異世界スロータイム

ひさら

28話 お弁当屋さん




次の日、朝ご飯の後にジェイとアダムにお弁当を渡す。
今日のジェイたちのサンドイッチは、ちょっと変化球のハムチーズのホットサンド。それと、私がツナサンドが食べたかったけどツナがないから、ゆでた鶏胸肉を細かく割いてたっぷりのマヨネーズと和えたチキンサンド。薄切りのキュウリもたくさんはさんでみた♪  食べる時までパキパキ感が残ってたらいいな。
二人は今日もニコニコだ。こっちまで嬉しくなるよ!

注文を受けていた二人の分は、昨日のジェイたちのメニューにした。感想を聞いたら美味しかったと好評だったから。最初の注文は失敗したくないもんね!

注文の二人に時間通りにギルドにお届けする。お代はとりあえず、原価と手間賃込みで銅貨六枚にしてみた。日本円で六百円ってとこかな。これってランチ代にしたらこの国で高いのか安いのかわからない。購入者の感想でまた決めよう。
受け渡しの時に翌日の注文も承った。これで明日感想を聞けるだろう。



翌日の朝、約束の時間に前日のジェイたちのサンドイッチと同じものを作って持っていく。ホットサンドもチキンサンドもジェイたちには好評だったからね。
ギルドにつくと開口一番興奮気味に

「すごく美味かった!  これからも頼むよ!  あ、これ今日の?  今日のも楽しみだ!」

よかった!  すごく嬉しいし、自信にもなった。ジェイたちのお弁当ってお金を払ってる訳じゃないから、きっと評価も甘いでしょ。お金を払って食べるとなったら評価もシビアになると思うもん。ホッとしたよ。

それからジェイたちや、注文を受けたあの二人と一緒になったパーティーの人たちから注文が入るようになってきた。
ありがたい事にこれが好評で、日を追うごとに注文が増えていく。三人で作るから多くは受けられないけど、このまま好調ならお弁当屋さんでいけるかも。
手に職のない私たちの(ラックは本当は討伐系もいけるんだけどね)定職になったらいいな。

アシュリーとラックと三人で、飽きられないように日替わりでサンドイッチを作る。
販売となると商業者ギルドの管轄になるらしく、そっちにも登録した。
サンドイッチはアシュリーがジェイたちと一緒に行って、朝一でギルドの前で販売する。気遣う訳じゃないけど、リラは私の姿を見たくないでしょうし、私もなんとなく気まずいからね。
単純にアシュリーが可愛いからというのもある。

最近ではお昼に合わせてデリバリーもしている。朝昼と二回に分けて仕込みができるからムリなくできる。デリバリーはあらかじめ注文を受けているから売れ残りの心配がないのもいい。冒険者ギルドと商業者ギルドの職員さんにお届け、わりと数があるから三人で持っていく。そのまま帰りにお買い物もできちゃうからちょうどいい。

そういえば、パンも家で焼くようになった。パンはアシュリーが担当ね。日本人の私がご飯を炊けるように(といっても炊くのは炊飯器だけど)この世界で生まれ育ったアシュリーは自分の家でパンを作るのは当たり前だった。焼くのは村長さん宅でお願いしてたらしいけど。だから焼きは最初はうまくいかなかった。二人で試行錯誤して何とかまぁまぁ美味しくなってきた。もうちょっと練習してから販売用にも使えたらいいな。



そんな風にお弁当屋さんを始めて十日ほどたった、五月の最後の日。今日はジェイの十八歳のお誕生日だ。二年前お祝いができなかったから、三回分盛大にお祝いしたい!  本当は朝一で  「おめでとう!」  を言いたかったけど、サプライズで夕ご飯にお祝いする予定♪  デリバリーの帰りに市場によってお買い物をして、ジェイたちが帰ってくるまでに準備しなくちゃ!

帰ってまずは、三人でひたすら細かくお肉を刻む。ミンチ肉がないんだもん、不便だよ!  ようやく刻み終わると、炒めた玉ねぎと卵とパン粉を混ぜ合わせて塩コショウ(お弁当屋さんを始めたからスパイス系もちょっとだけ購入したの)それをよ〜〜〜くこねる。
そうです!  今日は特別な日のハンバーグなのです!  みんな大好き、目玉焼きのせチーズハンバーグ♪
それからお初のポテトサラダ。黄色のパプリカを星型に切って飾り付けもしちゃう。ちょっと子供っぽいかな?  
それとは別にグリーンサラダもたっぷり♪

懐かしいとわかってくれるかな?  鳥肉のトマトシチューも具だくさんで作ったよ。
それからメインのパンケーキを焼く予定♪
バースディケーキだからホールのケーキを焼きたかったんだけど、ケーキ型がないからなぁ。代わりに五段重ねくらいのゴージャスなものにしてみよう!  バターをたっぷり、奮発して買ってきたハチミツもたっぷり♪  喜んでくれるかな?

