異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第三四話 激戦後とオーラの真相

 あれから三日、タイガはずっと眠っていた。原因は『リンク』による脳の疲労、ダークウルフに噛まれた事、そして何より、あばらを折った影響が大きかった。

「もう大丈夫なのですか? タイガ」

 タイガは目を覚ましたが、現在外出禁止でずっと部屋にいる。しかも、ベッドに無理矢理寝させられた。ルーとシェスカ、ハスキー以外はタイガの部屋にいる。
 あの後、タイガが夢で見た魔獣の襲来は無かったそうだ。タイガはまた、未来を変えることに成功した。その代償として、自分が怪我をしてしまうが。

「心配かけてごめんな、カリン。俺は平気だ。怪我もカリンのお蔭で治ったし」

 噛まれた傷痕、あばらの完全修復は全部カリンが治してくれた。カリンは光属性の魔法が得意なので、傷の修復や体力の回復にはもってこいだ。

「今回に関しては、弟のルーが迷惑を掛けた」

 兄のアイルがタイガとミルミア、リンナに頭を下げた。

「しょうがないわよ。ウチたちも、まさかルーが取り付かれているとは思わなかったもの」

 ミルミアも、今回の出来事は想定していなかったと溜め息をつく。

「タイガ。皆さんには大まかな事を聞きました。ですが、タイガの方では何が起きたか分からいので話していただけますか?」

 カリンが申し訳なさそうに言う。回復していると言っても、ケガ人であることに変わりはない。あまり無理はさせたくないが、どうしても知りたかった。

「良いよ。全部話す」

 タイガは一呼吸を置いて、あの事件の真相を語り始めた。

「恐らく、みんなと別れてからの話だよな。俺はみんなにあの場を任せ、魔獣を召喚している元凶を探した。その時、ペルと『レンタルビルト』で契約し、『リンク』を使った。お互いの情報を交換するために片眼を瞑ってやったんだが、それが脳にもの凄く負荷が掛かってな。脳が焼けるかと思った。そしてペルは召喚者を見つけ出し、その場に行ったんだ。そしたらそこには白い髭で口元が見えないお爺さんがいたんだ」

 タイガは事細かに話した。この騒動はかなり前から起きていて、タイガ達が依頼で討伐していたのはマスターウルフならぬダークウルフだという事も。それを聞いて、ミルミアとリンナは驚いていた。

「ダークウルフ……。聞いたことあります。マスターウルフに間違われるほどそっくりだが、凶暴な魔獣だと。噛まれたら、その傷口から菌が繁殖してダークウルフになってしまうとか」

 カリンが顎に手を添えて言う。

「あぁ。それでそのお爺さんだが、オルドラン村の村長であり、ダークウルフに噛まれた一人だった。しかもそいつは何年も前から村長の身体の中にいたらしい。そこから月日を重ね、今回の事件を実行した。ダークウルフの増殖の為、ギルドに依頼し、依頼に来た人を噛んでいく手筈だった。だが――」
「その依頼を受けたのがウチ達だった、ってことね」

 ミルミアの言葉に、タイガは頷く。

「それで俺は、噛まれはしたがダークウルフの姿に変わった村長を倒した。そこで、ペルが来たんだ。ペルが来た時には既にみんな倒れていた。残っていたのはルーのみ。そして、ルーは取り憑かれていたんだ。魔王の手下No.3、ドリナエ・スフィアに」

 その時、全員驚愕した。何故、魔王軍の一人がルーに憑依したのか。タイガ以外分からなかった。ある一人を除いて。

「……どうして、取り憑かれているって思ったんです?」

 カリンが恐る恐る聞いた。

「分からん。なんか、ルーから黒いオーラみたいなものが見えたんだ。その前にも一回見えたことがあるんだよ」
「それっていつです?」
「確か、あの事件の日の依頼の後かな。ギルドを出た辺りから、ミルミアとリンナのオーラが見えたんだよ。しかも白」

 リンナの質問に、タイガは答えていく。だが、カリンの顔は何か複雑だった。

 ――タイガの言っていたオーラ。あれは恐らく『魔眼』によるもの……。それを使えるのは、私が知る中で一人しかいません。でも、その人はもう……

 そしてカリンの顔は悲しい顔になった。タイガはそれを見逃さなかった。だが、何も聞かなかった。聞けなかったのだ。だからタイガは見て見ぬふりをして話を進めた。

「そして俺は相手を気絶させた。そしたら黒いオーラがルーから離れていったから、恐らく出て行ったんだろうなって。そしてアイル達に助けられて今があるって感じかな」

 話が終わり、みんなはタイガの部屋を出て行く。出て行ったのを見るとタイガはベッドに仰向けになり、先程のカリンの事を思い出していた。

 ――カリンがオーラの話をしている時、何故悲しそうな顔をした? 多分知っているんだ、そのオーラが見える理由を。だけど話さなかった……

「まさか、勉強以外でこんなに頭を使うとわな」

 一息つき、微笑みながら呟く。そして眠くなったのか、瞼が重くなったタイガはそれに逆らわずに目を閉じた。

 ――俺がやっている事、正しいのかな。カリンを守らなきゃいけない、そう思っているのは俺の自己満足かもしれない。

 その時、一人の友人の顔が浮かび上がる。

 ――智紀とものり……。お前は今の俺を見て、どう思っている?

 そしてタイガの意識は遠のいて、寝てしまった。

 部屋に出た後、カリンは自室に戻ってうつ伏せでベッドに横になってた。

「ペル」
 《どうしたの? カリンちゃん》
「ペルはもう、気付いているんでしょ?」

 カリンは張りのない声で喋る。

「タイガの言っていた『オーラが見える』。あれは『魔眼』によって見えるもの。それに、噛まれれば必ず感染してしまうダークウルフに噛まれているにも関わらず、異状無し。恐らく、毒や麻痺などの状態異常を無効化する『ディセーブル』の能力でしょう。私が知る中で、『魔眼』と『ディセーブル』の持ち主は一人しかいません。」

 すると、カリンの目から一筋の涙が流れた。

「兄さん……」

 そして枕に顔を埋め、嗚咽し始めた。
 そんなカリンの姿を、ペルは見る事しかできなかった。



 ――カリン。僕は兄として君を救って見せる。あの憎きから。その為に、もう少し待ってて。『器』が完成するまで……

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