裏路地の異世界商店街

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第八話 『そして依頼が舞い込む─2』

 事務所から歩いて五メートル程歩いた所に、ボックルちゃんのお店はあった。その間に商店街の店を色々覗いてみたが、青果店や薬局など、私のいた世界の商店街と差ほど変わらない店が並んでいるのが分かった。

 ボックルちゃんの店というのは、木造の二階建ての店舗で、一階部分が商店になっていた。一階と二階の中間に位置する所に、文字らしきものが書かれた板が取り付けられている。恐らくあれが看板なんだろう。文字読めないけど。

「前来た時よりボロくなってないか?」
 第一声を放ったネロの尻に向かって、私は蹴りをいれる。自分でも惚れ惚れするような蹴りが入ったからか、ネロは尻を抑えてその場を跳び跳ねた。

「おーいみんなー。暇な探偵連れてきたぞー」
 店の中に向かってボックルちゃんが言う。「僕は暇じゃない!」と言ってるネロの事は無視だ。
 すると中から「わー探偵だー!」「連れてきたんだー!」「暇な探偵だー!」と言いながら、ワラワラとボックルちゃんと同じくらいの背丈の子が五人ほど出てきた。

「ボックルちゃん……この子達は?」
「俺のきょうだいだ! 左からモックル・コックル・ノックル・ヨックル・トックル。ノックルとヨックルが女の子で、それ以外はみんな男だ」
 ボックルちゃんの紹介に合わせて、「どもー」「こんちはー」「お姉さん誰ー?」と口々に言い始める。結構……いや、かなり可愛い。


「さて……じゃあ早速だけど依頼内容に入るか。舞、ネロ、店に入ってくれ」
 ボックルちゃんに促されるがままに、私達は店内に入る。
 店内は広くて、色々なものが置いてある。果物や精肉といった生物、パンや紙袋に入った揚げ物といった食料雑貨や 、絆創膏・包帯といった救急用品等もあった。

 一目見ただけでも、様々な商品が置いてあるのが分かる。瓶詰めになったオレンジ色の液体など、正体が分からないものもあるけど。(後でネロが、瓶詰めの正体はコンソメスープだと教えてくれた)
 しかし……一体何が問題なのだろう? 見たところ店舗には問題無いし、おかしいと思ったところも無い。



 そんな事をネロに言ったら、「舞、この店の特徴はなんだ?」と答えた。
「特徴?……商品の種類が多いってところかな?」
「そうだ。この店の商品は本当に色々なものが置いてある……では、?」
「何屋って……」
 私は店内を見渡して、商品を改めて確認する。
 食料品や薬品、本や生鮮食品──等々。

「あ、そうか!」
 そこまで見て私は気がついた。思わず頭の中で閃いた事を、そのまま口にする。

 ネロが「正解だ」と言いたげに頷く。ボックルちゃん達きょうだいは、複雑な顔をしていた。


「舞にも分かっただろう。なぜこの店が繁盛しないのか──答えは、『何を売りたいのか分からないから』だ」
 今私達は、一階の店舗を出て二階の食卓を囲んでいた。二階はボックルちゃん達の生活している場所だった。
「事務所に来たとき、ボックルは『雑貨屋を営んでる』と言っていたが、それも正しくない。食料品や薬品も売っているからな。結局色々有りすぎて、コイツ自身も自分が何を売っているのかが分かんないのさ」言いながらネロは、ボックルちゃんの頭を小突く。

「でも……色々置いてあるって便利じゃない? 私の世界にもこういう店はあったわよ? コンビニって言うんだけど」
 私の反論にネロが頷く。
「確かにそういう考え方も出来る。しかし……いかんせん場所が悪い」 
「どういうこと?」
「ここは商店街だ。精肉には精肉のプロが、青果には青果のプロが、薬品には薬品のプロがそれぞれ店を構えている。色々手広くやっても、みんな別の店を選んでしまうのさ」

 ネロの言葉に、私は納得してしまった。コンビニは確かに便利だ。しかしコンビニ店員がみんな食品や薬品のプロという訳ではない。 
 どうせ買うなら、その道のプロに相談して買いたい──そう思う人が、この世界には多いんだろう。


「やるべき事は一つだ」
 ネロが食卓のテーブルに肘をついて話を続ける。

「この店をどんな店にするか──まずそれを決めよう」



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