異世界スロータイム

ひさら

40話 調理実習と宴会




大魔導師様を一人厨房に残して、私はみんなのところに戻った。
よくわからないけど、ゆっくり味わってください。

戻って見れば料理はあらかた食べ終わっていた。
そうだ!  お米に舞い上がっていて忘れてたよ!

「ショーンさん。パエリアもだけど、私のいた国の洋食屋さんでは、これはなくちゃ!  という洋食屋さんベストスリーがあるのよ」
「は?  ヨウショクヤサン?  ベストスリー?」

ショーンさんだけじゃなくて、全員の頭の上に?マークが見える。
あら、そこからですか。
そういえば、ここでは全部洋食だもんね。わざわざ洋食屋さんと名乗る事はないか。

私は洋食が料理のジャンルで、洋食メインのレストランが洋食屋さんという事とか、私が生まれ育った国では色んなランキングがあって、ベストスリーとは上位三位までなんかの事を話した。

「それでね。その洋食屋さんベストスリーには、ハンバーグ、エビフライ、オムライスなんてものがあって(ランキングによってはナポリタンとかクリームコロッケなんかもあったけど)ショーンさんがよかったら、それもメニューにどうかなって思うんだ」
「そんな一気にたくさんいいんっすか!」
「もちろん!  師匠からの開店祝いだよ!」
「ありがとうございます!!」

ジェイとラックに担いできてもらって、朝お店の隅に置かせてもらっていたミンチ製造機とパン粉製造機をテーブルの上に置く。

「何っすかこれ?」
「ハンバーグとエビフライに必要な機械だよ!  これがあると一人でも楽に作業ができるよ!」

元々お誕生会に作っていたハンバーグ。
経営的にも安定してるし、私たちが働く事にも慣れたのもあって、出し惜しみしていた家で大人気メニューをお店に出してみようかという事になった。
そこでいつもの金物屋さんに営業用の大型ミンチ製造機を発注したのだ。
ついでにパスタマシーンも大型のものを注文。

「家用に使っていたものだけど、お店用に大型のものを注文したから、よかったらこっちはショーンさん使って。私の国のものを特別にオーダーしたから、パエオーニアにはまだないよ!」
「えぇぇ!!  そんな特注品……。ものすごく高い物じゃないんっすか?  というか、お店って。やっぱりユアちゃん食堂で働いてるんすっね!」

私は軽く身の回りの事を話した。

「でね、私の料理の技術とか情報なんかはカメッリア領扱いでラヴィーニア様と契約してるから、ショーンさん作り方なんかは内緒ね!  勝手に真似するとカメッリア領から賠償金が請求されるみたい。それから使用料とかね。ショーンさんの事は話してあるから大丈夫だよ!」

ご領主様と契約……。賠償金……。
口にしてショーンさんは青ざめていた。

久々に登場したラヴィーニア様だけど。
実のところ、リーリウムに行っても王都に行っても定期的に使者さんとはやりとりをしていた。
この使者さん、開店してからは頻繁にやってくる。
私は新メニューのレシピを渡しているんだけど、使者さんはやりとりより食事をするのを楽しみにしている、ように見える。

ついでにいうと、私のギルドの口座?  には、レシピを渡すたびにカメッリア領からお金が入る。
特許みたいなものとかはよくわからないけど、私の料理に関する色んな権利をカメッリア領がもっていて、自領で食べられたり披露されたり、レシピを知りたい人には(相手は貴族や豪商なんかと思われる)使用料をとって教えたり。それがカメッリア領には結構な収入源になっている。
そのおかげで私はめんどくさい色んな事をしないですむし、大事に守られてもいるんだけどね。

ちなみにその使用料は私にも半分入るので、結構な収入源という事がわかってるのだ。
実は私は、ただのJKだったら考えられない程の大金持ちだったりする。

そのお金でいつか、お料理の専門学校みたいなものができたらいいな、なんて思っているよ。
もしも私がある日突然いなくなったとしても、死ぬまでここにいたとしても、手に職的なものを、特に貧しい暮らしをしている人たちに残せたらいいと思っている。そのための学校だ。
この国のお金はこの国の人に還元したい。

