異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
バラされちゃった。
「それでは……マサヤ殿はこの世界がおかれてる状況については知っているかね?」
国王様の言葉に、僕はしっかりと頷いた。
「はい、創造の女神様に教えて頂きましたので」
その答えに、おおと感嘆の声が上がる。見ると、国王様も驚いているようだった。
「何と! 勇者殿は創造神様にお会いになったのか!」
「ええ、その時に自分の能力についても教わりました」
「では、マサヤ殿の能力というのは……」
「申し訳ありませんが、それは国王様や皆さんにもお教えすることは出来ません」
僕が拒否すると、国王様の眉根が寄った。不機嫌とまではいかないが、疑問を持っているのだろう。しかし、僕の能力は余りにも破格すぎる。この力を狙って良からぬ事を企む者がいても不思議ではない。そういった懸念が捨てきれない以上、おいそれとは公開するべきじゃないと思ったのだ。
「なんで!? マサヤの“人の願いを叶える能力”を秘密にしなきゃダメなのかしら!」
シン――と静まり返る室内。その内容が余りにも強烈なインパクトを与えたのだろう、国王様や王妃様まで固まってしまっている。僕は、無言で立ち上がると、え? え? と戸惑っているポンコツ勇者の後ろに立つと、両手をグーにして思いっきりこめかみをグリグリとえぐりこんだ。
「痛たたたたたた!? 何するの止めて止めて!?」
「僕の考えを一ミリも理解出来ないような頭はいらないだろう!? このままえぐり取ってやろうか!」
「だって秘密だなんて言わなかったじゃない痛たたたたた!?」
「はっ!? お、王女殿下に向かってなんたる無礼な! やめんかっ!!」
そこで、さきほど王族がはしゃいでいた時に咳払いで場を締めた文官らしき人物が制止してきた。
「助けてー、アルマドー……!」
「衛兵、そこの無礼者を取り押さえよ!」
ガシャン、と鎧を鳴らしてアルマドさんなる人の言葉通りに僕に向かって構えてくる衛兵達を見て、流石にヤバイと思って思わず攻撃を止めてしまった。その途端にリアはずるずると王様の下へと這いずると、泣きながらしがみつく。
「お父様ー! あいつが、あいつが虐めるのー!!」
「リア、お主一体いくつになったと思っておるのか!? その程度の事でこの父に泣きつくでない!」
言っている事は正論なのに、王様は痛んでいるであろう頭をなでなでしながらメッチャ甘やかしていた。
「衛兵、構えを解け。今のはリアが悪い。すまんな、アルマド宰相」
「いえ、陛下がそう仰るなら……」
王様の言葉に衛兵たちは定位置へと戻っていき、宰相であるらしいアルマドさんも納得はしてないぞ、とこちらを睨みながらも頷いた。
「アナタ、いい加減リアを甘やかすのは止めてくださいまし。そんな事だからいつまで経ってもこの子は泣き虫なのですよ?」
「いや、そうは言ってもワシは厳しく接しているつもりなのだが」
いや、そんなメッチャ頭なでくりまわしといて説得力ねえよ。
「ぐすんぐすん……どうして秘密にしなくちゃいけないのよー」
泣き虫勇者が王様にしがみついたまま僕を振り返る。正直、説明するのも馬鹿らしいがもうこの部屋にいる人間は全員知ってしまった。今更なので解りやすく教えてやることにする。
「いいかい、リア。僕の力は“他人の願いを叶える”という便利極まりない願いだ。もちろん、僕自身はこの能力を悪用するつもりはない。でも人間の中にはどんな時でも自分の利益を優先する愚かな者が必ずいる。そういう相手が出た場合に、悪用されたり、最悪僕自身が狙われる事になりかねないだろう?」
懇切丁寧に説明してやると、ようやく脳みその理解が追いついたのかハッとした顔で僕を見据え、そしてまたじわっと目尻に涙を溜める。
