異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
神様のいたずら
「着いたわ! ここが聖教会の神殿よ!」
リアの案内で連れてこられた場所は、貴族街と平民街の丁度境目辺りに位置していた。眠れるにゃんこ亭からはちょっと距離がある。
「へぇー……」
僕は間抜けな顔をして目の前で威風堂々と建っている神殿を見上げる。王都の中でもかなり立派な建物で、その権勢が反映されてるかのようにキラキラと輝いていた。
「感心してないで、中に入るわよ!」
「わ、ちょっと!」
リアに腕を掴まれてズカズカと神殿の中へと足を踏み入れる。入り口は柱が三本立っているだけで、開放的な施設だ。中は暗いのかと思ったが、天窓の位置が計算されているのか、意外に明るく、ハッキリと中の様子が見える位には十分な明るさが確保されている。
「結構人がいるんだね」
神職? の人だけが多いのかと思いきや、見た目平民貴族問わずに様々な人が出入りしているようだった。
「まあ、そりゃ王都の神殿だもの。神殿に寄進する人や怪我や病気の治療に来てる人、色々いるわ」
「寄進? 寄付ってことだよね。何かいいことあるの?」
「ちょっと! 滅多な事言わないのよ!」
すれ違ったシスターらしき女の人が露骨に眉をひそめて僕らを一瞥していた。
「(神殿に多く寄付することは信仰の印でもあるし、教会に顔が効くっていうのは何かと便利なの。でもそんな俗な事直接言えないでしょ?)」
「リアに説教された……端的に言って死にたい」
「そこまで言う!?」
リアがびっくりしてるので僕もびっくりしてみた。
「って何でマサヤまでびっくりしてるのよ!」
「いや、釣られてつい」
「あんたは馬か!!」
あ、こっちの世界の馬もそういうことするんだね。馬は人間と同じように複雑な感情を持っている生き物らしく、他の馬がびっくりしたらなんとなくつられて同じ行動を取ったりするらしい。
「そんなバカな話しはどうでもいいのよ!」
「馬だけにね」
「誰が上手い事言えと!」
「それも引っ掛けてるのか、はははリアは冗談が上手いね」
「マサヤと話してると疲れるわ……」
奇遇だな、僕もリアと話してると疲れる事が多々あるよ。それにしてもこの世界の言葉は解るのに、文字は読み書きできないって不親切仕様はどうにかならなかったものか。
創造の女神様の加護で言葉が通じているんだろうけど、たまに意訳しきれてなかったり、かと思えば今みたいな冗談が通じたり。全くどうなっているんだか。
「とにかく! 早速あそこに並ぶわよ」
「えっ」
リアが指差した先は、大勢の子どもが並んでいる場所だった。列はそんなに長くないものの、見た感じどんなに大きくても10歳を超える子どもはいなさそうである。僕は念のためにもう一度確認する。
「あそこに並ぶの? 僕が?」
「そうよ! ちょっと目立つかもしれないけどね!」
「ははは、リアは冗談が上手いんだから」
「それさっきも聞いたわ! っていうか、冗談じゃなくてあそこでしか魔法適正の測定はやってないのよ。というわけで行ってらっしゃい」
「うえっ!? 着いてきてくれないの?」
「恥ずかしいじゃないの!」
なんたる仕打ち! これはさっきの意趣返しか? しかし並ぶしかないのもまた事実。僕は若干顔を俯かせて列の最後尾に並ぶ。すると周囲にいた保護者らしき人々がひそひそと明らかにこちらを見て何事か囁いている。どうせろくでもない事なので聞こえないのは幸いだった。
等と考えている僕が甘かった。
突然、頭のなかにピンポーンとチャイムのような音が鳴り、“スキル:聞き耳が開放されました”と機械的な音声が聞こえた直後、周囲の雑多な音声が耳に入ってくるようになった。
(あの子、あんなに大きいのに今更洗礼だなんて……きっと可哀想な子だったんだわ)
(一緒にいた子は受けないみたいだし、不幸な生まれなんだろうな)
(今更洗礼受けに来るなんて恥ずかしくないのかしらねえ)
(案外子ども趣味のやつかもしれん。俺の所の子は大丈夫だろうな……)
このスキルいらねえええええ!!
