お姉ちゃんが欲しいと思っていたら、俺がお姉ちゃんになったので理想の姉を目指す。
53話 弟が拗ねるのは大体しつこい年長のせい。
「うぇええ!ごめんよぉ!お姉ちゃんが悪かったから!お姉ちゃんが悪かったからぁ!ごめんやでぇ!嫌ばだいでぇぇぇぇ!!」
「……」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
ツーンと無表情でそっぽを向いているはけーちゃん。泣き叫んでいるのは……私です。
どうしてこんなにも恐ろしい状態に陥ってしまっているのか。それは先ほどの私とみーちゃんによる波状攻撃ならぬ波状愛情表現が行き過ぎてしまったが故である。つまりしつこすぎたしやり過ぎてしまったわけですネェ!
「わいは。けーもそんなに拗ねなくてもいいじゃなーい」
「……」
「ありゃ、これはマジねぇ」
どうやらお母さんから見てもこれはマジらしい。誰がこんな惨いことを!!こんな……こんな怒ったけーちゃん初めて見たよ!!
「あははは……やりすぎちゃったね……」
「うぅぅ……どうしよぉ!私お姉ちゃんじゃなくなっちゃうよぉ!」
「そう簡単にお姉ちゃんじゃなくならないから安心しなよー」
私よりもお姉ちゃん歴の長いみーちゃんが言うのならばそれはきっと真実であろう。それを信じるべく私はすがるようにけーちゃんを見る。
「……けーちゃんほんと??」
「姉ちゃん嫌い」
「うわぁぁあああああああああああああああああ!!!」
けーちゃんは蛆虫でも見るような冷ややかな視線を寄越し呟くとまたプイッとそっぽを向いてしまった。
「うわぁあ!みーちゃんの嘘つきぃ!私嫌われたぁ!お姉ちゃん失格だぁ!」
「まぁまぁ」
私はみーちゃんにぽかぽかと拳を振る。みーちゃんは困ったように笑ながら受け止めてくれた。う、優しい、優しいけれど……この胸にある寂しさは埋められやしないのさ!うぅぅ……。
「(泣いている琴ちゃんかぁいい……ふへへへへへ……)じゅるり……」
「……!!?」
今、ぞわりと肌が粟立つのを感じた。なんというかみーちゃんからそこはかとなく邪悪な気配を感じたのだ。ふと顔を上げてみればいつもの可愛らしいお顔。天使や。
「気のせい……か?」
「琴ちゃんー?どうしたのー?もう甘えなくてもいいんでちゅかー?」
「なんで赤ちゃん言葉?!」
くっ!なんか今日1日で私の築き上げてきたものが崩れて言っている気がする……。元から強固なものじゃなかったけれど、今日の感じはそれを加味してもボロボロよ!さしずめ砂の城ね!
私は少し名残惜しいが、えいやっとみーちゃんの腕の中から抜け出る。するとみーちゃんはあー……と少し寂しそうに……いやめちゃくちゃ寂しそうにしていた。それこそ子の巣立ちを見送る聖母の寂しげな笑み……。
その姿を見ると今すぐにでも飛びつきたくなる。ごめんなさいて言って抱きしめられたい……。
って!ダメよ!ダメダメ!ここで甘えたらダメよ!これは巧妙に隠された罠!私をお姉ちゃんからバブみを感じていたいJCにしてしまう罠よ!
いいこと?私はお姉ちゃんになりたいのであって、決して自分がナデナデおーよしよしよしされたい訳では無いの。弟達に「姉はいいぞ」というのを教えてあげたいの。いえ、教えるだけではない。きちんと彼らを導いてあげたい……。甘えたい時に甘えさせてあげるお姉ちゃんになりたい。つまり私がバブみを提供する側になりたいのだ!