「うぐっ ぐすっ 勝手に喋っちゃってごめんなさいいいぃぃ!!」
わんわん泣いている王女を見ても、周りを取り囲む人達がため息程度で済ませているのを見て。僕はこれがこの人達の日常なのだと悟ってしまった。
「リア、そういう事だ。正直それほどの能力であれば、もう魔王軍には勝ったも同然と言えるが……」
「あ、申し訳ありません王様。それは創造の女神様から言われているのですが、不可能らしいのです」
「どういうことか?」
「魔族やそれにくみする者には邪神の加護というものがあり、創造の女神様の加護と相容れない存在らしく、例え誰かが“魔王を滅ぼしてください”と願ったとしても、それは叶わないとのことです」
「ふむ……そうすると使い方に限りがあるのう」
悩ましいと言外に匂わせる王様に未だしがみついている(ってかいい加減親離れしろ、文字通りの意味で)リアが、窺うような目線で僕を見つめた。
「あの、もう一つの秘密はやっぱり喋っちゃダメなの?」
「いやもうこの際だ。王様にも知っていてもらおう」
その瞬間、リアはがばっと起き上がるとうきうきしたような足取りで僕の方へと戻ってきて、手を両手でぎゅっと握って涙の跡を残した顔でごめんね? と呟いた。
「はあ、もういいよ」
「ホント! ありがとう、マサヤ!」
「わっ!?」
感極まったのか、リアがぎゅっとタックルするように抱きついてきた。あのー、リアさん。仮にも親御さんの前でそのような行動は――って、メッチャ見てる! お父様がこちらをガン見してらっしゃる!? 気のせいか薄っすらと青筋すら見えるんですけど!?」
「リ、リア! 近いから!」
「あ、ご、ごめんなさい、つい」
「は、ははは、マサヤ殿? 仲が良いのはけ、結構だが、節度は守ってもらわんとな? 解っとるよな?」
王様からビシバシ飛んでくる殺気にくらくらしつつも、僕は高速で首を縦に振った。
「おほん。それで、もう一つの秘密とは?」
ナイスアシスト、アルマド宰相! 僕はその言葉に飛びつくように若干早口になりつつも説明する。
「それは僕がその能力を発動した際、周辺のマナが完全に枯渇するらしいということです。なので敵も味方も関係なく、完全にマナを使うあらゆる攻撃ができなくなります」
「そ、それはまた凄まじい……では、戦場でそのような能力を使えば後は完全に身体能力の差で勝負が決まってしまうな」
王様の言葉に、泡を食ったように慌てたのはアルマド宰相だった。
「王様! これは大変危険な能力ですぞ! もし、戦場でマナによる戦闘が不可能になった場合、我々人類に勝ち目はありません!」
「えっ!? そうなの!?」
まさかの敗北宣言に、僕は驚きを隠せなかった。そんな僕に、王様が何かに気付いたように補足してくれる。
「ああ、そうか。マサヤ殿は異世界人であるから、この世界の基本戦術等には疎いのだったな。我々人類は魔族と呼ばれる種族に比べて非常に劣るのが実情だ。中には伝説級の達人など、一人で魔族とも互角に渡り合える者もいるが、基本的に戦争は兵数が趨勢を決める。そして一般兵達は、魔族と戦う為にマナを用いて身体能力強化等の魔法を使っているのだよ」
「それじゃあ僕が戦場でうっかり誰かの願いを叶えたら……」
「人類に勝ち目はないな」
……これは僕が思っていた以上に使い勝手が悪い能力だぞ。誰かの願いを叶えたら、その戦闘では魔法が使えなくなるのがこれほどの痛手になるとは。
「……とにかく、マサヤ殿には大規模戦場においてはその能力を使わないでもらいたい。構わないかな?」
「解りました、そういう事情であれば仕方ありません。僕自身は自分でもまだ良くわかっていませんが、創造の女神様のご加護のおかげで魔法を使わずとも身体能力強化が施されているらしいので、ある程度は戦えると思います。でも、やはり鍵となるのは……」
そこで、全員の視線が集中していることに気がついたリアは、可愛らしくこてんと首を傾げていた。
