チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第二十九話 魔石と魔力

 村にはゴブリンの死体が並べられていた。
 死体は大きな葉の上に寝かせられている。
 首を落としたものは一緒に添えられている。
 異形の者に村の人々は恐れたが、メリウスは説明する。

「これは、『魔物』と呼ばれる物だ。
 赤い目を爛々と光らせ、狂ったように我らに襲いかかる。敵だ。
 外で出会ったらすぐに村へ逃げるんだ。
 自信があっても戦うな。こいつらは群れをなす。
 どこに仲間がいるかわからない」

「メリウス様、何故死体を村に?」

「死体はしばらく放置すると崩れ、粉になる。
 その粉は魔物を呼ぶ。そうしないためには、火で燃やすか……魔石を外すかすればいい。
 今から魔石を取る。少し酷いことをするぞ、苦手なものは目をそらしておけ」

 メリウスは刀でゴブリンの腹を割いた。
 死んだ魔物は物と同じように刀によって抵抗なく切れていく。
 動物と同じような内臓と、丹田の辺りに鈍く光る石がある。
 丁寧に石を剥がすと、ゴブリンの死体は外された石の部分を中心に白く変化していく。

「これが魔石だ。そして、魔石を取り出した魔物は、何故か塩になる。
 喜べ、岩塩よりも上等な混じりっ気のない塩だ。
 元は悪いが、これは村にとっては吉報だ」

 大きな葉の上には山盛りの塩が残される。

「メリウス様、私もやって良いですか?」

「メリウス私もー」

「そうだな、皆も嫌だろうが、これからこういった魔物が来るならば必要な知恵だ。
 覚えて欲しい。もし解体する暇がなければ燃やせ。一晩しか魔物の死体はもたない。
 それ以上かかるなら必ず燃やせ」

 村人もその作業を早く覚えようと熱心に作業を見る。
 次々と魔物から魔石が取られ、塩が大量に手に入る。

「魔石は、これもまた便利だが……簡単な物しか今は作れないな」

 メリウスは魔石に刀で文字を刻む。
 なぜそんな文字を知っているのかメリウスは知らないが、知っていた。

「火の紋を刻んだ。これに魔力を送り込めば火の力を利用できる」

「魔力……?」

「ん? 魔力だと……なんで俺はそんなことを知ってるんだ?
 まあいいか……ええっと……皆まっすぐ立つんだ。
 額の中心からへその下に意識を集中して……おお、なにか暖かいもの感じるだろ?」

「か、感じます!」

「ほんとだーすごーい」

「そのままその流れを辿っていくと……身体を巡って循環している。
 それを意識して操作すれば、魔力が扱える。
 量は人それぞれだが、誰にでもあるものだ。
 魔石を通して様々な効果が生まれる。更には魔力を利用して身体の動きを強化したりも出来るぞ」

「メリウス様! なぜ今まで教えてくださらなかったのですか?」

「いやぁ、俺自信も、なんで今日まで忘れていたのか……?
 そもそも、なんでこんなこと急にわかったんだ?」

「いや、それは……メリウス様にしかわからないのでは……」

「ふおーーーーーたかーーーーーい!!!」

 プリテが凄まじい高さに飛び上がっていた。
 プリテの魔力量は膨大で、その操作も村人の中でピカイチだった。
 魔石の効果を出す文字もメリウスは村人に広める。
 魔石を用いた道具、所謂魔道具の細工は村人の中でも得意不得意が別れた。
 これはカインが非凡な才能を持っていた。
 繊細な魔力の調整はカイン、強大な魔力はプリテ、メリウス自身はかなりの魔力をかなりの精度で扱うことが出来た。

 こうして、村人たちは魔力を扱う手段を手に入れたのだった。

 魔石に刻むことで得られる力は6種類。
 火、風、水、土、光、闇。

 組み合わせたり補助する文字によって様々な力を得られる。
 優れた魔力を操る力を持つなら魔力のイメージでそれぞれの力を利用して攻撃手段としても用いれる。
 本来は生活で非常に役立つので平和的に利用されることがほとんどだ。
 魔石は貴重なものだからだ。
 ゴブリン程度の小さな魔石では戦闘で利用するような使い方は出来ない。

 扱うのが得意な属性は存在していて、プリテは火と風、カインは水と土、メリウスは光と闇が得意とわかった。
 村人は一つの属性の場合がほとんどだった。
 二つの属性を持つ村人は魔力や魔石の扱いに長ける人物となる。
 身体強化なんかは属性が無いので、鍛錬次第で誰でも魔力による身体能力の向上を目指せる。
 その一方で消費する魔力も大きいので、ここぞという時に使うべきだ。
 魔力はゆったりと休憩するなり睡眠をとるなりすると回復していく。

 魔石は15個、貴重なものだからそんなにホイホイと魔道具へは利用できない。
 それでも村人のスキルアップのために6個はそれぞれの属性へと使って、残りの9個はメリウスが持つことになった。
 生活を大きく変えるのは土属性の魔石を利用した鉱石の抽出や変化だ。
 鉄鉱石から鉄成分を抽出して精錬できるようになったことは産業革命が村に起きたに等しかった。
 純粋な鉄ができれば刀による細工で高品質の道具が出来る。
 今までの鉄みたいな物から鉄製装備にグレードアップだ。

「誰でもできれば最高なんだけどね……」

「こんな膨大な魔力を扱う作業は村人には無理ですよ……」

 結局メリウスとカインしかその作業はできなかった。
 もっと大型な魔石と魔道具設備があれば村人にも可能かもしれないが、今は無理だった。
 プリテは魔力は申し分がないが、細かな抽出や変化が出来ない。
 土との相性の悪さも相まってそういった作業には向かなかった。

 こうして、革新的な技術を手に入れたメリウスの村は、さらなる発展の時を迎えた。

 敵の来襲も続くことはなかった。
 村は益々発展していき、順調に見えたが、一人の人間が訪れることで、また状況は一変することになる。

「どうか俺達の村を助けてくれ!」

 外の世界から、村に救いを求めに現れたのだ。 

 

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