異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
リアは神様よりも強し
「先手必勝! でりゃああああっ!!」
豪速で繰り出される大剣が、渦の中心に吸い込まれていくように切り払う。
『ぬぐおおおぉぉぉ……な、何故分体であるとは言え神である我が身を切れる!? おかしいではないか!?』
エディ神とやらに同情する。リアには理屈や道理といったものが通用しないのだ。
「それは私が勇者オブ勇者だからよ! 例え神でも私の前に立ち塞がるなら切り伏せるのみ!」
傍から聞いてる分には格好いい口上を述べてリアは更に追撃をしていく。
ズバッ! バシュッ!! 何度も斬撃音がひらめき、その度に黒い渦は何もさせてもらえないままに小さく小さくなっていき、終いには野球ボール程の大きさで力なく漂っていた。
『わ、我がこのような小娘に手も足も出ないとは……!?』
「いい加減、神界へと還りなさああぁぁぁい!」
気合一閃、リアの雄叫びとともに放たれた止めの一撃が、エディ神を一気に吹き飛ばした。
「ふうっ。全く、わからずやの神様だったわね!」
「いや、弁明の暇も与えてなかったじゃん」
「あん?」
「いえ、なんでもないです。それより大丈夫ですか?」
未だにしがみついたまま、エディ神の消滅を目の当たりにして呆然としていたマールさんを心配していると、彼女はハッと気がついたように我に返った。
「あ、あの! 助けていただいてありがとうございます、勇者様!」
僕から離れるとリアのもとにひざまずき、土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。
「いいのよ、勇者は困ったものの味方ですからね!」
「いえ、何とお礼を申し上げれば良いやら……私はしがない宿屋の娘ですし、今はお客さんもいなくてお金も……」
その言葉を聞いた僕とリアは顔を見合わせて、うんと頷き合う。
「それなら心配ないわ! そのお客ならここにいるもの!」
「ええっ!? 勇者様が泊まってくださるんですか! そ、それなら宿代は頂けません!」
「ダメよ! あなたのお家借金で困っていたのでしょう? 正当な代価を要求しないと、私が怒るわよ!」
恩を返したいと思う心と逼迫しているであろう現状に板挟みにあっているマールさんに、僕は助け舟を出した。
「赤い死神の勇者を怒らせたらマズイと思うよ? ここは彼女の心遣いに甘えた方がいいんじゃないかな?」
若干卑怯な気もするが、ちょっとした脅しを入れるとマールさんはあっさりと折れた。
「そういうことでしたら……ですが、誠心誠意サービスさせて頂きますので!」
「それなら問題ないわ! 期待してるわね!」
「ハイ!」
これで丸く収まった。良かった良かったと安堵していると、マールさんが僕に向き直ってお礼を言ってきた。
「あ、あの。しがみついたりしてしまってスミマセン……でも、おかげでとても安心出来ました。……ところで町娘はお嫌いですか?」
「へあっ!? え、ちょっと待って何の話!?」
「私、男の方にあんなに優しく抱かれたの初めてで……」
ぽっと顔を赤くさせながらもじもじとしているマールさん。よくよく見れば、少々タレ目で温和な整った顔立ちをしてて、先ほどは感じる余裕もなかった体の一部が、激しく自己主張しているとても包容感のあるお姉さんと言った感じで大変美しかった。
そんな彼女に半ば見惚れていると、背後から凄まじい殺気を感じた。
「ねえ、マサヤ。私が必死に戦っている時、そう言えばそこの女とイチャコラしてたわね?」
「いやいやいや? 誤解でしかありませんが?」
「じゃあなんで今! 見惚れていたのよ! あなたは私のパートナーでしょう!!」
「それ今関係ある!?」
「えっ、あなたは勇者様の恋人なのですか!?」
「「違う(わ)よ!!」」
「え、えぇー……」
複雑な僕達の関係を前に、マールさんは困ったように眉根を寄せるのだった。
それから何とか二人の誤解を解き、僕達はマールさんの両親が経営しているという宿屋へと向かう。以外に近い場所で、立地的には全然悪くなさそうな場所だった。見た目も多少はボロいのだが、掃除は行き届いているように感じる。
「ここが私の家、“眠れるにゃんこ亭”です!」
「……ちなみに店名は誰がお決めになったので?」
僕の怪訝な顔に不思議そうに返してくるマールさん。
「お父さんですけど?」
まさかのそっち! それだけで不安になってくる。大丈夫なんだろうかこの宿。僕がおののいている間に、マールさんは店内に向かって声を張り上げる。
「お父さん! お母さん! お客様よー!」
「な、なんだってー!?」
「い、一体どんなお客様!? もしかして神様!?」
「いえ、普通(?)の人間です」
店内のカウンターで待っていると、大慌てで奥から腰の低そうなおじさんと年若く見える綺麗な美人が出てきた。
「いらっしゃいませ、ようこそ“眠れるにゃんこ亭”へ! 今日はお泊りですか、お食事ですか?」
おじさんがへこへこと頭を下げながら言ってきたので、僕は後ろにいたリアを振り返って尋ねた。
「リア、宿はここでいいと思う?」
「店名が微妙だけどいいと思うわ!」
だから、このポンコツ勇者は! 見ろ、微妙って言われたおじさんが見るからにへこんでるじゃないか!
