......俺、チョコレート嫌いだから、ホールケーキにしようぜ。」
「そう......分かったわ。」

 オイオイオイ死ぬわあいつ。なんなの? あつしくん、何でそんなに横柄な態度取れるの? 彼女さん、何か弱みでも握られてるの?

「すみません。ホールケーキ一つお願いします。」
「かしこまりました。二千三百円になります。」
「悪りぃ、由佳子。後で返すから払っておいてくれ。」
「分かったわ......」
 うわぁ......由佳子さん、可哀想。一体全体、由佳子さんはどうしてあつしくんと付き合ってるんだろうか。
 俺は、由佳子さんから三千円受け取り、お釣りとして七百円渡した。

「ありがとうございましたー。」
 カップルは、去っていった。遠くなるまで二人のやりとりが聞こえてきた。

「二人で部屋で楽しく過ごそうな。」
「うん......」
 全く、メンタルブレイクさせられそうだぜ。これだからクリスマスというには、嫌いなんだ。とんだメリークルシミマスになりそうだ。

 その後も一時間ほど俺はバイトを終え、家に帰ることにした。外は当然のごとく寒い。十二月だから当然であるのだが。たくさん雪が降っていた。

 家に帰る途中、とんでもないものを俺は見つけた。俺の家の前には公園があるのだが、その公園のベンチにに人が寝ていた。

 しかも、寝ているのは女性で冬にも関わらず、短いスカートと半袖を着用している。髪は氷のように美しく白かった。寝顔を見ると、まるでこの世のものとは思えないほど肌白く、美しい顔立ちをしていた。

 俺は、あまりの美しさのあまり、少しの間、見入っていたが、このままでは凍死するのではないかと考えたため、その女性を起こすことにした。

「すみません! 大丈夫ですか?」
 俺は声をかけてみた。
「ん......」
 その女性は、そうつぶやき起きない。これは......やばいのかもしれない。これはガチで救急車を呼んだ方がいいのかもしれないと思った。


「だ、大丈夫ですか!」
 再び声をかけてみた。すると、その女性は目を開いた。
「あなた、私が見えるの......?」
「何言ってるんですか? 本当に大丈夫なんですか!?」
「嬉しい......私の存在を理解してくれる人がいて......あなたは私にとって特別......ありがとう。」


  その女性がそう言うと――その女性は、俺に口づけをしてきた。
「ん......!」
 あまりに突然の出来事に俺は言葉がでなくなった。だが、その女性の唇はとてつもなく冷たかった。まるで、死んでいるような...... やがて、女性が俺の唇を離すと、言葉を放った。

「私とあなたは同じ。波長が同じ......」
「同じ......!?」

 俺は何となく理解できた。この女性は......この世のものとも思えないほどの女性は......


「いや、同じじゃないな......」
「そんな......どうしてそんなこと言うの?」

 悲愴を感じさせる、とても美しい顔が俺を覗き込んだ。やはりこの女性はとても危険である。なぜなら――

「俺は......絶対に自殺なんてしないからだ。どんなことがあっても......」
 この女性は、生きていない。

「そう......残念。あなたと私なら分かり合えると思ったんだけど......待ってるからいつでも来てね......」

 そう言うと、笑顔でその女性は消えていった。俺はすぐにあの公園から離れた。
 俺は小さい頃、霊感を持っていた。そして、幽霊を見ることができなぜ自殺したのかその背景も見るつからを持っていた。

 とっくの昔に失われた力だと思ったが、幽霊を見ることができたのは、寂しいという気持ちがあの女性と同調したのかもしれない。

 あの女性は、去年のクリスマスに失恋して自殺を図った霊のようである。もしもあのまま、あの女性といたら俺はどうなっていたのだろう......

 しかし、あのキスの感触は忘れることができなかった。さっきの公園に戻りたい衝動に駆られそうになった。

 だが、その衝動を振り切った。俺はまだ生きていたい。また、彼女を作りたい。まだ、生きる喜びを感じていたい。だからこそ、俺はまだ死ぬ訳には行かない。そう心の中で唱えていると公園の戻りたい衝動が収まってきた。

 やれやれ、とんだ災難なクリスマスだったな。
 俺は、家族のいる自宅へと帰宅した。

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