異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第三七話 申鎮の剣

「それでは話しましょう。申鎮の剣とはどういう物なのか、を」

 そして、カリンはゆっくりと目を閉じ、受け継がれている話をタイガ達に話した。

 五〇〇年も前、その頃はまだ国も出来ておらず、争い事も起きなかった。人々は土地を分け与え、食料を分け合たえるなど、切磋琢磨し合って生きてきた。
 そんなある日、若者達三人がとある洞窟を見つけた。若者達は好奇心でその洞窟に入っていく。そして洞窟の最深部まで行くと、一つの剣が岩に刺さっているのを見つけた。
 若者達は剣を抜こうとする。だが、中々抜けない。一度集落に帰り、剣の事を長に話す。その剣に興味を持った人達が、次々と剣を引き抜こうとする。だが、一向に抜けない。
 そんな時、一人の青年が来た。その青年は皆から慕われており、お兄さん的存在でもあった。

「さ、サルシゲ! 抜いてくれるのか?」
「僕で良ければ」

 そう言って、サルシゲと呼ばれた青年は剣に触れた。その瞬間、剣が光り始めゆっくりと岩から抜けていく。
 他の人々は彼を称えた。勇者と言う人もいた。
 サルシゲは剣を自分の物にして、その剣を『申鎮の剣』と名付けた。
 そしていつの日か、獣が襲ってくるようになった。サルシゲは『申鎮の剣』を使い、獣を一刀両断してきた。彼は文字通り、ヒーローになった。
 だが、そんなサルシゲに異変が起きた。
 突然、サルシゲの身体が痩せ細くなり、皮膚と多少の筋肉、骨位しか残らなかった。きっかけはちょっとした出来心だった。
 サルシゲは家に向かう途中、目の前の人がその時代の金貨が落とした。いつもなら持ち主に返すサルシゲだったが、今回ばかりは生活に困っていて自分の物にしてしまった。言い方を変えると『窃盗』だ。
 その瞬間、サルシゲの様子が豹変したらしい。
 その後、様々な人が『申鎮の剣』を使って行くが、悪事を働かすと全員やせ細っていく現象が起きた。
 それと同時に、ある事が分かった。死因は皆『ガリル切れ』だったのだ。つまり、悪事を働かせば申鎮の剣にガリルが空っぽになるまで取られるらしい。

「それから、申鎮の剣は善良な人が多い騎士団に使われるようになりました。ですが、最近行方不明になっていたのです。それをタイガが持っていたなんて」

 話を聞いて、タイガは一つ思ったことがあった。それは『申鎮の剣』の入手方法だった。

「待て。俺が持つ前は確かチンピラが持っていた筈なんだが……。それに、俺はそれを盗んだ訳だし、俺も今頃死んでてもおかしくないか?」
「恐らく、その『ちんぴら』という人はもともとガリルが無かったのでしょう。全員が全員、ガリルを持っている訳ではないので」
「チンピラは人の名前じゃないぞ」

 タイガは冷静に突っ込む。やはり、カリンは世間に疎すぎるとタイガは改めて感じた。

「そしてタイガですが、その時は悪意があって持ち込んではいませんよね?」
「あ、あぁ」
「なら大丈夫です。その申鎮の剣は『悪意』にしか反応しません。なのでタイガが死ぬことはありませんよ」

 優しく微笑むカリン。その時、タイガはウリドラの言葉を思い出した。

「そっか。だからウリドラは俺に『カリンの騎士か』って聞かれたのか」
「はい。魔王軍にとって、申鎮の剣は相性が悪いです。悪意に満ちていますから」

 タイガはふ~んと返事し。鞘から抜いて手入れを始めた。

「そういえばタイガ殿。その剣を使っている時、ガリルを取られる感覚はありましたか?」
「いや、そんな感覚はありませんが。自分が逆に流して、魔法を唱えているので」

 それを聞いて、モナローゼは目を見開いた。それに反してタイガは、何故そんなことを聞くのかと聞き返した。

「申鎮の剣を使っている人でガリルを持つ人は、少しずつガリルが吸い取られます。ですが、タイガ殿はそれがない。計り知れない程のガリルを持っているのか、それとも気に入られたのかのどちらかですな」

 ほっほっほっと笑うモナローゼ。それにつられてふっと笑いながら手入れをするタイガ。
 その日はここでお開きとなり、カリン達は馬車の中で、タイガは原っぱの上で夜空を見上げていた。

 ――気に入られた、か。そうだったら良いな……

 こうしてタイガは、静かに目を瞑った。

『――スター、マスター』
「んあ?」

 誰かに声を掛けられたタイガは目を開ける。するとタイガは飛び起きてしまった。何故なら、起きた場所には何もない空間だから。

『やっと起きた、マスター』

 可愛い声でピンク色の髪をした一〇歳位の女の子が、タイガの前に現れる。

「えっと……誰?」
『酷い、マスター。私の事を忘れるなんて』
「ま、マスター? 俺が?」

 目の前の少女に、いきなり『マスター』と呼ばれ混乱しているタイガ。寝ぼけているのかと頬を抓ると、痛かった。

『今、マスターの魂をこの世界に連れてきているから、痛みも感じるよ。外では寝ているけど』
「そ、そうか……。で、君は誰だ?」
『本当に分かんない?』

 涙目でタイガを見る。涙目はタイガには弱い。泣かせまいと必死に考えるが、何も思い浮かばない。

『マスター、私といつも行動しているのに。やっぱり私をにしか思ってないんだね……』
「――ん? 道具?」

 道具。その言葉を聞いたタイガは一つの答えが導き出された。タイガといつも一緒にいる『道具』は一つしかない。

「お前、もしかして『申鎮の剣』か?」

 タイガの言った言葉に、少女は笑顔で頷いた。

『でも、私にはちゃんとした名前があるんだよ』
「名前……そっか。『申鎮の剣』はサルシゲが付けた名前なんだよな」
『うん。あの人最初は良い人だったのに、ちょっと悪意が混じってた。だから私が食べちゃった』

 ――こんなに小さいのに、怖いこと言うな……

 少女の発言にタイガは冷や汗を流し、少し恐怖を覚えた。

「それで、お前の名は?」
『そうそう! 私の名前は『ジュピター』って言うの! こう見えても、マスターより年上だよ?』
「そんな事分かってるよ。五〇〇年も前からいるんだから。それで? どうして俺をここに?」
『うん。マスターにお礼と忠告をしたくて』
「お礼と忠告……?」

 申鎮の剣――ジュピターは静かに頷く。

『まずはお礼から。私を大切に使ってくれてありがとう。今まで関わってきた人で一番優しい。みんな、私を道具としか見てこなかったから……。マスターみたいに優しくしてくれたのは初めて。だから、ありがとう』

 ジュピターは丁寧にお辞儀した。タイガは小恥ずかしくなり、ジュピターの頭を上げさせた。

『そして忠告。マスター。何があっても、自我を失わないで。マスターの中に、別の者の『邪』を感じる。もし、マスターが自我を失った時は、私はマスターを斬らなければならない。そんなの嫌。だから約束――』

 ジュピターはタイガの元に近付き、小指を出す。

『絶対に、マスターはマスターのままでいて』

 ジュピターはタイガの小指に自身の小指を絡めた。歳はタイガより遥かに歳上だが、今の姿からはとてもそうは思えない。見た目もだが。

「……分かった。お前との約束、絶対に守る。だから、これからもヨロシクな!」

 タイガは歯を出して笑い、それにつられてジュピターも笑う。その姿はまるで親娘、いや、兄妹にしか見えなかった。


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