脱線しちゃった。

「という訳で、今日はエビフライを作ってみよ〜!」
「はい!」

市場でパエリア用に魚介類を買ってきてたからね。
エビフライの他に、お魚のフライもできるな。

それはお酒に合うわね!  と、ジェニファーたちはお酒を買いに出て行った。
今夜はここで夕ご飯になりそうだ。再会のお祝いって感じかな?

「ショーンさん、硬くなってきたようなパンってある?」
「残念ながら、結構あるっす」

元気なく言う。パンが余ってるって事は、売り上げがイマイチって事だもんね。

「大丈夫!大丈夫!  食べ辛くなった硬いパンを有効利用するのがパン粉だからね!  そのうちわざわざ硬いパンを作らなくちゃならない程になるかもよ!」

元気づける訳じゃないけど、異世界メニューの受けはいい。
ショーンさんの腕とセンスがあればすぐに美味しく作れるよ!

さっそくパン粉製造機でサラサラのパン粉を作る。
エビの殻はむいて背ワタをとる。ちょっと押してスジをのばすひと手間で真っ直ぐな仕上がりになるよ。
塩コショウで下味をつけたら、小麦粉と溶き卵にくぐらせて、引き立てのパン粉をまぶして揚げる。お魚も皮やら骨の処理をして、あとは同じ工程。
丁寧な下準備とひと手間で格段に美味しくなるからね!

おっと!  忘れちゃならない、タルタルソースだ♪
持参のピクルスと、ゆで卵をみじん切りにしてマヨネーズと混ぜ合わせる。ちゃんとしたタルタルはわからないけど、我が家のタルタルはこれだった。ピクルスがない時は玉ねぎで代用したり適当だ。
これまた持参のソースも出して、カットしたレモンもお好みでどうぞとテーブルに並べる。

揚げたて熱々のフライが大皿いっぱいテーブルに並んだ。
ワインやらビールやらを買いに行ったジェニファーたちも戻ってきて、
さぁ!  宴会の始まりだ〜!  と。

カランコロン♪

カウベルの音にドアを見ると、美人さんが驚いた顔をしてこっちを見てた。
あら、どなた?

「ソフィ!  おかえり、お疲れさま!」
「ただいま……」
「話した事があるだろ?  俺の師匠とお仲間さんたち。入って入って。師匠に教わってご馳走ができたところだよ!」

美人さんは遠慮がちに入ってきた。
わあ、いい匂い!  爽やかなハーブのような……。なんの匂いだろ〜。

「みなさん、こちら俺の恋人のソフィ。ご一緒してもいいですか?」
「はじめまして、いきなりすみません」

全然オーケーだよ!  ご飯は大勢の方が美味しいもんね!
私はウエルカムで手招きをする。こっちの方がおじゃましてるんだしね!

ではでは、改めまして!

「「乾杯〜♪」」

なみなみ注いだ杯を合わす。
ノンアル用に果実水も買ってきてくれてたよ。さすがジェニファー!  ありがと〜♪

それから揚げたてのフライを食べる。

「美味っ!」
「サクサク!  何これ初めて食べる食感!  美味しい〜!」
「鳥唐とは違うんっすね!  これはこれでまた美味い!」
「熱っ!  熱いけど止まらない!!」

フライは大好評だ。揚げたてだから余計美味しいよね!
私も何本目かのエビフライにかぶりつく。エビフライ大好物だったんだよね!
王都じゃエビが手に入らないと諦めていたから食べられてめっちゃ嬉しい!!
今日はお米も食べられたし、なんていい日なんだろう!!

