異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

持て余す感情?

 リアとの触れ合いで大分打ち解けたのか、トラムスは僕らの質問にいくつか答えてくれた。のだが――。

「するってーと何かい、トラムスぼうは何も知らないってのかい?」

 驚きの声を上げ、ドレンさんはトラムスにもう一度聞き返している。

「坊とはなんだ! 僕は高貴な――」

「はいはい、それはもう解ったから。それにその体勢で何言ってもカッコつかないからね」

「ぬぐぐぐ」

 悔しそうに呻いているトラムスは、現在リアの膝の上である。丁度抱っこされている状態で、リアは子どもの扱いに慣れているのかニコニコしながらトラムスを抱えていた。

「ねえ、トラムス。あなたは赤子の頃にこの最北の街に預けられて、それからずっとお屋敷で育てられた……それで間違いないのよね?」

「そうです、勇者リア!」

 リアには素直なんだよなあ、この子。まあその方が話を進めやすいのだが、なんかこう、胸のあたりがモヤモヤするような……何でだろう。

「そして今日の朝に何も知らされないままに眠らされて、馬車に詰め込まれてた、と……」

 リアが馬車の方を振り向いたので、僕も開け放たれた扉の中をみやる。扉の中には、木箱がいくつかと、ツボが置いてあるのが見える。ツボの用途は……推して知るべしだろう。

「しかし、これで契約違反になっちまったねえ。まさか人間とは思わなかったから、思わず開けちまったけど」

 ドレンさんが深い溜息をついてぼやいた。そう言えば、中身は絶対に開けるなっていう契約だったなあ。

「トラムスにずっと馬車の中にいましたって言ってもらえばいいんじゃないすか?」

「……そうだねえ、トラムス坊、お願い出来るかい?」

 トラムスはちょっとだけ悩んだ素振りを見せたが、条件を出してくる。

「直前まで外に出してくれるっていうなら、言うこと聞いてやってもいいぞ!」

「よっしゃ! それじゃよろしくな、トラムス坊」

「だから坊っていうな! こら、頭撫でるな!」

 くしゃくしゃとトラムスの頭を撫でるドレンさんは子どもの扱いに慣れているのか、邪険にされつつも笑っていた。

「さて、ちょっと休憩が長くなってしまったね。そろそろ出発しようか」

「はい」

「トラムス、行くのですー!」

 意外にも、モモが積極的にトラムスの手を取る。

「こ、こら引っ張るな! あ、勇者リア! 俺は勇者リアの隣に座るんだから!」

 リアは苦笑いしつつも満更でもないようで、手をふりふりしながらもトラムスの願いを叶えてやって、隣に座っていた。

「うーむ……? 何だろう?」

 何か釈然としないものを感じながらも、フィジーに跨る。ぽんぽんとフィジーの首筋を撫でると、フィジーがこっちを向く。

(蹴りますか? あの子ども)

「何で!? ダメだよ、フィジーいきなり何言い出してるの!?」

(おや? 昔のご主人に馬に蹴られて地獄に落ちるというものがあるって聞いたことあったんですけど)

「そのことわざこの世界にもあるのか……それはともかく、蹴る必要はないし、この場合は間違ってるから!」

 それは恋仲の話であって、僕とリアはそういう関係ではない。

(人間は面倒くさいものですね。それともマサヤ様だけなんでしょうかね?)

「何が?」

(いえ、何でもありません)

 ふいっと前を向いて、フィジーはゆったりと歩き出す。

「じゃあ、いざルイア王国を目指して行くよ!」

 ドレンさんも自分の馬車を操って、僕達は再出発した。しばらくは無言のまま進んでいたが、やはり暇なのかドレンさんが話しかけてくる。

「しかし、アンタ達は結構落ち着いていたみたいだけど、荷物の中身知っていたのかい?」

 ちょっと恨めしそうな目線で睨まれて、僕は少しだけぼかして答えた。

「ええ、実は荷物の話を聞いた後に、最北の街にエルフの男がいるっていう噂をたまたま耳にしまして。これは相当怪しいな、とは思ってました」

「そうかい、定期行路だけを行ってる乗合馬車の御者程度じゃ、やっぱり冒険者の情報網には敵いはしないのかねえ」

 ごめんなさい、ホントはドラゴンなんてチートのおかげなんですとは言えず、曖昧に笑って誤魔化す。

「ところで、あんたらは良い仲なんじゃないのかい? さっきもちょっと嫉妬してたろ、マサヤ」

「え? 何のことですか?」

 全く意味がわからないので、きょとんとしていると、ドレンさんは大口をあけて固まってしまった。女性がそういう仕草ははしたないと思います。

「まさか……本当に解ってないのかい?」

「ええ、何の事だかさっぱり……」

 こりゃ重症だねえ、とドレンさんは憐れむような口調でチラと荷台の方に目をやる。

「しかし、本当に勇者リアは人気があるんだねえ。まさかエルフまでが憧れてるとは思わなかったよ」

「エルフって人間と余り仲が良くないとは聞きましたけど……」

「ああ、排他的でねぇ。特に男に対してはかなり冷たい対応をするから、容姿はいいけど高嶺の花って感じだね」

 なるほど。女性主体の種族らしい感じだな。

「だから、馬車にあの子を詰める時もエルフには絶対に知られないようにしてたんだろうねえ」

「そうですねー、エルフに知られたら大騒ぎですよね」

 あっはっは、等と笑い合っていると、ビュッという風切り音と共に何かが向かってきたのを、視認する前に自動的に剣で迎撃していた。

「て、敵襲だ!!」

 地面に落ちた切られた矢を見ながら、僕はまたしても向こうからやってきた面倒事に心の中で不安を抱きながらも、リアたちと共に応戦準備に入った。

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