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異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

我慢の子、トラムス

 開けて翌日。皆簡単な朝食を取り、野営地をてきぱきと撤収させ、またティエル女王の馬車にしばらく揺られて移動していると、コンコンと窓を叩く音が聞こえる。

「あら? 何かしら」

 開閉式の窓を開けると、騎士の一人が騎乗したまま馬車に寄せていた。

「ご歓談中の所失礼致します。その、後方の荷馬車が“積荷”の件で話があるそうで、勇者マサヤ殿を呼んでいるのですが……」

 騎士の言葉に、僕とリアはさっと顔を青ざめさせた。しまった! トラムスの事をすっかり忘れていた! 一応食料は積んであるとはいえ、彼は三食アレを食べている事になる。更に、トイレの問題も……。

「ティエル女王、僕は少し荷馬車の方へ移動して、“積荷”の確認が必要になりました。申し訳ありませんが馬車を止めて頂けませんか?」

「それは構いませんけど、その後はどうなさるのですか?」

「フィジーと一緒に後を追おうと思いますので、ティエル女王はお先に出立なさってください」

 しばらく、ティエル女王は何事か考えていたが、ぽんと手のひらを打つとなるほどと、何かを納得したように頷いた。

「わかりました、ではリアさんとモモちゃんは私が先にご案内しますね」

 やけに物分りが良いな、と思ったが、考えてみれば彼女は女王だ。“積荷”の事に関しても知っている可能性が高い。

「マサヤ、行っちゃうのです!?」

 ひっつきむしなモモが、ガバリと両手両足を使ってくっついてきたので、軽くなでながらリアにも手伝ってもらい何とか離れてもらう。しかし服の裾だけは頑として離さない。

「ちょっとの間だけだよ。だからリアと仲良く、お行儀よくしてるんだよ」

 モモに言い含めると、彼女はどこか納得しかねるように俯いていた。だがちょっと間を開けてから弱々しく、わかったのです、と握りしめていた服の裾を離してくれた。

「リア、モモのことよろしくね」

「もちろんよ! 私がいれば何の心配もないわ!」

 無駄に力強く宣言するリアが逆に不安を呼び込む。しかし、構っている時間が惜しかったため、僕は後の事をまかせて、馬車を止めてもらうとフィジーとともに後ろをついてきていたドレンさんの荷馬車へと駆け寄った。

「ドレンさん!」

「ああ、ようやく来てくれたね。実は――」

 ドレンさんの馬車には護衛がついていないが、彼女はそれでも周囲の目を気にして顔を寄せて囁く。

(荷箱の中からしくしくとさめざめしく泣く声が止まらないんだよ。早く何とかしておくれ)

(……解りました。僕は中に乗り込んでちょっとトラムスを落ち着かせてきます)

 僕は女王達の乗る馬車に行っていいと大きく手を振って合図をすると、間もなくガラガラと音を立てて女王一行は先へと進んでいった。大分その影が小さくなった所で、急いで荷馬車の中に駆け込むと鍵を開く。

「大丈夫か、トラムス!」

「うぐっ……ひっく……だいじょうぶじゃ、ないわこのばがものがぁ……」

 大泣きしながらも憎まれ口を叩くトラムス。扉を開けた瞬間、排泄物の強烈な匂いが周囲に漂っていく。僕はまず泣いているトラムスに、クリーンの魔法をかけて身ぎれいにしてあげた。そして鼻をつまみながら片手で例のツボを持ち上げ、急ぎ馬車を降りると近くの茂みへと中身を慎重に流す。ぶちまけて万が一こっちに飛び散ったら最悪だ。

「これにもクリーンって効くのかな……」

 試しにツボにクリーンの魔法をかけてみると、あっという間に悪臭がなくなりつるつるの綺麗なつぼになった。

「よしよし。後はしばらく馬車の換気だな……」

 いくらこの世界が地球の中世に似ているからと言って、意外にトイレ事情は悪くなかった。魔道具の水洗式トイレがあるくらいである。

「おーい、トラムス。しばらくは誰も来そうにないから外へ出てきなよ」

 馬車に向かって呼びかけると、鼻と目を赤くしたトラムスがのそのそと這い出てきて、馬車から程よく距離を取るとその場に寝転んだ。

「……もし、マサヤ達がいなかったら僕、五日間もこんな状態だったんだな……」

 最悪の衛生環境の中で、トラムスは子供なりに余程我慢したと思う。暴れ出さなかったのが不思議なくらいだ。でも、それをすれば自分ばかりか僕らにまで迷惑がかかると思ったからこそ思いとどまったのだろう。何だかんだ言って賢い子だ、それぐらいのきづかいは出来ると信じていた。

