とある学園生活は制限付き能力とともに
運と愛を極めし者
さて、ああ言ったはいいがどうすればあいつの予測を上回ることができるか僕には思い浮かばなかった。
「晴樹、何かいい手でもあるの?」
花実が僕の肩をぎゅっと握りしめながら尋ねる。ちょっ、急にどうした?花実がすごくかわいいと思ってしまったんだけど…てか花実さん、当たってる。結構立派なものが当たってるよ…
「まあ、なんとかなる。大丈夫だから花実は安心してて…」
僕は花実の頭をそっと撫でながら言う。僕に頭を撫でられた花実は顔を真っ赤にしながら僕から目線を外す。
「負けたら承知しないからね。ちゃんと私を守ってよ…」
花実が下を向きながらそう言う。あれ、本当にかわいい…どうしちゃったの花実さん……
「ふう、仲がいいみたいだし2人仲良くあの世に行ってくれると助かるんだけどな…」
男はそう言いながら少しずつ僕達に近づいて来る。とりあえず花実だけでも逃がしたいところだが付近にまだナンバーズのメンバーがいる可能性が高いので花実だけを逃がすことはできない…
「やっぱりやるしかないか…」
僕は男を倒す覚悟を決めるがここで残り時間を全て使うわけにもいかない。この男を倒した後、もう1人のナンバーズと戦うことになる可能性もあるからだ。僕の中での理想的な展開はこの男を1分、1つの能力で倒すことだ。
この男は先程からバッグの中から何本ものナイフを取り出している。あと何本ナイフが残っているかわからないのもかなり厄介だ。
「あのさ、あんなこと言っておいてさっきからずっと何もしてこないってどういうことかな?時間稼ぎでもしてるつもり?仲間が助けに来るのを待っているなら悪いけど僕の仲間が君の仲間をすでに殺している頃だと思うから時間稼ぎは無駄だよ」
やっぱり他のナンバーズも来ていたか…杏奈先生や当夜先輩たちが心配だが今はみんなの心配をしていられるほどの余裕が僕にはなかった。
「まあ、君にやる気がないならさっさと死んでくれないかな?」
男はそう言いながら僕目掛けてナイフを投げつける。
「くそっ…」
僕は花実を連れてナイフを躱す。男は僕が逃げた先へ、そして僕がこれから逃げようとした場所にもナイフを投げつける。
逃げ場がなくなった僕は慌てて能力を発動、ネジを作り出してナイフを全て叩き落とす。
「なっ…まさか本当に僕があいつの能力の予測を誤った….のか……いや、だけど今のは……」
僕が突如発動させたヴィオラ先輩の能力を見て男は少し混乱しているみたいだった。今がチャンスと思った僕は能力でネジを大量に作り出して乱射するが男はネジを全て躱した。
「ふう、少し焦ったけど君の放つネジの軌道を読むことなら容易い」
男がそう言った直後、男の頬にネジがかすかに触れる。
「「なっ…」」
男にネジがかすった直後、僕と男は同時に驚きの声をあげる。どうやら男はかすったネジの軌道を読めていなかったみたいだ。何故だ….なんであのネジだけ軌道が読まれなかった……
「晴樹、さっきあいつにかすったネジ、空中であいつが投げたナイフにたまたま当たってた」
「本当か?花実」
「うん。たしかに当たってた」
「やっとあいつに攻撃を当てる方法を思いついた」
「本当?」
「ああ、だけど…あいつに当たるかどうかがわからない」
「どうして?あいつに読まれない方法を思いついたんじゃないの?」
「ああ、思いつきはしたけど運要素が強すぎるんだ……」
「なら大丈夫じゃない…」
花実が自信満々といった表情で僕に言う。
「晴樹がいたら…晴樹さえいてくれれば私の能力はちゃんと晴樹の役に立てるから…だからどうしても運に頼るしかできないときは私を頼りなさい。必ず力になってあげるから…私はずっと晴樹を好きでいるから…だからいつでも頼りなさいよ…」
最後の方は僕に聞こえないようにと声を小さくしながら花実が言う。
「わかった。ありがとな花実…じゃあ、運要素は花実に頼らせてもらうよ」
必ず力になってあげるから…までしか聞こえていなかった僕は普通に返事をした。
「ええ、大船に乗った気でいなさい」
「じゃあさっそくやったりますか」
僕はそう言いながらネジを大量に乱射する。そしてネジが男のもとに到達する直前にもう1つ能力を使った。以前、杏奈先生に見せてもらった使えそうな能力一覧表にあった能力…突風を発動させる能力、男のもとに到達する前に勢いを失ったネジは突如発生した突風により上空に飛ばされる。そしてネジが宙を舞ってから数秒後あらかじめ今先端が向いている方に向かって回転による勢いをつけて発射するように設定してあったネジが次々とあちこちへ飛んでいく。
男の予測能力では運の要素が入ることは予測できない。だから風で吹き飛ばされた時に先端が向いていた方に発射するように運の要素を組み込んだ攻撃を仕掛けた。
「当たってくれ…頼む…」
「大丈夫だから私を信じなさい」
花実がそう言った瞬間、ネジが次々と男に当たる。一応先端は丸めておいたので気絶して骨が数本折れるくらいで済むだろう。何本かネジが当たった直後、男は気を失った。気を失った男に容赦なく次々とネジが降り注ぐ。
「ちょっ、花実…やり過ぎ……」
「やり過ぎって…まあ、失敗するよりは良かったでしょ…」
「まあね…」
僕と花実は引きつった笑みを浮かべながら男に次々とネジが当たるのを眺めていた。それにしても数本はこっちに飛んでくると思っていたが全く飛んでこないな…花実の能力ってやっぱすごいな……
ネジが全て地面に落ちて消えた直後、僕は気絶している男からナイフなどの武器を全て奪い男が持っていた縄で男を近くの岩に縛りつけた。
「これでもう大丈夫ね。さっ、はやくみんなと合流しましょ」
花実がそう言いながらアビリティア目掛けて歩き出す。今日、僕が能力を使える時間はあと1分だけ…これだけで花実を守ってあげないと…と思いながら僕は花実の後を追いかけた。
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