チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第六話 誰がための戦い

 笑顔を護りたかった。

 誰の?

 皆の笑顔を護りたかった。



「うおおおおおおおおおお!!」

 大剣を横薙ぎに振るう。
 ゴスゴスと肉を切る感覚が手に伝わってくる。
 橋に迫ろうとしている敵の大群の先頭を弾き飛ばした。

「早く橋を上げろ!!」

「し、しかしメリウス様が!!」

「大丈夫だ!! 俺はこのまま敵の大将を獲る!
 橋がかかっていては背が気になって戦えぬ!
 橋を上げ、門を閉じろ!!」

「は、はい!! ご武運を!!」

 背後で鈍い音を上げながら橋が上がっていくことがわかる。

 そんな間でも敵は容赦なくこの砦を落とそうと群がってくる。
 人間の反撃によってようやく取り戻したガーニック砦。
 大岩壁をつなぐ要所に作られた巨大要塞だ。
 ここを魔獣たちに獲られてから俺達は防戦一方になっていた。
 その戦線を少しづつ持ち上げ、ついにこの要塞を落とすことに成功した。
 敵もこの要塞の重要さは理解しているようで、こちらが満身創痍で落とした要塞に、翌日には見渡す限りの大軍を持って攻め込んできた。
 今は、そういう状態だ。 

 俺も敵に一切の容赦はしない、そんな余裕は1mmもない。
 大量の敵を殺すために、叩きつけるための大剣を一心不乱に敵に向かって振り回し続ける。
 一振りすれば敵が減る。
 俺が大剣を振り回すほどに敵が減っていく。

「御武運……か……」 

 運なんてものは信じない。
 俺よりも運が強いやつを何人も見てきたが、皆、死んじまった。

 結局、純粋に力が必要だった。
 来る日も来る日も剣を、槍を、拳を鍛え続けて、敵を殺せる数がどんどん増えていった。
 人々は俺を英雄だともてはやし、今では立派な装備に身を包んで最前線で敵を殺している。
 武器や鎧、その全てが力だ。

 敵の一部が、味方ごと俺に矢の雨を降らせてくる。
 肉の壁によって動きを止めて俺を撃ち抜こうとする。
 化物にしては頭を使っている。

「だがなぁ、俺に矢なんて効かねーんだよ!!」

 返り血で赤いシミが絶えないが、元は純白の美しかった鎧が淡い光を放つ。
 風の精霊の護り。
 基本的にこれがあれば放射状に打たれた生白なまっちろい矢なんて物の数じゃない。

「オラァ!」

 降り注ぐ矢は無視して敵をぶった斬って進んでいく。
 偉そうに馬上でふんぞり返っている赤目の化物をぶちのめすためだ!

「オラオラオラァ!」

 敵の将に近づいていけば、当然護衛も強力になってくる。
 人間の背丈を遥かに超えるサイクロプスにオーガなんて当たり前、ドラゴンだのキメラだの何でもありだ。
 皆、目を真っ赤に光らせて俺に向かって襲い掛かってきやがる。

「デカブツにはこれだ!!」

 懐から短刀を取り出す。これもマジックアイテムだ。

巨体殺バルクキラーし!!」

 短刀を投げると美しい青い光に包まれた短剣は空を舞う。
 俺が命じた相手に空中で狙いを定めると、まるで鳥のように敵を襲い始める。
 巨体を持つ魔物の鈍重な動きでは捉えることは出来ない、毒の刃が巨体の表面に細かな傷を増やしていく。
 一度では効かない、ならば百度斬りつければいい。
 じわりじわりと命を刈り取る毒は魔物の体内に蓄積されていく。

 俺は短剣を相手に踊っている護衛を無視して将を獲らんと敵を蹴散らし続ける。
 ここに来てようやく現状の不利に気がついた敵将さんは必死で俺との間に肉の壁を築こうとする。