「この黒っぽいソースも美味いっす!」
「私はこっちの白っぽいトロトロソースが好きだわ」

私はパラリと塩をひとつまみ、レモンを搾りかける。素材が新鮮だとこれだけで美味しいよ〜〜〜!!!
涙目でハグハグしていると、真似たジェイも目を見開いた。

「これ美味ぇ!!」

ジェイとラックはソースとか食べ慣れてるもんね。一周まわってシンプルなのが美味しいのかも。

「あらほんと!  これも美味しいわ〜!」
「どれも美味しいって!!」
「あ〜、ほんと美味しい〜!」

よかった。そう言ってもらえて何よりです。

「ショーンさん、これもメニューにいいでしょ?」

ニヤニヤして言うと

「ありがとうございます!  看板メニューが二つになった!」

酔いが回ってきたのか、ちょっと赤くなって嬉しそうだ。

「明日はハンバーグね!  そっちも驚くほど美味しいよ〜!」
「ありがとうございます!!」
「あら、明日もご馳走ね♪  楽しみだわ〜」
「一週間試食に付き合ってね!  ジェニファー、ソフィ、太るの注意ね!」

私は悪い顔をして笑った。

「ユアったら!」

ジェニファーは叩くふりをする。
いきなり名前を呼ばれたソフィはびっくりしてから微笑んだ。
わぉ。ミステリアス系美人だ。
濃い茶色と濃いグレーが混ざったような深みのある髪色に、知的な濃いグレーの瞳。ほっそりしていて、いくら揚げ物を食べても大丈夫そうだ。
明るい茶髪に明るい茶色の瞳のショーンさんと対照的だけど、お似合いの二人に見える。ショーンさんも背が高くて細身だしね。

それにしても、私の周り美人度が高すぎる。
清楚系美少女のアシュリーに、神々しい系ゴージャス美女のジェニファー、普段は普通に可愛い子だけど、歌姫仕様になるとオーラがすごい神秘系美少女のサラ。ここにきてさらに、印象的なミステリアス系美女の登場とか……。
私一人で平均点下げてるよ〜!

チラリとジェイを見る。
こんなに美人や美少女に囲まれているのに、この人何とも思わないんだろか?
私なんて特に特徴もないし……。いや、アッサリ東洋人顔が特徴といえば特徴かもしれない、けど…… 美の基準にはならないよな〜。
ほんとに私でいいのかな?  人を好きになるのは顔の良し悪しだけじゃないけどさ。
いや、私だってけしてブスって訳じゃないよ?  中の中。……おまけして中の上ってとこかな!

……まぁいいや!  私はその分胃袋を掴み続けるから!!
ひっそり決意して両手を強く握りしめた。

お料理はたくさん作ってあるし、お酒もなんでこんなに?!  という程買ってきてるし、宴会は楽しく続いた。
砦のみなさんの様子とか、ショーンさんのあれからとか、お互いのお店の事も話したりする。
一番盛り上がったのはショーンさんとソフィの馴れ初めだね!
やっぱ恋バナは楽しいわ〜♪

みなさん、かなり酔いが回ったところで第一日目の宴会はお開きになった。
第一日目との事でお分かりでしょうが、帰る日まで連日の宴会になるとは思わなかったよ!  
まぁ楽しかったからいいけどさ。

ジェニファーとルークさんと大魔導師様には先に宿屋に行ってもらう。ついでに途中に家があるというソフィを送ってもらう。
ショーンさんはラックに二階に運んでもらって(お店の二階が住居になっている)ジェイはすでに椅子で寝込んでいる。

酔っていない私とラックで後片付けをする。
宴会の開始が早かったからお開きも早かったのは幸いだ。明日も早くから市場に行って仕込みをしなきゃならないしね!
明日からショーンさんと一緒に市場に行って仕込みも手伝う。一週間で何種類かの料理を覚えてもらうためだ。

海辺の町の食材!  楽しみだ〜〜!!
初日はテンション高く終わった。



次の日は、もちろん朝日と一緒に起きるよ!
昨日あんなに飲んでいたみなさんもきっちり起きてくる。この辺この世界の人たちってすごいと思うわ〜。
うちのお父さんだったら二日酔いとか言ってお昼まで寝てたもんね。

