チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第四十三話 シャロンとの契

 村へ帰ったメリウス達の最初の仕事は、ホルスの死を村へと知らせることだった。

「……そうですか……ホルスの死に顔は……どうでしたか?」

「大変満足そうに笑っていました」

「ならば、それがホルスの役目だったのでしょう。
 立派に務めを果たしたのです」

 咽び泣く声が村の中に広がっていく。
 空へと旅立ったホルスの魂を送るために村を上げて魂送りの準備がなされていく。
 手に入れた御神像は、村を守る守り神として社を組んで祀ることが決まる。
 メリウスは自ら名乗り出て、その社を丹精込めて組み上げた。
 美しく、力強く、村の皆を守ってくれる。
 ホルスのような堂々とした社が完成する。

「皆、これからホルスは空の上からずっと村を守ってくれる。
 その穢れを知らぬ魂の輝きに、献杯!」

 静かに杯を掲げ一口酒を飲み、空に残りの酒を撒く。
 魂送りの儀式だそうだ。

「炎を受けて暖かく輝いているようですねあの像は」

「ホルスも空の上で重役だなぁと頭をかいているだろう……」

 カインとメリウスはそんな村人たちの輪の外で静かに杯を傾けていた。

「メリウス。貴方に伝えることがある」

「メリウス様、それではまた……」

「ああ、カイン。お疲れ様」

 カインは村人の輪の中へ戻っていく。
 ここはメリウス達に用意された小さな座、御神像の向かいに敷かれた場であった。

「プリテ、話ってなんだい?」

 プリテはメリウスの杯に酒を注ぎ、真面目な顔で瞳を覗き込んでくる。

「メリウス、貴方はこれから起こることを受け止めなければならない、決して拒んではいけない」

 少し様子が違うプリテの雰囲気に、思わずメリウスは気圧されそうになる。

「ど、どうしたんだプリテいつもと様子が違う……」

「メリウス、これは貴方に与えられた役目。
 拒んではいけない。わかった?」

「あ、うん」

「よろしい。それじゃぁメリウス。こんどはみんなでね~」

 最後にはいつものプリテに戻っていた。
 メリウスは激しい喉の渇きを覚えてプリテの注いでくれた酒を一気に飲み干す。

「くーー。妙に冷たくて旨いな……しかし、強いな……」

 甘く香る酒は、妙に強いような、少しめまいとふらつきを覚える。
 あまり酔うことのないメリウスにとって、それは珍しいことだった。
 しかし、よく冷やされてとても美味しく感じた。

「おかわりは入りますか?」

「ん? ああ、シャロンか……」

 そこでゴクリと喉を鳴らす。
 いつの間にか目の前に居たのはたしかにシャロンだが、その姿が普段の姿とあまりに乖離していた。
 コンプレックスのように隠していた胸元は大きく開かれ、肌を露出する衣をまとっている。
 その女性らしい身体のラインが強調され、女性としての魅力を武器に戦いの場へと向かうような服装だ。

「どうですかメリウス様、この衣……おかしいですか?」

 ほのかに上気した顔で見つめながら見上げてくるシャロンが、色っぽいというか艶っぽく微笑む。

「い、いやとても綺麗だよ。似合っている」

 スルスルッとメリウスの横にシャロンが腰掛けしなだれる。
 身体を預け、メリウスの男としてのさがを激しく攻めてくる。
 普段の慌ただしいシャロンと同一人物とは思えない動きだ。

「ど、どうしたんだシャロン?」

「もう一杯いかがですか?」

「あ、ああ……」

 シャロンの様子に気がつけば先程潤した喉がカラカラになっている。
 シャロンのついでくれた杯を一気に飲み干す。
 先ほどと同じ。冷たく心地よい酒が喉を通り、腹にたまる。
 しかし、今度の酒は腹にたまると身体に火をつける。
 どくどくと血脈が唸り、体が熱を発する。

「メリウス様、暑いのですか? お召し物、いただきますね」

 気がつけば軽く汗ばんでおり、羽織っていた衣を一枚脱がされた。
 薄い肌着だけになるが、身体の脈動は収まらない。

「暑い……」

「それでは肌着もお預かりしますね」

 シャロンの手がメリウスの肌着を脱がしてくる。
 メリウスの胸を腹を、まるでわざと軽く触れながら、筋肉をなぞるように肌着を脱がす。

「それでは、私も……」

 シャッとメリウス達の居る場の周囲に目隠しの布がカーテンのように囲い、周囲に置かれた明かりの炎の揺らめきがその布に映る。
 幻想的なステージにシャロンがスッと立ち上がる。

「な、何を……」

 シャロンは音もなく身につけている衣を脱ぎ落とす。
 一糸まとわぬシャロンはそのままメリウスに歩み寄る。

「お役目を果たさせていただきます」

 いつの間にかメリウスも一糸まとわぬ姿となっていた。
 メリウスは拒もうとするが、耳の奥で先程の言葉がこだまする。

「決して拒んではいけない……」

 繰り返すようにメリウスの口が同じ言葉を発する。
 体の熱が一箇所に集まり受け入れる準備がなされる。
 シャロンがその身にメリウスを受け入れ、お役目を果たす。
 絆を結ぶというお役目を。




『メリウス、起きろ!』

「……なるほど、貴方が牛人の神か」

 目の前に真っ赤な雄々しい丑人、今の人の姿ではない牛の獣人が立っていた。
 神々しい姿をなさっている。

『飲み込みが早いな。ありがとう。俺があの世界の神、ゴズだ。
 礼を言う、長らく奴らに囚われて、ろくでもねぇ手伝いをさせられていた』

「いえ、お助けできて良かったです」

『しっかし、すげーなお前の『契』。そういった欲とは無縁だが、オオコクでも口説くかな!』

「ま、また覗かれていたのか……」

『気にすんな! いいもの見させてもらったぜ。
 俺の民は、いいだろ、ボーンキュボーンで! がっはっはっは!!』

「ゴズ様、それでは私は貴方の世界を救えたのですか?」

『真面目なやつだな。
 その通りだ。世界は救われ、俺も神の力を取り戻せた。
 俺は新しい世界をお前に繋げよう』

「わかりました。また、頑張ります」

『あ、記憶は残ろないだろうが、ちょっと子の村へ戻ったほうがいいぞ。
 これはあの娘に伝えておく』

「村で何か問題が?」

『いや、問題というか、まぁ行けばわかる。
 メリウス、そろそろ時間だ。
 もう一度言っておく。ありがとう。
 まだ先は長いが、お前の旅に幸運があることを祈っている!』

「ありがとうございます」

 メリウスの意識が急速に空へと上がっていくような気がした。

 目を開くと、天井には青空が広がっている。
 シャロンは胸の中で寝息をたてている。

「……またか……」

 周囲の事後の惨事を見てメリウスは頭を抱えてしまう。

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