異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

流石に二度目は軽いもんです。

「そう言えば、エルフ圧倒的に男性が少ないって聞いたね」

『さよう。エルフ達は他種族との交配でしか子が出来ぬ上に、女の比率が圧倒的だ。そこへぽっと出の男のエルフが現れたら権力争いは必至だろうの』

 さて、本格的に胡散臭いを通り越して犯罪の影が見えてきたぞ。何故エルフの希少な男が外にいるのか? 何故それを今更ルイア王国へと返すような真似をするのか。探る必要がありそうだ。

「うーん、とは言ってもギルドが強硬に依頼をドレンさんに押し付けたってことは、ギルドが怪しいんだけど……ちょっと換金がてら、様子見してこようか?」

「……そうね、ここで考えてても仕方ないでしょうし!」

 本当に何か考えてるのか? と疑いの目でリアを見るとそっと目線をそらした。いつものことです。

『そろそろモモが限界だ、ではまた会えると良いな。勇者達よ……それと、モモを大事にしてくれてありがとう』

「あっ、ちょっと!」

 言いたいことが山ほどあったのに、ドラゴンは一方的に会話を打ち切ると、モモがうっすらと目を開けた。

「マサヤ……? モモは? あれ? あ、そっかぁ、マサヤはおとーさんとお話してたのです?」

「解るのかい、モモ?」

「なのです! なんとなく、マサヤとおとーさんが話してたことが解るのです。モモも着いていくのです!」

 流石に宿屋に一人置いてけぼりは退屈だろうけど、荒事も多いギルドに連れていって大丈夫かな? 僕が悩ましく思っていると、リアが明るい声で笑った。

「だーいじょうぶ、モモの一人くらい私達で守れるでしょ? それに、その子には最強のスキルがあるじゃない!」

 そうだった。彼女には“威圧”“ドラゴンブレス”という凶悪なスキルが備わっているのだ、迂闊な事を仕出かさない限り大丈夫だろう。

「それじゃあ、さっさとギルドに行こうか」

「はーい」

「はいですー!」


 大通りを抜け、ギルドへ向かう道中の事。僕は思い出したことをさらっと口にする。

「あ、そうそう。僕の妹が来るから、そのうち合流すると思うよ」

「へー、そうなのね」

「マサヤの妹? 楽しみなのですー!」

 しばらく、無言で三人並んで歩いていたらピタッとリアの動きが止まった。

「って、ちょっと待って!? 今かなり重要な事言わなかった!?」

「今気づいたのか……僕は悲しいよ、リア」

「わ、私の事はどうでもいいのよ! それよりマサヤのブラコン妹が来るって、どういう事!?」

「少々引っかかる物言いだけど、まあいいや。歩きながら説明するよ


 その後、ギルドに向かいながら女神様にまた呼び出された事、そこでのやりとり等を簡潔に話した。

「はー、マサヤの妹は大概おかしいって思ってたけど予想以上ね」

「おい、咲の悪口は止めろ?」

「ちょ、こ、怖いわよマサヤ」

「あ、ごめんごめん。咲の事になるとついね」

(こりゃマサヤの方も相当シスコンね、何というか似たもの同士というか……)

「何か言った?」

「いーえ? 何も言ってないわよ?」

 咲の事を言っていたような直感がしたのだが、気のせいだったようだ。

「あ、そうだ。リアには言っておかないといけないことがあったよ」

「何かしら?」

「僕が聞いたんだ。“加護って何なんですか”って」

 リアはハッとして顔をあげる。

「それで……?」

「創造の女神様は“私はあなた方子どもたちを決して裏切らない”。それが答えだそうだよ」

「そう……」

 リアには思う所があるのだろう、ほっとしたような、我慢しているような、複雑な顔で一つ頷いただけだった。

 そうこうしているウチに最北の街のギルドに到着した。規模は王都のギルドに匹敵する程大きく、流石は国境の街であり、強力なモンスターが現れるというだけの事はある。冒険者の層も厚い事だろう。

「さて、それじゃ換金しますか」

「そうね」

「なのです」

 三人で中に入ると、カウンターにはそれなりの人数が並んでいた。もう夕刻だものな、冒険者たちは自分が狩ったモンスターの換金に来ているのだろう。まだピーク前と言った状態だったのが救いだろうか。

「じゃあ、僕並んでるから、二人は隣の食堂で待っててよ」

「……遠慮しておくわ。鬱陶うっとうしいのが絡んで来そうだし」

 僕の配慮に、ちょっと申し訳なさそうにしながらもリアはきっぱりと断った。そういや、王都のギルドでも変な奴がいたなあ。等と述懐していると、まるであの時の状況の再現のように大柄な男が近づいてくる。

「よお、坊主! お前どうせ底辺ランクだろ? それがそんないい女連れて――っ!」

 前のギルドで学んだことを活かし、僕は大柄な男が何か喋っているのを無視して、一瞬で間合いに入るとスクリューアッパーを思いっきり叩き込んだ。

「あ――がっ」

 ドタン! と大柄な男は白目を向いて後ろに倒れ込み、僕は手をパンパンと払って何事もなかったかのように列に並び直す。心なしか、周囲の視線が恐怖に染まっているような気がするが気にしない。

「リア、良く我慢してくれたね、偉い偉い」

「えっ!? え、ええ。えへへ、もっと褒めていいわよ!」

 僕はリアがまたこいつの腕なり足なりを消し飛ばすんじゃないかと先手を打ったわけだが、こいつには感謝して欲しいくらいだ。

「おい。見たか今の技……」

「ああ、見たこともない格闘技術だったな……」

「それにあのワルイードが一発でのされたぞ……」

 僕は大男の名前に思わず吹いた。ワルイードって……そのまんまやないか!