シャットアウト出来ないのか!? 僕は頭の中で必死に念じていると、元の聴覚に戻ったようで心を抉ってくる言葉は聞こえなくなった。今頃天界で爆笑してるであろう創造の女神様を幻視し、怒りに震えてしまった。絶対面白そうだから加護を今与えたに違いない。
「どーしたのお兄ちゃん? おしっこ我慢してるの?」
ぷるぷるしていると前に並んでいる子どもが純真な瞳で問いかけてきた。それを聞いた周囲が(洗礼を授けている初老の神父まで)一斉にブフッと吹き出したのを僕は絶対に忘れない。
「ち、違うから大丈夫だよ」
「ふーん、そうなんだ。お兄ちゃんもせんれい受けに来たの?」
「そうなんだよ。ちょっとワケありでね」
「そっかー、いい魔法があたるといいね!」
「うん、お嬢ちゃんもいいのが当たるよう祈ってるよ」
「ありがとー!」
子どもの純粋さに触れて女神様への怒りも霧散した。そして待つこと十数分、ついに僕の番が回ってくる。
「さて、あなたも洗礼を授かりに来られたという事でよろしいですか?」
神父が少し固い顔で確認してきたので、頷いた。
「はい。あの、もしかして王城の方から連絡とか来てませんか? あそこにいるリアと一緒にいる事で察してもらえたりとか」
神父はチラリとリアの方を確認し、ちょっと難しい顔をして黙っていたが、不意にハッと気付いたように顔を綻ばせた。
「勇者様とご一緒に来られたということは、貴方が噂の方なのですね」
直接的に異世界の勇者とは言われなかったが、やはり情報は回ってきているらしい。これは王家の采配に感謝だな。
「ええ、そうです。それで洗礼を受けて魔法適正を測ってもらいたいのですが」
「なるほどなるほど、やけに年のいった子が並んでいるとは思ったのですが、いや失礼致しました。それでは洗礼を授けましょう。この水晶に手を触れて、意識を集中してください」
「はい」
神父と僕の間を分けるように置かれた木製の台座の上に、大きく育った水晶の結晶が金細工に彩られて鎮座していた。僕は言われるがままに水晶に手を当て、触れている水晶へと意識を集中する。
「大いなる創造の神よ。テマ神よ。その御名に於いて、彼の者に祝福を与え給え!」
神父の祈りの言葉が紡がれ、水晶が強く発光する。そしてどこからともなく声が降り注いできた。
『下界の子よ。その身に我が全能の力の一部を授けましょう。だからさっきのは怒らないでね』
「な、なんと! テマ神様より直接お言葉を頂けるとは、流石ですな!」
興奮している神父に、周囲の大人たちばかりか後ろに並んでいる子どももその荘厳な雰囲気に圧倒されたのか、感嘆の声を上げて成り行きを見守っている。僕はと言えば、ちゃっかりと自分の仕出かした事を謝ってきた女神様にやるせない気持ちを抱きながら、水晶から伝わってくる熱が全身に溶けていくように行き渡るのを感じた。
やがて、水晶の光が静かに治まっていき、僕は神父に言われる前に集中を解いてしまった。しかしそれを咎められる事もなく、神父は台座の下からプリンターのように吐き出される紙を引き出して、それを眺めてまた驚いた。
「この紙にあなたの属性が書き込まれています。いやはや、これを見るのは二度目ですが、驚く事には慣れませんな」
「ということは……」
「はい、あなたは全属性持ちです! これからの旅路に大いに助けとなることでしょう。しかし努力することを怠っては何にもなりません。それを忘れないように精進してください」
そう言って属性が書き込まれているであろう紙を差し出す神父に頭を下げ、紙を受け取った。
「ありがとうございます。また神殿にお世話になるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「何の、いつでも歓迎いたします。勇者様と共に幸あらんことを祈っておりますよ」
笑顔で見送られ、そのままリアの下へとやってくると、彼女は満面の笑みで出迎えてくれた。
「やったじゃない! これでマサヤも勇者としての第一歩を踏み出したってわけね!」
「第一歩かどうかは解らないけど、これから魔法の事についてはお願いするよ、お師匠様」
「まっかせなさーい!」
調子にノリに乗ってるリアに苦笑いを浮かべながら、僕は内心のドキドキを抑えきれずにいた。遂に、僕も魔法が使えるようになるのだ!
