異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
フラグって立つためにあるのかな?
大通りに面した店を回って、ようやく乗合馬車の受付を見つけた。すぐに出発とのことだったので、慌ててフィジーを連れて来て一緒に“最北の街”を目指して出発した。最初は急いでいたこともあって気が付かなかったが、今回の御者は珍しく女の人だった。
「ん? どうしたんだい、お客さん」
ちょっとジロジロと見すぎたらしい、失礼な事をしてしまった。
「いえ、女性の御者は珍しかったものでつい。ごめんなさい」
「ははは、確かにね。女だてらに御者なんてやってると慣れっこさ。お客さんも気にしなくていいよ」
快活に笑う御者さんはまだ年若く、20代前半くらいに見えた。年頃の女の人がするようなイメージを僕は持っていなかったが、この世界では普通にありえるのかな、と思ったがよくよく彼女の言葉を思い返してみると、やっぱりこちらの世界でも珍しいのだろう。
「お姉さんはどうしてまた、こんな危険もある仕事に?」
初対面でちょっと踏み込みすぎたろうか。しかしお姉さんはまた笑って、事情を教えてくれた。
「はは、実は元々私の父さんがやってた仕事なんだけどね。最近身体壊してしまって。しょうがないからあたしが代わりをしてるのさ」
「なるほど、そうなんですね。護衛は任せて下さい、何しろこの国の勇者が二人も乗ってるんですから」
それを聞いたお姉さんは一度目を丸くしてぷっと吹き出すと、笑い出した。
「あはは、それじゃあ頼んだよ勇者様!」
どうやら信じてもらえなかったらしい。とはいえ、護衛代をもらっているわけでもなし、ただの自己満足だから構わない。
「それじゃあ、出発するよ。お客さん、護衛さんも馬車に乗った乗った」
「わーい! 一番ノリなのです!」
「モモ、あんまり騒がないの! ごめんなさい、皆さん」
はしゃいだモモがよじよじと馬車の中に入るのを叱りながら、リアが周りに謝っている。しかし皆暖かい目で許してくれ、モモが乗るのを後押ししてくれたりした。優しい人たちが多いなあ。
「さ、皆乗ったかい? それじゃあ行くよ! 目的地は“最北の街”だ!」
護衛は冒険者ギルドからの依頼でやってきた三人のパーティらしい。見たところ、戦士、魔法使い、斥候の三人組でバランスは良さそうだ。
御者のお姉さんが手綱を打ち、馬車が動き出す。それに合わせてフィジーも自分で考えて歩きはじめ、馬車と併走する。街の門で手続きを済ませ、僕達はいよいよ北を目指して宿場街を出る。
「……暇だなあ」
ぱかぽこと相変わらず軽快なフィジー達の蹄の足音と、ガラガラという馬車の車輪の音以外、たまに鳥が鳴いている程度の平和な道程だった。
「はは、お客さん。ここの街道は滅多に魔物も野盗も出ないんだよ」
「そうなんですか?」
「少なくともあたしは一回も見たことないね」
なるほど、生業にしている人が言うとそのとおりなのだろう。
「これじゃあ俺たちの出番もないかもしれないな」
馬車の中から、戦士らしき冒険者がニヤリと笑いながら仲間たちと話していた。楽な仕事と思って浮かれているのだろう。
だが僕は知っている。これは俗にいうフラグと言うヤツなのだと。御者のお姉さんのお墨付きに、自ら地雷を踏み抜いて行った冒険者。これだけ乱立していれば、平和が続くはずもなく。
(マサヤ様、何者かが近づいて来ています)
「お姉さん! 警戒して、何かこの馬車に近づいて来てる!」
「えっ、何だって!?」
驚いたお姉さんは馬車のスピードを若干落としてしまった。こちらに向かってくるという何者かはそこを好機と見たのか、更に速度を早めてきたとフィジーが言う。
「俺達の出番だな、一体何者なんだ」
「まだわかりません!」
冒険者達が馬車を降り、迎撃体勢を整える。馬車の中では他の乗客が怯えた表情で震えており、何もわかっていないモモだけがぽかんとしていた。リアも冒険者と一緒に降りる。
「お嬢ちゃん、戦えるのかい?」
戦士の揶揄に、リアは構えていた大剣をいつものスピードでザンっと地面に突き立てた。
「どうかしら? あなたの目にはどう写った?」
「……頼りにしてるぜ」
戦士はリアの実力を今の動作で見抜いたようだ。
「フィジー、僕も降りて戦う。馬乗戦は慣れてないんだ」
(お気をつけて)
フィジーは僕を下ろした後、素直に馬車に身体を寄せて大人しくしていた。
「一体何者なんだ……」
ザザザ、と草原の中を物凄い速さで動き回っている者がいる。明らかに人間ではない。冒険者パーティと、僕とリアの間に緊張が走る。
「グルアァァアァッ!」
飛び出してきたモンスターがこの中で明らかに戦い慣れていない人間――つまり僕に向かって二匹、遅いかかってきた。
「うわあっ!?」
剣を振り抜いて一旦追い払うと、距離を取って対峙する。
「ちっ、ウォーウルフじゃねえか! こいつらは集団で狩りをする厄介なモンスターだ、おまけに頭もいい!」
解説ありがとう、冒険者の人。その情報知りたくなかったけどね!
