異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第四二話 コナッチ王、対面

 全員起床し、着替えと朝食を済ませた。時刻は九時半。

「皆さん、準備は出来ましたか?」

 モナローゼ達騎士団と合流し、最終確認するカリン。レーラはギルドに行くと言って、レーラの両親が経営している『ローラン』で別れた。

「タイガ、バッジが斜めっているわよ」
「マジで?」
「マジマジ。ちょっと動かないで」

 ミルミアに指摘され、タイガが確認するもマントの襟元に付けているため、一度マントを脱がなければならない。だが指摘した本人、ミルミアがタイガのバッジを直していく。

「サンキューな」
「べ、別にどうって事は無いわよ」

 直し終わったミルミアは頬を少し紅く染め、戻って行く。その姿を、リンナは頬を膨らませて見ていた。

「まさかミルちゃんに先を越されるなんて……」
「こういうのは早い物勝ちよ」

 何故二人は争っているのか。それは今朝起きた時、タイガとカリンが抱き合って寝ていたからである。タイガとカリンは顔を真っ赤にさせ、直ぐに離れるも、カリンの顔は満更でもなかった。
 それを見たミルミア、リンナはタイガを取られまいと焦っているのである。とどのつまり、二人はタイガの事が好きなのだ。

「それでは行きましょうか」

 全員馬車に乗り込み、出発させる。

「カリン。コナッチ王ってどんな人なんだ」
「そうですね。一言で言うと、とても友好的な方ですね。小さい頃、よくお世話になりました」

 タイガはそれを聞いてホッとした。もしおっかない人だったらどうしようかという心配もあった。

「恐らく、アイルさんとルーさんのお父様もお立合いするでしょう。ですのでタイガ、説明宜しくお願いします」

 カリンが笑顔で言ってきた。勿論、タイガ自身もそう来ると思って準備はしていたが、少しは自分でもやってほしいと心の中で思っていた。

「カリン様、タイガ殿、見えてきました」

 モナローゼが言って、タイガは窓から顔を出す。
 赤い服に黒い帽子を被った門番が槍を持って二人立っており、その奥にとても立派な宮殿がタイガの視界に入った。
 門番に止められ、紋章を確認すると、すんなりと入れてくれた。
 宮殿の入り口付近に馬車を止め、みんな降りる。カリン以外、脚を震わせていた。

「た、タイガさん……」
「何も言うな。俺も緊張している……」

 ミルミアは顔も真っ青になっており、今にも吐きそうな感じだった。

「それでは、行きましょうか」

 先導はコナッチ王国の騎士団であろう人がする。タイガは服装を整え、先に歩いたカリンの後に付いて行く。その後ろにミルミア、リンナ、アイル、ルーと並んで歩いていた。
 ドアを開けると、一直線に赤い絨毯が敷かれており、その絨毯に沿って手前から騎士団、メイドと並んでいた。そして奥には王様であろう人が堂々と座っていて、後ろには女性が一人、子供が男女で一人ずついた。タイガ達が近付くと、その人が立ち上がる。

「カリン、よく来たね!」
「お久しぶりです、イグニル様」

 カリンはスカートの裾を指でつまみ、少し上げてカーテシーで挨拶する。タイガ達は後ろで片膝を地面に付け、頭を下げている。
 すると先程の子供の女の子がカリンに抱き着く。

「カリンお姉ちゃん、久しぶり!」
「お久しぶりです、ミンティーク」

 抱き着いた女の子――ミンティークの頭をカリンが撫でる。すると、ミンティークは幸せそうな顔をしていた。

「ミンティーク、一度離れなさい。それで、後ろの者達は?」

 そう言われると少し寂しそうな顔をし、カリンから離れた。

「今回、私の護衛をして下さった方たちです」

 カリンからそう言われ、タイガ、ミルミア、リンナは立ち上がる。

「初めまして。私はリンナと申します。職業は〈魔法使いウィッチ〉です」
「私はミルミア・ガーネです。職業は〈騎士〉で、現在の階級は〈見習い騎士スクワイア〉です」

 ミルミア、リンナが自己紹介を終え、タイガがカリンの横まで歩き、もう一度片膝をついて頭を下げる。

「お初にお目にかかります。コナッチ王国、国王様。先程紹介に上がりましたミルミア・ガーネ、リンナのパーティーメンバーであり、リーダーを務めさせて頂いております、ヤマト・タイガと申します」

