異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第四七話 挨拶と兄妹

 報告を終え、報酬を貰ってギルドを出るタイガ達。近くの公園で待ち続ける事数分。ワンピース姿のカリンが来た。実はギルドに向かう途中、念話でカリンに来てもらうように言ったのだ。

「お待たせしました」
「どうしてカリンが?」

 事情を知らないミルミア達が、タイガに聞く。

「今回、正式にレーラがこのパーティーに入る事が決まった訳だ。挨拶に行かないなんて、失礼極まりないだろ?」
「カリンさんを呼んだ理由は? ……あ」
「分かったか? リンナ」
「え? 何々?」

 リンナは何かに気付いたようだが、ミルミアが全然分からないという顔をしている。

「この間、カリンの事は伏せていただろ? 俺らのパーティーに入るなら、知ってもらった方が良いかなって。最初は固まると思うが、カリンの方から説明すればすぐに終わる筈だ」
「え!? 私が説明するのですか!? てっきりタイガがするものかと……」
「お前、俺を使いすぎ。少しは自分でも説明できるようになれよ。最初は俺が話すから、お前の事に関しては、自分で言ってくれ」

 タイガがそう言うと、カリンは浮かない顔で渋々了承した。
 タイガ達はレーラの両親に挨拶しに、一昨日お世話になった『ローラン』に向かう。

「ただいま~」
「お帰りなさい、レーラさん。そちらの方は?」

 ローランに着いたタイガ達は中に入ると、レーラの父のロストではなく見知らぬ女性が受付にいた。
 話によると、彼女はここでアルバイトをしているらしく、一昨日はお休みだったらしい。その為、タイガ達の事は知らなかった。

「あたいの友達だ! 所で、父ちゃんと母ちゃんは?」
「ロストさんとトレーヌさんは奥で休んでいますよ。呼ばれますか?」
「いや、こっちから行くよ。ありがとな」

 レーラは受付の女性に礼を言って、タイガ達を奥の部屋――両親の部屋――に案内させた。

「父ちゃん、母ちゃん、あたいだ。入って良い?」
「良いよ」

 レーラはドアをノックして確認を取ると部屋の中からロストの声が聞こえて、タイガ達は中に入る。

「お帰りレーラ。それにタイガ君達も」
「ただいま父ちゃん。母ちゃんは?」
「ちょっと出かけてる。すぐに帰ってくるよ」

 ロストはタイガ達を席に案内し、お茶を出した。レーラはタイガ達と向かい合わせで座る。
 全員にお茶が行き渡った時、母のトレーヌが帰ってきた。一度着替えてくると言って席を外し、一分もせずに帰って来た。
 トレーヌが一息ついた所で、本題に入る。

「それで、何の様だい?」
「はい。レーラから聞いていると思いますが、レーラが俺達のパーティーに入ったので、リーダーである自分が挨拶に来ました。この度はパーティー参加を許していただき、ありがとうございます」

 タイガは座りながらではあるが、頭を下げる。そこに口を開いたのはトレーヌだった。

「旦那は許したが、正直言って私はまだ認めていない」

 まさかの発言に、タイガとカリン以外は驚いた顔を見せる。

「こんな娘だが、それでも私達のたった一人の大切な娘だ。いつかは親離れするだろうが、一五歳のレーラにはまだ早いと私は思う」

 ――たった一人の娘、か……

 タイガは自分の両親を思い出す。

「それに、何処で生活するんだい。君達は同居している訳ではないのだろう?」
「その事については、私が説明します」

 ここで、カリンが出てきた。タイガはカリンに任せ、時々フォローに入る。

「貴女は確か、受付した……」
「申し遅れました。私、ドルメサ王国、第二三代国王のカリン・ビル・アルシアです」

 カリンは立ち上がり、コナッチ王のイグニルにやったのと同じ様にスカートの裾を少し上げ、カーテシーで挨拶する
 いきなり国王と名乗られて、レーラの両親は固まってしまう。