「とにかく、周辺への警戒を怠るな坊主!」
「ハイ!」
緊迫感のある声でアドバイスをもらい、僕はその通りに対峙している二匹以外にも気配を探る。すると、更に追加で二匹が僕を狙っていることが解った。
「これ、ちょっとマズイんじゃないかな……」
冷や汗が頬を伝う。
「マサヤ! そっちは大丈夫!?」
「ちょっと厳しいかも!!」
「待ってて、こっち片付けたらそっち応援に行くから、それまで何とか持ちこたえて!」
ヤバイ、リアでも手こずっているのか。すばしっこいもんな、こいつら。等と悠長に考えている暇はなかった。一気に距離を詰めて、三匹が飛びかかってくる。
「っく!?」
ギインッ! と奴らのウチ二匹の爪を剣で弾き返して、最後の一匹には正面から顔面に蹴りを叩き込んだ。
「キャウンッ」
犬のような悲鳴を上げて一匹が転がって、残り二匹には後ろに回り込まれた。
「マズイ!」
「ガアアァァウッ!」
四匹に挟撃されたら流石に持たない!? 僕は自分の自動迎撃に期待して、回り込まれた二匹に振り向いて先にこちらを片付ける気だった。
「どうしたのです?」
「モモ!? 出てきちゃダメだっ!!」
何と、馬車からモモが顔を覗かせている。それに気付いた二匹のウォーウルフが標的を僕からモモに変えて、飛びかかった!
「モモおおぉぉ!!」
間に合わない! そうは解っていてもじっとしていられるわけがなく、僕はウォーウルフに追いつくように駆け出した瞬間。
「グルルルオオオォォォ!!」
モモが耳をつんざく咆哮を上げて、口から巨大な炎のブレスを吹き出した。
「えええぇぇ!?」
モモに襲いかからんとしていたウォーウルフ二匹は、骨も残さず灰となって風にちらされていった。背後の残り二匹のウォーウルフも、モモの威圧にすっかり萎縮してしまっているようだ。今のうちに叩くしかない! 僕は素早く駆け寄り、まず一匹目の首を跳ね飛ばした。
「ガァゥッ!!」
この時になってようやく動けるようになったもう一匹が背後から突撃してきたが、僕の自動迎撃が上手く機能してその攻撃を防ぐ。一体一なら負ける気はしない。僕とウォーウルフが向かい合ったのは一瞬、お互いに真っ直ぐ突進してその生命を断とうとする。
「ェイッ!!」
気合一閃、大口を開けて噛み付こうとしてきたウォーウルフの身体に刃を入れ、口から上下に真っ二つに切り裂いた。
「はぁ、なんとか、なった」
念の為にリアや冒険者達の方を確認するが、皆危なげなく処理して、今は魔石を回収している最中のようだ。僕も魔石を二個回収して、モモの所へ向かう。
「モモ!」
「なんです? マサヤ」
「危ないことしちゃダメだろ!?」
「ふぇ……」
僕は今、初めてモモに対して怒っていた。正直言ってモモがいなければ僕は死んでいたかもしれない。だとしても、モモが危険な目に合うのは自分が死ぬよりも辛い。
「マサヤ……怒っているのです?」
「ああ、怒っているよ」
「うぅ……マサヤァ……怒らないで欲しいのです……」
ぐすぐすと鼻を鳴らして、モモが僕に抱き付いてきた。
「自分が悪いことをしたっていうのは、解った?」
「わかったのでずー……危ないことはしないのでずー……」
「うん、解った。遅れたけど、モモのおかげで助かったよ、ありがとう」
「……もう怒ってないです?」
赤い目で僕を見上げるモモに、僕は笑顔で答える。
「うん。解ってくれたならいいんだ。大きな声出してごめんな、モモ」
「ううう……マサヤァ……」
まだ泣きやまないモモの背中をぽんぽんと叩いて、落ち着かせる。その間に冒険者パーティがやってきて、僕とモモを取りかこんできた。
