異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
公爵の願い
「ほう、そんな事がな……そんな巨大な迷宮があるとは」
公爵の目が非常に興味深そうに注がれる。僕は、ドラゴンの意思を尊重し、公爵にお願いした。
「あの、公爵。非常に勝手なお願いですがその迷宮は実害が出るまでは放っておいてもらえませんか。せめて……」
ちらり、とナイフとフォークと一生懸命格闘しているモモを見る。それだけで僕の言いたい事を察してもらえたのか、公爵はふむ、と頷いてしばし間をおいた。
「解った。少なくとも“その時”が来るまでは我が家の胸の内に留めておくとしよう」
その決定に、僕は心の中で安堵し、ライラは喜色満面に喜んだ。
「叔父様! ありがとうございます!」
ライラに続いてリアも公爵にお礼をする。
「ありがとうおじ様、“あの方”もきっと満足して逝かれる事でしょう」
「何、そんな可愛い娘を見てしまってはな」
公爵はモモを目を細めて見つめる。口の回りをベタベタにしながら自分に周囲の視線が集まっているのを感じて、モモはこてんと首を倒した。
「なんなのです?」
「なんでもないわよ、モモ。ほら、これも美味しいわよ」
「わーい、森にはこんな美味しいもの無かったのです! 嬉しいのです!」
その言葉に胸に来るものがあったのだろう、公爵、ライラの二人は目頭を抑えてこらえていた。今までドラゴンとたった二人で生活してきたモモは、これからどんな成長をするのか、それは僕にも解らない。それに、いつかはドラゴンの事も話さないとならないだろう。だがそれはまだ先の話だ。今はただ、真っ直ぐに成長してくれることを願う。
「ところで、これからの予定についてだがどうするのかね?」
「そうですね、とりあえず帰りの手段を探すことにします」
「ふむ……君のその、魔法についてなのだが」
僕はその質問に体を硬くした。ライラもリアも、この人は私利私欲に走る人間ではないと説得されて僕の魔法について教えていたのだ。だが、僕自身はほとんど初対面の相手とあって、どうしても警戒せざるを得ない。
「疑問なのだが、君達が“帰りたい”と願えばすぐに帰れたのではないかね?」
「「あ」」
僕とリアは口をポカンと開けて見つめ合うこと数秒。お互い、指を指しあって絶叫した。
「「ちょっと、どうして教えてくれなかったの!?」」
そして二人揃ってまた異口同音に叫ぶ。
「「忘れてたんだよ(のよ)!!」」
突然大声上げた僕達にビックリして、モモが食べていた料理をぽとりと取り落とす。
「お兄さん、お姉さん、ケンカしてるのです?」
モモは始めて僕達が言い合いをしているのを目の当たりにしてじわじわと目に涙を貯めていく。
「「だ、大丈夫、ケンカじゃないから」」
この時ばかりは僕もリアも焦った。泣く子には勝てない、泣かせるわけにはいかない。
「モモちゃん、この二人は“ケンカする程仲が良い”というのよ」
お姫様がいらんことを吹き込む。
「なのです? ケンカしてても仲良しなのです?」
純真な目を向けられ、うっと怯んだリアだったが、やっぱりモモには勝てずに項垂れる。
「そ、そうよ。マサヤとはとっても仲良しなんだから!」
「良かったのです!」
安心したのか、モモはまたあぐあぐと料理に取り掛かる。一通り事態が収束すると、おほんと咳払いを一つして公爵がまとめにかかる。
「つまり、君達はいつでも帰れるということでいいのかな?」
リアと目を合わせ、お互い頷いてから僕が答えた。
「はい。これだけお世話になって何もお返しできませんが、せめて今夜一晩分の宿代くらいはお支払するつもりです」
すると公爵はトボケたような事を言った。
「はて? 私は姪の友人たちをもてなしているだけだが、何故宿代を貰わなければならんのかわからんな?」
悪戯っぽく笑う公爵に、僕は素直に敵わないと引き下がる。
「そして、姪の友人と、勇者と見込んで頼みがある」
「何でしょう?」
僕が笑顔で答えると、何かを察したライラが声を上げた。
「叔父様! まさかお二人に!?」
「そうだ。二人にはライラの護衛をしてもらいたいのだ」
するとライラは一瞬顔色を白くさせたが、徐々に怒りに顔を赤くさせていき、ガタリと席を立ち上がった。
「わたくしの友人であるというならば、わたくしのお家騒動に巻き込むなど許されませんわ!」
「だが、ライラ。お前は実際に狙われ、殺されそうになっている」
そんな彼女を鋭い目で咎める公爵に、ライラはすっかり勢いを無くして再び着席した。
「それは……そうですが……」
自分の無力さ、無念さを悔いるように下唇を噛み込むライラ。僕は気になってリアの方を窺うと、彼女はそんなライラを元気づけるように笑顔で語りかける。
「ライラ、私達は友達でしょう? 友達が困っているのに見過ごせるはずがないわ! 私は勇者である前に、あなたの友人なんだから!」
「リア……」
感極まったライラはリアの手を取り、ぽたりと小さな雫をドレスに落とした。
「ありがとう……」
「えへへ、ちょっと照れくさいね」
リア達は大丈夫なようだ。それを確認した公爵は次に僕の意思を問うてきた。
「それで、マサヤ殿はいかがかな?」
「もちろん、パートナーであるリアが協力するっていうなら、僕の力の限りお手伝いしますよ」
「ありがとう、本当にありがとう!」
公爵は、ちょっと大げさな位の声で盛大に礼を言って僕達に頭を下げたために、今度は僕達が慌てることとなった。