 ひそひそと噂されながらも、僕の順番が回ってきた。心なしか受付嬢の顔がヒクついている。

「よ、ようこそギルドへ! 本日はどういったご用件でしょうか?」

「ウォーウルフの魔石を換金したいんですけど」

 用件を伝えると、受付嬢のお姉さんは目を丸くする。

「えっ!? アナタがウォーウルフを!?」

「はい、僕と後ろの子たちで」

「み、見かけによらずお強いんですね。さっきもワルイードさんを一発で倒しちゃいましたし……」

「このギルドはあんな人が多いんですか?」

 僕の問いかけに受付嬢は慌てて首を振った。

「い、いえ! あんな事をしでかすのはごく一部だけです。皆さんとっても気のいい人ばかりなので、どうか悪印象を持たないで頂けると助かります」

「そうですか、それを聞いて安心しました。では早速ですが」

 僕はリアから預かった分と自分の分、計六個の魔石を取り出した。何気にリアの方が倒している数が多いのは、やはりまだまだ未熟なのだろうなあ。受付のお姉さんが何か魔道具っぽい虫眼鏡のようなもので魔石を鑑定している。

「確かに、ウォーウルフの魔石ですね……若干キズがついているのがありますが、問題ない範囲です。では、買い取らせて頂きます」

 買取査定も無事終わり、何と銀貨六枚もの値がついた。ウォーウルフは集団で狩りをするかなり厄介な魔物なので、その討伐報奨金も高く設定されているらしい。これからは積極的に狩って行くのもいいかもしれない。モモが無双して丸焦げにしなければいいけれど……。

「ついでに、夕飯でも食べて行こうか。もう絡んでくるバカはいないだろうし」

「そうね、そうしましょうか」

「ご飯なのですー!」

 僕達は隣接されている食堂へ行く。先程の騒ぎを見られていたのだろう、一瞬喧騒が止んだものの、数分もしないウチにまた騒がしくなった。ここではああいうケンカは日常茶飯事のようだ。

「さて、何を注文しようかな」

 丁度空いてるテーブルについて、メニューを広げどんな料理を頼もうかとワクワクしていると、またしても無粋な珍客がやってくる。

「おい、ワルイードをやったのはてめえらか!?」

 二人組の男が僕らのテーブルにやってきた。本当に、この世界のバカは学ばない。しかし今度は僕が動く前に、モモがすくっと立ち上がった。

「モモ! 丸焼きはダメだぞ!!」

「解ってるのですー」

「なんだぁ、このガキは?」

 モモは男の言葉を無視して、一気に息を吸い込むと裂帛の気合と共に吐き出した。

「“グルルルルラアアアアアァァァァ!!”」

「ひいいぃぃっ!?」

 酒場中をビリビリと震わせるようなドラゴンの威圧に、バカ二人は完全に腰を抜かして怯えていた。

「まだやる?」

 リアがとどめの確認をすると、男たちは首を横に振ってはうはうの体で逃げ出した。

「よくやったぞ、モモ」

 寄ってきたモモの頭を撫でる。モモの威圧を受けて、食堂中の人間が“こいつらには手を出してはいけない”という空気に支配されている。気の弱いウェイトレスさんが粗相をしてしまったのは流石に申し訳なかった。

「えへへー、褒められて嬉しいのですー」

「さ、今日は何でも食べていいぞ!」

「わーいなのですー」

 僕達は思い思いの料理を注文し、リアは蜂蜜酒を飲んでいた。僕はお酒を飲んだことがないから断ると、子どものようだからかわれたのは忘れない。いつか仕返ししようと思う。

 その機会は割とすぐにやってきた。っていうか、仕返しも何もあったもんじゃなかった。

「だーかーらぁー、マサヤは私のだって、言ってるでしょお!?」

「はいはい、もうすぐ宿に着くからね」

「やーだー! もっと飲むのらー!!」

「はいはい、宿で一休みしようね」

 そう、リアは酒にメッチャ弱い上に絡み酒だったのだ。今後は絶対飲ませまいと心に固く誓い、僕達は宿に戻る。結局ギルドで有益な情報は得られなかったけど仕方ない。明日のためにも、今日は早目に寝よう。

「マシャヤー、今日は寝かせないのらぁー!」

「みんなで夜更かしなのです?」

「しないから! 明日のためにちゃんと寝るの!」

 全く、こんな体たらくで大丈夫かね本当に。

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