 そしてタイガは立ち上がり、国王の目を見る。

「職業は〈魔剣士〉をしております」

 その時、王宮内がざわつき始めた。

「ほぉ、〈魔剣士〉とな! いやぁ、ここで出会えるとは思いもしなかった! いやぁ、よく来たね!」

 そう言って国王はタイガに握手し、ミルミア、リンナとも握手をする。カリンの言う通り、フレンドリーな方だとタイガは胸を撫で下ろした。

「ここでは何だ。お茶でも飲みながら話をしよう。ギル! 紅茶の用意を」

 ギルと呼ばれた執事はお辞儀をして、タイガ達を応接間に案内し、部屋を出る。応接室に行く間、ミンティークはカリンの傍にずっといて、男の子の方はタイガを睨んでいた。
 イグニルと呼ばれた国王、その御后であろう人が座り、その二人を挟む等にイグニルの方には男の子が、御后の方にはミンティークが座った。
 その目の前にミルミア、カリン、タイガ、リンナが座る。アイルとルーはその後ろで立っていた。そしてオトランシス兄弟の父も呼んで貰い、話を始める。最初、父は二人を見て驚いていたが、直ぐに真剣な顔に戻り、話を聞く。

「私はコナッチ王国、国王、イグニル・スゥ・コナッチだ」
「そしてその妻、メービル・アルファ・コナッチです。本日はお越しいただき、ありがとうございます」

 それぞれの紹介に、タイガ達は頭を下げる。

「そしてこちら、第一王子のラモーネ・スゥ・コナッチだ」
「どうも」

 ラモーネは礼儀正しく、立ってお辞儀をする。

「そして第一王女、ラモーネの妹のミンティーク・アルファ・コナッチです」
「こ、こんにちは……」

 先程のカリンとの再会とは打って変わり、オドオドした様子でお辞儀する。

「ミンティークは人見知りでね。ちゃんと話せるのはカリンぐらいしかいないのだよ。許してやってくれ」
「いえ、とんでもない」

 イグニルの言葉に、タイガは礼儀正しく返答する。
 そしてオトランシス兄弟の父、タロット・オトランシスも挨拶して、丁度良いタイミングでギルが入って来た。紅茶が全員に行き渡った時、イグニルが話し始めた。

「それで、今回はどんな用件で来たんだい?」
「はい。それに関して、全てタイガが話していただきます。タイガ、お願いします」

 ――早速丸投げかよ……

 何かデジャヴを感じたタイガだが、姿勢を正して話し始める。

「今回こちらに来た理由として、後ろにいるアイルとルーについてです」
「息子達が何かご無礼を!?」

 二人の名前を挙げた瞬間、タロットが大きな声を上げてタイガに聞いた。前に座っていたミンティークがビクビク震えている。

「落ち着けタロット。それで?」
「はい。これから話す内容は、他言無用でお願いします」

 タイガの言葉に、全員頷く。それを確認したタイガは、一息ついて、再び口を開いた。

「俺は訳あって王宮に居候していますが、事の発端はおよそ二週間前です。ギルドの帰りに二人を、ミルミアとカリンを連れて王宮へと帰って行く途中でした。中に入ろうとした時、物陰から鎧を着た二人組が出て来て門番を名乗り、『ここは国王様のお屋敷だから帰れ』と言われたんです。ですが居候して二日、自分は門番を見た事がないんですよ。そこでカリンに確認を取りました。すると『この王宮には門番はいない』と言われ、ふと見たら鎧を付けていた一人がリンナを襲ったんです。俺は直ぐにリンナを助けました」

 全員タイガの方に目を逸らさず話を聞いている。ラモーネが少しつまらなさそうにしているが、それでも話を聞いていた。

「その時、俺は僅かに見えたんですよ。その鎧を着た人の目を。そこには目の光を感じず、何者かに催眠を掛けられている様な様子でした。俺は急いでカリンの使い魔、ペルを呼び、二人の催眠を解いたんです。その二人組が――」
「アイルとルー、という事かな?」

 イグニルの発言に、タイガは静かに頷く。

「二人の話によると、ドルメサの王都に行く途中から記憶がないと言っていました。なので、そこで催眠を掛けられたのかと」
「成程……。それで?」
「はい。それでは本題に入らせていただきます。まず、今回の事件ですがこちらのミスも多くあります。その一つが、門番がいなかった事です」
「カリン、まだ雇っていなかったのか」
「はい、お恥ずかしながら……」

 そう言われると肩を縮こませて小さくなる。イグニルは少し呆れた表情でカリンを見る。

「そこで現在、アイルとルーはこの近くにある『ヤンデ村』に所属していると聞きました。ですが今回の件もあり、いくら操られていたと言われても王宮を襲おうとした事に変わりはありません。なので、俺からの提案なのですが、アリマゲイル・オトランシスとルーミア・オトランシスの二名を家で雇わせていただく事は出来ないでしょうか?」
「何故かね?」
「俺の勝手な考察ですが、もし今回の件がおおやけに広まった時、二人の立場が危ないでしょう。ですが、二人をこちらで預かる事により、二人の立場が失われる事がありません。それに、一番立場が危ないのはルーなんです」

 それを聞いた時、父のタロットの眉がピクリと動いた。

「何故、ルーなんだ」

 タロットが恐る恐る聞く。
 そしてタイガの口から解き放たれた。

「ルーは一度、魔王軍の手下に取り憑かれています」

 数日前の事件を――。

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