「だ、騙されないだからね!」
「ぷりーず、かむばっくみー」
「のーせんきゅー!」
危なかった……。あと少し遅ければ私は抗えないバブみによって落とされていただろう。みーちゃんは尚も残念そうに人差し指を咥えながら上目遣いで……えぇい!効かぬ!効かぬわー!我が道に寄り道など存在せぬ!常に一本道!……寄り道が本線な気がするのは気のせい。
「あんたらは見て回らないの?」
私とみーちゃんが姉なるものを巡って熱き戦いを繰り広げていると、みーママこと雪さんが声をかけてきた。片手にビールを持ち胡座をかいてる姿は何ともまぁ様になっている。
正にかっこいい大人の姉御みたいな感じだ。私の路線とは異なるがこれはこれで良いものだ。
さて、雪さんが言うようにそろそろ回遊魚モードになっても良い頃合だろう。食べるものは食べたし飲むものも飲んだ。後はゆったり花見に興じるも良し。または公園内を歩き様々な桜を見て売店の喧騒に乗っかるのも良し。どちらでも楽しめるのは間違いない。
しかし私たちはまだまだ動き盛り。ジットしているよりもやはり動く方がいい。ほら、アレだよ。ジーッとしてたってドーにも※自主規制※
「これから行こうかなーって思ってました!ねね!皆も行こう?」
私は子供たちに声をかける。するとみんなもうずうずしていたのか、行くーと返事をくれた。一人を除いては。
「……」
けーちゃんはムスッとしたまま、持ってきたマンガ本を読んでいる。どうやら自分の世界に入り込んでいるようだ。読んでるのは幽霊とかそれに準ずるものをお供に戦うマンガだが、それは置いといて一緒に行きたい。
漫画なんて何時でも読めるし、こういった色々な人の都合が良くて季節物の行事っていうのはその時でしか味わえないものだ。
ある意味桜の木の下で漫画を読むなんてのもその時しか味わえないのかもしれないけれど、でもそれは1人でも出来ること。やっぱり今は皆との時間を大切にして欲しいというのが、私の想いだ。
時間は……取り戻したいと思ってのも取り戻せるものでは無いのだから。
「けーちゃん」
「……」
やっぱり無視されちゃう。でもせめて言うだけ言わなきゃ。伝えるだけ伝えなきゃ。
「もうあんなことしないし、行こ?絶対楽しいよ」
「……」
「それとも私が一緒だと……や?」
「……」
悲しくはある。本当に私と一緒が嫌だって言うならそれは残酷だ。でもそれなら受け入れてけーちゃんと他の子達だけでも楽しんで来て欲しい。私はここで大人しくしてるか、白鳥を見て和んでいるので。本当なら皆の輪に私も入っていきたいけれど、でも1番楽しんで欲しいのは、思い出としてしっかり残して欲しいのは弟達だ。
決して無機質で無感情な人生になんてさせたくない。だって絶対に将来後悔するから。今はただ1人で完結してるのが良くても、大きくなるにつれて人の繋がりはドンドン大切に、そして切っても切れないものになってくる。
そんな時に人の輪に入ること、それに準ずる思い出がなかったら凄く苦労する。
少し早すぎるかもしれない。こーゆー将来のことを考えてとなると、まだ小学生の子供には実感も、そも考えることすら難しいだろう。
だからこそ、今は楽しい、もしくは面倒だと思ってもその中に入っていって欲しい。
けーちゃんはまだ漫画をペラついている。
やっぱりさっきのが相当来ているみたいだ。私が全面的に悪いのだけれど……。
私は表情が暗ーいものになってくのを感じる。必死で笑顔にはしてるつもりなのだけれど、きっと寂しい笑顔になってしまっていることだろう。
私は本当に自分本位だ。前世から何も変わっちゃいない。少しは誰かのために、誰かを思って行動できるようになりたい。今度は後悔のしないように、間違えないようにと思っていたけれど……やっぱり私はダメなんだろうな……。
「……うん。嫌、だよね。しつこくてごめんね。ゆっくりしてて……」
私はけーちゃんにそう言うと後ろを振り返り靴を履く。そして皆も同じようにいそいそと準備をする。
若干だが気まづい雰囲気が流れてしまう。それもこれも私のせいだ。
はぁ……なんでこうなっちゃうかな……。
「…………はぁ」
ズーンと重ーい気持ちを引きずりながら靴を履き終え歩き出す。すると後からため息が聞こえてきた。ついでにパタンと何かを閉じる音。
私はゆっくりと後ろを振り向く。
「メンドイけど……お父さん」
「んーなんだ啓一?」
「金」
「は?」
「だからお小遣い。どうせ見て回るんだから色んな出店見てみたいし。なんか良さそうなのあっても買えないじゃん」