「がっはっは、お嬢ちゃん凄えじゃねえか、ウォーウルフを一撃で倒しちまうなんて! お前さんもあんまり怒ってやるなよ?」
「アレは何ていう魔法なんでしょう? とても気になりますね!」
「……この周辺にはもうモンスターはいないようだよ、早く出発しよう」
戦士と魔法使いの言葉には適当にお茶を濁して、斥候さんの言うとおりに御者のお姉さんに出発を告げる。
「いやあ、あんた達がいてくれてよかったよ。下手してたらけが人が出てたかもしれないからね」
快活に笑って、御者のお姉さんが僕達に感謝してくれる。
「いえ、皆さんが無事で良かったです」
「ま、勇者リアがいる限りこんなモンスター敵じゃないわ!」
「えっ、リアって……本物!? 本物の勇者様!?」
胸を張っていたリアの自己紹介に、乗客の皆さんや冒険者パーティ達が食いついた。
「え、ええ。詳しくは馬車の中でね!」
皆興味津々と言った様子で馬車に乗り込み、僕はフィジーへとまたがる。
(めっちゃ怖かったです)
「ごめんごめん、僕がもうちょっと強かったら良かったんだけど」
(いえ、そっちじゃなくて、モモ様が……)
「ああ……」
ドラゴンの威圧に相当びびったらしい、フィジーはちょっとおもらししてしまっていた。
(なんですか! あんまり見ないでくださいよ!)
「はいはい、それじゃあ出発しよう!」
そして、そこからの道中は実に快適で、野盗もモンスターも出ることもなく、“最北の街”まで一気に辿り着いた。
「ん? どうしたんだい、お客さん」
ちょっとジロジロと見すぎたらしい、失礼な事をしてしまった。
「いえ、女性の御者は珍しかったものでつい。ごめんなさい」
「ははは、確かにね。女だてらに御者なんてやってると慣れっこさ。お客さんも気にしなくていいよ」
快活に笑う御者さんはまだ年若く、20代前半くらいに見えた。年頃の女の人がするようなイメージを僕は持っていなかったが、この世界では普通にありえるのかな、と思ったがよくよく彼女の言葉を思い返してみると、やっぱりこちらの世界でも珍しいのだろう。
「お姉さんはどうしてまた、こんな危険もある仕事に?」
初対面でちょっと踏み込みすぎたろうか。しかしお姉さんはまた笑って、事情を教えてくれた。
「はは、実は元々私の父さんがやってた仕事なんだけどね。最近身体壊してしまって。しょうがないからあたしが代わりをしてるのさ」
「なるほど、そうなんですね。護衛は任せて下さい、何しろこの国の勇者が二人も乗ってるんですから」
それを聞いたお姉さんは一度目を丸くしてぷっと吹き出すと、笑い出した。
「あはは、それじゃあ頼んだよ勇者様!」
どうやら信じてもらえなかったらしい。とはいえ、護衛代をもらっているわけでもなし、ただの自己満足だから構わない。
「それじゃあ、出発するよ。お客さん、護衛さんも馬車に乗った乗った」
「わーい! 一番ノリなのです!」
「モモ、あんまり騒がないの! ごめんなさい、皆さん」
はしゃいだモモがよじよじと馬車の中に入るのを叱りながら、リアが周りに謝っている。しかし皆暖かい目で許してくれ、モモが乗るのを後押ししてくれたりした。優しい人たちが多いなあ。
「さ、皆乗ったかい? それじゃあ行くよ! 目的地は“最北の街”だ!」
護衛は冒険者ギルドからの依頼でやってきた三人のパーティらしい。見たところ、戦士、魔法使い、斥候の三人組でバランスは良さそうだ。
御者のお姉さんが手綱を打ち、馬車が動き出す。それに合わせてフィジーも自分で考えて歩きはじめ、馬車と併走する。街の門で手続きを済ませ、僕達はいよいよ北を目指して宿場街を出る。
「……暇だなあ」
ぱかぽこと相変わらず軽快なフィジー達の蹄の足音と、ガラガラという馬車の車輪の音以外、たまに鳥が鳴いている程度の平和な道程だった。