「いえ、私のネーミングセンスが悪いのは解ってるんです……お客さん、どうか気にしないでください……」
「気にしないわ!」
もうやだこの勇者。
「お父さん、こちらの勇者様は私があいつらに捕まりそうになっていた所を助けてくれたの! それだけじゃなくてね、何と借金の証文も破棄してくれたのよ!」
「な、なんだって! そりゃ本当かいマール!」
「あらあらー。凄いわねー」
大いに驚いているおじさんとは対象的に、マールのお母さんの方はのんびりとしている。いや、しすぎている。普通もっと驚くんじゃありませんかね?
「勇者様!」
「わっ何っ!?」
おじさんはカウンターを華麗に飛び越えると、リアの前で着地して綺麗な土下座を決めた。
「わ、我が家を救って頂いてお礼の言葉もありませんっ!!」
「勇者様ー、大変感謝しておりますー」
その横にマールのお母さんもひざまずいて深々と頭を下げる。突然の事にあわあわと慌てるリアは、僕に助けを求める視線を投げてきた。仕方ない。
「あの、成り行き上助ける事になっただけですので、頭を上げてください。それにその話についてはマールさんと話を着けてますので、これ以上のお礼は必要ありませんよ」
僕が二人を支えるように立たせて、事情を説明するとおじさんはぽろぽろと泣き出してしまった。
「娘の危機ばかりか家まで救って頂いたのに、その程度のお礼でいいとは……勇者様はやはり神の使いですなあ」
「あらあらあなたったら、お客様の前で泣いたりしてはいけませんよー」
マールのお母さんがぽんぽんと旦那の背中を優しく叩いて慰めている。
「そうだな、メイヤ。ここはマールの約束通り最高の歓迎を以ってお礼にするとしよう」
「よろしくお願いします、えっと、僕はマサヤと呼んでください。彼女はリアです」
「よろしく頼むわね!」
「はっ、これはこれは。私はジョスともうします。こちらが家内のメイヤ、娘のマールについてはもうご存知でしょう」
ぺこり、と一家揃って頭を下げられ、釣られて僕も頭を下げた。反応の遅れたリアが慌てて追随しているのが少しおもしろい。
「それではお泊り頂けるとのことで、何泊の予定ですか?」
「どうする? リア」
「わからないわ!」
聞いた僕がバカだった。
「とりあえず一週間、お願いします」
「はい、料金は前払いになっておりますが、よろしいですか?」
「もちろんです。いくらですか?」
「お二人で一週間食事込ですと銀貨1枚ですね」
安いのか高いのか今一解らないが、この家族に限ってこちらをたばかる事もないだろう。僕は荷物から銀貨一枚を取り出して手渡す。
「はい、確かに!」
「ではこれがお部屋の鍵です。お食事は朝と夜はご用意しておりますがお昼はご自分でご用意して頂くようになっております」
「わかりました。とりあえず部屋に行こうか、リア」
「ええ!」
そして何の疑問も抱かずに僕らは部屋に入り、荷物を下ろした。二人でふうっと一息ついたところで、不穏な沈黙が落ちる。
「……ってここ、二人部屋じゃないのっ!?」
「今気づいたのかよっ!? っていうか僕も気づかなかったよ!?」
大急ぎでジョスさんのところへ行って部屋を一人部屋に変えてもらったのは当然の事だった。
豪速で繰り出される大剣が、渦の中心に吸い込まれていくように切り払う。
『ぬぐおおおぉぉぉ……な、何故分体であるとは言え神である我が身を切れる!? おかしいではないか!?』
エディ神とやらに同情する。リアには理屈や道理といったものが通用しないのだ。
「それは私が勇者オブ勇者だからよ! 例え神でも私の前に立ち塞がるなら切り伏せるのみ!」
傍から聞いてる分には格好いい口上を述べてリアは更に追撃をしていく。
ズバッ! バシュッ!! 何度も斬撃音がひらめき、その度に黒い渦は何もさせてもらえないままに小さく小さくなっていき、終いには野球ボール程の大きさで力なく漂っていた。
『わ、我がこのような小娘に手も足も出ないとは……!?』
「いい加減、神界へと還りなさああぁぁぁい!」
気合一閃、リアの雄叫びとともに放たれた止めの一撃が、エディ神を一気に吹き飛ばした。
「ふうっ。全く、わからずやの神様だったわね!」
