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チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第三十九話 対決

【グゲッ……】

 ホブゴブリンがグチャリと地に伏す。
 もともと広場に蔓延していた、恍惚とした感情を増幅する香の効果と合わさったせいで、身体の自由が効かなくなっていることに気がつくのが遅れた。
 一匹倒れるとそれに続くように地に伏して痙攣を始める。

【ガアアアアッ!】

 ハイゴブリンにはやはり効果が薄いようで、頭を振るいながら立ち上がる。
 彼らにとって神聖な儀式を邪魔されたことに心底お怒りな様子だった。

「行くぞ!!」

 広場の上部から水が溢れている場所に矢を撃つ、これには魔石が巻きつけてある。
 火の魔石に大量の魔力を注ぎ込んで暴走させたものだ。
 魔石は破壊されるが、簡易的な爆弾のように使用できる。
 水場に突き刺さった矢がドンッと鈍い音を立てて爆発し、強固な岩盤の一部を破壊する。
 そのひびから水が霧のように吹き出して広間の中へと降り注ぐ。

「……固くてよかった……洞窟ごと潰れる可能性もあったね」

「メリウス、考えてなかったの?」

 苦笑いしかできなかった。

「これでしびれる薬は水に吸収される。 
 行くぞ、時間との戦いだ!」

 広場へと一気に突入する。
 まともに動いている赤目はハイゴブリンが5体、それにホブゴブリンが数体。
 それ以外はビクビクと痺れて地に伏している。

「キツイと思うが、やるしか無い!」

「私も前で戦う」

 プリテが鉄製のショートソードを二振り抜き放つ。
 右の手には順手で一刀、左の手には逆手に一刀の二刀流。

 全員の中にメリウスの力が脈動しているのを感じる。

「行くぞ!!」

 麻痺させるには至らなかったが、その影響はハイゴブリンにも出ていた。
 動きがぎこちなく、ふらついている。
 ハイゴブリンとホブゴブリン数体を同時に相手にしても、そこまで苦労しなかった。

 カインは忠実に一部の隙もなく敵を圧倒して行く。
 攻める時は攻め、守るべき時は守る。
 徹底したリスク管理と強烈な攻撃、敵に回してこれほど厄介なものは居ないだろう。
 一切の攻撃を許されずに一方的に肉を削られていく。
 対峙しているハイゴブリンが哀れにさえ思える。

 プリテは炎だ。
 二本の剣が敵に絡みつき、その身を焼くように滅ぼしていく。
 攻撃は留まることを知らず、その炎を払おうとするが、炎に触れることは出来ない。
 その身を焼き尽くされた時に気がつく、炎に手を出してはいけないことを……

 ホルスの振るう斧は何者出会っても遮ることは出来ない。
 剣で受ければ剣が、棒で受ければ棒が真っ二つにされる。
 そして受けるものがなくなれば、その身が真っ二つにされる。
 ハイゴブリンの真ん中を冷たいものが通り過ぎると、真っ二つに割れて倒れていく。

 シャロンの大剣が右に左に踊り狂う。
 右からの大剣を受けてふらつく身体はすぐに左からの剣戟を防がなければいけない、一撃一撃が致命的な威力を含む重い重い一撃だ。
 途切れることなくどんどんと加速していく剣の嵐に、既に側に居たホブゴブリンは引き千切られている。
 とうとうその力に手に持つ棍棒を弾かれた時、次の一撃を己の身一つで防がなければならなくなる。
 もちろん、待っているのは死だ。

 メリウスもハイゴブリンであっても圧倒している。
 他のハイゴブリンを倒したメンバーもホブゴブリンや痺れから回復したゴブリンの相手を始める。
 メリウスが対峙していたハイゴブリンが、最も年上で、最も強かった。
 それでも相手にならない。
 仲間は全て殺されていく。
 自身も追い詰められ、すでに背後には暗黒に包まれた穴が迫っていた。

【ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!】

 広場の大気を震わせるほどの猿叫にも似た大声を放つ。
 ハイゴブリンのすべての力を乗せた叫びは、広場内の麻痺していたゴブリン達全てを叩き起こす。

「なに!? こんな力が!」

 焦るメリウスの思考とは異なる行動をゴブリン達はし始める。
 一斉に穴に向かって飛び込んでいく。
 死体を抱え、痺れた足を引きずりながら次から次へと飛び込んでいく。

「な、何を……まさか! ま、待て!!」

【オウヨ……ニンゲンニ……シヲ……】

 怨嗟の声を確かに聞いた。
 最後に残ったハイゴブリンは両手を広げ大穴へと身を落としていく。

「メリウス様!」

「……不味いぞ、俺が見た記憶が確かなら……」

 ゴブッ……

 石像から不気味な音がする。

 ベチャリ……

 腹部が腫れ上がり、真っ赤に輝く大きな珠が溢れ出てくる。

「いかん! あれを還しちゃだめだ!!」

 メリウスは腹からぼとりと落ちた珠に刀を勢い良く振り下ろす。

 ガインッ!

 振り下ろした刀は、たまに届く前に何者かによって防がれる。
 メリウスが手元を見ると、珠から腕が生え、刀を握りしめている。

「くっ!!」

 刀を引いて距離を取る。間に合わなかった。

 珠玉より手が生え、大きな体がのそりと立ち上がる。
 今までのゴブリンとは桁外れにでかい。
 メリウスやホルスをも超える巨体だ。
 産まれたばかりにして肉の鎧に包まれ、頭には骨で作られた冠、身体も骨によって作られた鎧、そしてその手にも骨の棍棒。燃えるような真っ赤な髪に緑の肌、煌々と光る真紅の瞳。

【我ガ名ハ、ゴブリンキング。
 王ダ。人間ヨ、再ビ我ハ産マレタゾ、絶望スルガヨイ】

 その発する言葉を聞いて背中から冷たいものが吹き出る気がした。
 その場に居た全員が、恐怖を感じていた。
 圧倒的なオーラに……

 メリウスの額が疼く。額の宝石が教えてくれる。
 この相手が危険なことを……

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