「こ、国王様……」
「これは大変ご無礼を!」

 二人は土下座までしてしまい、タイガ達は苦笑いしか出来なかった。
 カリンは顔を上げさせるが、二人は顔を一向に上げはしない。ここで、レーラが助太刀に入った。

「父ちゃんも母ちゃんも顔を上げてくれよ。『友達』が困ってんだろ?」

 友達という言葉に、両親はピクリと反応した。

「友達……? レーラが、国王様の……?」
「ああ! 大事な友達だ!」

 二人は目をぱちくりさせ、レーラを見る。自分の娘が国王の事を友達と呼ぶ事に相当驚いているのだろう。漸く顔を上げたので、カリンは話を進める。

「レーラさんの住む場所ですが、我が王宮でいかがでしょう」
「王宮ですか!? それは流石に……」
「大丈夫です。ここにいるタイガ、ミルミアさん、リンナさんは私の王宮で生活をしています。なので、心配はいりません」

 ロストとトレーヌはお互いに目を合わせる。そして再び、頭を下げた。

「娘を、宜しくお願いします」
「はい。ですが、一つこちらとしてもお願いがあるのですが、よろしいですか?」
「はい。娘がそちらにお世話になるので、出来る限りの事は何でもします」

 ロストが顔を上げ、カリンの目を見て話す。レーラは何を要求されるのか少し怖くもあった。

「そんな堅苦しいお話では御座いません。ただ、レーラさんには王宮の関係者として生活して欲しいのです」
「と、言いますと?」

 カリンはタイガに持たせていた四角い小さな箱を開いて、レーラ達に見せる。

「これはドルメサ王国の紋章です。これを持って頂ければ、王宮の関係者という証と、ドルメサ国が後ろ盾になるという証になります。これさえあれば王都に自由に出入りできますし、国境を超える時もこれを見せれば難なく入れます」
「何故、レーラが?」

 ここからはタイガに任せると、カリンはタイガを見る。タイガは一つ溜め息をつき、質問に答える。

「カリンは俺と出会うまで、ずっと一人でした。いるのは執事とメイドだけ。そんなカリンが初めて俺やミルミア達と繋がりが出来たんです。カリンには両親がいません。ですが、俺達がこれを持つことによって、カリンの家族だと言う証拠になるんです。つまり、カリンが言いたいのは『私達は家族として過ごしていきましょう』と言っているんです。その為の紋章ですよ」

 タイガの言葉に、カリンは顔を真っ赤にさせる。
 タイガの話を聞いた両親は一瞬悲しそうな顔を見せるが、その後顔を緩ませ、カリンに言う。

「レーラで良ければ是非、家族として生活させて下さい」
「私からもお願いします」

 軽く頭を下げ、無事にレーラがタイガのパーティー入り並びにドルメサへの引っ越しが認められた。

「私達は明日、ここを出発します。その時、お迎えに上がりますね」
「分かった! じゃあ明日な、カリン!」

 そう言ってレーラは笑顔で手を振り、タイガ達と別れた。

「さて、タイガ。これからどうすんのよ」
「実は、これからカリンと二人で出かけたいんだけど、良いかな?」

 タイガの発言に、ミルミアとリンナは顔を青くさせ、カリンはまた赤くさせる。
 ミルミアがどうしてか聞こうとするも、タイガが「ごめん」と手を合わせてカリンの手を取ってその場から離れた。

『タイガ! どういう事!?』

 だがすぐにミルミアから念話が来て、タイガは説明する。すると二人は直ぐに納得してくれて念話が切れた。

「さてと、まずは昼飯喰いに行くか」
「は、はい」

 その時、タイガは忘れていた。カリンと手を繋いでいる事に。
 適当にお店に入り、注文する事一〇分。二人の頼んだ料理が運ばれ、食べ始める。

「それでタイガ? どうして私と出かけたいと?」
「お前と行きたい所っていうか、まぁ。いろいろあんだよ」

 タイガはカリンの質問をはぐらかし、黙々と食べ続ける。これ以上は、カリンも聞かなかった。
 昼食も食べ終わり、目的の場所に向かうタイガとカリン。

「何か、こうやって二人で歩くの久しぶりだな」
「そうですね。タイガが冒険者となって、ミルミアさんとリンナさんが来て、王宮は賑やかになりましたからね」

 二人はゆっくり歩き、思い出を語る。あの時の記憶が、お互い鮮明に覚えている。月日こそ全然経ってないが、長く感じるほどこの短期間で色々あった。

「着いた。ここだ」

 タイガの目的のお店。それはマグナラが売っているお店だった。

「タイガ、どうしてここに? タイガはもう持ってるじゃないですか」
「俺が使うんじゃない。俺はカリン用に買いに来たんだ」

 タイガの言葉に、カリンは戸惑う。

「な、何で私のを?」
「何でって。お前も持ってないと色々不便だろ。俺だって常に傍にいられないんだ。お前からも連絡できるように、持っておいて損はないだろ」
「なら、昨日貰えば――」
「それじゃ意味がない」