「いや、弁明の暇も与えてなかったじゃん」
「あん?」
「いえ、なんでもないです。それより大丈夫ですか?」
未だにしがみついたまま、エディ神の消滅を目の当たりにして呆然としていたマールさんを心配していると、彼女はハッと気がついたように我に返った。
「あ、あの! 助けていただいてありがとうございます、勇者様!」
僕から離れるとリアのもとにひざまずき、土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。
「いいのよ、勇者は困ったものの味方ですからね!」
「いえ、何とお礼を申し上げれば良いやら……私はしがない宿屋の娘ですし、今はお客さんもいなくてお金も……」
その言葉を聞いた僕とリアは顔を見合わせて、うんと頷き合う。
「それなら心配ないわ! そのお客ならここにいるもの!」
「ええっ!? 勇者様が泊まってくださるんですか! そ、それなら宿代は頂けません!」
「ダメよ! あなたのお家借金で困っていたのでしょう? 正当な代価を要求しないと、私が怒るわよ!」
恩を返したいと思う心と逼迫しているであろう現状に板挟みにあっているマールさんに、僕は助け舟を出した。
「赤い死神の勇者を怒らせたらマズイと思うよ? ここは彼女の心遣いに甘えた方がいいんじゃないかな?」
若干卑怯な気もするが、ちょっとした脅しを入れるとマールさんはあっさりと折れた。
「そういうことでしたら……ですが、誠心誠意サービスさせて頂きますので!」
「それなら問題ないわ! 期待してるわね!」
「ハイ!」
これで丸く収まった。良かった良かったと安堵していると、マールさんが僕に向き直ってお礼を言ってきた。
「あ、あの。しがみついたりしてしまってスミマセン……でも、おかげでとても安心出来ました。……ところで町娘はお嫌いですか?」
「へあっ!? え、ちょっと待って何の話!?」
「私、男の方にあんなに優しく抱かれたの初めてで……」
ぽっと顔を赤くさせながらもじもじとしているマールさん。よくよく見れば、少々タレ目で温和な整った顔立ちをしてて、先ほどは感じる余裕もなかった体の一部が、激しく自己主張しているとても包容感のあるお姉さんと言った感じで大変美しかった。
そんな彼女に半ば見惚れていると、背後から凄まじい殺気を感じた。
「ねえ、マサヤ。私が必死に戦っている時、そう言えばそこの女とイチャコラしてたわね?」
「いやいやいや? 誤解でしかありませんが?」
「じゃあなんで今! 見惚れていたのよ! あなたは私のパートナーでしょう!!」
「それ今関係ある!?」
「えっ、あなたは勇者様の恋人なのですか!?」
「「違う(わ)よ!!」」
「え、えぇー……」
複雑な僕達の関係を前に、マールさんは困ったように眉根を寄せるのだった。
それから何とか二人の誤解を解き、僕達はマールさんの両親が経営しているという宿屋へと向かう。以外に近い場所で、立地的には全然悪くなさそうな場所だった。見た目も多少はボロいのだが、掃除は行き届いているように感じる。
「ここが私の家、“眠れるにゃんこ亭”です!」
「……ちなみに店名は誰がお決めになったので?」
僕の怪訝な顔に不思議そうに返してくるマールさん。
「お父さんですけど?」
まさかのそっち! それだけで不安になってくる。大丈夫なんだろうかこの宿。僕がおののいている間に、マールさんは店内に向かって声を張り上げる。
「お父さん! お母さん! お客様よー!」
「な、なんだってー!?」
「い、一体どんなお客様!? もしかして神様!?」
「いえ、普通(?)の人間です」
店内のカウンターで待っていると、大慌てで奥から腰の低そうなおじさんと年若く見える綺麗な美人が出てきた。
「いらっしゃいませ、ようこそ“眠れるにゃんこ亭”へ! 今日はお泊りですか、お食事ですか?」
おじさんがへこへこと頭を下げながら言ってきたので、僕は後ろにいたリアを振り返って尋ねた。
「リア、宿はここでいいと思う?」
「店名が微妙だけどいいと思うわ!」
だから、このポンコツ勇者は! 見ろ、微妙って言われたおじさんが見るからにへこんでるじゃないか!
