とある学園生活は制限付き能力とともに
真相
「楓…ちゃん?楓ちゃん!やめて、こんなこともうやめて」
志穂先輩が目の前で我を失い暴れている楓先輩に言う。
「志…穂…志穂…」
楓先輩が志穂先輩の言葉に少し反応する。
「楓ちゃん!聞こえてる?早くやめて!」
志穂先輩が何度も楓先輩に呼びかける。
「うる…さい…黙って!」
楓先輩が志穂先輩に向けて容赦なく鉄柱を振り落とす。
「きゃっ」
志穂先輩に鉄柱が当たりそうになる。
「なんとか間に合った…緑先輩、すみません。能力真似させてもらいました」
「気にしないで、むしろよくやった」
緑先輩がハンドサインでgoodと褒めてくれる。
「志穂先輩、大丈夫ですか?」
「うん。助けてくれてありがとう」
志穂先輩が僕に礼を言う。
「志穂先輩、晴樹君、杏奈先生からの指示で楓先輩を拘束します」
「そんな…」
志穂先輩が杏奈先生の指示を聞き悲しみを露わにする。
「ただ、1つだけ杏奈先生から志穂先輩に伝言があります。志穂先輩に今から5分だけ時間をあげる。とのことです」
「わかった。晴樹君、私を楓ちゃんの近くまで連れてってくれる?」
「わかりました」
僕は志穂先輩の手を掴みテレポートを発動させる。僕達が楓先輩の前に移動すると僕が最初にテレポートを発動してから1分が経った。つまり今日は最大であと6分しか能力が使えない。
志穂先輩が楓先輩に近づくのを見届けながら僕は少し距離を取る。ちょうどその頃楓先輩の近くにダイナと緑先輩が楓先輩に見つからないように移動していた。ダイナはすでにビームを放つことができるように準備をしていた。緑先輩もダイナの肩に触れていつでもテレポートが発動できるように準備しているようだった。
「楓ちゃん…私のこと分かる?」
「志…穂…?」
楓先輩が小さく呟く。
「そうだよ。志穂だよ。楓ちゃんの一番の友達、親友の志穂だよ。楓ちゃん、お願いだからこんなこと今すぐやめて、一緒に帰ろうよ…」
志穂先輩が泣きそうになりながら楓先輩に言う。
「志…穂…志穂…志穂…志穂…」
楓先輩が頭を抱えながら呟き続ける。まるで何かの呪いにかかっているかのように…そして1歩、また1歩と志穂先輩近づいて行く。
「騙されちゃダメよ、楓」
突如現れた声の主が楓先輩の手を引き、志穂先輩の元へ向かおうとしていた楓先輩を引き止める。
「弥生先生!?」
楓先輩の手を掴んでいる女性を見て志穂先輩が驚きの声を上げる。彼女は僕達も見たことがある。志穂先輩と楓先輩のクラスの担任の先生である弥生先生、いつも明るく生徒たちとの仲も良さそうな先生だった。
「弥生先生、楓ちゃんの手を離してください」
志穂先輩が弥生先生に言う。
「嫌よ、楓は私のものだから…」
弥生先生が楓先輩の頭を撫でながら言う。
「ふざけないでください!」
志穂先輩が珍しく怒鳴り声を上げる。
「もう、そんなに怒らないでよ〜せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
「楓ちゃん、早くこっちに来て!楓ちゃん!」
志穂先輩が楓先輩に呼びかける。
「緑先輩、どうしますか?テレポートで楓先輩を連れ出しますか?」
僕は電話で緑先輩と相談する。
「まだ待って、もう少し様子を見ましょう。ただし、いつでも動けるように準備はしといて」
「わかりました」
僕はそう言いながら通話を切る。
「楓ちゃん!」
志穂先輩の呼びかけに応じるかのように楓先輩は歩き出そうとする。
「行っちゃダメよ、楓」
弥生先生が無理矢理楓先輩の手を引っ張る。
「でも…志穂が…」
楓先輩が志穂先輩の方を見ながら呟く。
「さっきも言ったでしょ、楓、あなたは志穂に捨てられたの、今、志穂があなたを呼んでいるのはそれが仕事だから。あなたが今、志穂の元に行ってもあなたをガーディアンズに引き渡してはいさよならってなるのがオチよ…」
弥生先生が楓先輩に言う。
「そんなことするわけないじゃないですか!」
志穂先輩が怒りながら弥生先生に言う。ぶっちゃけ僕や緑先輩、ダイナも弥生先生の言葉を聞いて腹が立っていた。僕とダイナは志穂先輩とは短い付き合いだが志穂先輩がそんなことをする人間ではないということがわかっているし、志穂先輩が楓先輩のことをどれほど大切に思っているのかももうわかっている。
「あら、ならなんであの時真っ先に楓を探しに来なかったのかしら?」
「それはあなたが!」
「まあ、そんなことどうでもいいわ。私は楓が必要なの、あなたとは違って絶対に楓を手放したりしない。このままここで話していてもしょうがないし、今日は帰らせてもらうわ。楓、一緒に行きましょう」
「はい…」
楓先輩が弥生先生の手を取る。
「駄目!楓ちゃん!行かないで!」
志穂先輩が泣きながら楓先輩を呼び止めるが楓先輩には届かない。
「じゃあね〜」
弥生先生が志穂先輩目掛けてそう言うと弥生先生と楓先輩はその場から消えた。
「楓ちゃん!楓ちゃん!」
志穂先輩の叫びだけがその場に残った。
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