異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

今後について

 その後公爵と今後の予定について話し合うことになった。食事が終わって退屈そうにしているモモは優しそうなメイドさんい連れられて何処かへ遊びに行ってしまった。

「お父様の退位を翻意させることは出来ないのでしょうか……」

 沈痛な面持ちのライラに、公爵は首を振って答えた。

「難しいだろうな。兄上も歳だ」

「えっ? 皇帝って公爵様のお兄様なんですよね? それほどお年が離れていらっしゃるのですか?」

 僕の疑問に、公爵は頷いた。

「私は兄上と十五離れておる。その上、ようやく授かった子供達も高齢になってからの事だ。故に、多少無理があろうとも皇位を譲ろうとお考えなのだろう」

「その……全てを決める前に尋ねたいのですが……」

 僕はライラを見た。

「ライラ……様は皇帝になる気があるの?」

「それはっ……!」

 ライラを遮り、すかさず公爵が口を挟んでくる。

「ふむ、異世界の勇者殿。その質問は高度に政治的な問題を孕んでいると承知してのことかな? 興味本位で聞かれているのであれば、取り下げて頂きたい」

「興味本位ではありません。何しろ、これから僕達が守る事になるお人です。その本人に皇位についての意思が固まっていないというのであれば、或いはそれを放棄するというのであれば、僕達が連れて逃げ出す事だって出来る」

 僕の論に、ふむ、と公爵は納得してくれたようだった。

「軽々しいものではないと言う事は理解した。しかし、それでもその質問は彼女の今後を左右する重要事項だ。この場ですぐに……というわけには行かぬだろう」

「それでも、僕は聞いておきたい。テレシー国とルーラン帝国は同盟国とのこと。もし次代の皇帝がその同盟を破棄して背中から刺すような真似をしてきたら? 僕は、お世話になった国が帰ってきたら謀略で滅ぼされていたなんてごめんですね」

「勇者殿は我が国を信用してないと?」

 公爵の顔にハッキリと不快そうな色が浮かぶ。それでも僕は一歩も引かずに反論した。

「当然でしょう? リアにとっては親しみ深い国かもしれませんが僕にとっては初めて接する国です。それに、ライラ様個人の事を考えるのと、国全体の話をするのはわけが違う」

 何てカッコよく言っているが、内心は冷や汗ガクブル状態であった。一介の高校生になんて重いことさせるんだよ……ホント恨むよ、女神様。

「ライラ様の他のご兄弟はどういった性格なので?」

「ライラの姉弟は後三人いてな。弟が二人に妹が一人。上の弟はいわゆる脳筋で軍事一辺倒、政治にはまるで興味がないと言った風だ。妹の方は政争とは無縁といった所か。何せ病弱でな……皇宮から出ることもままならん。下の弟は勉学の徒と言ったところか。研究バカとも言えるが、自身の魔法研究以外には全く興味を示さない」

「……は? そうすると皇位に興味のある人間が一人もいなくなってしまいますが」

 僕が率直な疑問をぶつけると、公爵は頭が痛そうに押さえて呻く。

「そうなのだ……。結局の所、周囲が騒いで担ぎ上げようとしてるにすぎず、本人達にはまるでやる気がない」

「では、ライラ……様を襲ったのは」

「ちょっといいかしら? 異世界の勇者殿、どうかわたくしの事はライラと呼んでくださいな。どうも言いにくそうにされておられるようですし」

「……すみません」

 そりゃあんだけつっかえてたらバレバレだよなあ。心のなかではライラって呼び捨てにしてたんだし。

「いいのですよ、そのかわり私もマサヤ殿と呼ばせて頂きますわね」

 ニコリと微笑んだライラに、何故か隣のリアが異議を唱える。

「なんでよ!」

「……? 何を怒っているんですの、リア?」

「う、うう……また女の子が増える」

 リアが何を悩んでいるのか解らないが、それはともかく。

「では、ライラを襲ったのは王子達ではない……?」

「その親族や類縁だろうな。あの子達に姉弟を襲うなどという発想はないだろう」

「それはまた厄介な……」

「だからこそ貴殿達にお願いをしているのだ」

 ふうむ、いったいどうしたものか。問題の根本的解決をしないと今後もライラが狙われる事になる。そう思ってライラの顔を見ると、何故か笑顔で振り振りと手を振ってきて、それをリアが体を張って邪魔している。一体何をしているんだ。

「公爵の力で何とか襲撃者の正体を探る事は出来ないのですか?」

「う……む。私は公爵として領地を与えられていはいるが、実権はほとんどないに等しいのだ。この地に封じられていると言っても過言ではあるまいな」

 という事は……。はあ。使うしか……ないか。

「では、公爵。僕の力を使うしかないようですね……」

「マサヤ殿の力と言えば、“その何でも願いを叶える力”のことか……?」

「ええ、それを使えば、黒幕が誰かはすぐに解るでしょう」

「使ってもらえるのか?」

「よろしければ、お使い致します」

 そして使った場合のデメリット等を伝えた上で、公爵に判断を委ねる。公爵はしばらく考えた後、ライラの方へ顔を向けた。

「ライラ、構わないか?」

「わ、わたくしは……」

 震える声で、ライラはぎゅっとスカートの裾を握りしめる。

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