異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第二四話 見知らぬ門番、初めての友達

「それで? 何か言う事は?」
「「ごめんなさい……」」

 王宮に到着したタイガだが、途中で異変に気が付いた。何者かがタイガの後を追ってきたのだ。その犯人は――

「今日会ったばかりの人間をストーカーするなんてどんな神経しているんだ。ミルミア、リンナ」

 先程別れたはずの女子二人だった。

「だ、だって、どんな家に住んでいるのか知りたかったから……」
「私は止めようって言ったんですけど、ミルちゃんが……」

 二人とも後半声が小さくなって、何を言っているのか分からなかった。呆れて溜め息をつくタイガは二人を王宮に入れようとする。すると突然、全身鎧を付けた二人組に止められた。

「貴様ら、ここはドルメサ王国の国王様のお屋敷だぞ。ガキ共は帰れ」

 声からして男だろう。刺々しい言い方で、タイガ達を厄介払いする。

「いや、俺ここに居候させて貰ってんだけど」
「は? 貴様みたいなガキを居候させるわけねぇだろ! 寝言は寝て言え」

 もう一人の男は物凄く上から物を言ってくる。タイガはその二人に少しイラついた。

「タイガ。本当にタイガが住んでるの?」
「何かやばい感じなんですが……」
「ちょっと待ってて。連絡してくる」

 不安になって来た二人を落ち着かせ、取り敢えず「相手の機嫌を損なわないようにしてくれ」とだけ伝え、少し離れた。そして念話でカリンに繋ぐ。

『あ、タイガですか? どうしたんです?』
「あぁ悪いな。なんか門番らしき人に止められたんだが……」
『え? この宮殿に門番なんて?』

 カリンの言葉を聞いて、一瞬時が止まったかのように思えた。

 ――門番が、いない……?

 タイガは手を顎に当て、考え始めた。

 ――昨日今日外に出ているのに、確かに門番はいなかった。なのにいきなり全身鎧の男二人が「ここは国王様の王宮だから帰れ」と言ってきた。もし、会ってなかったとしても、カリンは俺の事を伝えている筈だ。けどそれどころか、名前すら聞いてこなかった。なら、あの二人は……

 タイガがミルミア達の所に戻ろうとすると、タイガに上から物を言った男がリンナを斬りかかろうとしていた。タイガは右足にガリルを溜め、走り出すと同時に、一気に放出した。すると物凄い速さで走り、リンナを抱えて避ける。その時、タイガは男二人の異変に気が付いた。

「た、タイガさん!?」

 突然の出来事で思考が停止していたリンナだが、今の状況を見て少しずつ理解してきた。リンナは、俗に言う『お姫様抱っこ』をされている事に。

「貴様! 何勝手に入っている!」
「成程……そういう事か」
「何一人で言っていやがる!」

 タイガがリンナを下ろし、首をポキポキ鳴らす。

「待ってろ。すぐに助けるから」

 そう言うと、王宮の方からカラス――ペルが来た。そしてタイガの肩に止まり、男二人を見る。

 《確かにこの二人には催眠魔法がかかっている。よくわかったね、タイガ》

 タイガはリンナを助けた時、まだ切っていなかった念話でペルを呼びだしていた。

「いや、すれ違った時にあいつらの顔が見えたんだよ。そしたら目に光が無かったっていうか、何者かに操られている気がしてな。お前を呼んだんだ。解けるか?」
 《解けないことはないけど、ガリルが足りるかな》
「なら、俺のを貸す」

 そしてタイガはペルにガリルを分けると、ペルはタイガの肩から飛び、二人の前に行く。

 《【アトラスト】》

 ペルは二人の上をくるくる回る。そして黒い霧を二人に被せると二人は脱力して倒れた。
 それを見てペルはタイガの下に帰る。

 《これで大丈夫》
「今の、闇魔法か?」
 《そう。これはおいらにしか使えない魔法だよ》

 タイガは後ろにいるミルミア達に、もう大丈夫だと伝えた。すると、倒れた二人の男はピクリと動き、起き上がった。

「こ、ここは……」
「ドルメサ国の王宮です。大丈夫ですか?」

 タイガは近づき、手を差し伸べる。男達はその手を取り、立ち上がった。二人は頭の鎧を外し、辺りを見渡す。

「俺達は何故ここに……」
「どういう経緯でなったかは分かりませんが、貴方方は催眠にかかってました」

 二人に確認するも、どうして催眠にかかったか覚えていないと言う。

「この度は救ってくれてありがとう。俺はアリマゲイル・オトランシス。アイルと呼んでくれ。そして……」
「双子の弟、ルーミア・オトランシスです。ルーと呼んで下さい」

 茶髪にアホ毛が二つあるアイルと、アホ毛が一つでまつ毛の長いルーが握手を求めてきた。タイガ達はそれに応えて、握手をする。

「俺はヤマト・タイガ。〈魔剣士ミスティックナイト〉だ。宜しく」
「ウチはミルミア・ガーネ。〈見習い騎士スクワイア〉よ。宜しくね」
「私はリンナです。役職は〈魔法使いウィッチ〉です。宜しくお願いします」

 それぞれが自己紹介を終え、取り敢えず全員王室に行くことになった。
 王室に着くと、カリンは机に向かって書類らしき物を書いていて、タイガ達に気付くと立ち上がり、みんなを席に案内した。タイガはカリンの横に座り、他のみんなはカリンと対面する形で座る。

