シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます
注目
空腹により目を覚ますと、部屋の窓から朝日が差し込んでいた。
どうやら昨日はあのまま寝てしまったみたいだ。
上半身を起こし隣のベットを見ると、毛布にくるまって寝ている雫が視界に入ってきた。まるで猫みたいだな。
雫は引きこもりなので基本的に朝に弱い。
俺は仕事で朝早くから家を出ることもあるので、早起きはそこまで苦手ではないのだが、雫は仕事も家の中で終わらせられるので、遅くまで寝ていることが多い。
まあ、確かに早寝早起きの規則正しい生活を送る引きこもりなんて聞いたことないが。
俺はベットから降りて、雫を起こすために雫のベットに近づく。
すぐ近くまで行くと、急に雫が鼻をモゾモゾさせて匂いを嗅ぐような動作をする。
「お兄ちゃんの匂いがする…」
お前はどんだけ俺の匂いに敏感なんだよ…寝てても気が付くとか普通じゃないぞ。
個人的には、このまま雫の寝顔を眺めていたいところだが、今日はギルドに行って依頼を受けないといけない。
お金はまだ余裕があるが、油断をしていると、気づいたら無一文になっていたということもありえる。
それに折角異世界に来たんだから、依頼をやってみたいという男の子特有の気持ちもある。
まずはその前に朝食を食べに行かないといけないので、雫を起こす為に頬をペチペチと叩く。
「雫~、起きろ~」
「はっ!お兄ちゃんの愛の囁きが聞こえる!」
うお!ビックリした…。雫は俺が話し掛けた瞬間、毛布を退けて起き上がってくる。
というか愛なんて囁いてないぞ?まだ夢の中なのかな?
雫は重い瞼を開いて太陽の姿を確認する。
「ん?お兄ちゃん起きるの早いね」
「ああ、今日は依頼を受けに行くからな。早めに出掛けるぞ」
「了解」
2人は部屋に付いてる洗面所に行き顔を洗うと、朝食を食べるために1階にある食堂へ向かう。
食堂に着くと、そこには冒険者らしき客で溢れ返っていた。
その中に昨日俺達の受付を担当していた女性が俺達に気付き、こちらに向かってきた。
「お早う御座います。良く眠れましたか?」
「えぇ。お陰様でぐっすり寝ることができました」
「それは良かったです。今から朝食の準備をしますので、空いている席に座ってお待ち下さい」
そう言うと女性は、他の客の接客に向かっていく。
その後、俺達は言われた通り空いている席を見つけて椅子に腰を下ろす。
待っている間やることがないので、元の世界から持ってきたスマホを使い、漫画を読んで暇を潰す。
ここは異世界なので当然、ゲームや動画を見ることが出来ない。
ダウンロードしてある物は使えるが。
しかし、折角異世界に来たのにスマホで遊ぶなんて雰囲気ぶち壊しだな。
まあ、現代っ子の俺が急にスマホを使うなと言われても無理なんだけれど。
ふと雫の方を見ると、タブレットを使って何かのプログラムを作っていた。
学力が普通な俺は雫が何のプログラムを作っているのか理解できなかったので、素直に訊いてみることにする。
「雫、何作ってるんだ?」
「ん、魔法と科学を上手く合わせて何かできないかなと思ったんだけど、魔法をまだ一度も見てないから完成はまだ先になる」
そう言えば、折角異世界に来たのに魔法を一回も見てないな。
まあ、クエストを受ければ嫌でも目にする場面に出くわす事になるだろう。
暫くすると、店員の女性が朝御飯を運んできた。
メニューは、パンやサラダ、後は何かのスープだった。
やっぱり、この世界には白米はないのか?暇が出来たら米を探すのも良いかもしれないな。
そんな事を考えながら、俺と雫は数十分程で朝食を食べ終わらせた。
その後、店員の女性にお礼を言った俺達は依頼を受けるために早速ギルドに向かって歩き出す。
◇
数分後、無事にギルドに着いた。ここに来るまでに雫が「また女共がお兄ちゃんを見てた…どう処理しようか?」等と恐ろしいことを呟いていたが、俺は何も聞いていない…
俺がギルドの扉を開けた瞬間、騒々しかったギルド内が急に静まり返る。
えっ、何?いじめですか?よくある、「アイツが朝、登校してきたら皆で無視しようぜ」みたいな奴ですか?泣きたくなってきた…
いじめられているか不安になっていると、人混みの中から1人の冒険者らしき男が現れて、こちらに向かってくる。
身長は俺よりも5センチ高いぐらいか。
年齢的にはオッサ…じゃなくて30代前半程だろう。
「よぉ、お前達昨日ギルを倒した奴だろ。俺の名前はマルクって言うんだ。ヨロシクな!」
マルクと名乗った男はそう言うと右手を俺の前に出してくる。
遅れて俺も右手を出してマルクの手を握る。
いや、ただの握手だからね!?男同士で手を握り合って、愛してるとかじゃないよ!?俺はノーマルだ!