「そりゃ、わかるけど……金、の一言はないだろう……」
「じゃあなんて言えば?」
「パパ、お小遣いちょーだいとか!」
「……きもっ」
「あんた……それはあたしでも引くわ……」
「なんだよ!みんなして!俺だってちょっとなと思ったけど、言い方の訂正的には間違いじゃないだろう!」
先程までの気まづさは何処へやら、一転してまた騒がしくなる。
「まっ、冗談は置いといて……あんたも行ってきたら?たまには子供たちに付き合ってあげなよ」
「……ビール持っていってもいい?」
「あっ?」
「いえ!何でもないです!行ってきます!」
お父さんはお母さんに睨まれるとビシッと背を伸ばし敬礼をした。なんていうか、情けなくないのか父よ……。
お父さんの痴態をよそに、けーちゃんは靴を履き終わり私の隣に立っていた。相変わらずの仏頂面である。
だがそれでもけーちゃんは動いてくれた。一緒に来てくれるつもりなのだ。
私はそれが嬉しくて仕方ない。だけれどさっきまでの陰鬱な気分からの一転なので中々感情の整理がつかずポカーンとしてしまう。
「……」
「あー……さっきのはもうごめんだしウザイけど……でもおれも出店みたいし、ていうか、アイス食べたいし。だからついでだから着いてく」
けーちゃんは仏頂面のままだが、そっぽを向きそう言った。若干だが、頬が赤くなっている。
私は胸がポカポカと温かくなっていくのを感じる。整理のつかなかった心が穏やかになり、陰鬱な気分など吹き飛んでしまう。
つまりなんと言うか……なんと言うか!!
「け、けーちゃんっ……!」
私はそんなぶきっちょなけーちゃんが可愛すぎてたまらず抱きつきそうになる。が、それはさっきやってやらかしてしまっている。しかもそれが原因でおこぷんすかしてしまっているのだ。なので私は自身の体を抱きしめ抑え込む。
静まれー。我が荒ぶる御霊よ鎮まりたまえー。
深呼吸もすーはーすーはーすーはー。
よしっ。落ち着いた。けーちゃん可愛い。よし。
「けーちゃん、いこっ!」
「ふんっ」
私はけーちゃんの手を握り歩き出す。まだまだぶっきらぼうだけれど、でもしっかりと手は握り返してくれた。
抱きつけなかったのは残念ではあるけれど、この右手から感じる温もりがただただ愛おしかった。
「……」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
ツーンと無表情でそっぽを向いているはけーちゃん。泣き叫んでいるのは……私です。
どうしてこんなにも恐ろしい状態に陥ってしまっているのか。それは先ほどの私とみーちゃんによる波状攻撃ならぬ波状愛情表現が行き過ぎてしまったが故である。つまりしつこすぎたしやり過ぎてしまったわけですネェ!
「わいは。けーもそんなに拗ねなくてもいいじゃなーい」
「……」
「ありゃ、これはマジねぇ」
どうやらお母さんから見てもこれはマジらしい。誰がこんな惨いことを!!こんな……こんな怒ったけーちゃん初めて見たよ!!
「あははは……やりすぎちゃったね……」
「うぅぅ……どうしよぉ!私お姉ちゃんじゃなくなっちゃうよぉ!」
「そう簡単にお姉ちゃんじゃなくならないから安心しなよー」
私よりもお姉ちゃん歴の長いみーちゃんが言うのならばそれはきっと真実であろう。それを信じるべく私はすがるようにけーちゃんを見る。
「……けーちゃんほんと??」
「姉ちゃん嫌い」
「うわぁぁあああああああああああああああああ!!!」
けーちゃんは蛆虫でも見るような冷ややかな視線を寄越し呟くとまたプイッとそっぽを向いてしまった。
「うわぁあ!みーちゃんの嘘つきぃ!私嫌われたぁ!お姉ちゃん失格だぁ!」
「まぁまぁ」
私はみーちゃんにぽかぽかと拳を振る。みーちゃんは困ったように笑ながら受け止めてくれた。う、優しい、優しいけれど……この胸にある寂しさは埋められやしないのさ!うぅぅ……。
「(泣いている琴ちゃんかぁいい……ふへへへへへ……)じゅるり……」
「……!!?」
今、ぞわりと肌が粟立つのを感じた。なんというかみーちゃんからそこはかとなく邪悪な気配を感じたのだ。ふと顔を上げてみればいつもの可愛らしいお顔。天使や。
「気のせい……か?」
「琴ちゃんー?どうしたのー?もう甘えなくてもいいんでちゅかー?」
「なんで赤ちゃん言葉?!」
くっ!なんか今日1日で私の築き上げてきたものが崩れて言っている気がする……。元から強固なものじゃなかったけれど、今日の感じはそれを加味してもボロボロよ!さしずめ砂の城ね!
