チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第三十三話 ノタ村防衛戦

「プリテ! 威嚇射撃で敵の注意をこっちにひきつけろ!
 仕方ないからこのまま正面からぶつかるぞ、それぞれ背後を取られないように背中を護れ!
 俺達は突っ込んで、プリテはこの場から全体を把握しながら援護射撃!
 何かあればカインに伝えろ! 行くぞ!!」

 村にとりつきかけていた赤目達にプリテが荷車の上から射撃を加える。
 メリウスが大声で指示を出した影響で不意打ちとはならないまでも、数体には手傷を追わせられた。
 同時に赤目達の注意を引きつけることに成功する。
 メリウス達3人は自分たちの存在を誇示するように雄叫びを上げながら突撃をかける。
 お互いの背後をかばうように3人での凸形陣。

 赤目の数は多く3人に殺到してくる。
 ゴブリンだけでなく少し大きめな種類もいる。
 ゴブリンにそっくりでホブゴブリンと呼ばれる上位種だ。
 ホブゴブリンは石材を石にくくりつけたような、原始的ではあるが、それでも武器と呼べるものを手にしている。
 石を投げつけるスリングショットを持つものもいる。
 知性もゴブリンとはだいぶ差があるように見受けられる。

「そうか、矢よりもアレ作ればよかったなぁ俺も」

 メリウスはホブゴブリンに感心していた。
 赤目も赤目なりに色々工夫している。
 怒りに支配されていた頃のメリウスとは異なる冷静な目線を手に入れていた。

 ホブゴブリンはゴブリンを先行させまるでメリウス達の力量を測るような動きを取る。
 戦術的な物が垣間見える。

「ふたりとも、少し手こずる感じで戦おう。知恵比べといこう」

 ゴブリン達が飛び込んでくる。
 力も武器も圧倒的な差があるが、数に押されている。

 風に見えるように上手に立ち回る。
 プリテの矢も基本的には村へと向かう奴らを牽制するに留めておく。
 しばらく苦戦してみせるとホブゴブリン達が下ひた笑い顔を見せ、大したことない奴らと判断して3人に近づいてくる。

「もう少し、もう少し近づけるぞ……」

 ホルスも良い耳を持っている。
 この方法で作戦を伝えられる事は戦闘において非常にありがたかった。

「今だ!!」

 好き勝手に叩きつけてきた木剣ごと、ゴブリンを弾き飛ばす。
 防戦一方だった相手からの突然の猛攻にゴブリンは為す術なく吹き飛ばされる。
 敵が集まっているおかげで背後を狙う者もいない。
 いてもプリテがきちんと対応してくれるだろう。

「戦いで油断すれば死ぬんだ」

 メリウスは刀の扱いにもだいぶ慣れてきた。
 はじめは剣と同じように叩きつけるように用いていたが、今は刃を生かして変幻自在に斬る事がこの形状に適していることを学んだ。
 ホブゴブリンが振り下ろす石斧の勢いを利用して、刃の曲がりで滑らすように力の方向をずらしてやる。受け止められるはずだった力はホブゴブリンの体勢を大きく崩す。
 素早く刀を返して無防備な首を跳ね飛ばす。

 これぐらいの芸当なら出来るようになった。

 カインの戦い方はメリウスの経験をスポンジのように吸収し、その上で自らの力と速さを活かすように作り上げている。
 力強く、疾く、美しい。
 打ち合いの中で理を持って敵の力を制して自らの力を打ち込む。
 若く見えるカインの剣技はまるで老練な手練のように感じる。

 ホルスの戦い方は豪快。この一言に尽きる。
 超重量の武器を、圧倒的な力で叩きつける。
 力こそパワー。下手に受ければ受けた武器ごと身体も破壊される。
 避けようにもその暴風にも見える苛烈な攻撃を避け続けていれば攻撃のタイミングがない。
 しかし、迂闊に近づけば暴風に巻き込まれ肉片と化す。

 さらにプリテも本気を出して、3人に意識を割いているその隙に、致命の矢を撃ち込んでくる。
 目視していても既に避けるのが難しくなってきている高速、そして力強い矢の遠距離攻撃。
 近接3人とプリテによる遠距離攻撃を同時に捌くのは至難の業だ。

 赤目たちは一体、また一体と死体を築いてく。
 距離を取って様子を見ていれば退却という選択肢もあったのかもしれないが、赤目達も覚悟を決めて目を輝かせながら3人に最後の抵抗を試みる。
 しかし、4人の手によって、全ての赤目が死体へと変えるのに長い時間を必要とはしなかった。

「ふう……なんとかなったな」

「お見事でした」

「村のみんなは無事か……メリウス、俺ちょっと村を見てきます!」

「ああ、すぐに行ってやれ、俺達は荷物を持って村に入るよ」

「メリウスおつかれー。周囲に他の気配はないよー」

「ああ、プリテもお疲れ。カインもプリテもよくやってくれた。
 ホルスも頼もしいな」

「そうですね、あんなに力強い戦闘は私には無理です」

「ごうってやると敵が吹き飛んでくんだよ、凄いよー」

 3人で荷車を運びながら村へと入っていく。
 村、と言うにはあまりにも粗末だ。
 懐かしい枝と草木を使ったテントに近い住居。
 村の外壁も頼りない細い木々を組んだ木柵しかない。
 土を掘っただけの火場には枝を土鍋のような調理器具が残されている。
 急な敵の来襲に慌てて逃げた様子が見て取れる。

「メリウス! 大丈夫だみんな無事だった! ありがとう! ありがとう!」

 ホルスからの報告を聞いてメリウスは安堵のため息をつく。
 ぎりぎり間に合ってよかった。
 ホルスの後ろから人々が出てくる。
 この村では一番しっかりとした作りの家が立っている。
 それでも丸太を組んだだけな作りだが……

「なんかみんな俺みたいに変わってるけど、間違いないノタ村の仲間だ!」

 ノタ村でも突然人化現象が起きたそうだ。
 すぐに村長が礼を言いたいと現れる。

「ノタ村の村長をしているジャジです。この度は我が村を救っていただき本当にありがとう」

 メリウスの手を握るその手は、以前のホルスよりもさらに骨ばってガリガリだ、多分実年齢よりも遥かに高齢に見えているのだろうとメリウスは考えていた。

「間に合って良かったです。えーっと……先にある村の村長をしているメリウスと申します」

 そう言えば村の名前を決めていなかった。
 なんにせよ、お互いの紹介を終えて、この村への支援物資を持ってきたことを伝える。

「おおお……村を救ってもらったばかりかこのように……大量……大量ですな……」

 その量に本当に驚いてしまっているようだった。

「村長、メリウスの村は本当に凄いんだ! 俺はもうびっくりしたよ!」

「お主の姿も随分と変わったのぉ……古来我ら一族はそのように逞しかったと聞いておる……」

「さぁまずは荷を解こう。どうやら夕餉の準備しようというところで襲われたようだし、今晩は我らの村のもので皆に振る舞うことにしよう。カイン、プリテお願いしていいか? 俺は村の外壁を出来る範囲で整備してくる」

「はい」「はーい」

「俺も手伝うぜメリウス」

 ノタ村の人々は知らなかった。
 これから始まる大変化を……

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