「いえ、私のネーミングセンスが悪いのは解ってるんです……お客さん、どうか気にしないでください……」
「気にしないわ!」
もうやだこの勇者。
「お父さん、こちらの勇者様は私があいつらに捕まりそうになっていた所を助けてくれたの! それだけじゃなくてね、何と借金の証文も破棄してくれたのよ!」
「な、なんだって! そりゃ本当かいマール!」
「あらあらー。凄いわねー」
大いに驚いているおじさんとは対象的に、マールのお母さんの方はのんびりとしている。いや、しすぎている。普通もっと驚くんじゃありませんかね?
「勇者様!」
「わっ何っ!?」
おじさんはカウンターを華麗に飛び越えると、リアの前で着地して綺麗な土下座を決めた。
「わ、我が家を救って頂いてお礼の言葉もありませんっ!!」
「勇者様ー、大変感謝しておりますー」
その横にマールのお母さんもひざまずいて深々と頭を下げる。突然の事にあわあわと慌てるリアは、僕に助けを求める視線を投げてきた。仕方ない。
「あの、成り行き上助ける事になっただけですので、頭を上げてください。それにその話についてはマールさんと話を着けてますので、これ以上のお礼は必要ありませんよ」
僕が二人を支えるように立たせて、事情を説明するとおじさんはぽろぽろと泣き出してしまった。
「娘の危機ばかりか家まで救って頂いたのに、その程度のお礼でいいとは……勇者様はやはり神の使いですなあ」
「あらあらあなたったら、お客様の前で泣いたりしてはいけませんよー」
マールのお母さんがぽんぽんと旦那の背中を優しく叩いて慰めている。
「そうだな、メイヤ。ここはマールの約束通り最高の歓迎を以ってお礼にするとしよう」
「よろしくお願いします、えっと、僕はマサヤと呼んでください。彼女はリアです」
「よろしく頼むわね!」
「はっ、これはこれは。私はジョスともうします。こちらが家内のメイヤ、娘のマールについてはもうご存知でしょう」
ぺこり、と一家揃って頭を下げられ、釣られて僕も頭を下げた。反応の遅れたリアが慌てて追随しているのが少しおもしろい。
「それではお泊り頂けるとのことで、何泊の予定ですか?」
「どうする? リア」
「わからないわ!」
聞いた僕がバカだった。
「とりあえず一週間、お願いします」
「はい、料金は前払いになっておりますが、よろしいですか?」
「もちろんです。いくらですか?」
「お二人で一週間食事込ですと銀貨1枚ですね」
安いのか高いのか今一解らないが、この家族に限ってこちらをたばかる事もないだろう。僕は荷物から銀貨一枚を取り出して手渡す。
「はい、確かに!」
「ではこれがお部屋の鍵です。お食事は朝と夜はご用意しておりますがお昼はご自分でご用意して頂くようになっております」
「わかりました。とりあえず部屋に行こうか、リア」
「ええ!」
そして何の疑問も抱かずに僕らは部屋に入り、荷物を下ろした。二人でふうっと一息ついたところで、不穏な沈黙が落ちる。
「……ってここ、二人部屋じゃないのっ!?」
「今気づいたのかよっ!? っていうか僕も気づかなかったよ!?」
大急ぎでジョスさんのところへ行って部屋を一人部屋に変えてもらったのは当然の事だった。
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