だいたいの支度が終わると、庭から花を摘んできてテーブルに飾る。
これまた奮発して買ってきた果実水は井戸水で冷やしてあるし。
準備オーケーだ。ジェイたち早く帰ってこないかな〜。



「ただいま〜」

ジェイがドアを開けて入ってくる。後ろにはちゃんとアダムもいる。お祝いはみんな一緒がいいもんね!

『おかえり〜!  ジェイ、お誕生日おめでとう!!』

四人声を揃えて言う。

「え!  誕生日?  あ、俺の?  あ、うん。  えと、ありがとう」

サプライズ大成功♪  ジェイはビックリしすぎてワタワタしている。言葉遣いもおかしいよ!

「今夜はお誕生日のお祝いメニューだよ!  火を入れておくから、手と顔を洗ってきて!」

男子チームを井戸にやると、女子チームは忙しく料理の仕上げを始める。ラックは果実水を取りに行ってコップに注ぐ係ね。
みんな揃ったところで、メインの五段重ねパンケーキをジェイの前に置く。

「私の育った国では、お誕生日にケーキを食べるんだよ。ケーキにロウソクを立てて、吹き消しながら願い事をするの。でもここには細いロウソクがないからなぁ。普通に食べて!」

熱々のパンケーキの上ではたっぷりのバターが溶けてるし、お好みでどうぞと小さいポットにハチミツもスタンバイ。
あぁいい匂い!  我ながらめっちゃ美味しそうにできたよ!

「すご……」

ジェイは、ツヤツヤ熱々のパンケーキを見るとポツリと言って、真っ赤になって厳しい表情をした。泣くのを我慢してるみたい。そんなに感動してくれた?

「こういうの、初めて。  ……何で?  二年も前に、ちょっと言っただけの事、憶えてくれてたんだ」
「私、そういうの憶えてるの得意なんだ♪  ビックリした?  これね、みんなで計画したんだよ!」

エヘヘと笑ってみる。みんなもサプライズ成功に嬉しそうにしてる。

「ユア」

ジェイが私を見た。熱のこもった眼に見つめられて、いきなりドキドキする。何だこれ!

「けっ、結っこ……。  ……、……、結っこ、、、けっこ、う、すごい驚いた!  みんなありがとう!!」

挙動不審。ますます真っ赤になってかなり言葉遣いもおかしいし!
でも私もちょっとおかしかったし、突っ込まないでいてあげよう。お誕生日だしね!

それから、最初にジェイがパンケーキを少し食べたら他の料理も全部出して  『乾杯〜♪』  と食事を始めた。

「何だこれ!  こんな肉初めて食べたよ!」

ハンバーグね。この国ミンチがなかったからハンバーグもないんだろな。お肉料理といったら豪快にステーキか(ラヴィーニアさまのお屋敷で出てた)市場で見た一口大の串焼きだもんね。

「この柔らかいじゃが芋美味しいね!  星も可愛いし。こんな作り方知らなかったよ」

ポテトサラダね。マヨネーズもないみたいだから、マヨ系サラダもないよね。星は可愛いでしょ♪  デコレーションは大事です!

「このシチュー懐かしいわ。これを食った時、すごく感動したっけな……」

憶えててくれたんだ、よかった。あの時はジェイたちがお肉を調達したんだよね。ほんと懐かしい。涙目作業も思い出して、一瞬食欲がなくなったよ……。

そして何より好評だったのがパンケーキです!
ジェイは主役だから五段。ラックとアダムは三段。私とアシュリーは二段。欲張って作っても食べきれないからね。
バターとハチミツはケチらずたくさん用意してあるから、こそだけは贅沢だ♪

「あぁ美味しい……。  これでまた頑張ろうって気力が湧いてくるね!」
「こんなに美味しいものを食べられて、こういうの幸せっていうんだろな」

ラックも瞼を閉じてゆっくり味わっている。ふふふ。フレンチトーストを思い出してるかな?

