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異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

命のやりとり

 王都の東門で魔力枯渇を引き起こしてしまった原因は僕が誰かの真摯な願いと僕の願いが合わさった結果のように見える。僕が思うに、ひょっとして僕の能力というのは「他人の願いと自分の願いが合致した」際に発揮されるんじゃないかと思うようになった。

 「東門事変」と呼ばれる潜伏犯罪者がまとめて捕縛されてしまうという大事件を起こしたにも関わらず、僕たちは見てみぬ振りをして町の外へと出た。ありていに言って逃げ出したのである。だって、どう考えても面倒事の気配しかしないし……。

「さあ、ついたわ! ここが王都の東に広がる大平原ね!」

 リアの言葉通り、僕達の目の前には見渡す限りの草原が広がっている。ところどころ魔物らしき影がうろついているのを見て、僕はちょっとした感動と同時に恐怖も感じた。これから初めての戦闘がはじまるのだ。

 ちなみに装備は東門へと至る道中で確保していた。僕は平均的なロングソード、リアは愛用の剣を既に持っていた為、後は二人分の軽装鎧等を購入して装備している。

「えーっと、ゴブリンは……いたわね!」

 遠くを見やるリアが早速発見したようで、ゴブリンが何匹かまとまっているのを僕も確認する。討伐証明は三体以上からということだったので、丁度三匹いてくれたのはありがたい。

「さ、行くわよマサヤ!」

「ちょっと待ってくれよ、リア! その前に何か作戦を考えないと!」

「そんなもの必要ないわ。だって私達は勇者なのだから! おりゃああああ!!」

 何の保証もない言葉とともに、雄叫びを上げてゴブリンのグループへと突っ込んでいくリア。折角こちらに気付いていなかったのに、相手に十分な構えを取らせるに足る時間を与えてしまった。

「ああ、もう、待ってってば!」

 仕方なしに僕も初めて使うロングソードを腰から抜き放ち、リアを追うように突っ込んでいく。


「ギギッ!?」

「ギイィー!」

 こちらをハッキリと敵として認識しているゴブリン達。そこへ、大剣を大上段に構えリアが切りかかった。

「ぬあああああぁぁぁぁ!!!」

 裂帛れっぱくの気合と共に飛び上がり、粗末な盾を構えているゴブリンを一撃で粉砕した。文字通り、粉砕である。ゴブリンの体がはじけ飛び、内蔵やその他もろもろが四散した。

「あ……れ……」

 僕はその光景を見て思わず足を止めた。何故なら、僕はもっと動揺すると思っていたのだ。これだけの惨事を前にして、何も感じない自分自身に戸惑っていたのだ。僕が足を止めている間にも、リアは横薙ぎになぎはらい、残り二体も真っ二つにして戦闘はあっさり終わってしまった。

「っていうか僕の出番ないじゃん」

「ふー、お疲れ様マサヤ! やっぱりゴブリンだとこんなものねー」

 言いながらも然程疲れた様子を見せないリアを前に、僕は曖昧な笑みを返すことしか出来なかった。

「全部リア一人で片付けちゃったね……」

「あっ、そう言えばマサヤに経験を積ませるっていうのも目的だったわ! ごめんなさい、つい頭に血が上って全滅させちゃった」

 恐ろしく凶悪な事を可愛らしく言えるのは、ある意味才能だと僕は思う。

「でもゴブリンなんていっぱいいるし、次はマサヤ主体でやってみましょう!」

「解ったよ、ここでやらなきゃ、いけないんだよね」

 命を自分の手で終わらせる。とどめを刺す。現代日本人の高校生でしかない自分にはやはり忌避感が拭えないが、それでもやらなければ先へは進めない。

「あ、あっちにもう一グループあるわよ! マサヤ、今度こそ活躍してよね!」

「あ、ちょっと待ってリア! 一応魔石を回収出来ないか確認しておこうよ!」

「それもそうね」

 リアのまさに爆破するような打撃で木っ端微塵になった死体を見ながら、やはり僕は想像していた嘔吐や気持ち悪さを感じること無く、むしろ当然のように千切れた体に手を突っ込んで魔石を探る作業をこなす。生暖かい感触が嫌だなと思ったが、それだけだ。おかしい。どうして僕はこんなにも平然としていられるのだろう?