私は少し名残惜しいが、えいやっとみーちゃんの腕の中から抜け出る。するとみーちゃんはあー……と少し寂しそうに……いやめちゃくちゃ寂しそうにしていた。それこそ子の巣立ちを見送る聖母の寂しげな笑み……。
その姿を見ると今すぐにでも飛びつきたくなる。ごめんなさいて言って抱きしめられたい……。
って!ダメよ!ダメダメ!ここで甘えたらダメよ!これは巧妙に隠された罠!私をお姉ちゃんからバブみを感じていたいJCにしてしまう罠よ!
いいこと?私はお姉ちゃんになりたいのであって、決して自分がナデナデおーよしよしよしされたい訳では無いの。弟達に「姉はいいぞ」というのを教えてあげたいの。いえ、教えるだけではない。きちんと彼らを導いてあげたい……。甘えたい時に甘えさせてあげるお姉ちゃんになりたい。つまり私がバブみを提供する側になりたいのだ!
「だ、騙されないだからね!」
「ぷりーず、かむばっくみー」
「のーせんきゅー!」
危なかった……。あと少し遅ければ私は抗えないバブみによって落とされていただろう。みーちゃんは尚も残念そうに人差し指を咥えながら上目遣いで……えぇい!効かぬ!効かぬわー!我が道に寄り道など存在せぬ!常に一本道!……寄り道が本線な気がするのは気のせい。
「あんたらは見て回らないの?」
私とみーちゃんが姉なるものを巡って熱き戦いを繰り広げていると、みーママこと雪さんが声をかけてきた。片手にビールを持ち胡座をかいてる姿は何ともまぁ様になっている。
正にかっこいい大人の姉御みたいな感じだ。私の路線とは異なるがこれはこれで良いものだ。
さて、雪さんが言うようにそろそろ回遊魚モードになっても良い頃合だろう。食べるものは食べたし飲むものも飲んだ。後はゆったり花見に興じるも良し。または公園内を歩き様々な桜を見て売店の喧騒に乗っかるのも良し。どちらでも楽しめるのは間違いない。
しかし私たちはまだまだ動き盛り。ジットしているよりもやはり動く方がいい。ほら、アレだよ。ジーッとしてたってドーにも※自主規制※
「これから行こうかなーって思ってました!ねね!皆も行こう?」
私は子供たちに声をかける。するとみんなもうずうずしていたのか、行くーと返事をくれた。一人を除いては。
「……」
けーちゃんはムスッとしたまま、持ってきたマンガ本を読んでいる。どうやら自分の世界に入り込んでいるようだ。読んでるのは幽霊とかそれに準ずるものをお供に戦うマンガだが、それは置いといて一緒に行きたい。
漫画なんて何時でも読めるし、こういった色々な人の都合が良くて季節物の行事っていうのはその時でしか味わえないものだ。
ある意味桜の木の下で漫画を読むなんてのもその時しか味わえないのかもしれないけれど、でもそれは1人でも出来ること。やっぱり今は皆との時間を大切にして欲しいというのが、私の想いだ。
時間は……取り戻したいと思ってのも取り戻せるものでは無いのだから。
「けーちゃん」
「……」
やっぱり無視されちゃう。でもせめて言うだけ言わなきゃ。伝えるだけ伝えなきゃ。
「もうあんなことしないし、行こ?絶対楽しいよ」
「……」
「それとも私が一緒だと……や?」
「……」
悲しくはある。本当に私と一緒が嫌だって言うならそれは残酷だ。でもそれなら受け入れてけーちゃんと他の子達だけでも楽しんで来て欲しい。私はここで大人しくしてるか、白鳥を見て和んでいるので。本当なら皆の輪に私も入っていきたいけれど、でも1番楽しんで欲しいのは、思い出としてしっかり残して欲しいのは弟達だ。
決して無機質で無感情な人生になんてさせたくない。だって絶対に将来後悔するから。今はただ1人で完結してるのが良くても、大きくなるにつれて人の繋がりはドンドン大切に、そして切っても切れないものになってくる。
そんな時に人の輪に入ること、それに準ずる思い出がなかったら凄く苦労する。
