チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記
第二十五話 メルテパの惨劇
砦などを迂回して正規ルートでない道から侵入しているために深い森を抜ける事になった。
森に入る前にペルサスは王都へと帰るように指示した。
魔法による指示なので逆らうことは出来ないが、主人の異変を感づいたのか、何度も振り返り心配そうに鳴いていた……
深い深い森、メリウスは迷うことはない。
導きの宝珠。どんな迷宮であろうと正しき道を教えてくれる。
森の中で何度か夜を過ごす。
メリウスは自身が若い頃、森の中で野生の動物のように過ごしていた日々を久しぶりに思い出した。
「あれがメルテパの街……」
森を抜けしばらく平原を進むとメルテパの街を遠くに観察できた。
魔物の数は流石に多い、草原でも姿を隠す道具がなければ幾度も戦闘になっていただろう。
街の外壁は思ったよりもしっかりと残されていたのが意外だった。
「夜に忍び込むか……」
魔物たちにも夜襲は効果的だ。
様々な魔道具を組み合わせれば、出来る限り多くの魔物の寝首をかくことが出来る。
「しかし、それなりに知恵が回る者も魔物共にはいるはずだが、やはり街では要所にならないと思っているのか?」
町の門は開かれ、防御に力を割いているとは思い難い、人間側のようにまるで緩んでいるかのようにメリウスには映ってしまう。
メルテパの街から伸びる半島の先の島が、今では魔王島と呼ばれる島だ。
突然現れた魔王軍は平和に暮らしていたメルテパの住民をあっという間に飲み込み、その日から人間の悲劇は始まった。
魔王島の周囲の海域は激しい海流によって作られる帰らずの海、しかし、魔物たちも海からの上陸ルートを封じ込めている。
巨大な渦は空高く踊り狂うため、空を飛ぶ魔物であっても魔王島から出るためには半島を陸路で歩んでメルテパを抜けなければならない。
つまり、メルテパの地は人間にとっても魔物にとっても非常に重要な土地のはずなのだ。
それが、こんなに緩んだ雰囲気であることは異常というしか無かった。
「どういうことなんだ……ん?」
さらにメリウスを驚かせることが目の前で繰り広げられていた。
人間の馬車が、何の警戒もなくメルテパの街へ近づいていく。
「ば、馬鹿な!?」
さらに驚愕するのは、魔物たちもその馬車を攻撃せずに街の中へと呼び入れたのだ。
「どういうことだ、何が起きている!」
メリウスは意味がわからなかった。
夜まで待つつもりだったが、姿を消す魔道具を利用して街へと急いで近づいていく。
外壁は残っているが、状態があまり良くないので容易に手をかけて登ることが出来る。
外壁を登り内部を探るが、やはり魔物の数も対して多くない、皆何をするでもなくウロウロと暇を持て余しているようにみえる。
隙があるならありがたい、メリウスは街へと侵入を果たす。
魔物たちにメリウスを落とされてから、初めての人間の侵入者。とメリウスは思っていた。
馬車を発見し、近くの建物の影に隠れて様子を伺うと、人の声がする。
「……そくの品……相変わらず……お互い……」
慎重にメリウスは建物に接近し、開かれた窓から内部の声がはっきり聞こえる場所まで移動していく。
「いやー、今回の魔石も素晴らしい! これは高く売れます!」
『子が多かったからな。しかし、人間も我らよりも悪辣だな……』
「金は人を狂わせるのでしょうなぁ……お互いに戦いには疲れましたからな、これからは協力して……」
メリウスは自分の耳を疑った。
人間と、魔物が取引をしていたのだ。
『次は少し女をくれ、我らの腹床が幾つか駄目になったからな』
「分かりました。年頃の女、健康そうなのを選んできますよ」
メリウスは、怒りの火が心を包み込むのを確かに感じていたが、同時に心が冷え切っていくのを感じた。
人間側の商品は……人間だ……
各地で散発している行方不明事件。
蓋を開ければ、人間が人間を商品として捉えているのだ。
『しかし、あの英雄がいなければこんな関係にはならなかったな。
貴様らは奴に感謝するべきだな。敵としてもあれほど勇猛な者はいない。
汚いと罵るものもいるが、純粋に力をある奴を我らは好む』
「いやー、最近はこの街を攻め滅ぼし、魔物を根絶やしにと訴えてるそうで、なかなかに扱いが難しくなっております。貴族や王もお困りですよ、今戦争が終わっては莫大な財を産むこの関係が壊れてしまいますからな……」
『ふっ、人間のほうが我らより悪辣であるとは笑えぬな。
奴が攻めてくれば我らは死力を尽くし戦うのだが、跳ねをもがれた戦士とは哀れなものよ』
「しかし、奴を殺せば……また世界は皆さんに……」
『ああ、そうだ。奴を殺しても良いぞ?
その時は我らが再び世界を絶望へと叩き落としてくれる』
「おお怖い。精々英雄は大事に飼っておきますよ。犬としてね……」
『……取引は終わった。帰るが良い』
「へっへっへ。今後共ご贔屓に」
『誰だ!?』
メリウスは建物に音封じの呪いをかけた。
この建物の中の音は外に漏れることはない。
そして、窓から部屋に降り立った。
「な、なぜ貴様がこんなところに!?」
見覚えがあった。王に近い貴族だ。かなりの立場の人間のはずだ。
なるほど、このような悪辣な企みが万が一にも国民に知られるわけに行かない。
かなり上のほうだけが知っているのか、逆を言えば、国の限られた上層部だけが、この非道な取引で利を得ているのか。
「外道が……」
友から貰った剣が小刻みに震える。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
メリウスは吠えた。
一歩で貴族との距離をなくし、剣を振るう。
持ち主の心を汲み取ったように、貴族の首は汚らしい血を吐き出すこともなく斬られる。
「な、何を……ごべぇ……」
凄まじい斬れ味で斬られた貴族は、斬られたことにも気が付かず、数歩下がってころんだ拍子に首が外れ、大量の血とともに魂を吐き出した。
『名高き英雄か……このようなつまらぬ仕事、ようやく終えるのだな、ゴフッ』
すでにメリウスの剣は魔物の胸を穿っていた。
べチャリと倒れる魔物、この部屋に他に生きるものはいない……
メルテパに訪れた惨劇は、幕を開けた。
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