異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第四〇話 機械の国

 タイガ達を乗せた馬車を走らせること一時間。遂に国境を越え、タイガ達はコナッチ王国へと足を踏み入れた。因みに、国境を超えるには五〇パスかかるが、紋章を見せると無料で入れる。

「へえ~。それでタイガ達はコナッチに来たのか」

 馬車の中でレーラの質問攻めにあったタイガ。満足したレーラとは違い、タイガは疲れ切っていた。

「タイガ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……まぁな」

 ぐったりとしているタイガを心配するカリン。その姿をモナローゼが苦笑いして見ている。

「それで、コナッチってどんな国なんだ?」

 タイガは座り直し、レーラに質問する。

「コナッチは別名『機械の国』とも呼ばれているんだ」
「機械の国?」

 この世界には様々な別名が付けられている。コナッチ王国の『機械の国』に対して、ドルメサ王国は『平穏な国』と呼ばれている。
 その時、レーラはタイガの首にかかっているマグナラを見た。

「タイガ、それマグナラか!?」
「そうだが?」
「お前お金持ちか!?」

 普通の椅子だったら、後ろに転げ落ちる程驚いていた。

「だから言ったろ? 普通の冒険者って。それにこのマグナラは、時刻盤屋のおじいさんに譲ってもらったんだ」
「お前、実は凄い奴とか? 実際、〈魔剣士〉だし」
「いや〈魔剣士〉は関係ねぇだろ」

 その後、何故コナッチ王国が機械の国と呼ばれるか聞いた。レーラ曰く、マグナラやイグナート、レーラが持っているピストルなどを沢山生産している為、機械類の商売が多いらしい。
 コナッチ王国に入ってから四時間。遂に王都が見えてきた。
 王都に入ると、先程とは違い、機械に囲まれている様な気分になった。周りは機械、機械、機械。そして、マグナラを使っている人がチラチラと見える。

 ――ミルミア、興奮してるんだろうな~

 タイガは苦笑いしながらそう思いつつ、後ろをチラッと見る。すると案の定、今にも飛び出しそうな勢いで街を見ていた。

「ここらでお昼にしましょうか」

 馬車を止め、全員降りる。時刻は一五時一五分。遅めの昼食だ。今回カリンは騎士団と共に行動するため、カリン以外のオトランシス兄弟にミルミア、リンナの五人になった。これからお店を探そうという時に、ミルミアが暴れる。

「タイガ! 遂に来たわよ! 早く! 早く買おう!!」

 タイガの襟元を掴んでグラグラと前後に揺らす。それをみたリンナが間に入り、ミルミアを止めた。タイガの目は回っている。

「大丈夫か? タイガ」
「これを見て大丈夫に見えるなら、眼科に行くことをお勧めする」

 レーラの質問に、タイガはふらふらした状態で答える。酔いが醒めるまで五分かかったらしい。
 タイガが落ち着いた所で、昼食に向かう。その後ろにはレーラの姿があった。

「レーラ。お前は付いてくる必要ないだろ。目的地に着いたんだから」

 レーラに気付いたタイガが話しかける。

「別に良いじゃねぇか! ご飯位一緒に食っても」
「まぁ、俺は良いけど……」

 タイガは残りの四人に視線を向ける。すると全員頷いた。どうやら、一緒でも良いらしい。

「じゃあ行くか」
「よし! あたいが前から行きたかった店があるんだ。そこに行こうぜ!」
「ちょ――っ!」

 一緒にいて良いと言われたレーラは目をキラキラさせて、タイガの腕を引っ張る。他の人も、タイガ達の後に続いて行った。
 歩き始めて一五分。レーラの言った行きつけのお店に着いた。看板はメロット――羊――の形をしていて、そこに『ジューシーメロット』と書かれいていた。

「ここ! ここのステーキが最高なんだ!」
「メロットのステーキか。食ったことないな」

 そして入り口に立つ。普通なら戸を引くが、レーラは立ったままだった。

「ちょっと。何で入らないのよ」
「まぁまぁ。慌てんなって」

 ミルミアが少し苛立ち始め、貧乏ゆすりしている。

 ――ん? もしかしてこれって……

 タイガは足元を見る。そこには戸を直径とした半円が書かれていた。

「あれ? あれ?」

 レーラも初めての為、どうしたら良いか分からなくなった。そこに救いの手、タイガが動き出した。

「お前、ここで立ってても何も起きる訳ないだろ」

 レーラに優しくチョップし、場所を交代した。
 目の前には白のタイルが埋め込まれており、タイガはそこに触れて光属性のガリルを流す。すると床が動き出し、回転し始めた。
 いきなり動いたため、タイガ以外はふらついてしまう。

「ど、どうやって……」
「機械の国って言っても、動かなきゃ意味がない。動くにはその基になる原動力が必要だ。そこでこの白いタイルを見つけた。動かす為には光属性かなと思ってガリルを流したら、見ての通りだ」