「おせーんだよ!! 魔縛の鎖あの将を捕らえよ!
 魔物食イビルイーターいその力を開放しろ!」

 腕に仕込んだ鎖が生き物のように敵将の首に巻き付く。
 これで準備は出来た。ここまで近づいたのはこの状況に持ち込むためだ。
 俺の大剣は敵の命をぶった斬り、そして吸い取る。
 禍々しい敵の命を利用して光り輝く障壁を作る。
 半径は二十メートル程だ。
 俺と、敵将以外の魔物たちは壁に弾かれ蚊帳の外だ。
 狂ったように障壁を叩き破壊しようとしても、そうそうは壊されない。
 何と言っても魔物共の大量の命を原料に作られた壁だ。

 役目を終えた大剣を台地に突き刺し、腰から相棒を抜く。
 英雄おれることしらず
 大層な名前がついているが、単純に壊れないということに特化した剣だ。
 どれもこれもマジックアイテム。
 結局英雄だなんて呼ばれている俺の力は全てマジックアイテムが支えている。
 英雄となることで手に入れることができた道具で、俺は英雄なんてものになり続けている。

「てめぇを殺せば、また英雄様だ……せめて大人しく俺の糧になれ!」

 別に英雄になりたいわけでも、英雄でいたいわけでもない。
 俺はただ、一匹でも魔物共を倒して、犠牲になる人間を減らしたい。
 ただ、それだけだ。

【グアアアアア!!】

 忌々しそうに鎖を外し、敵将が襲い掛かってくる。
 馬上に居られて敵の武器は槍。あまりいい状況ではない。

「別に俺はお前を殺せれば、方法は知らねーんだよ」

 懐から珠を突撃してくる将に投げつける。
 当然敵はいとも簡単にその珠を槍で薙ぎ払う。
 同時に球は弾けて網を吐き出す。
 網は幾重にも編まれた鋼線で作られており、無数の棘がついている。
 そして嫌らしいことにその棘にはいちいち返しがついている。
 突然目の前に現れた網をそのまま槍で払おうとするが、幾重に編まれた鋼線の網は非常に重い。
 そのまま将と馬を包み込み、体表に、鎧に、その棘をつきたてる。
 もがけば棘は深々と突き刺さり、返しのせいで抜けることは無い。
 武器も不味かった。
 槍では絡め取られた後に網を払うことも出来ない。
 馬は全身を棘に絡め取られ苦痛の声をあげる。
 賞も声にならない怨嗟の声を上げながらもがき続けている。

「これが英雄の戦い方のわけねーよな!」

 もちろん、棘には毒付きだ。
 様々な種類の毒が深々と突き刺さると吐き出されるようになっている。

 これらの道具の殆どを、天才へんたい鍛冶師、ゴーヴァンに作ってもらっている。
 敵を倒す道具、様々な天才的なひらめきが、すべて敵を倒すという一点に向けられている。
 そこには美学はない、いや、敵を倒すという明確な美学があって、その手法は一般的には卑怯だったり、陰湿と呼ばれるたぐいのものでもなんでも利用している。
 気持ちがいい変態てんさいではある。裏表はない。
 凶悪な武器を作っては満面の笑みで俺に渡してくる。

 網に捉えられ、身動きもできない将と馬に、自らの壊れない剣の形をした鈍器を無感情に振り下ろし続けながら、俺はこんな場面で思い出したくもない髭面のドワーフのことを思い出していた。
 足元には血溜まりが出来、身動き一つしない魔物だったものが横たわっていた。

「終いだ……」

 振り返り、剣を鞘に収めて、大剣を台地から抜き去る。
 障壁が消え去り、魔獣共が中の状況を把握する。
 無残にもミンチとなった自分たちの将の姿を……
 怒りで襲い掛かってくるものはいない、あまりにも惨たらしい自分たちの将の姿に、大群は散り散りとなって撤退していく。
 もし、義憤に駆られて俺にかかってくるなら、同じように殺し続けるだけだ。
 事実逃げる魔物たちにも容赦なく大剣を振るい少しでも数を減らし、爆発する珠を撃ち込む。
 ここで一体でも減らせば、敵が減る。
 潰走する敗残兵だろうが、殺す相手でしか無い。

 俺は、殺し続けていた。
 毎日、毎日、毎日。

 気がつけば口角が上がっている。
 俺は、笑いながら、笑顔を浮かべながら敵を殺していた。

 俺が守りたい笑顔は、そこには無かった。
 

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