宿屋さんで朝ごはんを食べてショーンさんのお店に行く。
ショーンさんもしっかり起きていたよ!
朝ご飯はソフィと食べたらしく、お弁当を渡していた。
見慣れたサンドイッチ。砦でもよく作っていたもんね!  
よしよし、サンドイッチのレパートリーも増やしてあげよう♪

「いってきます」  と、ショーンさんに。
「おはよう」  と私たちに言うと、ソフィは仕事に向かった。
「夜も楽しみにしててね〜♪」  私は笑顔で見送った。

市場に向かいながら、何気にソフィの職業を聞いてみると薬師だという。

「あら、薬師?  ちゃんと話してみたいわ」

ジェニファーが反応する。回復魔法使い?  治癒魔法使い?  だもんね。お互い医療系っていうのかな?

そんな話をしながら、港に近い市場についた。海の匂いが強いね〜!
ショーンさんはランチメニューに使うものと、昨日使い尽くしちゃった常備品の補充なんかをしている。
私も教えるお料理に使う品をどんどん買う。持ってくれる男手は四人もいるからいくら買っても大丈夫だ♪
おっと、ド偉い大魔導師様まで数に入れてたよ。
……まぁいっかな?  だって大魔導師様も食べるもんね。
働かざる者食うべからず!  家訓です。



お店に戻って、朝の仕込みを手伝う。
ジェニファーたちはやる事がないのでどこかに出かけて行ったよ。
しっかり「午後にはもどるわ〜」と言い残して。

ジェイもせっかくだからと武器屋さんとか装備屋さんなんかを見てくると出ていった。他国の珍しい物があるといいね!

ラックは黙々と洗い物とか片付けなんかを手伝ってくれている。
相変わらず出不精の人見知りさんだ。
これじゃ出会いもないよ。
結婚できるのか、お姉ちゃん心配。



ショーンさんのお店は(腕がいいのでと自己申告)ソコソコはお客様の入りはあるらしい。
ショーンさん一人が食べていくのでオーケーなら今のままでいいかもしれないけど、二人分ならもうちょっと繁盛した方がいいよね、と大きなお世話の私。
それに、ショーンさんの美味しい料理をもっとたくさんの人に食べてほしいもん!
がんばって異世界メニューを覚えてもらわなくちゃね!

そんな熱血指導と?  覚えの良さと熱心なショーンさんの努力もあって、口コミでどんどんお客様は増えていった。
私たちがロートゥスに来て五日目には大繁盛といわれるくらいになっていたよ。
美味しいものを食べたいという人の情熱はすごいね!
どこどこのお店が美味しいと聞けば、一度は試しにやってくる。その期待に応えればお客様はリピートしてくれるのだ。味は裏切らない。

味だけじゃないしね。ショーンさんのお店は清潔で居心地がいい。
砦にいた時に衛生の大事さを教えた事がここでも役に立っている。
師匠は嬉しいよ!



その日も恒例の宴会で
「今日もお疲れさま〜!」と乾杯する。

「あんなにひっきりなしで、ショーンさん疲れたでしょ?」
「大丈夫っす。俺、体力だけはあるんで!」

そういえばショーンさんは戦に出ていた兵士さんだった。そりゃそうか。

みんなして明日の新メニューを食べたり「これはワインの方が合うわね!」なんて飲んだりしながら賑やかにしてると

「この調子でいければソフィに求婚できます」

小さく告げられた。
お!  決意表明か?  ショーンさんも結婚適齢期だもんね、がんばれ〜!
というかそれ、私に先に言っちゃっていいのかな?
と思いつつ、恋バナ好きな女子としてはプロポーズとかそのお返事とか気になるところだよ!
私がいるうちにしてくれないかな。

なんて願いが通じたのか、この後一大イベントが始まるのであった。




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