異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第一一話 ウリドラ・ガブリエル

 タイガはカリンを守るように、カリンの前に立つ。魔王の手下――ウリドラ・ガブリエルはずっとニヤニヤしながらタイガ達に近付く。ウリドラから放たれる闇のオーラがタイガの脚を震わせる。

「おや? 貴方、脚が震えてますね」

 タイガを見ると、ウリドラは口角を上げ、気持ち悪い笑みを浮かべる。タイガは喉を鳴らし、ウリドラを見据える。

 ――このオーラはやばい……闇に飲み込まれそうだ。気をしっかり持たねぇと。

 腰から申鎮の剣を抜き、ウリドラに向ける。ウリドラはその剣を見て、ニヤついていた表情から少し変わった。

「……何故お前がそれを持っている。お前、その女の騎士か?」

 先程の口調とは打って変わり、目つきも変わりタイガを睨む。その時、ウリドラから出ているオーラが増し、少し草木が揺れているのが分かった。
 挑発ではないが、タイガは引きつった笑顔でその質問に答える。

「偶然拾ってね。使いやすいから、そのまま俺の物にしたよ。別にカリンの騎士でもねぇし。そもそも騎士ってなんだよ」
「お前、その女が何者だか知らないようだな」
「知ってたら何だって言うんだよ」
「別に。ただ――」

 その瞬間、ウリドラは一瞬でタイガの前までやって来た。そして、身に着けていた短刀を出して――

「お前の事が殺しやすくなっただけだ」

 タイガを斬ろうとした。
 タイガは瞬時に防ぎ、後ろに下がって難を逃れた。だが、目の前には既にウリドラがおらず、タイガは辺りを見回す。すると、先程のオーラを感じ、上を見たら、ウリドラが短刀で斬りかかって来た。タイガは反射的に剣が出て、剣同士でぶつかる。ウリドラは攻撃を続け、タイガは防ぐばかり。ウリドラのスピードは速いが、何とかタイガは防ぎきっている。

「――っ!?」

 だが突然、タイガの右頬に切り傷が付いて血が流れる。

 ――な、何でだ……?

 そう考えている間に、攻撃を防いでいるのにも関わらず、どんどん切り傷が増えていく。

 ――防いでる筈なのに、どんどん傷が……っ!

 タイガはウリドラを見失ってしまった。傷だらけで身体がズキズキ痛む中、周りを見るも何処にもいない。カリンにも近付いている気配もない。タイガが一旦引いたのかと思い気を抜いた瞬間、背後に気配を感じ、振り向こうとした瞬間――

「いかなる時でも、気を抜いたら命を取られる。そう、今のお前だ」

 ウリドラがタイガの背中を斬りつけた。その後背中を蹴られ、タイガは吹っ飛ぶ。そして近くの岩にぶつかり、一瞬息が出来なかった。

「タイガ!!」

 カリンがタイガに近付こうとすると、ウリドラがカリンに向かっていく。カリンは全く気付いておらず、ただタイガを目指して走っている。

「来る――っ!」

『来るな』と言おうとした瞬間、タイガに頭痛が襲う。そして視界が歪み、脳内に映像が流れる。

 ――これは……

 タイガが見たのは、ウリドラがカリンの背後に迫り、カリンの首を斬った映像だった。そして、今朝の夢と同じ状況になった。

 ――そしてその後、俺も殺される。でも、事前にその事が分かれば!

 タイガは力を振り絞り、立ち上がる。先程脳内で流れた事態にならないように。

「ペル! カリンの背後だ!」
《【ソイドレス】!》

 タイガが言った時、ペルは風の魔法を唱える。すると、カリンの後ろにいたウリドラが吹き飛ばされる。
 ウリドラはすぐさま受け身を取り、態勢を戻す。ウリドラはタイガの方を睨みつける。まるで、邪魔をするなと言っているみたいに。

「何故分かった」
「さぁ? それは俺が知りたいよ」

 ――一時的だけど、これで未来が変わった。後は攻めるだけだ。

 夢のお蔭で未来を変えられた。そう安心したタイガは再びウリドラを見据える。ペルはカリンの肩に止まり、何があっても対応できる様に守っていた。
 だが、本当の恐怖はここからだった。タイガは忘れていた。カリンを見つける途中、ペルと話していた内容を。

「面倒だな。しょうがねぇ、ここで眠ってもらうか」


 彼が――最強の幻術使いという事を。

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