 そしてタイガ達が立っていた床が一八〇度回転して、店の中に入れた。

「スゲ~! こうなってんだ!」

 中に入ったレーラが、目を光らせて店内を見る。

「タイガ! 早く食べましょ!」
「ミルちゃん! 危ないよ!」

 ミルミアは一目散に席に走って行く。その後ろをリンナが追う。オトランシス兄弟も初めてきたのか、店内をジロジロ見ながら席に座る。
 タイガは未だ席に着かないレーラの横にいる。

「どうしたんだ?」
「いや、何かタイガ達が羨ましいなって思って。あたい、親と三人暮らしだから、こういう風に旅したことないし、パーティーメンバーもいないし……。だから、何か楽しそうだなって」

 そう言ってリーラは少し俯く。そんな姿を、タイガは見る事しか出来なかった。タイガはレーラの頭をポンと叩き、叩かれたレーラはタイガの方を見る。

「なら、今俺達といるこの時間を楽しめよ。さぁ、腹減ったから食おうぜ」

 今度はタイガがレーラの手を引っ張り、みんなのいる席に着いた。
 それぞれ注文し、今は料理が来るのを待っている。それぞれ談笑していた。

「そういえば、レーラはギルドに報告行かなくて良いのか?」
「これ食べたら行くよ。タイガ達はどうするんだ?」

 その時、料理が運ばれて机に置かれる。自分が頼んだものを目の前に置き、レーラとミルミアが涎を垂らしてその時を待っていた。

「取り敢えず食べるか。せーの」
「「「「いただきます!!」」」」

 タイガの掛け声でみんなが食べ始める。そして再びレーラが口を開いた。

「で? タイガ達はどうするんだ?」
「分からん。ちょっと聞いてみるか」

 タイガはマグナラを出し、カリンに繋ぐ。

『タイガ、どうしました?』
「いや、大したことじゃないんだけど。飯食い終わった後の予定は?」

 周りは黙々と食べている中、タイガはカリンと念話する。

『そうですね。時間も時間なので、今日は宿を借りて一泊しましょう。明日の朝、コナッチ王に会いに行きます』
「まぁ、こんな時間に会いに行っても迷惑だしな。了解。一六時半頃集合で良いか?」
『はい。それでお願いします』

 こうして今後の予定が決まり、みんなに伝える。そして、ミルミアが騒ぎ始める。

「タイガ! 買いに行くわよ!」
「こいつは学習しねぇな……」

 店内で騒いだミルミアは、他の客に変な目で見られ、店員に怒られた。その姿をタイガは呆れた様子で見ていた。
 食事も済まし、レーラはギルドに行くと言って別れ、駐馬場に戻るタイガ達。カリン達とも合流して、今日泊まる宿を探していた。

「取り敢えず、チェックインしてから街を散策しよう」

 タイガの発言に、一人を除いて賛成していた。ミルミアだ。

「流石に今は買えない」
「どうしてですか?」

 リンナが発言の意図を聞く。

「まぁ、俺の願望に過ぎないが、コナッチ王に胡麻を摺ればタダでもらえるかもしれない」
「ごまをする? どういう意味です?」
「つまり、気に入られるようにするって事だ。それに俺らは表沙汰ではカリンの護衛任務だろ? だからだよ」
「タイガ。アンタズルいわね」

 そんなタイガをジト目で見るミルミア。だがタイガは気にせず、宿を探した。

「あ! タイガ!」

 右横から先程まで聞き慣れた声が聞こえた。そちらに視線を移すと、ギルドに行くと言って別れたレーラだった。

「おう。報告済ませたのか?」
「まぁな。それで、どうしたんだ?」

 タイガはレーラに宿を探していると説明した。するとレーラが――

「なら、あたいの親が経営している宿に来いよ!」

 と言ってくれた。

「いらっしゃい――ってレーラか。お帰り」

 受付にいた優しい声をしていて落ち着く男がレーラに言った。

「ただいま父ちゃん! 部屋ってまだ空いてる?」
「開いているけど。そちらの御方は?」

 レーラの父がタイガ達に視線を移す。

「こいつ、あたいが絡まれている所に助けに入ってくれたんだ!」
「レーラ。言葉が汚いよ」

 ――今サラっと俺の事『こいつ』呼びしたよな。それに正反対で、父親は穏やかな人だ。

 レーラの『こいつ』呼びに少し顔を引きつらせたタイガだが、直ぐに自己紹介した。因みに、騎士団は別の所で、カリンの事は伏せてある。

「タイガさん。娘を助けていただき、ありがとうございます」

 自己紹介が終わると、レーラの父親が頭を下げてきた。タイガは顔を上げさせ、落ち着かせた。

「私はレーラの父、ロストと言います。本日は六名でよろしいですか?」
「あ、出来れば――」

 二部屋に分けて欲しい。そう言おうとした時だった。

「はい。全員同じ部屋に出来ますか?」
「――は?」
「はい、出来ますよ」
「――へ?」

 あまりの驚きに、タイガは何も言えなかった。勿論、他の四人も。
 こうして着々と手続きが終わり、結局全員一部屋に泊まることになった。何故かレーラも。
 タイガ達が気付いた時には、既に部屋に着いていたという。

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