公爵の目が非常に興味深そうに注がれる。僕は、ドラゴンの意思を尊重し、公爵にお願いした。
「あの、公爵。非常に勝手なお願いですがその迷宮は実害が出るまでは放っておいてもらえませんか。せめて……」
ちらり、とナイフとフォークと一生懸命格闘しているモモを見る。それだけで僕の言いたい事を察してもらえたのか、公爵はふむ、と頷いてしばし間をおいた。
「解った。少なくとも“その時”が来るまでは我が家の胸の内に留めておくとしよう」
その決定に、僕は心の中で安堵し、ライラは喜色満面に喜んだ。
「叔父様! ありがとうございます!」
ライラに続いてリアも公爵にお礼をする。
「ありがとうおじ様、“あの方”もきっと満足して逝かれる事でしょう」
「何、そんな可愛い娘を見てしまってはな」
公爵はモモを目を細めて見つめる。口の回りをベタベタにしながら自分に周囲の視線が集まっているのを感じて、モモはこてんと首を倒した。
「なんなのです?」
「なんでもないわよ、モモ。ほら、これも美味しいわよ」
「わーい、森にはこんな美味しいもの無かったのです! 嬉しいのです!」
その言葉に胸に来るものがあったのだろう、公爵、ライラの二人は目頭を抑えてこらえていた。今までドラゴンとたった二人で生活してきたモモは、これからどんな成長をするのか、それは僕にも解らない。それに、いつかはドラゴンの事も話さないとならないだろう。だがそれはまだ先の話だ。今はただ、真っ直ぐに成長してくれることを願う。
「ところで、これからの予定についてだがどうするのかね?」
「そうですね、とりあえず帰りの手段を探すことにします」
「ふむ……君のその、魔法についてなのだが」
僕はその質問に体を硬くした。ライラもリアも、この人は私利私欲に走る人間ではないと説得されて僕の魔法について教えていたのだ。だが、僕自身はほとんど初対面の相手とあって、どうしても警戒せざるを得ない。
「疑問なのだが、君達が“帰りたい”と願えばすぐに帰れたのではないかね?」
「「あ」」
僕とリアは口をポカンと開けて見つめ合うこと数秒。お互い、指を指しあって絶叫した。
「「ちょっと、どうして教えてくれなかったの!?」」
そして二人揃ってまた異口同音に叫ぶ。
「「忘れてたんだよ(のよ)!!」」
突然大声上げた僕達にビックリして、モモが食べていた料理をぽとりと取り落とす。
「お兄さん、お姉さん、ケンカしてるのです?」
モモは始めて僕達が言い合いをしているのを目の当たりにしてじわじわと目に涙を貯めていく。
「「だ、大丈夫、ケンカじゃないから」」
この時ばかりは僕もリアも焦った。泣く子には勝てない、泣かせるわけにはいかない。
「モモちゃん、この二人は“ケンカする程仲が良い”というのよ」
お姫様がいらんことを吹き込む。
「なのです? ケンカしてても仲良しなのです?」
純真な目を向けられ、うっと怯んだリアだったが、やっぱりモモには勝てずに項垂れる。
「そ、そうよ。マサヤとはとっても仲良しなんだから!」
「良かったのです!」
安心したのか、モモはまたあぐあぐと料理に取り掛かる。一通り事態が収束すると、おほんと咳払いを一つして公爵がまとめにかかる。
「つまり、君達はいつでも帰れるということでいいのかな?」
リアと目を合わせ、お互い頷いてから僕が答えた。
「はい。これだけお世話になって何もお返しできませんが、せめて今夜一晩分の宿代くらいはお支払するつもりです」
すると公爵はトボケたような事を言った。
「はて? 私は姪の友人たちをもてなしているだけだが、何故宿代を貰わなければならんのかわからんな?」
悪戯っぽく笑う公爵に、僕は素直に敵わないと引き下がる。
「そして、姪の友人と、勇者と見込んで頼みがある」
「何でしょう?」
僕が笑顔で答えると、何かを察したライラが声を上げた。
「叔父様! まさかお二人に!?」
「そうだ。二人にはライラの護衛をしてもらいたいのだ」
するとライラは一瞬顔色を白くさせたが、徐々に怒りに顔を赤くさせていき、ガタリと席を立ち上がった。
「わたくしの友人であるというならば、わたくしのお家騒動に巻き込むなど許されませんわ!」
「だが、ライラ。お前は実際に狙われ、殺されそうになっている」
そんな彼女を鋭い目で咎める公爵に、ライラはすっかり勢いを無くして再び着席した。
「それは……そうですが……」
自分の無力さ、無念さを悔いるように下唇を噛み込むライラ。僕は気になってリアの方を窺うと、彼女はそんなライラを元気づけるように笑顔で語りかける。
「ライラ、私達は友達でしょう? 友達が困っているのに見過ごせるはずがないわ! 私は勇者である前に、あなたの友人なんだから!」
「リア……」
感極まったライラはリアの手を取り、ぽたりと小さな雫をドレスに落とした。
「ありがとう……」
「えへへ、ちょっと照れくさいね」
リア達は大丈夫なようだ。それを確認した公爵は次に僕の意思を問うてきた。
「それで、マサヤ殿はいかがかな?」
「もちろん、パートナーであるリアが協力するっていうなら、僕の力の限りお手伝いしますよ」
「ありがとう、本当にありがとう!」
公爵は、ちょっと大げさな位の声で盛大に礼を言って僕達に頭を下げたために、今度は僕達が慌てることとなった。
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