「ほえ?」
国王様の言葉に、僕はしっかりと頷いた。
「はい、創造の女神様に教えて頂きましたので」
その答えに、おおと感嘆の声が上がる。見ると、国王様も驚いているようだった。
「何と! 勇者殿は創造神様にお会いになったのか!」
「ええ、その時に自分の能力についても教わりました」
「では、マサヤ殿の能力というのは……」
「申し訳ありませんが、それは国王様や皆さんにもお教えすることは出来ません」
僕が拒否すると、国王様の眉根が寄った。不機嫌とまではいかないが、疑問を持っているのだろう。しかし、僕の能力は余りにも破格すぎる。この力を狙って良からぬ事を企む者がいても不思議ではない。そういった懸念が捨てきれない以上、おいそれとは公開するべきじゃないと思ったのだ。
「なんで!? マサヤの“人の願いを叶える能力”を秘密にしなきゃダメなのかしら!」
シン――と静まり返る室内。その内容が余りにも強烈なインパクトを与えたのだろう、国王様や王妃様まで固まってしまっている。僕は、無言で立ち上がると、え? え? と戸惑っているポンコツ勇者の後ろに立つと、両手をグーにして思いっきりこめかみをグリグリとえぐりこんだ。
「痛たたたたたた!? 何するの止めて止めて!?」
「僕の考えを一ミリも理解出来ないような頭はいらないだろう!? このままえぐり取ってやろうか!」
「だって秘密だなんて言わなかったじゃない痛たたたたた!?」
「はっ!? お、王女殿下に向かってなんたる無礼な! やめんかっ!!」
そこで、さきほど王族がはしゃいでいた時に咳払いで場を締めた文官らしき人物が制止してきた。
「助けてー、アルマドー……!」
「衛兵、そこの無礼者を取り押さえよ!」
ガシャン、と鎧を鳴らしてアルマドさんなる人の言葉通りに僕に向かって構えてくる衛兵達を見て、流石にヤバイと思って思わず攻撃を止めてしまった。その途端にリアはずるずると王様の下へと這いずると、泣きながらしがみつく。
「お父様ー! あいつが、あいつが虐めるのー!!」
「リア、お主一体いくつになったと思っておるのか!? その程度の事でこの父に泣きつくでない!」
言っている事は正論なのに、王様は痛んでいるであろう頭をなでなでしながらメッチャ甘やかしていた。
「衛兵、構えを解け。今のはリアが悪い。すまんな、アルマド宰相」
「いえ、陛下がそう仰るなら……」
王様の言葉に衛兵たちは定位置へと戻っていき、宰相であるらしいアルマドさんも納得はしてないぞ、とこちらを睨みながらも頷いた。
「アナタ、いい加減リアを甘やかすのは止めてくださいまし。そんな事だからいつまで経ってもこの子は泣き虫なのですよ?」
「いや、そうは言ってもワシは厳しく接しているつもりなのだが」
いや、そんなメッチャ頭なでくりまわしといて説得力ねえよ。
「ぐすんぐすん……どうして秘密にしなくちゃいけないのよー」
泣き虫勇者が王様にしがみついたまま僕を振り返る。正直、説明するのも馬鹿らしいがもうこの部屋にいる人間は全員知ってしまった。今更なので解りやすく教えてやることにする。
「いいかい、リア。僕の力は“他人の願いを叶える”という便利極まりない願いだ。もちろん、僕自身はこの能力を悪用するつもりはない。でも人間の中にはどんな時でも自分の利益を優先する愚かな者が必ずいる。そういう相手が出た場合に、悪用されたり、最悪僕自身が狙われる事になりかねないだろう?」
懇切丁寧に説明してやると、ようやく脳みその理解が追いついたのかハッとした顔で僕を見据え、そしてまたじわっと目尻に涙を溜める。
「うぐっ ぐすっ 勝手に喋っちゃってごめんなさいいいぃぃ!!」
わんわん泣いている王女を見ても、周りを取り囲む人達がため息程度で済ませているのを見て。僕はこれがこの人達の日常なのだと悟ってしまった。
