チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第四十五話 次の国へ

 久しぶりのの村の味に懐かしさを覚える3人。
 同じ料理を食べても、自分の故郷で食べると味が違って感じる。望郷の念みたいなものだろう……
 相談事の一つはこの村の名前のことだった。

「いつまでも名がないと困ることも出てきましてね。
 メリウス様にこの村に名を与えていただこうと思いまして」

 メリウスも既にそのことは考えていた。ノタ村で幾つか候補を考えていた。

「村の名前……イニチア村。始まりという意味です。
 俺にとってこの地は始まりの地だからな」

「イチニア村……いい名ですねメリウス様」

「村の者に伝えよ、今日からこの村はイチニア村だ!」

 こうして村は新たな出発の時を迎えた。
 相談はこれだけではなかった。

「村を分ける……たしかにな。
 すでに食料とのバランスが崩れてしまってからでは遅いな。
 もちろんそうしてくれ」

「それと周囲の地図も出来ております。
 『果て』の情報もこの通り」

 一枚の紙が広げられる。
 木の皮に炭で描かれている。
 森の位置、川の流れ、山、湖など各地の情報が非常に事細かに記されていた。

「凄いなこれは……」

「それと……どうやら我々はあまりに一箇所に人が集まると一時期のように子をなせないようです」

「それは違う。逆。数が少ないと多産早熟の加護が働くのが正解」

「プリテ……」

「ジャジ、地図のここ、深き森、道を辿った先の広間。
 その地下に像がある。それを掘り出してこの村に祀る。
 さすれば、この地に危機訪れる時、神の恩寵を得られる」

「わ、分かりました。すぐに人を向かわせます」

 普段の様子と打って変わって威厳さえも感じさせるプリテの口調にジャジは頭を下げ従う。
 これが子の巫女としてのプリテの能力だった。

「御神像か……その場所は俺が始めてこの世界で目を覚ました場所だな……
 よし、むらの社づくりは俺がやる」

 それから御神像探索部隊が構成されて派遣される。
 メリウスは村の中央に社建築を始める。
 村人は手伝おうとしてくれたが、この仕事は自分でやらなければいけない気がするとその申し出を固辞した。

 御神像を見つけ出した探索部隊が戻ってくる頃には立派な社が完成していた。
 ノタ村の御神像は牛を表しており、この地はネズミを象っている。
 土の中に埋もれていた像を磨き上げると、まるで損傷を感じさせない美しい像へと蘇った。

「これでよしっと」

 像の前にはいくつかの果実を備えてある。

「村の皆にも言っておく。
 この像はこの地を守る神を象った御神像だ。
 粗雑に扱うことを禁ずる。
 このイチニア村を含め、新たに出来る村も守ってくださる大切なものだ。
 そして、俺達が向かっていたノタ村にも同じように人……うん、人が居た。
 いずれ交流することもあるだろう。
 赤目に敵対する者同士、手を取り合って生きていこうと思っている」

 メリウスの言葉に集まった村人たちはうんうんと頷いている。
 メリウスは壇上から村人たちを眺めていたが、多くなったなぁ……と感心していた。

「ジャジ、すまないがまたしばらく村の方は頼む。
 全ての決定はジャジに任せる。皆が幸せになるようお願いする」

「わかりました。メリウス様には大義がお有りだ。
 我らにとどまらず、多くの人をお救いください」

「ありがとう。それでは、牛の国の先に進むとするか、道は開かれたようだからな……」

「メリウス様、あの地図の技術は早くノタ村へと伝えて同様の地図を作るのがよろしいかと思います。
 現状の把握は私達にとって最も重要です」

「そうだなカイン、ジャジ、地図作成技術に長けたもの、測量など技術を持つ一団を集めてくれ。
 隣の国でも同じような事をしたい。頼めるか?」

「もちろんです。明日にでも揃えます」

「では、出立は明日。新たな地から赤目がなだれ込まないうちに、新しい国を救いに行く」


 こうして翌日には一旦ノタ村へと一団が出発する。
 ノタ村では二つの村の交流を話し合い、地図技術が提供された。
 共にメリウスの元に友好的な関係は容易に築くことが出来た。
 程なくしてノタ村周囲の地図作成も進んでいく、その過程で残存赤目の殲滅も行われていく。
 どうやらゴブリンキングがいた場所がこの世界の赤目の発生源になっていたようだった。

 地図作成が進んでいくと、豊富な資源と居住可能環境が明らかになっていく。
 豊かな自然との共存が、赤目の脅威が失われたことによって可能になった行く。
 こうしてノタ村を中心とした丑人達の生活圏も広がっていく。

「丑人の加護は炉に灯る炎の加護、我々は魔力が少ない分鉱石やその加工に加護を得られる」

 シャロンが教えてくれた。

「そして、メリウスとえにしを生んだ種族は加護を共有できる。
 人数が落ち着くまで、この国も他産早熟の加護に守られる」

 プリテの言葉通り、子の国でも鍛冶全般の効率や精度が上がる。
 牛の国ではたくさんの子宝に恵まれ、そしてわずか一年で肉体は立派に成長していく。
 学問や技術の吸収もスポンジが水を吸う勢いで行われ、ごく少数まで減らされた人間もその数が安定するまで急速な増加を行っていくことが出来た。

 こうして二カ国の生活の安定の基礎が出来上がったことを確認したメリウスは、牛の国の東、新たに現れた台地へとその歩みを進める。

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