「初めまして。私がドルメサ王国の女王、カリン・ビル・アルシアです。宜しくお願いします」

 カリンは立って、お辞儀をしながら言う。最初はタイガ以外立ち上がって、片膝をつき頭を下げたが、カリンが止めてくれと言い、席に座らせた。

「それでタイガ? どういう状況でしたのか教えて下さい」
「女の子二人は後で紹介するよ。そこに鎧を付けている二人で、右がアリマゲイル・オトランシスさん。その隣が双子の弟で、ルーミア・オトランシスさん」

 タイガが紹介すると二人は立ち上がり、無駄のない動きでお辞儀する。
 タイガは何があったのか全て話した。オトランシス兄弟はコナッチ王国出身で、父がコナッチ王都の騎士団の副団長を務めている。今回は久々の休暇で、ドルメサに行こうとした途中、気が付いたらこの王宮にいたらしい。二人もコナッチの騎士団に所属しているが、王都ではなく『ヤンデ村』に所属しているらしい。
 タイガは話を一通り聞いて、カリンに話しかける。

「カリン、この王宮は門番いないんだよな」
「はい」
「なら、この二人を雇わないか? 流石に門番なしでは危険すぎる」
「確かに必要ですが、彼らには所属がありますよ?」

 タイガは「う~ん」と唸ると、アイルに聞く。

「その騎士団って、異動とかあります?」
「一応あるが、滅多に無いぞ」

 それを聞いて、さらに唸るタイガ。

 ――確かコナッチ王とカリンの父親は友人だったんだよな。なら……

 一つ思いつくと、タイガはカリンに話しかける。

「カリン、コナッチ王に会いに行こう」
「え?」

 いきなりの発言に、カリンは唖然とする。

「お前の親父さんとコナッチ王は友人関係だったんだろ? 事情を話せば呑み込んでくれるはずだ」
「で、ですが……」
「勿論、今すぐにとは言わない。流石に俺も依頼をこなしていかなければいけないし。どうだ?」

 カリンはタイガの言葉を聞いて、暫く考える。

「タイガの言いたい事は分かりました、ですが、二人の返事を聞いてからです。どうですか?」

 カリンはオトランシス兄弟に、ヤンデ村で騎士を続けるか王宮の門番をするか、どっちが良いか聞いた。

「勿論、こちらに来て下さるのであれば、それなりの待遇はします」

 アイルとルーは顔を見合わせ、頷いた。

「いくら操られていたとは言え、カリン様のご友人を傷つけようとした事に変わりはない。罪滅ぼしではないが、是非こちらで雇っていただきたい」
「ボクも兄さんと同じです」

 二人の答えを聞いて、カリンは優しく微笑んだ。

「分かりました。一〇日後、コナッチ王国に向かいましょう。そこでアイルさん方のご両親と、コナッチ王に話します。それでいいですか?」
「「はい」」

 こうして、アイルとルーの話が終わり、シェスカが二人を部屋に案内した。今残っているのはタイガ、カリン、ミルミア、リンナ、ペルの四人と一匹。

「さて、そちらの女性方達は?」

 先程から殆ど空気状態だったミルミアとルーの話に入る。
 ミルミアとルーは立ち上がり、片膝を立て挨拶する。

「お、お初にお目にかかります! ウチ……いや、わわわ、私はミリュミアギャーネと――」
「落ち着いてください。それに、そこまで硬くならなくてもよろしいですよ。今は私達しかいませんから。いつも通りの口調でお願いします」

 カリンがガチガチに震えているミルミアを落ち着かせ、二人を椅子に座らせた。ミルミアに、先程出された紅茶を飲ませ、ミルミアが落ち着きを取り戻すと、もう一度やり直す。

「う、ウチはミルミア・ガーネ。今日、そちらにいるタイガに助けていただきました。宜しくお願いします」
「私はリンナです」

 タイガは何故二人がここに来たか話す。最初は怒られると思っていた二人だが、怒られず、逆にケガがないか心配された。

「それにしても、初めての仕事がビックマウスの討伐ですか。タイガはやっぱり凄いですね」

 カリンは尊敬の眼差しでタイガを見る。

「んで、これも何かの縁だって言って、俺達はパーティーを組んだんだ」
「そうなんですか。皆さん、タイガの事をよろしくお願いします」
「お前は俺の何なんだよ……」

 カリンの返事に、タイガは突っ込んだ。
 暫く雑談をして、カリンはミルミアとリンナにだいぶ打ち解けてきた。二人も最初はぎこちなかったが、今では『カリン』と呼び捨てで呼んでいる。

「さて、もう帰ろっか」

 ミルミアが言う。時刻盤を見ると、もう五時を過ぎていた。ミルミアの言葉に、カリンが寂しそうな顔をする。

「そんな顔すんなよ」
「タイガ……」

 そんなカリンを見て、タイガは声を掛ける。

「もう会えないわけじゃないんだ。俺が連れてこようとすれば連れてこれるし、何よりお前達はもう『友達』だろ?」
「友達……」
「あぁ。ここまで親しげに話してんだ。もう友達と言わずして何て言うんだよ。なぁ?」

 タイガがミルミア達を見る。すると、ミルミア達は笑顔で頷いた。カリンはそれを見て、涙を浮かべた。ミルミアとルーは何故泣き始めたのは分からずあたふたしていたが、タイガには分かる。

 ――共に行動していて分かった。こいつは今まで、あまり外に出たことがないんだ。だから、初めて会った俺の事を一緒の部屋に入れたり、寝ようとしたりしたんだ。寂しかったんだな。

 タイガはカリンの肩に手を置き、笑顔で言った。

「良かったな。『初めて』の友達が出来て」

 その言葉に、カリンは大粒の涙を流しながら笑顔で言った。

「はい!」

 この日、カリン・ビル・アルシアに初めての友達が出来た。

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