「まあ、ドレンさんだけなら酷い状態だったろうな……食欲、あるか?」

 トラムスは面倒そうに首だけを持ち上げると、大きく息を吸い込んで、吐いた。肺の空気の入れ替えでもしているのだろう。

「うむ。開放されたと思ったら一気にお腹が空いてきた。あの中じゃあ、物をまともに食べる事も難儀していたからな……」

「君は良くがんばったよ」

「ところでお前、僕の事忘れてたろ」

「君は良くがんばったよ」

 トラムスの追求にはしらばっくれて同じ言葉を繰り返すと、バカバカしくなったのか、彼もそれ以上は何も言わずに手を出して食べ物を要求してきた。

「はいはい、何がよろしいですかお坊ちゃま」

「お坊ちゃまはやめろ! 僕はもう12歳なんだぞ!」

「僕からしたらまだ子どもだよ」

「自分だって子どものクセに……」

 大分元気が回復してきたのか、舌がよく回るようになっている。僕はトラムスに食べ物をあげようとして……重大なミスに気がついた。

「どうしたんだ?」

「アイテムボックス、リアしか持って無かった……」

 その事実に、トラムスは絶望的な顔になる。

「な、なんだと!? それじゃあ僕の食べ物は!?」

「おやつにと思って取っておいた揚げパンくらいしかないが……」

「ぐうう……くそっ、それでもいい! くれ!」

「あいよ」

 ぽんと手渡すと、トラムスはあっという間にたいらげてしまった。よほどまともな食事に飢えていたのだろう。

「もう一個あるけど、いる?」

「もちろんだ!」

 二個目の揚げパンは味わうように、ゆっくりともぐもぐ食べるトラムス。悪臭とそれに汚染された食物から開放され、ようやく穏やかな表情を取り戻した彼を促した。

「さ、そろそろ出発しないと怪しまれてしまう。それに今日中にはルイア王国の王都に着けるはずだから、もうしばらくの辛抱だよ」

「ルイア王国の王都というのは、そんなに近いものなのか?」

「みたいだね」

 そこへドレンさんがやってきて、詳しく説明してくれた。

「元々ルイア王国っていうのは、王都がなかったんだ。部族ごとにバラバラに暮らしていたみたいでねえ。何々族の娘誰々、とかいう具合に。でも他の国との国境の問題が持ち上がったときに、それじゃダメだってんで急遽王都を定めて建築したらしいよ。それで隣国でもあるウチらのテレシー国の国境にほど近い場所を選んだってわけさ」

 ははあ、なるほどね。いわば連合国のような形態だったのか。

「ふーん」

「って、トラムス、君はエルフなんだろう? 知らなかったのか?」

「教わってないな。僕はいずれエルフの貴族になる、だからそのためにってエルフのマナーや色々は学んだが、歴史はさっぱり教わらなかった」

 12歳の子にはまだ早いと思って教育してなかったのか? いや、それにしては――。この急な依頼と言い、極秘扱いといい、裏になにかありそうだ。ティエル女王は何か知っていそうだったが……。

 そこまで考え、僕はまたしても大失態を犯した事を思い出したのだ。思わず頭を抱えてうずくまりたくなった。

「ど、どうしたマサヤ、急に小さく丸まって」

「いや……重要な事をまた忘れていて、それで後悔してるだけだから。大丈夫」

 そう。テレシー王国の国王から預かった書状を女王に渡すのをすっかり忘れていたのである。

「全く、なんで僕ってやつぁ……」

 これじゃあリアの事をポンコツだなんて笑っていられない。しっかりしないとな。

「ふむ? まあいいが……あー、外の空気は美味いなあ」

 上半身だけを起こして、吹き抜ける風を気持ちよさそうに浴びているトラムス。やはりエルフだけあって街中よりも自然の中の方が性に合うのだろうか?

「マサヤ! トラムス坊! 馬車が来る!」

 慌てたドレンさんの叫びに、僕は咄嗟にトラムスにフード付きマントを投げつけた。

「ぶふっ!? な、何をする!」

「いいから、黙ってそれ被って大人しくしてるんだ!」

 僕の勢いに推されてか、トラムスはお、おうと短く返事をしてバサッとマントを羽織フードを目深く被る。

 ガラガラ、と音を立ててルイア王国の王都方面からやってきた馬車は、僕達をただの休憩している行商人の類だと思ったのだろう。和やかに挨拶をして去っていった。

「ほっ、良かった、何事もなくて」

「なんだかこのマントすえた匂いがするぞ……」

「お前、それ一応僕の何だからな。もういい、返せっ」

 文句を言うトラムスからマントを剥がして、馬車へと追い立てる。

「ほらほら、もう十分休憩は取っただろう? 今から追っても恐らく追いつく。全速力で行くぞ」

「はぁ、またこの中か……」

 トラムスは諦めの吐息をはいて、馬車の中へと戻っていく。僕もその後を追い、彼が内側から扉を閉めてから鍵をかけた。

 よし、今からティエル女王に追いつくぞ!

「ドレンさんも、よろしくお願いしますね!」

「あいよ、任せておきな!」

「フィジー、頼んだぞ」

(全力ですかぁ? 疲れるんですよね……)

「後でご褒美やるから」

(アポイの実がいいです)

 さりげなくこいつグルメだな……。まあいい、とにかく僕達は女王に追いつくために、全速力で追い掛けた。

「異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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