リアの案内で連れてこられた場所は、貴族街と平民街の丁度境目辺りに位置していた。眠れるにゃんこ亭からはちょっと距離がある。
「へぇー……」
僕は間抜けな顔をして目の前で威風堂々と建っている神殿を見上げる。王都の中でもかなり立派な建物で、その権勢が反映されてるかのようにキラキラと輝いていた。
「感心してないで、中に入るわよ!」
「わ、ちょっと!」
リアに腕を掴まれてズカズカと神殿の中へと足を踏み入れる。入り口は柱が三本立っているだけで、開放的な施設だ。中は暗いのかと思ったが、天窓の位置が計算されているのか、意外に明るく、ハッキリと中の様子が見える位には十分な明るさが確保されている。
「結構人がいるんだね」
神職? の人だけが多いのかと思いきや、見た目平民貴族問わずに様々な人が出入りしているようだった。
「まあ、そりゃ王都の神殿だもの。神殿に寄進する人や怪我や病気の治療に来てる人、色々いるわ」
「寄進? 寄付ってことだよね。何かいいことあるの?」
「ちょっと! 滅多な事言わないのよ!」
すれ違ったシスターらしき女の人が露骨に眉をひそめて僕らを一瞥していた。
「(神殿に多く寄付することは信仰の印でもあるし、教会に顔が効くっていうのは何かと便利なの。でもそんな俗な事直接言えないでしょ?)」
「リアに説教された……端的に言って死にたい」
「そこまで言う!?」
リアがびっくりしてるので僕もびっくりしてみた。
「って何でマサヤまでびっくりしてるのよ!」
「いや、釣られてつい」
「あんたは馬か!!」
あ、こっちの世界の馬もそういうことするんだね。馬は人間と同じように複雑な感情を持っている生き物らしく、他の馬がびっくりしたらなんとなくつられて同じ行動を取ったりするらしい。
「そんなバカな話しはどうでもいいのよ!」
「馬だけにね」
「誰が上手い事言えと!」
「それも引っ掛けてるのか、はははリアは冗談が上手いね」
「マサヤと話してると疲れるわ……」
奇遇だな、僕もリアと話してると疲れる事が多々あるよ。それにしてもこの世界の言葉は解るのに、文字は読み書きできないって不親切仕様はどうにかならなかったものか。
創造の女神様の加護で言葉が通じているんだろうけど、たまに意訳しきれてなかったり、かと思えば今みたいな冗談が通じたり。全くどうなっているんだか。
「とにかく! 早速あそこに並ぶわよ」
「えっ」
リアが指差した先は、大勢の子どもが並んでいる場所だった。列はそんなに長くないものの、見た感じどんなに大きくても10歳を超える子どもはいなさそうである。僕は念のためにもう一度確認する。
「あそこに並ぶの? 僕が?」
「そうよ! ちょっと目立つかもしれないけどね!」
「ははは、リアは冗談が上手いんだから」
「それさっきも聞いたわ! っていうか、冗談じゃなくてあそこでしか魔法適正の測定はやってないのよ。というわけで行ってらっしゃい」
「うえっ!? 着いてきてくれないの?」
「恥ずかしいじゃないの!」
なんたる仕打ち! これはさっきの意趣返しか? しかし並ぶしかないのもまた事実。僕は若干顔を俯かせて列の最後尾に並ぶ。すると周囲にいた保護者らしき人々がひそひそと明らかにこちらを見て何事か囁いている。どうせろくでもない事なので聞こえないのは幸いだった。
等と考えている僕が甘かった。
突然、頭のなかにピンポーンとチャイムのような音が鳴り、“スキル:聞き耳が開放されました”と機械的な音声が聞こえた直後、周囲の雑多な音声が耳に入ってくるようになった。
(あの子、あんなに大きいのに今更洗礼だなんて……きっと可哀想な子だったんだわ)
(一緒にいた子は受けないみたいだし、不幸な生まれなんだろうな)
(今更洗礼受けに来るなんて恥ずかしくないのかしらねえ)
(案外子ども趣味のやつかもしれん。俺の所の子は大丈夫だろうな……)
このスキルいらねえええええ!!