こうしてサプライズのお誕生会は大成功に終わった。
サプライズはこれっきりね。みんな知っちゃったから、この手はもう使えない。これからは普通にお祝いする事にする。だけど、みんなのお誕生日にもハンバーグとパンケーキが定番というのが決定した。何せハンバーグは作るのが大変だし、パンケーキもふつうに食べるには贅沢なものだからね。お誕生日に特別感は大事なのだ♪



お誕生日の次の日はお休みにしていた。やっぱり人間お休みって大事だよね!定休を決めている方が予定が立てやすい。予定といっても普段手が回らないお掃除とか、たまってしまうお洗濯なんかだけど。それからちょっと手の込んだ仕込みとかね♪
午前中は掃除と洗濯をして、お昼はみんなで(市場調査を兼ねて)屋台で食べながら、お買い物をして家に帰る。夕ご飯はちょっと手のかかるものを作ってみようか。
アシュリーと二人キッチンに並ぶ。

「ユア、これ、昨日のポテトサラダ?」
「違う違う。今日はコロッケで〜す♪  中身のじゃが芋はかぶるけど、全然違うものだよ!」

残念な事にこの国には、あの中濃とかウスターのソースはない。ソースの作り方はわからないからソース料理は食べられない。コロッケも、なんちゃってケチャップで食べる事になるけど、うまくいったらコロッケパンをお弁当に出してみたいと、今夜のメニューは試作も兼ねる。

コロッケパンにはソースにまみれた千切りキャベツが合うよね!  だけど何せソースがないからなぁ。私的には美味しさ半減だよ!  しゃあない。ないものを嘆いてるより代わりになる美味しいものを考えよう♪
もう少ししたらトウモロコシも出てくるでしょし、そしたらコーンクリームコロッケも作ってみよう。よし!  楽しくなってきた♪

お魚とかエビなんかがあったら、タルタルソースなら作れるんだけどな。リーリウムは内陸だから海の物はなかなか手に入らない。今度川魚でも見てみよう。鮭フライならタルタルはいける!  ムニエルも美味しいしね♪

この国には揚げ物はない。私が見てないだけかもしれないけど。まぁ油を大量に使うから贅沢だもんね。なので、私も使う油の量が少なくてすむように揚げ焼きにする。少しの油で揚げるというか、多目の油で焼くというか、というやつね。それでもしっかり外はサクサク、中はホクホクに揚がったよ!  腕がいいからね〜♪  なんちゃって。

「うまっ!  こんなの初めて食った!  唐揚げとは違う感じなんだな!」
「コロッケっていうんだよ!  私も初めて知ったし、食べたのも初めてだけど美味しいね!」

よし!  試食は高評価。
まずはそのまま食べてもらった。

「次はこのパンにはさんで食べてみて。サンドイッチとはちょっと違う、コロッケパンっていうんだよ」

薄切りのパンのサンドイッチとは違って、もう少し厚みのある楕円形のパンにコロッケをのせたら、そのままふたつ折にする。ホットドッグ型とも違う、実家?  の近所のパン屋さんに売ってるのを真似てみた。

「これも美味い!  パンと一緒だと、これで腹一杯になるな」
「ひとつじゃならね〜よ!」
「ひとつじゃな。でも食べではあるだろ?」

なんて男子チームが意見を言い合ってくれている。そうね、三つは食べ飽きるでしょし、何より水分がほしくなるよね!
千切りキャベツに変わるものは思いつかないけど、好評だったから近いうちに売り出してみようかな。



そして次の日の朝。いつもと同じにお弁当を売りに行くアシュリーと、仕事に出るジェイたちを見送ってから、ラックと後片付けをしたりデリバリーの仕込みをしていると、大慌てでアシュリーが帰ってきた。

「ユア!  大変!!  お弁当屋さん!  お弁当屋さんが、他にもいる!!」

息も絶え絶えのアシュリーを落ち着かせて話を聞くと、ギルドの前に同じようにサンドイッチを売るお姉さんがいたそうな。
アシュリーファンの冒険者のお兄さんは、他にも大きな店前とか人の集まるようなところなんかで、お持ち帰り用のサンドイッチ売りが目立つようになってきてると教えてくれたって。

「そっか〜、意外と遅かったね」
「驚かないの?  ユアの考え真似されて悔しくないの?」

そんなの想定内だよ。だいたい屋台だってパンみたいのにお肉をはさんだものを売ってるじゃん。売るタイミングとか、お弁当専門にしたってのが今までなかっただけだし。それに正確にはサンドイッチだって私の考えじゃないしさ。と言えば、アシュリーは拍子抜けした。

「私たちだけじゃ、ほしがってた人たちに回りきらなかったからよかったよ。それにさ、自慢じゃないけど味ではどこにも負ける気がしないもんね!」

アシュリーは一瞬ポカンとして、それから大笑いした。

「ユアったら!  焦って損しちゃったよ!!  それにその自信ってば!  ほんと大好き!!」

抱きついてきてからも笑いはおさまらない。その自信はアシュリーたちや、お弁当を買ってくれるみんながくれたものだよ。

眼の端に、ラックがほんのり笑っているように見えた。
おぉ!!  ラックの笑顔レアだわ〜!!

「ユアの作るものはどれも美味しい」

ラックからお褒めの言葉が!!  これまたレアだわ〜!
だからね、私は不安にならず自信を持っていられるんだよ。

「さぁ、デリバリーの分のサンドイッチを作ろう」




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