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異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

羽のように

 朝食は和やかな雰囲気で進み、全員が食べ終え、お開きとなった所で皇帝陛下が切り出した。

「さて、異世界の勇者殿。昼頃にリイラの部屋にて“洗脳の解除”と“病状の回復”を行ってもらえるのだな?」

「ええ、まあ。えー、そうですね。実は予想以上に魔力の回復が早まっていまして、今ここで行う事も可能ですが」

「私のおかげね!」

 どこをどう取ったらその結論に至るんだ、このポンコツは。そんな得意げなリアはさておいて、皇帝陛下はふむ、と頷くと僕に願ってきた。

「では早速頼めるかな? 兄弟たちの前でやって見せるのもよかろう」

「はい、解りました」

 そこで、僕は朝からずっと抱いていた疑問を横に座っているリアに小声で尋ねた。

「(ねえ、皇妃様っていないの?)」

 するとリアは難しい顔を作って、言葉少なに教えてくれる。

「(皇妃様はポルス皇子が生まれた年に亡くなっているわ)」

 なるほど、ポルス皇子は一人だけ母親の顔を知らずに育ってしまったわけか……多少捻くれているのもそのせいなのかもしれないな。

「では、失礼します。第二皇女殿下」

 席を立ち、リイラの前に立つ。

「は、はい……」

 彼女は、おどおどとした挙動で、とても昨夜あれだけの啖呵を切った人物と同じとは思えなかった。ライラと一晩の間に何を語り合ったのかは解らないが、心のよどみはすっかり抜け落ちているように見える。

「では第二皇女殿下、私の言うとおりになさってください」

「はい」

「心の底から、願って下さい。あなたの本当の願い、健康を取り戻したいという願いを……」

「…………」

 目を閉じ、眉根を寄せて真剣に願うリイラ。そして僕もまた彼女の健康を真剣に願う。一応、それらしく見せるためにリイラの頭に手を置いて呪文らしきものをぶつぶつと唱える。まあ。意味などない言葉の羅列なんだけど。

「この者の身体を清め、病魔を打ち払え!」

 適当な決めゼリフを唱え、僕の魔法が発動する。膨大な周囲のマナを食らいつくし、魔力を強制的に持って行かれる。爆発的な閃光が僕とリイラを包み込み、いつものように光の柱が天井を貫いて、光が収まっていく。

「う、ううむ……驚いた。なんと派手な魔法なのだ……」

「つーか目がチカチカするわ! こうなるなら最初から言え!」

 皇帝陛下を始めとした皇族の前に、いつの間にか衛兵や執事が前に固まってガードしていた。そういやこの魔法の効果とか説明してなかったな……。ハルマン皇子が僕に文句を言ってくるが、まあ仕方ない。

「どうですか、第二皇女殿下」

 僕は彼女の頭に乗せていた手を退けて、問いかけた。リイラは、薄っすらと目を開けて、まず自分の手をにぎにぎとグーパーを繰り返し、次に立ち上がると、腰回りや足をきょろきょろ見回して、とんっと軽くジャンプした。優美にスカートがふわりとたなびく。そこまで動作を見た所で、リイラは徐々に頬を好調させて興奮したように早口でまくし立てた。

「軽い! 身体がまるで羽のように軽いです! こんなに自由に身体が動くなんて初めてです! こんな……こんなに……これが普通の身体なんですね……!」

 リイラは、興奮したままボロボロと涙で顔をくしゃくしゃにしながら喜びを全身で表していた。その様子を見ていたみんなも、驚きに目を丸くしている。

「疑っていたわけではないが、まさか本当にリイラの身体が治るとは……勇者カガリ殿。何とお礼をすれば良いか」

「そんな、困っている人を助けるのが勇者の勤めですから」

「ふむ、謙虚なことよな。それならばリイラを娶るのはどうだ?」

 いきなりとんでもない爆弾発言をしてくれた皇帝に僕は思わず吹き出しかけた。

「な、ななな何を仰ってるんですか! 仮にも皇族の方を、しかも彼女の意思もあるでしょうし、そんな急に言われても……!」

「いえ、私は勇者様ならば――」

「「だめよ(ですわ)!!」」

 リイラが恐ろしい事を言いかけたのを、リアとライラが遮った。

「ほっほっ、勇者殿はモテモテじゃな」

「ちょ、皇帝陛下! 何を仰っているのかわかりませんね!?」

「ふむ、しかし強者は一夫多妻が普通であるぞ? ウチの娘を第一夫人にするならば何も問題はないが」

「大アリです! 僕は既にリアとパートナーを組んでいますので、そんな何年もお待たせするわけにはいきません。何より、無事に帰ってこれる保証もない冒険に出なくてはならないんですよ!」

「確かに、勇者殿達には崇高な使命があったな。だがそれぐらいは待てるであろう、リイラよ?」

「ええ、いつまでもお待ちしております」

「いやいやいや!? あなたにはもっと相応しい人がいるでしょう!」

「この世界で勇者様以上に格のあるお方などいませんでしょう?」

 なんだ、この人達の押しの強さは!? これがルーラン皇帝家の血筋なのか!?

「僭越ながら、私達にはまだやらねばならない事がありますので、そう言ったお話はお断りさせて頂きます」

「ほほう、そう言ってカガリ殿を独占するつもりかな?」

 皇帝陛下の目が光った気がした。

「いえいえ、まさか! 彼は使命を終えれば自分の世界に帰る身ですから」

「む? 彼は自分の世界に帰る事が出来るのか?」

「え、ええ。まあ」

「では異界の秘術を我が国にもたらしてはくれぬか!」

 やば、これってこの世界のパワーバランスが崩れかねない事言われてるぞ!? どうやって言い逃れしよう?

「申し訳ありません、神との契約によりそれは出来ないのです。契約を破ろうとすれば……」

 この際だ、神様を利用させてもらおう。そして最高のタイミングで僕の身体にドカン! といつもの神罰が下った。

「……こ、このように神罰がくだるのです……」

 ぷすぷすと煙を上げながら震える声で説明すると、流石の皇族達もびびったのか、ドン引きしていた。

「ふ、ふむ。神との契約ならば致し方あるまい。しかし今晩くらいはこの城に滞在して頂けるのだろう? 正式な礼をする必要もあるしな」

 と、ここで慌てふためいたように兵士が一人駆け込んできた。

「こ、皇帝陛下に至急の伝令!」

「む、どうした」

「この城を中心に広範囲に渡って魔道具や魔法の類が一切使用できなくなっている異常事態が発生しております!」

「な、なんだと!? まさか、魔族の仕業か!?」

 魔族、と聞いて慌てふためく皆に、僕、ライラ、リアの三人だけはあちゃーと言った顔で失敗したことを思い知った。

 周囲のマナを莫大に消費するって、言ってなかった。テへ。

「異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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