異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
閑話 聖女サキ
「ここ、は――?」
私は、自分が倒れていた場所を確認する。固い石畳の上。冷たい感触が身体を蝕んでくるようで気持ち悪くなり、さっさと立ち上がる。
「ここが、異世界――?」
立ち上がり、周囲の景色を見回すと、まるでファンタジーだった。第一印象は、ギリシャの神殿。形は円形だけれども。
「おお、あなたが神託のあった聖女様ですな!」
不意に声をかけられ、私の他に誰かが数人いるのを確認した。みな奇妙な修道服のような、全身をすっぽり覆う服を着ていた。
聖女……そう言われ、自分がどのようにしてこの世界へとやってきたのかを思い出す。あれは夢じゃなかったのだと、ちょっとした不安と、大きくなる希望が私の胸を満たす。
何しろ、お兄ちゃんに会えるのだから!
「お兄ちゃんはどこ!?」
開口一番、最重要事項をたずねると、修道服っぽい人たちは動きが固まり困ったように返答してきた。
「お兄ちゃん……と言われましても、私達は創造神様の神託を受けて、聖女がここに降臨されると言われお迎えしようとしただけでして……もしや、異世界に身内を残されてこられたのですかな」
痛ましそうに、一番身分が高そうな人が覗うような視線で一歩前へとやってきた。
「ああ、申し遅れました。私は神官長のデクスタと申します」
優雅に礼をする彼に、私は少々無礼だったかなと考えを改めて、名乗り返す。
「ごめんなさい、いきなり変なことを聞いてしまって。私はサキ・カガリです」
名乗った瞬間、神官さん達から小さなどよめきが生まれた。
「な、何?」
「い、いえ……もしかして、サキ殿がお探しなのは、マサヤ殿ではありますまいか?」
「やっぱりお兄ちゃんを知っているの?!」
「ええ、彼も丁度あなたが立っている所から召喚されたのです」
「ここから……」
私は無意識に足元を見る。そこにはよく磨かれ、私の顔が映る石畳が広がっているが、一瞬その顔がお兄ちゃんの顔にダブって見えた。お兄ちゃんは、間違いなくこの世界にいるのだ。
「そう。それじゃあ私は何をすればお兄ちゃんに会えますか?」
「マサヤ殿は今、我が国の勇者リア様と共に隣国ルイア王国へと聖剣を借り受けに行っております。恐らく一月はかかるのではないかと……」
私はこの世界の事を何も知らない。ただ、現代日本程平和であるとは考えないほうがいいだろう。
「追いかけるよりは、待っている方が懸命でしょうか」
デクスタさんは大きくうなずいた。
「この世界にはモンスターと呼ばれる凶悪なケダモノが闊歩しております。また、女の一人旅ともなりますといつ良からぬ輩が寄ってくるとも限りません。今は堪えて頂きたく」
私はすぐにお兄ちゃんに会えないことに失望した。この世界にくれば、二ヶ月分の思いを込めた愛の拳をすぐに叩き込めると信じていたのに。
「王からは賓客としてもてなし、聖女様にはこの世界の事を学んでいただくよう仰せつかっています。我々と共に来て頂けますかな」
「お願いします、デクスタさん。今の私には、他に頼るものが何もない状態ですから」
まさか私が拒否するとは思わなかっただろうけど、それでもデクスタさんは安心したように大きく息を吐いた。
「それでは、まずは王に謁見されるとよろしいでしょう。準備は整っております」
「えっ!? わ、私この格好で……ですか?」
今の今まですっかり忘れていた事だけど、私は寝間着のままこの世界へとやってきている。お兄ちゃんが選んでくれたお気に入りのパジャマだが、流石に見知らぬ大勢の男性に見られているの恥ずかしい。
ましてや、王様に会うには相応しいとは言えない格好だと思う。
「ご心配されずとも、我が国の服飾職人は優秀です。すぐにあなたにピッタリの服をご用意いたします。こちらへ」
デクスタさんも平服のまま王様に合わせる気はなかったようで、私の為に服を用意してくれるらしい。
「お世話になります」
短くお礼を言うと、彼は笑みを浮かべて軽くうなずいてから先導してくれた。私は、大勢の神官に囲まれながら(中には女官もいるようだ)始まりの場所を後にした。
神殿を出ると、荘厳で巨大なお城が目の前に現れた。私はその威容に驚いて思わず足を止めてしまう。
「ははは、やはり驚かれますか。異世界の方に我が国一の城を自慢出来るのは楽しいですな」
デクスタさんは生真面目な人かと思ったら、割とお茶目な事も言うようだ。私は先程まで感じていた多少の緊張もほぐれ、くすりと笑みを浮かべた。
長々と歩き、連れてこられたのお城の部屋の一室だった。中には女官さんと、ちょっと雰囲気が違う女性陣が待ち構えていた。
「さあさあ、殿方は皆お引取りを」
「あっ!? ちょっと、デクスタさん!?」
「なに、彼女達にお任せください。それでは私はこれで」
言うが早いかさっさと神官の皆はその場を後にし、私はぐいぐいと押されるようにして部屋の中央、姿見の鏡の前まで連れてこられた。
「あ、あの……」
「聖女様は何も心配いりませんよ、私達に万事お任せ下さい」
その後、素早く採寸などを済まされ、待たされる事少々。パジャマを脱がされ、私は否応なく衣装を着替えさせられた。今は髪の手入れ等をしてもらっている最中だ。
「これが……私?」
鏡の中には、まさに聖女と行った様相の白地に金の刺繍が上品にあしらわれた女官さんの服をグレードアップしたような姿になった私がいた。
お兄ちゃん、私本当に聖女になっちゃったよ。
私は、自分が倒れていた場所を確認する。固い石畳の上。冷たい感触が身体を蝕んでくるようで気持ち悪くなり、さっさと立ち上がる。
「ここが、異世界――?」
立ち上がり、周囲の景色を見回すと、まるでファンタジーだった。第一印象は、ギリシャの神殿。形は円形だけれども。
「おお、あなたが神託のあった聖女様ですな!」
不意に声をかけられ、私の他に誰かが数人いるのを確認した。みな奇妙な修道服のような、全身をすっぽり覆う服を着ていた。
聖女……そう言われ、自分がどのようにしてこの世界へとやってきたのかを思い出す。あれは夢じゃなかったのだと、ちょっとした不安と、大きくなる希望が私の胸を満たす。
何しろ、お兄ちゃんに会えるのだから!