「はは、お客さん。ここの街道は滅多に魔物も野盗も出ないんだよ」
「そうなんですか?」
「少なくともあたしは一回も見たことないね」
なるほど、生業にしている人が言うとそのとおりなのだろう。
「これじゃあ俺たちの出番もないかもしれないな」
馬車の中から、戦士らしき冒険者がニヤリと笑いながら仲間たちと話していた。楽な仕事と思って浮かれているのだろう。
だが僕は知っている。これは俗にいうフラグと言うヤツなのだと。御者のお姉さんのお墨付きに、自ら地雷を踏み抜いて行った冒険者。これだけ乱立していれば、平和が続くはずもなく。
(マサヤ様、何者かが近づいて来ています)
「お姉さん! 警戒して、何かこの馬車に近づいて来てる!」
「えっ、何だって!?」
驚いたお姉さんは馬車のスピードを若干落としてしまった。こちらに向かってくるという何者かはそこを好機と見たのか、更に速度を早めてきたとフィジーが言う。
「俺達の出番だな、一体何者なんだ」
「まだわかりません!」
冒険者達が馬車を降り、迎撃体勢を整える。馬車の中では他の乗客が怯えた表情で震えており、何もわかっていないモモだけがぽかんとしていた。リアも冒険者と一緒に降りる。
「お嬢ちゃん、戦えるのかい?」
戦士の揶揄に、リアは構えていた大剣をいつものスピードでザンっと地面に突き立てた。
「どうかしら? あなたの目にはどう写った?」
「……頼りにしてるぜ」
戦士はリアの実力を今の動作で見抜いたようだ。
「フィジー、僕も降りて戦う。馬乗戦は慣れてないんだ」
(お気をつけて)
フィジーは僕を下ろした後、素直に馬車に身体を寄せて大人しくしていた。
「一体何者なんだ……」
ザザザ、と草原の中を物凄い速さで動き回っている者がいる。明らかに人間ではない。冒険者パーティと、僕とリアの間に緊張が走る。
「グルアァァアァッ!」
飛び出してきたモンスターがこの中で明らかに戦い慣れていない人間――つまり僕に向かって二匹、遅いかかってきた。
「うわあっ!?」
剣を振り抜いて一旦追い払うと、距離を取って対峙する。
「ちっ、ウォーウルフじゃねえか! こいつらは集団で狩りをする厄介なモンスターだ、おまけに頭もいい!」
解説ありがとう、冒険者の人。その情報知りたくなかったけどね!
「とにかく、周辺への警戒を怠るな坊主!」
「ハイ!」
緊迫感のある声でアドバイスをもらい、僕はその通りに対峙している二匹以外にも気配を探る。すると、更に追加で二匹が僕を狙っていることが解った。
「これ、ちょっとマズイんじゃないかな……」
冷や汗が頬を伝う。
「マサヤ! そっちは大丈夫!?」
「ちょっと厳しいかも!!」
「待ってて、こっち片付けたらそっち応援に行くから、それまで何とか持ちこたえて!」
ヤバイ、リアでも手こずっているのか。すばしっこいもんな、こいつら。等と悠長に考えている暇はなかった。一気に距離を詰めて、三匹が飛びかかってくる。
「っく!?」
ギインッ! と奴らのウチ二匹の爪を剣で弾き返して、最後の一匹には正面から顔面に蹴りを叩き込んだ。
「キャウンッ」
犬のような悲鳴を上げて一匹が転がって、残り二匹には後ろに回り込まれた。
「マズイ!」
「ガアアァァウッ!」
四匹に挟撃されたら流石に持たない!? 僕は自分の自動迎撃に期待して、回り込まれた二匹に振り向いて先にこちらを片付ける気だった。
「どうしたのです?」
「モモ!? 出てきちゃダメだっ!!」
何と、馬車からモモが顔を覗かせている。それに気付いた二匹のウォーウルフが標的を僕からモモに変えて、飛びかかった!