少し早すぎるかもしれない。こーゆー将来のことを考えてとなると、まだ小学生の子供には実感も、そも考えることすら難しいだろう。
だからこそ、今は楽しい、もしくは面倒だと思ってもその中に入っていって欲しい。
けーちゃんはまだ漫画をペラついている。
やっぱりさっきのが相当来ているみたいだ。私が全面的に悪いのだけれど……。
私は表情が暗ーいものになってくのを感じる。必死で笑顔にはしてるつもりなのだけれど、きっと寂しい笑顔になってしまっていることだろう。
私は本当に自分本位だ。前世から何も変わっちゃいない。少しは誰かのために、誰かを思って行動できるようになりたい。今度は後悔のしないように、間違えないようにと思っていたけれど……やっぱり私はダメなんだろうな……。
「……うん。嫌、だよね。しつこくてごめんね。ゆっくりしてて……」
私はけーちゃんにそう言うと後ろを振り返り靴を履く。そして皆も同じようにいそいそと準備をする。
若干だが気まづい雰囲気が流れてしまう。それもこれも私のせいだ。
はぁ……なんでこうなっちゃうかな……。
「…………はぁ」
ズーンと重ーい気持ちを引きずりながら靴を履き終え歩き出す。すると後からため息が聞こえてきた。ついでにパタンと何かを閉じる音。
私はゆっくりと後ろを振り向く。
「メンドイけど……お父さん」
「んーなんだ啓一?」
「金」
「は?」
「だからお小遣い。どうせ見て回るんだから色んな出店見てみたいし。なんか良さそうなのあっても買えないじゃん」
「そりゃ、わかるけど……金、の一言はないだろう……」
「じゃあなんて言えば?」
「パパ、お小遣いちょーだいとか!」
「……きもっ」
「あんた……それはあたしでも引くわ……」
「なんだよ!みんなして!俺だってちょっとなと思ったけど、言い方の訂正的には間違いじゃないだろう!」
先程までの気まづさは何処へやら、一転してまた騒がしくなる。
「まっ、冗談は置いといて……あんたも行ってきたら?たまには子供たちに付き合ってあげなよ」
「……ビール持っていってもいい?」
「あっ?」
「いえ!何でもないです!行ってきます!」
お父さんはお母さんに睨まれるとビシッと背を伸ばし敬礼をした。なんていうか、情けなくないのか父よ……。
お父さんの痴態をよそに、けーちゃんは靴を履き終わり私の隣に立っていた。相変わらずの仏頂面である。
だがそれでもけーちゃんは動いてくれた。一緒に来てくれるつもりなのだ。
私はそれが嬉しくて仕方ない。だけれどさっきまでの陰鬱な気分からの一転なので中々感情の整理がつかずポカーンとしてしまう。
「……」
「あー……さっきのはもうごめんだしウザイけど……でもおれも出店みたいし、ていうか、アイス食べたいし。だからついでだから着いてく」
けーちゃんは仏頂面のままだが、そっぽを向きそう言った。若干だが、頬が赤くなっている。
私は胸がポカポカと温かくなっていくのを感じる。整理のつかなかった心が穏やかになり、陰鬱な気分など吹き飛んでしまう。
つまりなんと言うか……なんと言うか!!
「け、けーちゃんっ……!」
私はそんなぶきっちょなけーちゃんが可愛すぎてたまらず抱きつきそうになる。が、それはさっきやってやらかしてしまっている。しかもそれが原因でおこぷんすかしてしまっているのだ。なので私は自身の体を抱きしめ抑え込む。
静まれー。我が荒ぶる御霊よ鎮まりたまえー。
深呼吸もすーはーすーはーすーはー。
よしっ。落ち着いた。けーちゃん可愛い。よし。
「けーちゃん、いこっ!」
「ふんっ」
私はけーちゃんの手を握り歩き出す。まだまだぶっきらぼうだけれど、でもしっかりと手は握り返してくれた。
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ノベルバユーザー291682
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