「お兄ちゃんはどこ!?」
開口一番、最重要事項をたずねると、修道服っぽい人たちは動きが固まり困ったように返答してきた。
「お兄ちゃん……と言われましても、私達は創造神様の神託を受けて、聖女がここに降臨されると言われお迎えしようとしただけでして……もしや、異世界に身内を残されてこられたのですかな」
痛ましそうに、一番身分が高そうな人が覗うような視線で一歩前へとやってきた。
「ああ、申し遅れました。私は神官長のデクスタと申します」
優雅に礼をする彼に、私は少々無礼だったかなと考えを改めて、名乗り返す。
「ごめんなさい、いきなり変なことを聞いてしまって。私はサキ・カガリです」
名乗った瞬間、神官さん達から小さなどよめきが生まれた。
「な、何?」
「い、いえ……もしかして、サキ殿がお探しなのは、マサヤ殿ではありますまいか?」
「やっぱりお兄ちゃんを知っているの?!」
「ええ、彼も丁度あなたが立っている所から召喚されたのです」
「ここから……」
私は無意識に足元を見る。そこにはよく磨かれ、私の顔が映る石畳が広がっているが、一瞬その顔がお兄ちゃんの顔にダブって見えた。お兄ちゃんは、間違いなくこの世界にいるのだ。
「そう。それじゃあ私は何をすればお兄ちゃんに会えますか?」
「マサヤ殿は今、我が国の勇者リア様と共に隣国ルイア王国へと聖剣を借り受けに行っております。恐らく一月はかかるのではないかと……」
私はこの世界の事を何も知らない。ただ、現代日本程平和であるとは考えないほうがいいだろう。
「追いかけるよりは、待っている方が懸命でしょうか」
デクスタさんは大きくうなずいた。
「この世界にはモンスターと呼ばれる凶悪なケダモノが闊歩しております。また、女の一人旅ともなりますといつ良からぬ輩が寄ってくるとも限りません。今は堪えて頂きたく」
私はすぐにお兄ちゃんに会えないことに失望した。この世界にくれば、二ヶ月分の思いを込めた愛の拳をすぐに叩き込めると信じていたのに。
「王からは賓客としてもてなし、聖女様にはこの世界の事を学んでいただくよう仰せつかっています。我々と共に来て頂けますかな」
「お願いします、デクスタさん。今の私には、他に頼るものが何もない状態ですから」
まさか私が拒否するとは思わなかっただろうけど、それでもデクスタさんは安心したように大きく息を吐いた。
「それでは、まずは王に謁見されるとよろしいでしょう。準備は整っております」
「えっ!? わ、私この格好で……ですか?」
今の今まですっかり忘れていた事だけど、私は寝間着のままこの世界へとやってきている。お兄ちゃんが選んでくれたお気に入りのパジャマだが、流石に見知らぬ大勢の男性に見られているの恥ずかしい。
ましてや、王様に会うには相応しいとは言えない格好だと思う。
「ご心配されずとも、我が国の服飾職人は優秀です。すぐにあなたにピッタリの服をご用意いたします。こちらへ」
デクスタさんも平服のまま王様に合わせる気はなかったようで、私の為に服を用意してくれるらしい。
「お世話になります」
短くお礼を言うと、彼は笑みを浮かべて軽くうなずいてから先導してくれた。私は、大勢の神官に囲まれながら(中には女官もいるようだ)始まりの場所を後にした。
神殿を出ると、荘厳で巨大なお城が目の前に現れた。私はその威容に驚いて思わず足を止めてしまう。
「ははは、やはり驚かれますか。異世界の方に我が国一の城を自慢出来るのは楽しいですな」
デクスタさんは生真面目な人かと思ったら、割とお茶目な事も言うようだ。私は先程まで感じていた多少の緊張もほぐれ、くすりと笑みを浮かべた。
長々と歩き、連れてこられたのお城の部屋の一室だった。中には女官さんと、ちょっと雰囲気が違う女性陣が待ち構えていた。
「さあさあ、殿方は皆お引取りを」
「あっ!? ちょっと、デクスタさん!?」
「なに、彼女達にお任せください。それでは私はこれで」
言うが早いかさっさと神官の皆はその場を後にし、私はぐいぐいと押されるようにして部屋の中央、姿見の鏡の前まで連れてこられた。
「あ、あの……」
「聖女様は何も心配いりませんよ、私達に万事お任せ下さい」
その後、素早く採寸などを済まされ、待たされる事少々。パジャマを脱がされ、私は否応なく衣装を着替えさせられた。今は髪の手入れ等をしてもらっている最中だ。
「これが……私?」
鏡の中には、まさに聖女と行った様相の白地に金の刺繍が上品にあしらわれた女官さんの服をグレードアップしたような姿になった私がいた。
お兄ちゃん、私本当に聖女になっちゃったよ。
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