「あ、横薙ぎにした二体は丁度魔石の位置に近いところをぶった切ってたわ!」

「こっちも魔石、見つけたよ」

 二人して血まみれになりながら、魔石を回収する。冒険者っていうのは、こんなにも血なまぐさいものなんだな、と今更のように思ってしまった。

「さて、それじゃあ綺麗にしましょうか?」

「えっ? どういうこと?」

「だってこのままじゃ血の匂いがついていやでしょ? クリーンの魔法かけなきゃ」

「クリーン……?」

「あ、そっか。マサヤは異世界人だから知らないのよね。クリーンっていう魔法はね、体の汚れを落とす魔法なの」

「えっ? それじゃあお風呂とかに入らなくても済むの!?」

「……お風呂だなんて、マサヤは随分贅沢を言うのね?」

「僕達の国ではお風呂なしの方が珍しい程だったからね」

「そうなの。豊かな国だったのね……そう言えば窓から見た景色も、凄く沢山の人がいて、整然と歩いていたり身なりが良かったりしたわね……」

 異世界の差を変な所で実感していると、リアがクリーンの魔法とやらを唱えた。

「クリーン!」

 リアから光が一瞬立ち上り、血まみれの体を浄化しようと作用しかけたところで、まるでろうそくの火が消えるようにその光が立ち消え、体は元の血塗れのままだった。

「あれ? おかしいわね……」

「ねえ、リア。さっき僕魔法使ったよね」

「あっ」

 そうなのだ。東門で“人の願いを叶える魔法”を発動させたのだから、この辺り一体のマナは枯渇したままのはずなのである。

「もうっ!? どうするのよマサヤ! 血塗れのまま王都に帰るなんて私は嫌よ!!」

「そんな事言っても仕方ないじゃないか、僕だってまさかあんな事になるなんて思いもよらなかったんだから」

 二人で言い合いをしていると、先程リアが見つけたゴブリンのグループがこちらの様子をうかがいながらジリジリと迫ってきているのを感じた。

「リア、話は後だ。とりあえずあのゴブリン達を討伐しよう!」

「もう、わかったわよ!」

 今度は僕が先にゴブリンの中へと突っ込んでいき、リアがその後ろからサポートしてくれる。

「やあああぁぁぁ!!」

 気合を入れるために大声を張り上げ、ゴブリンの一匹に切りかかった。

「ギギギギッ」

 ガインッ! と火花が散り、ゴブリンの持つ剣と鍔迫り合いの形になる。しかし、徐々に僕のほうがゴブリンを押し込んでいき、まるで体がそう出来る事を知っていたかのようにゴブリンの剣を払い、無手にさせた相手を袈裟懸けさがけに切り捨てた。

 初めての感触だった。剣が肉を断つ、何とも言えない手応え。僕の剣を受けたゴブリンは二、三度けいれんした後に絶命した。

 死んだ。敵をやっつけたのだ。しかし何の感慨も浮かばない。ただ自分の荒い呼吸だけが聞こえる。

「マサヤ! 何をぼさっとしてるの!」

 そこへ、リアの怒鳴り声が飛び込んできて我に帰ったときには、反射的に剣を真後ろへと薙いでいた。キンッと金属の擦れる音がし、たたらを踏んだゴブリンを今度は突きで攻撃する。

「ギエエエッ!」

 断末魔の悲鳴を上げて、後ろから襲ってきたゴブリンは倒れた。

「こっちも、終わりよっ!!」

 リアの方を振り向くと、そちらも丁度決着が着いたのか、頭部が無くなっているゴブリンがゆっくりと倒れていくのが見える。ふうっとため息を一つ零したリアは、僕の方へと駆け寄ってくると心配そうな顔で僕を覗き込んできた。

「……やっぱり初めての実戦は怖かった?」

「それが、変なんだ。何も感じないんだよ。恐怖も、達成感も、何も。ただ作業として終わっただけ、みたいな」

 すると、リアは一瞬悲しそうな顔を浮かべ、それから同情するような眼差しを向けてくる。

「そう、そうなんだ。やっぱりあなたも“勇者”なのね」

「どういうことなの、リア?」

「あのね。勇者は“躊躇ためらってはいけない”のよ。事に戦闘においては、私達は加護と言う名の呪いがかかっているのよ……」

 そう語るリアは、まるで天を睨むように顔を上げた。あれだけ創造神様を尊敬していたリアとは同一人物とは思えない、その行動に僕は謎の戦慄を覚えた。

「で、でも創造神の女神様は僕達の事を思ってそうしてくれてたんだと思うよ」

「えっ?」

「だって、僕達が恐怖を克服できなかったら、この先に進めないじゃないか」

「…………」

 リアは黙って何かを考え込んでいるようだった。

「だから、僕は今更だけど感謝してるんだと思う」

「そっか。マサヤはそう考えるんだね。わたしとは、ちょっと違うんだね」

 そう呟いたリアの瞳は、悲しみをたたえていて、全くいつもの彼女らしくなかった。だから僕はいつも通りの事をする。リアの頭に手を置いてグシャグシャに頭を撫で回す。

「ちょっ、やめっ、汚いじゃないのー!」

「いいじゃん、どうせクリーンで綺麗になるんだし!」

「今は使えないじゃない! そんな事するならこうよっ!」

 悪戯な顔のリアが、返り血をべったりと浴びた体で抱きついてきた。

「ちょっとぉ!? それは反則なんじゃないんですかねぇ!?」

「わ、私だって恥ずかしいのよっ!?」

「じゃあなんでやっちゃうの!?」

 全く、これでこそリアだ。僕はあたふたしながらもいつも通りの彼女に戻ったことに安堵し、僕たちはひとしきりじゃれあった後に、魔石を取り始めるのだった。

「異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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