チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第十五話 村へ

「……ここで目が覚めたが、この先は物凄く嫌な予感がする……」

 この下は明らかな危険地帯だとわかっているが、すでに落下が始まっている。
 メリウスはそんな気持ちで目覚めた事を思い出す。
 その後に少し休ませてもらったので、外はすっかり暗くなっていたが、まだ物思いに耽っていた。

「……よほど俺はあの目が嫌いらしい……」

 赤く光る目を思い出すだけで、頭の奥がずくりと鈍く痛む気がする。
 そして、今回は実物を見て、暴走し、二人に助けられた。
 カインとプリテ……

「きちんと礼を言わないとな……」

 そして、人々が住む村という存在も明らかになった。
 モーラという男にも出会った。
 おしゃべりで、お調子者で、嫌いではなかった。
 この世界に来て初めての人間。
 そして、あの魔物。
 この世界はメリウスに何をさせるつもりなのか、未だにわかることは少なかった。

 メリウスは思考で火照った頭を冷やすために外に出た。
 カチャと懐で音がなったので見てみると、剥がれ落ちた仮面のかけらを納めた袋だ。
 今回落ちた仮面はかけらというより、仮面自体の薄皮がまるごと剥がれたようだった。
 美しい白い仮面、この大きさがあれば、さらに大きなものまで切ることが出来るなぁ。
 メリウスは少しワクワクしていた。

 外に置かれた水はキンキンに冷えており、頭と顔の熱を気持ちよく取り払ってくれる。
 空を見上げると、大きな月と、たくさんの星々が煌めいていた。

「明るいな……他に光がなければ月や星々はこんなにも輝いているのか……ん?」

 気がつくと、仮面のかけらを納めた袋が月明かりにも似た淡い光を放っている。

「これは……」

 カラカラと手のひらにかけらを取り出す。
 かけらの一つ一つがぼんやりと光っている。
 一番大きな欠片をメリウスが手に取ると、その光が少し強くなった気がした。
 次の瞬間。

「なに!?」

 かけら同士がまるで水のように溶け合い、一つになった。
 そして刃渡り60cm程の片刃の刃に変化する。

「これは……一体……」

 光が収まると仮面と同じ、白く、固い不思議な材質の刃がメリアスの手に握られていた。

「……便利そうだな……」

 はじめに思ったのはそれだった。
 しばらく試し切りをすると、性能はかけら状態の時と変わらず、メリウスが思ったものはなんでも抵抗なく斬れる。斬る気がないものは斬れない、相変わらず不思議な物だった。
 刀身はスラリと細く美しく、先の方をつかめば細かな作業も今まで以上に精密に可能だ。

「明日、持ち手と鞘を作るか……」

 目の前で超常現象が起きたのだが、もともと仮面は不思議の塊。
 あんまり深く考えなくなってきていた。
 むしろ使いやすい形に変化してくれたことの喜びのほうが、メリウスの中では完全に勝っていた。
 子供のようにワクワクしながら寝床へと戻ると、気がつけばあっという間に眠りに落ちてしまった。

 朝日が地平線を照らし出した朝。
 メリウスは皆を起こさないように外に出て台所の側で作業をしていた。
 昨日変化した仮面の刃に柄と鞘を作りたかったのだ。
 ワクワクして早起きまでしてしまっている。
 赤い目の子鬼、今考えればゴブリンと呼ばれる魔物を倒した時に、石剣の柄は壊れてしまった。
 過剰に握りしめてしまった己の未熟さもあるが、やはりきちんと作り込まないと強度的な問題が起きる。
 刃自体が理想的な形をしている。ご丁寧に柄に産める部分に横穴が開いている。
 日本刀で言うところの目釘孔だ。
 柄部分に差し込んでこの部分に目釘を打てば刀身部分が吹っ飛ぶことを防ぐし、強度を得ることが出来る。
 正気を失い握りつぶさなければ材質としても木材で問題がない。
 ピタリと張り付くように作成した持ち手に刃が収まる。
 一部の隙間もない目釘を嵌めて、植物の樹脂を塗る。
 この樹脂は乾くとコーティングしたように固まってくれる。
 その上から縄をきつく巻きつけていく。握り手の感触を良くするのと滑り止めだ。
 最後にその紐を留めつつ、一番底の部分を支える石の蓋を押し込む。
 巻きつけた縄がギリギリまで潰されてなおキツイぐらい。
 ガッチリとハマる。
 軽く振ってみるととてもいい感じだ。
 記憶の中で剣を作る過程なんかを参考にした。
 持ち手の保護部分も石を切りだして作成した。
 剣を打ち合い、滑ってきて指などを斬られない工夫だ。

「おや? 俺はこれで戦うつもりなんて無かったのにな、道具と言うより変わった剣になったな」

 片刃の剣、見た目は日本刀が出来上がった。
 真っ白な刀身が美しい。

 それから刃をしまう鞘を作る。
 これも木製だ。
 仮面の力を使って木を削れば、スルーっと一切の引っかかりなく、それでいて隙間もない理想的な鞘が完成する。
 最後に樹脂でコーティングだ。
 これで濡れても傷みにくくなる。
 同時に乾かす過程で少し落ち着いた風調に変化して、磨くと美しく輝く。
 鞘に収めた刃はまるで芸術品のようになる。

「よし、完成だ」

「出来ましたね」

「夢中だったねメリウスおはよー」

「ほーーーー、見事な物ですねー」

 あまりに集中していたので、途中から皆が見学していたことにさえ気がつけなかった。

 刀の説明をすると二人はやっぱり不思議ですねー、と簡単に納得した。
 モーラだけがいつまでも首を傾げることになる。
 モーラを村まで送るための準備が整ったら出発となる。
 話に聞くと物資面でもメリウスたちよりも遥かに困窮しているようなので、多少の余裕ある物資は融通してあげようと考えていた。

 たくさんの人に出会うことになる。

 メリウスの胸には期待と不安が入り交じった、なんとも言えない感情が広がっていた。

 

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