「リア、そういう事だ。正直それほどの能力であれば、もう魔王軍には勝ったも同然と言えるが……」
「あ、申し訳ありません王様。それは創造の女神様から言われているのですが、不可能らしいのです」
「どういうことか?」
「魔族やそれにくみする者には邪神の加護というものがあり、創造の女神様の加護と相容れない存在らしく、例え誰かが“魔王を滅ぼしてください”と願ったとしても、それは叶わないとのことです」
「ふむ……そうすると使い方に限りがあるのう」
悩ましいと言外に匂わせる王様に未だしがみついている(ってかいい加減親離れしろ、文字通りの意味で)リアが、窺うような目線で僕を見つめた。
「あの、もう一つの秘密はやっぱり喋っちゃダメなの?」
「いやもうこの際だ。王様にも知っていてもらおう」
その瞬間、リアはがばっと起き上がるとうきうきしたような足取りで僕の方へと戻ってきて、手を両手でぎゅっと握って涙の跡を残した顔でごめんね? と呟いた。
「はあ、もういいよ」
「ホント! ありがとう、マサヤ!」
「わっ!?」
感極まったのか、リアがぎゅっとタックルするように抱きついてきた。あのー、リアさん。仮にも親御さんの前でそのような行動は――って、メッチャ見てる! お父様がこちらをガン見してらっしゃる!? 気のせいか薄っすらと青筋すら見えるんですけど!?」
「リ、リア! 近いから!」
「あ、ご、ごめんなさい、つい」
「は、ははは、マサヤ殿? 仲が良いのはけ、結構だが、節度は守ってもらわんとな? 解っとるよな?」
王様からビシバシ飛んでくる殺気にくらくらしつつも、僕は高速で首を縦に振った。
「おほん。それで、もう一つの秘密とは?」
ナイスアシスト、アルマド宰相! 僕はその言葉に飛びつくように若干早口になりつつも説明する。
「それは僕がその能力を発動した際、周辺のマナが完全に枯渇するらしいということです。なので敵も味方も関係なく、完全にマナを使うあらゆる攻撃ができなくなります」
「そ、それはまた凄まじい……では、戦場でそのような能力を使えば後は完全に身体能力の差で勝負が決まってしまうな」
王様の言葉に、泡を食ったように慌てたのはアルマド宰相だった。
「王様! これは大変危険な能力ですぞ! もし、戦場でマナによる戦闘が不可能になった場合、我々人類に勝ち目はありません!」
「えっ!? そうなの!?」
まさかの敗北宣言に、僕は驚きを隠せなかった。そんな僕に、王様が何かに気付いたように補足してくれる。
「ああ、そうか。マサヤ殿は異世界人であるから、この世界の基本戦術等には疎いのだったな。我々人類は魔族と呼ばれる種族に比べて非常に劣るのが実情だ。中には伝説級の達人など、一人で魔族とも互角に渡り合える者もいるが、基本的に戦争は兵数が趨勢を決める。そして一般兵達は、魔族と戦う為にマナを用いて身体能力強化等の魔法を使っているのだよ」
「それじゃあ僕が戦場でうっかり誰かの願いを叶えたら……」
「人類に勝ち目はないな」
……これは僕が思っていた以上に使い勝手が悪い能力だぞ。誰かの願いを叶えたら、その戦闘では魔法が使えなくなるのがこれほどの痛手になるとは。
「……とにかく、マサヤ殿には大規模戦場においてはその能力を使わないでもらいたい。構わないかな?」
「解りました、そういう事情であれば仕方ありません。僕自身は自分でもまだ良くわかっていませんが、創造の女神様のご加護のおかげで魔法を使わずとも身体能力強化が施されているらしいので、ある程度は戦えると思います。でも、やはり鍵となるのは……」
そこで、全員の視線が集中していることに気がついたリアは、可愛らしくこてんと首を傾げていた。
「ほえ?」
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