「ああ、こちらこそ宜しくな。俺は太陽。で、こっちが妹の雫だ」
「名前はもう知っているさ。なんせお前達は有望株だからな」
「そこまで目立っているのか…」
今度からは手を抜いて行動することも視野にいれた方がいいかもな…
「それで聞きたいことがあるんだが…いいか?」
「おう!俺達はもう仲間だからな。何でも聞いてくれ!」
「お前の仲間の基準低いな…まあ良いや。何か皆がよそよそしいんだが、俺何かしたか?」
「ああ、その事か。皆、お前の実力が気になってるんだよ。なんせ、新人がBランクを倒しちまったんだからな。注目もされるさ」
そういうことか。確かに俺も冒険者初日に揉め事に巻き込まれたのは失敗だったと思ったけどな…ここまで注目されると気になってしょうがないな。
「それと嬢ちゃんもヨロシクな!」
そう言うと、マルクは雫にも握手を求めるが雫は微動だにしない。
「すまないマルク、雫は少し人見知りでな。許してやってくれ」
「いや、こんなオッサンと握手なんて嫌がるのが普通だからな気にするな!ガハッハハ!」
マルクの様子から察するに本当に気にしてる様子はないみたいだ。
「それでお前達は依頼を受けに来たのか?」
「ああ、その通りなんだが…何か問題があるのか?」
「いや、問題はないんだが…ちょっと頼まれ事をされていてな」
マルクはそう言うと、後ろにある受付カウンターを指差す。
そこには笑顔でこちらに手を振っている、システィラの姿が見えた。
「彼女にお前が来たら私の所に案内して欲しいって脅され…じゃねぇ、頼まれちまってよ」
マルクはバツが悪そうに頬を掻きながらそう言う。
システィラは元Aランクだからな。大抵の冒険者は頭が上がらないようだ。
昨日のようなバカじゃない限り彼女に言い寄る人間は居ないだろう。
「分かったよ。わざわざ有り難うな」
「良いってことよ!俺にも分からないことが有ったら訊いてくれて構わないからよ」
「その時は是非そうさせて貰うよ」
マルクとの話を終わらせると、いまだに手をはち切れんばかりに振っているシスティラの元に向かう。
奇妙な事にシスティラの受付には1人も人が並んでいなかった。他の受付には数人は並んでいるのにだ。
あ、1人の男性がシスティラの受付に並ぼうとした。その瞬間システィラは殺気を出してその男性を追い返していた。
…いや、あれ職務放棄じゃね?いいの?ギルド職員あんなので。
若干戸惑いを感じながらも俺達2人はシスティラの元に着く。
「もう!遅いじゃないですか、太陽さん!」
「すみません。これでも急いできたつもりなんだけど…」
「私なんてギルドが開店してからずっと太陽さんのために他の他の冒険者を追い返…じゃありません、並ぶのをご遠慮して頂いていたのに!」
おまわりさーん、この人確信犯で~す。
今確実に追い返したって言ってましたよ。職務放棄ですよ!
「そ、そうだったのか…それは待たせてすみませんでした」
「いえ、許します!こうして私の元に来てくださったのですから。はっ!やっぱり私達は運命の赤い糸で結ばれているのでは!」
「いや、俺がここに来たのはマルクに言われて…」
「うんうん、太陽さんもそう思いますよね!」
ダメだこの子。人の話を聞いてくれない。
今ごろこの子の頭の中はお花畑でいっぱいだろう。
「貴方の妄想に付き合っている暇はない。雫達は早く依頼を受けたい」
すると、少ししかめっ面をした雫が話に入ってくる。
「む、そんなに急かさなくても分かっていますよ。太陽さん達が受けれる依頼で良さそうな物だとゴブリンとかですかね…」
ゴブリンか…まあ、初戦の相手としては丁度いいか。
「わかった。それを受けるよ」
「はい。では依頼の受注を完了しましたので、お気をつけて下さいね」
「気遣い感謝するよ」
「あ、それと依頼の報告の際も私の受付に来てくださいね!その時のために受付に誰も寄らないようにしておくので!」
「そこまでしなくても…」
俺は何とかシスティラに仕事をするように釘を指した後、ゴブリンの出現確率が高いと聞いた、王都の東にある森に向かった。
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コメント
こう
今回も面白かったです
この先の展開が気になりますね~