 カリンの言葉をタイガが遮る。カリンがタイガを見ると、いつになく真剣な表情をしていた。

「いつか、お礼がしたかったんだ。俺をあのデカい王宮に住ませてくれて、飯とかも用意してくれて、そして何より、『家族』って言ってくれて」

 タイガはもう、日本には帰れないかもしれない。それは薄々気付いていた。だから、この間紋章を貰った時にカリンが言った『家族同然』という言葉が、タイガには嬉しかったのだ。

「だから、俺はお前に買ってやりたいんだ。ダメか?」

 タイガが優しく、微笑みながらカリンを見る。カリンは嬉しさのあまり、涙を流してしまった。

「さぁ、中に入ろう」

 タイガはカリンの涙を指で拭うと、手を取って店の中に入る。とても静かなお店で、カラスケースに丁寧にマグナラが飾られていた。
 タイガは店の人に紋章を見せると、さらに奥に案内された。王族専用のマグナラが置かれている部屋だった。

「この中から好きなのお選び下さい、カリン様」

 タイガはからかうかの様にカリンをエスコートして、マグナラを見せる。沢山の種類があるマグナラに、カリンはたった一つのマグナラが視界に入った。

「これは……」

 カリンの髪と同じ水色で、八面体の形をしたネックレス型のマグナラだ。つまり、タイガの色違いとなる。

「タイガ。私、これが良いです」
「これって、俺の色違いじゃないか。他にもあるぞ?」

 カリンはそれを指さすと、タイガがそう言う。だが、カリンは笑い、タイガを見ながら言った。

「これで良いんです。いえ、これが良いんです」

 その笑顔にやられたタイガは、店員さんにお願いして、例のネックレスを出してもらった。
 カリンにはお店の外で待ってもらい、タイガが会計に行く、値段を見ると、そこには何も書かれていなかった。

「何で何も書いていないんです?」

 流石に変に思ったタイガが、店員に聞く。

「失礼ながら、お客様はエメラルドグリーンのマグナラを持っていますね? これと同じモデルの」
「え、えぇ。そうですけど」
「実は、このマグナラと、お客様のマグナラは兄妹であり、滅多にない存在です。エメラルドグリーンが兄、水色が妹となっておりまして、随分昔に、兄が突然ルージュというドルメサにある時刻盤屋に行ってしまいました。ですが、使い方は知らされずドルメサに行ってしまった為、ずっと飾られていたのです。そして先日、ルージュからお電話があり、『使える人が現れから譲った』と聞きまして。お客様を見た時に、直ぐ分かりましたよ」

 タイガは自分のマグナラと、カリンの為に買うマグナラを見る。

「感動の再会って事ですね」
「はい。なので、そのマグナラはお譲り致します。いえ、返しますと言った方が正しいですかな?」

 店員は微笑んで、水色のマグナラをタイガに渡す。

「大事にされてくださいね」
「ありがとうございます」

 タイガは受け取り、店を出てカリンと合流する。
 次にロンがいるイグナート専門店に行き、カリンのマグナラにイグナートを搭載させて、買い物は終わった。

「今日はありがとうございました」
「いや、俺も久々にカリンと出かけられて良かったよ」

 コナッチの王宮に帰る前、タイガとカリンは公園により、カリンをベンチに座らせ、タイガがその目の前に立って、ポケットからカリンのマグナラを出した。

「このマグナラと俺のマグナラ、実は兄妹なんだって」
「そうなんですか?」

 タイガはお店の人から聞いた話を、カリンにも話す。話終わったタイガにカリンは優しく言った。

「運命の再会って事ですね」
「あぁ……」

 そしてタイガは、カリンの後ろに回ってネックレス型のマグナラを付ける。

「この兄妹を、離れ離れにしない様にしないとな」
「はい!」

 これは、タイガの一つの誓いでもあった。カリンを危険な目に合わせない。その為の、このマグナラの『再会』なのかもしれない。

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