シャットアウト出来ないのか!? 僕は頭の中で必死に念じていると、元の聴覚に戻ったようで心を抉ってくる言葉は聞こえなくなった。今頃天界で爆笑してるであろう創造の女神様を幻視し、怒りに震えてしまった。絶対面白そうだから加護を今与えたに違いない。
「どーしたのお兄ちゃん? おしっこ我慢してるの?」
ぷるぷるしていると前に並んでいる子どもが純真な瞳で問いかけてきた。それを聞いた周囲が(洗礼を授けている初老の神父まで)一斉にブフッと吹き出したのを僕は絶対に忘れない。
「ち、違うから大丈夫だよ」
「ふーん、そうなんだ。お兄ちゃんもせんれい受けに来たの?」
「そうなんだよ。ちょっとワケありでね」
「そっかー、いい魔法があたるといいね!」
「うん、お嬢ちゃんもいいのが当たるよう祈ってるよ」
「ありがとー!」
子どもの純粋さに触れて女神様への怒りも霧散した。そして待つこと十数分、ついに僕の番が回ってくる。
「さて、あなたも洗礼を授かりに来られたという事でよろしいですか?」
神父が少し固い顔で確認してきたので、頷いた。
「はい。あの、もしかして王城の方から連絡とか来てませんか? あそこにいるリアと一緒にいる事で察してもらえたりとか」
神父はチラリとリアの方を確認し、ちょっと難しい顔をして黙っていたが、不意にハッと気付いたように顔を綻ばせた。
「勇者様とご一緒に来られたということは、貴方が噂の方なのですね」
直接的に異世界の勇者とは言われなかったが、やはり情報は回ってきているらしい。これは王家の采配に感謝だな。
「ええ、そうです。それで洗礼を受けて魔法適正を測ってもらいたいのですが」
「なるほどなるほど、やけに年のいった子が並んでいるとは思ったのですが、いや失礼致しました。それでは洗礼を授けましょう。この水晶に手を触れて、意識を集中してください」
「はい」
神父と僕の間を分けるように置かれた木製の台座の上に、大きく育った水晶の結晶が金細工に彩られて鎮座していた。僕は言われるがままに水晶に手を当て、触れている水晶へと意識を集中する。
「大いなる創造の神よ。テマ神よ。その御名に於いて、彼の者に祝福を与え給え!」
神父の祈りの言葉が紡がれ、水晶が強く発光する。そしてどこからともなく声が降り注いできた。
『下界の子よ。その身に我が全能の力の一部を授けましょう。だからさっきのは怒らないでね』
「な、なんと! テマ神様より直接お言葉を頂けるとは、流石ですな!」
興奮している神父に、周囲の大人たちばかりか後ろに並んでいる子どももその荘厳な雰囲気に圧倒されたのか、感嘆の声を上げて成り行きを見守っている。僕はと言えば、ちゃっかりと自分の仕出かした事を謝ってきた女神様にやるせない気持ちを抱きながら、水晶から伝わってくる熱が全身に溶けていくように行き渡るのを感じた。
やがて、水晶の光が静かに治まっていき、僕は神父に言われる前に集中を解いてしまった。しかしそれを咎められる事もなく、神父は台座の下からプリンターのように吐き出される紙を引き出して、それを眺めてまた驚いた。
「この紙にあなたの属性が書き込まれています。いやはや、これを見るのは二度目ですが、驚く事には慣れませんな」
「ということは……」
「はい、あなたは全属性持ちです! これからの旅路に大いに助けとなることでしょう。しかし努力することを怠っては何にもなりません。それを忘れないように精進してください」
そう言って属性が書き込まれているであろう紙を差し出す神父に頭を下げ、紙を受け取った。
「ありがとうございます。また神殿にお世話になるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「何の、いつでも歓迎いたします。勇者様と共に幸あらんことを祈っておりますよ」
笑顔で見送られ、そのままリアの下へとやってくると、彼女は満面の笑みで出迎えてくれた。
「やったじゃない! これでマサヤも勇者としての第一歩を踏み出したってわけね!」
「第一歩かどうかは解らないけど、これから魔法の事についてはお願いするよ、お師匠様」
「まっかせなさーい!」
調子にノリに乗ってるリアに苦笑いを浮かべながら、僕は内心のドキドキを抑えきれずにいた。遂に、僕も魔法が使えるようになるのだ!
コメント