伍長閣下目線、１０章６話選挙３日前（中）【船は進むよ高速で】

　水陸両用艇があるかと聞かれれば、ホバークラフトを思い浮かべるであろう。
だが、この世界では水陸両用艇は紛れもなく船だった。
　空気もエアクッションも何にもない、どこからどう見ても船、漁船ほどの船体だろう。
だが、普通の船とは違う。船底に格納型のキャタピラを搭載しているらしい。
　最初この技術を聞いた時、

「（まーた、ス連邦の皇宮財閥か…）」

と思ったが、どうやら違うそうだ。
　この技術はかの女王陛下が治めている国、ヴェルト州連合王国の会社、ヘレッツィン＆フェルニカル（H&F）社製の技術だそうだ。
　どうやら、ス連だけが技術の独占ばかりしているわけでは無いらしい。
　まぁ、そんなんだったら、列強国が何個もあるわけないか…
ま、そんなことはさておき、今私は私服で水陸両用艇に揺られていた……６０ノットで、

「さ、寒い…」

　海の上を６０ノットで移動するのって結構寒い…
私は鞄からコートを取り出した。
　そういえば、昔地球で友人と、４０ノットの○○という話をしていたな…４０ノットの山とか…
　あの頃は、私自身政治家になったり、異世界に来たりなんてことは考えていなかったもんな…
私が思い出に浸っていると、

「陛下！もうすぐ着きますよ！速度を上げるので中に入ってください！」

っと、船長が大声を飛ばした。
　マジか…６０ノットより早くできるのか…
　そう思いつつ私は船内に避難した。

　５分後。
　ガガガガ
と、砂が船底にこすれる音が出たと同時に、
　ガララララ
と、キャタピラ特有の音が響き渡る。
っという事は、もう着いたのだろう、恐る恐る外へと顔を出す。
　外の光景は船着き場ではなく、砂浜だった。
　何故か？まともな船着き場はまだできていないから、砂浜に上陸する必要があってな…、だからいつも水陸両用艇で来なければならなかった。
　船首では、船長が階段を下ろしていた後だった。

「では、私は戻りますので、お迎えが必要な時になったら電話をください。」
「ああ、ありがとう」

　階段を降り、急いで船の近くから離れる…のを確認した水陸両用艇は回れ右をキャタピラをうまく使いながら回りそのまま海の中へと入っていった。

「やぁ、私よ！」

　森林が開いている場所、いわゆる獣道への入り口でジープと共に、アドレフがいた。
こちらも、私服で、白衣なんかは来ていなかった。

「よぉ、アドレフ！もう行けるのか？」
「ああ、いつでも」
「では、行くとしよう」

　助手席に乗り込み、アドレフの運転で、獣道へと入る。
ガタガタ揺れながら、ここも舗装がいるな…と私は思った。

　　