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チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第五話 恵みの雨

 目が覚める。
 自然と身体が目を覚ました。
 なんだか、身体が軽い気がする。
 こっちの世界に来て初めての肉を得たせいかもしれない。
 動物性の栄養は数度の鳥の卵だけだった。
 アレも猛烈に美味しかったが、やはり肉は別格だった。

「どうやら野犬に襲われて死んではいないみたいだな」

 太陽はまだ地平線の下で赤く空を照らしている。

「随分と早く目が覚めたな……」

 周りを見渡すと篝火はだいぶ小さくなっている。
 いくつか見回って良さそうな木炭は火から上げておく。
 朱色に照らされた空は、目に見えて曇っている。

「これは昼ぐらいに降るかな……」

 燻製箱の中では肉達がいい色にお召し替えをしていた。
 その香りも素晴らしい。
 細かくなっている方をひとつまみ食べると、最高のジャーキーになっていた。
 これは歩いている時の最高のおやつになるだろう。
 すべてを丁寧に葉で包み保存容器にしまっていく。
 しばらくのメリウスの命をつなぐ大切な食料だ。

「それに、雨が降るなら得られるものがある」

 もちろん水だ。
 水筒を10個ほど蓋を開けて荷車の横に設置する。
 雨を避ける革を伝って水筒内に水が落ちる仕組みだ。
 メリウス自身もアメを防ぐ葉で作った雨具を用意する。
 靴はもともと防水仕立てのしっかりとした作りで今までも本当に助かっている。
 一度匂いを嗅いだら命を刈られそうになって、定期的に燻蒸消毒をしている。

 いつも通り荷物をしまって出立の準備をする。
 昨日の肉団子を薄くして焼き、いつもの芋で挟んで食べると極上だった。
 芋も油を吸ってその旨味を何倍にも引き上げていた。
 比較的強く香辛料を使ったとはいっても、ひき肉は全て火を通しておく。
 カリカリにしておけば調味料代わりに使える。
 そのままポリポリ食べても非常に旨い。

 内臓を埋めた位置に軽く石を積んで手を合わせ、この場を後にする。

 食事のグレードはワンランクもツーランクもアップした。
 道を進む足も心なしか陽気になっている。
 走りながらも器用に骨や革の加工を続けている。

「軽くて硬い、熱にも強いし、これを利用すればまた出来ることが増えるな」

 白く輝く骨を太陽に翳してみると宝石のように美しい。

「そういえば……」

 仮面のかけらを取り出す。メリウスはなんとなく捨てることが出来ずにポケットに入れてみた。

「これも硬そうだよな……」

 骨を削っていた石の代わりに、仮面のかけらを骨に当てて見た。
 まるでバターのように骨が切れていった。

「な……」

 あまりのことに驚く。
 試しに軽く指を当てても切れることはない。
 しかし、骨に当てれば思った通りに骨を切り出してくれる。
 なんとなく石を削ってみたら、軽い抵抗感とともに石が薄く切り出される。

「何なんだこのかけら……仮面も……」

 不気味ではあるが、この道具は画期的だ。
 自然に切り出された都合の良い石を集めて道具として使っていたが、これからは好きな形に石も骨も細工できるということだ。
 試しに槍の穂先を切り出すと、まるで鉄によって作られたような鋭い槍が出来上がる。
 これで刃物代わりの石も、斧も全て本当に刃物と言える物へと生まれ変わる。

「革の加工もこれを使えば……」

 小さな欠片だが、100人力だ。

 草原に雲の影が多くなってくる。
 かなり森から歩いてきて分かったが、草原にもたまに群生した木々の場所があって、道を見失わないように注意すれば多少の森の幸を得ることが出来た。
 同時に、このまま雨が降る用なら寝る場所は草原の中ではなくて森へと移動したほうがいいだろうと考えていた。
 めぼしい場所があれば、今日はそこまでにして寝る場所を確保する。
 その予定だ。
 メリウスがそんなことを考えて走っていると、パツンパツンと背後のカバーに水が当たる音がする。
 小粒の雨が降り出すと雨の勢いは徐々に強くなり、しばらくすると本降りの雨となる。

「少し不安だったけど、なかなかな代物だな」

 葉と編み込んだ網、それに大量の枝葉を付けた防寒具は雨を通さないし、防寒の役目も兼ねてくれた。
 小走りなので身体は温かいが、水を浴びて進めば体温を奪う。
 見事にそれを防いでくれた雨具に感謝する。

 ザーーーーーー、という雨音しか聞こえない。
 草原に灰色の空、シトシトと降りしきる雨。
 この光景はなかなかに趣深い。
 草原の地面はどうやら水はけが悪くないようで足元の不利が起きないでいてくれるのもありがたかった。
 むしろ地面との滑りを良くしてくれるせいで引っ張っている台車が楽になったぐらいだった。

「お、あそこなら道も近いな」

 丁度いい位置に林を発見する。
 出来る限り獣道で接近して、林に向けての道を作る。
 道には背の高い枝に大きな葉を付けて旗代わりにする。
 こうしておけば戻るときにも迷いにくい。
 丁寧に草原の草を刈り取って道を開いていく。
 仮面のかけらのお陰で刃となった石鎌がとても軽く草を刈り取ってくれる。
 お陰で想像よりも遥かに早く林に到達できる。
 背後には見事に刈り取られた道が出来ている。
 ここを戻れば獣道まで迷うことはないだろう。

「さて、準備を始めるか」

 林に入るだけで雨は殆どメリウスの体をうたなくなる。
 木々が天然の傘となって守ってくれる。
 水筒にはたっぷりと水が満たされていた。
 天からの恵みに感謝して蓋を閉めて回収しておく。

 木々が重なりほとんど雨が落ちてこない場所を見つけ、そこを寝床にすることにした。
 切れ味の上がった斧で適当な木を切り倒す。
 仮面のかけらを使うことで木の皮はまるで果実の皮のように容易に剥がすことが出来る。
 糸鋸を使って適当な長さで切り落とし、同様に板を作っていく。
 土台となる丸太を二個用意してその板を渡して木の釘で打ち付ければ、床、土台ができる。
 その上にテントを張れば、高床式住居の完成である。
 多少の雨は防げるテントだが、濡れた地面の上にずっと置いておけば痛むだろう。
 床材に隙間を開けて水を落とすようにしておけばかなり雨の影響を防げる。
 さらに木による天井も助けてくれる。

「拠点は出来たから周囲を探ってくるかね」

 木の杭を打ち込みながら道に迷わないように森の中を探索する。
 ほんの一周りするだけでたくさんの森の恵み、それに素材を補充できた。

「自然に感謝を……」

 メリウスは心の底から森へと感謝する。
 自分が自然に活かされていることをこの世界に来て強く強く感じていた。
 減ってきていた様々な物も色々と補充ができる。
 さらに仮面のかけらや、それによって作られた道具によって細工、製造技術が上がっている。
 肉を切る包丁や、頭蓋骨を利用した鍋など、色々と充実していく。

 木々に雨が当たる音が響く森の中で、温かい夕餉をいただき、静かに骨を研ぐ。
 この時間がメリウスにとって非常に大切な時間になっている。
 彼の心にずっとはびこるような闇が少しづつ剥がれ落ちるよな、そんな気がしていた。

 美味な食事に満たされ、森の空気を取り込み、暖かな寝所で眠る。
 彼の一日は終わりを告げて、そして、この日は過去の夢を見るのだった。



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