「モモおおぉぉ!!」
間に合わない! そうは解っていてもじっとしていられるわけがなく、僕はウォーウルフに追いつくように駆け出した瞬間。
「グルルルオオオォォォ!!」
モモが耳をつんざく咆哮を上げて、口から巨大な炎のブレスを吹き出した。
「えええぇぇ!?」
モモに襲いかからんとしていたウォーウルフ二匹は、骨も残さず灰となって風にちらされていった。背後の残り二匹のウォーウルフも、モモの威圧にすっかり萎縮してしまっているようだ。今のうちに叩くしかない! 僕は素早く駆け寄り、まず一匹目の首を跳ね飛ばした。
「ガァゥッ!!」
この時になってようやく動けるようになったもう一匹が背後から突撃してきたが、僕の自動迎撃が上手く機能してその攻撃を防ぐ。一体一なら負ける気はしない。僕とウォーウルフが向かい合ったのは一瞬、お互いに真っ直ぐ突進してその生命を断とうとする。
「ェイッ!!」
気合一閃、大口を開けて噛み付こうとしてきたウォーウルフの身体に刃を入れ、口から上下に真っ二つに切り裂いた。
「はぁ、なんとか、なった」
念の為にリアや冒険者達の方を確認するが、皆危なげなく処理して、今は魔石を回収している最中のようだ。僕も魔石を二個回収して、モモの所へ向かう。
「モモ!」
「なんです? マサヤ」
「危ないことしちゃダメだろ!?」
「ふぇ……」
僕は今、初めてモモに対して怒っていた。正直言ってモモがいなければ僕は死んでいたかもしれない。だとしても、モモが危険な目に合うのは自分が死ぬよりも辛い。
「マサヤ……怒っているのです?」
「ああ、怒っているよ」
「うぅ……マサヤァ……怒らないで欲しいのです……」
ぐすぐすと鼻を鳴らして、モモが僕に抱き付いてきた。
「自分が悪いことをしたっていうのは、解った?」
「わかったのでずー……危ないことはしないのでずー……」
「うん、解った。遅れたけど、モモのおかげで助かったよ、ありがとう」
「……もう怒ってないです?」
赤い目で僕を見上げるモモに、僕は笑顔で答える。
「うん。解ってくれたならいいんだ。大きな声出してごめんな、モモ」
「ううう……マサヤァ……」
まだ泣きやまないモモの背中をぽんぽんと叩いて、落ち着かせる。その間に冒険者パーティがやってきて、僕とモモを取りかこんできた。
「がっはっは、お嬢ちゃん凄えじゃねえか、ウォーウルフを一撃で倒しちまうなんて! お前さんもあんまり怒ってやるなよ?」
「アレは何ていう魔法なんでしょう? とても気になりますね!」
「……この周辺にはもうモンスターはいないようだよ、早く出発しよう」
戦士と魔法使いの言葉には適当にお茶を濁して、斥候さんの言うとおりに御者のお姉さんに出発を告げる。
「いやあ、あんた達がいてくれてよかったよ。下手してたらけが人が出てたかもしれないからね」
快活に笑って、御者のお姉さんが僕達に感謝してくれる。
「いえ、皆さんが無事で良かったです」
「ま、勇者リアがいる限りこんなモンスター敵じゃないわ!」
「えっ、リアって……本物!? 本物の勇者様!?」
胸を張っていたリアの自己紹介に、乗客の皆さんや冒険者パーティ達が食いついた。
「え、ええ。詳しくは馬車の中でね!」
皆興味津々と言った様子で馬車に乗り込み、僕はフィジーへとまたがる。
(めっちゃ怖かったです)
「ごめんごめん、僕がもうちょっと強かったら良かったんだけど」
(いえ、そっちじゃなくて、モモ様が……)
「ああ……」
ドラゴンの威圧に相当びびったらしい、フィジーはちょっとおもらししてしまっていた。
(なんですか! あんまり見ないでくださいよ!)
「はいはい、それじゃあ出発しよう!」
そして、そこからの道中は実に快適で、野盗もモンスターも出ることもなく、“最北の街”まで一気に辿り着いた。
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